麻豆AV

【研究成果】金属酸化物クラスター?希土类イオン?ポリマーの协奏によるイオン结晶内の水素イオンの高速伝导

発表者

  • 岩野 司
    東京大学大学院総合文化研究科 広域科学専攻 博士課程1年生
  • 荻原 直希 
    東京大学大学院総合文化研究科 広域科学専攻 助教
  • 内田 さやか
    東京大学大学院総合文化研究科 広域科学専攻 准教授
  • 下松 恒太 
    広島大学大学院工学研究科 応用化学専攻 修士課程2年生
  • 定金 正洋
    広島大学大学院先进理工系科学研究科 応用化学プログラム 教授
  • John Errington
    英国ニューカッスル大学 教授
  • 奥野 将成
    東京大学大学院総合文化研究科 広域科学専攻 准教授
  • 菊川 雄司
    金沢大学 理工研究域物質化学系 准教授
  • 邨次 智
    名古屋大学大学院理学研究科 物質理学専攻 講師

本研究成果のポイント

  • 水素を主要なエネルギー源とする水素社会の実现に向け、水素イオンの伝导を担う、金属酸化物?希土类イオン?ポリマーから成る结晶性材料を开発した。
  • 金属酸化物クラスターと希土类イオンが构筑する细孔内に、ポリマーと水分子を闭じ込めることにより、水素イオンの高速伝导を実现した。
  • フッ素や硫黄を含まない环境に优しい固体电解质として、燃料电池や水电解などの水素エネルギーシステムへの応用が期待される。

概要

近年、化石燃料に依存しない持続可能な社会の构筑、深刻化する地球温暖化问题の解决手段の一つとして、水素をエネルギー源とする水素社会への移行が注目を浴びています。なかでも燃料电池は、水素と空気中の酸素との化学反応を利用して电気を取り出すシステムであり、水素利用における最重要技术の一つです。しかし、反応により生成した水素イオン (注1) の伝导を担う电解质材料には、性能および环境面で、多くの课题があります。

東京大学大学院総合文化研究科 内田さやか准教授、広島大学大学院先进理工系科学研究科定金正洋教授、英国ニューカッスル大学 John Errington 教授らの研究グループは、新たな電解質材料の構成ブロックとして、金属酸化物クラスター (ポリオキソメタレート、図1)(注2)に着目しました。ポリオキソメタレートは、高い水素イオン伝导性を示すことが知られているものの、水蒸気や热への耐性が低いという欠点があります。本研究では、ポリオキソメタレートを希土类イオン (注3) (ユウロピウムイオン、図1) と結合させたのち、カリウムイオン (注4) との间に働く静电相互作用 (注5) によりナノ细孔 (注6) を有するイオン结晶 (注7) を构筑しました。そのナノ细孔内に、ポリマー (注8) (ポリアリルアミン、図1) と水分子を閉じ込め、水分子が配位数 (注9) の大きな希土類イオンに結合できることを生かし、高い構造安定性と水素イオン伝導性を両立できることを明らかにしました (図1)。得られたイオン結晶は、フッ素や硫黄を含まない環境に優しい固体電解質材料として、燃料電池や水電解などの水素エネルギーシステムへの応用が期待されます。

本研究は、日本学術振興会 (JSPS) 研究拠点形成事業 (Core-to-Core Program)「先進エネルギー材料を指向したポリオキソメタレート科学国際研究拠点」(代表:広島大学大学院先进理工系科学研究科 定金正洋教授) の一環として行われました。

発表内容

【背景】
近年、化石燃料に依存しない持続可能な社会の构筑、深刻化する地球温暖化问题の解决手段の一つとして、水素をエネルギー源とする水素社会への移行が注目を浴びています。なかでも燃料电池は、水素と空気中の酸素の化学反応を利用して电気を取り出すシステムであり、水素利用における最重要技术の一つです。しかし、反応により生成した水素イオンの伝导を担う电解质は、アモルファス材料 (注10) が多いために组成-构造-性能の相関が不明瞭で性能向上の指针が得られにくく、さらに、フッ素や硫黄など环境に有害な元素を含むためにリサイクルや廃弃処理に问题があるなど、性能面、环境面で多くの课题があります。

【研究内容】
本研究にて、新たな電解質材料の構成ブロックとして用いたポリオキソメタレートは、高い水素イオン伝導性を示すことが知られているものの、水蒸気や熱への耐性が低いという欠点があります。この欠点を克服するため、配位数が大きく多数の水分子を安定に結合できる希土類イオン、さらに、水素イオンの伝導経路を構築するポリアリルアミンを用い、組成-構造-性能の相関が明確な材料を合成することを目的としました。得られた結晶の構造解析の結果、希土類イオンがポリオキソメタレートに直接結合し、カリウムイオンとの间に働く静电相互作用によりイオン結晶が構築され、結晶のナノ細孔にはポリアリルアミンと水分子が含まれることがわかりました。交流インピーダンス法 (注11) により、得られた結晶が実用化材料に匹敵する高い水素イオン伝導性 (>10–2 S cm–1) を示すことがわかりました。さらに、X線吸収微細構造 (注12) 、赤外分光法 (注13) により、ラマン分光法 (注14) により、希土类イオン、ポリアリルアミンと水分子がナノ细孔中で密な水素结合 (注15) ネットワークを形成し、水素イオンの输送を协同して担うことが明らかになりました。以上、ポリオキソメタレート?希土类イオン?ポリマーが结晶内で协奏することにより、高い构造安定性と水素イオン伝导性を両立する固体电解质材料の开発に成功しました。

【今后の予定】
無機物 (ポリオキソメタレートと希土類イオン) と有機物 (ポリマー) の双方の特長を生かした、フッ素や硫黄を含まない環境に優しい固体電解質として、燃料電池や水電解などの水素エネルギーシステムへの応用が期待されます。

用语解説

(注1) 水素イオン
水素原子が电子一个を失った一価の阳イオン。贬+と表し、阳子に等しい。
(注2) 金属酸化物クラスター
金属酸化物の分子状のイオン種であり、英語でpolyoxometalate (ポリオキソメタレート) と呼ばれ、一般に負電荷を有する陰イオンである。
(注3) 希土類イオン
希土类元素は、周期表の3族に分类されているスカンジウム、イットリウムとランタノイドの総称である。ランタノイドは原子番号57のランタンから原子番号71のルテチウムまでの15元素の総称である。本研究では、原子番号63のユウロピウム原子が电子3つを失った3価の阳イオン贰耻3+を用いた。
(注4) カリウムイオン
カリウム原子が电子1个を失った1価の阳イオン。碍+と表す。
(注5) 静電相互作用
一般に化学では、正电荷を持つ阳イオンと负电荷を持つ阴イオンとの间に働く引力に基づく相互作用をさす。
(注6) イオン結晶
陽イオンと陰イオンとの静電相互作用 (注5) により構築される結晶
(注7) ナノ細孔
ナノメートルは10亿分の1メートルのこと。细孔は多孔质材料が持つ微细な空孔のこと。したがって、ナノ细孔とは、ナノサイズの细孔のことをさす。
(注8) ポリマー
複数のモノマー (単量体) が結合して鎖状になること (重合) によってできた化合物のこと。ポリアリルアミンは、図1に示すアリルアミンモノマーが重合した化合物である。
(注9) 配位数
注目する原子やイオンと结合する原子の数をさす。本研究で用いたユウロピウムイオンは9配位である。
(注10) アモルファス材料
原子、イオンや构成ブロックの配列に规则性がなく、结晶のような长距离秩序が无い状态をさす。
(注11) 交流インピーダンス法
交流回路における電圧と電流の比のこと。単位は、直流回路の抵抗と同じΩ (オーム) が使われ、数値が大きいほど電流が流れにくく、小さいほど流れやすいことを示す。
(注12) X線吸収微細構造
測定対象の物質にX線を照射して得られる吸収スペクトルを解析する手法であり、X線吸収原子の電子状態や周辺構造 (配位数 (注9) や結合距離) に関する情報が得られる。
(注13) 赤外分光法
测定対象の物质に赤外线を照射して得られる透过光を分光してスペクトルを得る手法であり、対象とする分子の构造や状态に関する情报が得られる。
(注14) ラマン分光法
測定対象の物質に単色光を照射すると、大部分は入射光と同じ波長として散乱されるが一部散乱光とは異なる波長をもつ光 (ラマン散乱) が観測される。ラマン散乱の波長や強度より、対象とする分子の構造や状態に関して、赤外分光法 (注13) と相補的な情報が得られる。
(注15) 水素結合
水素結合弱い陽性を帯びた水素 (注1の水素イオンに近い状態) と、近傍に位置した窒素や酸素との間に働く引力的な相互作用をさす。

论文情报

  • 掲载誌: ACS Applied Materials & Interfaces
  • 論文タイトル: Ultra-High Proton Conduction via Extended Hydrogen-Bonding Network in a Preyssler-type Polyoxometalate-Based Framework Functionalized with Lanthanide Ion
  • 著者名: Tsukasa Iwano, Kota Shitamatsu, Naoki Ogiwara, Masanari Okuno, Yuji Kikukawa, Satoru Ikemoto, Sora Shirai, Satoshi Muratsugu, Paul G. Waddell, R. John Errington, Masahiro Sadakane* and Sayaka Uchida*
  • DOI:
    ACS editor’s choice に選ばれ、半年間オープンアクセスになりました。

図1 イオン結晶の構成要素 (上)、結晶構造 (左下) と水素イオン (H+) 伝導機構 (右下)。

【お问い合わせ先】

東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻

准教授 内田 さやか

広島大学 大学院先进理工系科学研究科 応用化学プログラム

教授 定金 正洋

TEL: 082-424-4456

E-mail: sadakane09*hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)


up