本研究成果のポイント
〇重水素医薬品は近年新薬として承认され、高い注目が集まっているが、その详细については十分解明されていない。
〇独自に開発した量子化学計算手法により、水素?重水素の正確な振る舞いの違いを記述することで、重水素が引き起こす構造やエネルギー、電子状態変化が明らかになった。
〇より现実的なモデルに适用することで计算科学に基づく重水素医薬品の设计指针の提案などが期待できる。
概 要
重水素は水素の同位体であるため、质量の违いを除き化学的?物理的性质はほぼ等価であると考えられてきたが、水素结合构造や化学反応、イオン化エネルギーなどの电子物性が水素?重水素化物质で大きく异なることが知られている。特に分子骨格の一部に重水素を导入した重水素医薬品は、体内での代谢を遅らせるなどの効果が认められ、2017年にアメリカ食品医薬品局により新薬として承认された。この重水素化による効果は代谢酵素での化学反応における水素?重水素の速度论的同位体効果に関係していると言われているが、その详细は不明である。水素を重水素に置换することによる构造や反応机构の违いを明らかにすることができれば重水素医薬品の合理的な设计に向けた指针を提供することが期待できる。
そこで我々は、水素の量子効果を新たに考虑することのできる独自の量子化学计算手法を活用することで、重水素化による构造や电子状态の変化が反応に与える影响を理论的に解析した。
计算の结果、水素を重水素に置换することで、反応部位を考えられるメチル期の颁-顿は颁-贬よりも短く、また原子核周辺の电子もより多く引き付けていることが分かった。これらの変化は水素?重水素移动反応における活性化障壁にも影响を与えていることが明らかとなった。开発手法をより现実に近い酵素反応などに适用することで、计算科学が主导する重水素医薬品の设计指针の提案などが期待できる。

【论文情报】
Y. Kimura, Y. Kanematsu, H. Sakagami, D. S. Rivera Rocabado, T. Shimazaki, M. Tachikawa, and T. Ishimoto “Hydrogen/Deuterium Transfer from Anisole to Methoxy Radicals: A Theoretical Study of a Deuterium-Labeled Drug Model” The Journal of Physical Chemistry A, 126, 155-163 (2022).