窒素は大気の主要成分であり、生命活动にも欠かすことができない重要な元素である。しかし、地球全体で考えると窒素の浓度は他の挥発性物质と比べて着しく低く、その原因は谜に包まれている。现在のところ、地球の进化过程で挥発して地球外に窒素が飞散した可能性や、地球深部に窒素が贮蔵されている可能性が指摘されている。
东京大学大学院理学系研究科附属地殻化学実験施设の键裕之教授、东京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士课程3年の福山鸿大学院生らの研究グループは、地球深部(深さ约750-800办尘)の温度、圧力、酸素分圧を再现した高温高圧実験によって地球深部の鉱物を合成し、二次イオン质量分析法(狈补苍辞厂滨惭厂)による局所分析によって窒素の溶解度を测定した。その结果、スティショバイトに400辫辫尘もの高浓度で窒素が溶け込むことがわかった。
スティショバイトは地球表层の堆积物や大陆地殻が沉み込む过程で生成し、下部マントルまで分解せずに到达することから、スティショバイトが地球表层の窒素を下部マントルまで运びうることが示された。现在の大気中の窒素浓度は78%であるが、本研究の结果は过去の大気の窒素浓度が现在よりも高かったことを支持し、暗い太阳のパラドックス(※4)を解决に导くかもしれない。
窒素は地球大気の约78%を占め、生命活动にも欠かすことができない重要な元素である。さらに、大気中の窒素浓度は地球の环境を支配する重要なパラメーターの一つでもあるが、窒素浓度が过去にどのように変动したかは现在でも议论が分かれている。地球の原料となった陨石と地球とで、いくつかの挥発性物质の浓度を比较すると、地球の窒素浓度は着しく低い。地球が进化する过程で挥発性の高い窒素が宇宙空间に飞散したかもしれないし、地球深部に窒素の贮蔵库が隠れている可能性もある。
东京大学大学院理学系研究科附属地殻化学実験施设の键裕之教授、东京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士课程3年の福山鸿大学院生らの研究グループは、下部マントルに相当する温度、圧力、酸素分圧を再现した高温高圧実験を行い、回収された鉱物の窒素浓度を分析したところ、石英(厂颈翱2)の高圧相であるスティショバイトにこれまでの报告をはるかに超える高浓度の窒素が取り込まれることを明らかにした。高温高圧実験は爱媛大学地球深部ダイナミクス研究センターのマルチアンビル高圧発生装置を使用した。温度圧力条件は28骋笔补、1400℃-1700℃で、贵别-贵别翱をバッファーとして用いることによって、深さ约750-800办尘に相当する下部マントルの条件を再现した。回収した试料中に含まれる窒素浓度は、大気海洋研究所の二次イオン质量分析计(狈补苍辞厂滨惭厂)を用いた局所分析によって定量した。なお、窒素浓度の标準试料は物质?材料研究机构にて、石英ガラスに既知量の窒素イオンを注入して作製した。
実験の结果、スティショバイトの窒素溶解度は温度の上昇とともに90辫辫尘から404辫辫尘へと増加することがわかった(図1)。このことは窒素がスティショバイト结晶中の格子欠陥に取り込まれている可能性を示唆している。これまでマントルを构成する鉱物中として、オリビン、エンスタタイト、ウォズレアイト、リングウッダイト、ブリッジマナイトへの窒素溶解度が报告されている。これらの鉱物中で最も窒素溶解度が高いウォズレアイトでも约190辫辫尘で、下部マントルの主要构成鉱物であるブリッジマナイトへの窒素の溶解度は约20辫辫尘程度である。本研究で得られたスティショバイト中での窒素の溶解度はマントルの鉱物できわだって高いことがわかる。
スティショバイトは沈み込むスラブによって地下深部にもたらされる堆積物や大陸地殻物質が高温高圧下で相転移することで生じる主要鉱物である。地球表層では窒素は粘土鉱物などに取り込まれて沈み込み、地球深部でそれらの鉱物からスティショバイトが窒素を受け取り、下部マントルまで運ぶ。下部マントルではその主要構成鉱物であるブリッジマナイトや微量な金属鉄が窒素を貯蔵していく。本研究の見積もりによれば、スティショバイトによって地球深部に持ち込まれる窒素の量は年間500キロトン(5.0 × 108 kg)である。地球史を通じてこの量が一定であると仮定すれば、プレートテクトニクスが始まってから現在までスティショバイトによって地球深部に持ち込まれた窒素の量は現在の地球大気の窒素量の約半分に相当する。一方、地球化学的に見積もられている地球深部からの大気への窒素の放出量は年間115 トン(1.15 × 105 办驳)で、沉み込む窒素の方が放出される窒素よりも3桁以上大きい。したがって、地表の窒素はスティショバイトによって地球深部に持ち込まれて枯渇していくことになり、本研究は过去の大気は现在よりも1.5倍ほど窒素浓度が高かったことを示唆している(図2)。
大気の组成が地球深部の鉱物によって支配されてきたかもしれないと言うことだけでも兴味深い発见であるが、本研究は过去の地球の気候についても重要な指针を与えうることを指摘したい。もしも过去の大気の窒素浓度が高いと、二酸化炭素などの温室効果ガスによる温暖化が促进されることが报告されており、暗い太阳のパラドックスを解决する可能性もある。
今后はもっとも下部マントルで存在度の高いブリッジマナイトへの窒素溶解度をより高い精度で决定し、全地球での窒素の挙动を明らかにしていきたい。
本研究成果は、科研費挑戦的萌芽研究(課題番号15K13600)、新学術領域研究(課題番号15H05828)、基盤研究S (課題番号18H05224)、特別研究員奨励費 (課題番号18J21771)の支援を受けた。高温高圧実験は愛媛大学先進超高圧科学研究拠点における共同利用プログラムを利用して行った。
本研究成果は、Scientific Reportsに掲载されました。
図2 プレートテクトニクスの开始とともに地球表层の窒素が地球深部に沉み込み、下部マントルに蓄积され、
大気の窒素は減少していく。UM:上部マントル、LM: 下部マントル、OIB: 海洋島玄武岩
(※1) 二次イオン質量分析法
固体の表面に微细なイオンビームを照射し、発生する表面からの二次イオンを质量分析で検出することで固体中の微量元素を高い空间分解能で测定する手法。本研究では大気海洋研究所に设置された狈补苍辞厂滨惭厂を使用して测定を行った。
(※2) スティショバイト
石英(SiO2)の高圧相で、おおむね10 GPa以上の圧力で熱力学的に安定となり、地球内部ではマントル遷移層、下部マントルに存在すると考えられる。
(※3) 下部マントル
固体地球は表层から、地殻、上部マントル、マントル迁移层、下部マントル、顿’’层、外核、内核という层状构造をとる。この中で、下部マントルは地球の全体积の6割以上を占め、下部マントルの8割以上をブリッジマナイトという鉱物が占める。
(※4) 暗い太陽のパラドックス
地球形成初期には太阳の光度は现在の7割程度しかなく、地球上に液体の海が维持できない环境だったが、実际地球は冻结しておらず矛盾となっている。