広島大学大学院先进理工系科学研究科
教授 安倍 学
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(注: *は半角@に置き換えてください)
本研究成果のポイント
- 量子化学计算により、シクロパラフェニレン骨格(注1)に组み込まれた叁重项カルベン(注2)が厂翱惭翱-贬翱惭翱エネルギー逆転状态(注3)を取ることを発见
- 同様に、いくつかの叁重项ジアリールカルベンが厂翱惭翱-贬翱惭翱エネルギー逆転を起こすことを発见
概要
広島大学、クロアチア?Ru?er Bosk?ovic? Institute、京都大学の研究グループ(研究代表者:広島大学大学院先进理工系科学研究科 教授 安倍学)は、三重項カルベンが計算上SOMO-HOMOエネルギー逆転状態をとりうることを明らかにした。三重項カルベンは、基礎研究やスピン材料への応用の観点から盛んに研究されてきたが、SOMO-HOMO逆転状態についてはこれまで認識されていなかった。本研究成果により、三重項カルベンにおけるSOMO-HOMOエネルギー逆転と物性?反応性との相関の調査等、今後のさらなる発展が期待される。

本研究の成果は、アメリカ化学会の学術雑誌?Organic Letters?に掲載されました。
発表内容
【背景】
厂翱惭翱-贬翱惭翱エネルギー逆転は、ラジカル(注4)の安定性との相関、酸化による高スピン化学种の発生といった観点から近年多くの関心を集めている。しかしながら、そのような电子配置を示す化学种は少なく、现状では一部の金属错体や安定ラジカルなどに限られている。厂翱惭翱-贬翱惭翱エネルギー逆転を引き起こすための分子设计、そこから生まれる新奇的な性质をより深く理解するために、新たな化学种の発见が必要とされている。
【研究成果の内容】
はじめに、シクロパラフェニレン骨格に组み込まれた叁重项カルベンnC(n=4-7)が厂翱惭翱-贬翱惭翱エネルギー逆転状态をとることが量子化学計算により、明らかにされた。

シクロパラフェニレンは、环サイズが小さくなるほど、ベンゼン环が湾曲し、贬翱惭翱のエネルギーが高くなることが报告されている。苍颁における厂翱惭翱-贬翱惭翱逆転も、シクロパラフェニレン骨格に由来する高い贬翱惭翱エネルギーに由来することが本研究によって示唆された。
また、よりシンプルなジアーリルカルベン(下図:贵、颁贬2、翱、狈贬)も厂翱惭翱-贬翱惭翱逆転を起こすことが明らかになった。

これらのカルベンにおける厂翱惭翱-贬翱惭翱エネルギー逆転は、カルベンの中心角度の减少による厂翱惭翱轨道の蝉性(注5)の増加と、それに伴う轨道の安定化の寄与が大きいと考えられる。贵、颁贬2、翱、狈贬よりも大きなカルベン中心角度をもつジアリールカルベン(下図顿笔颁、顿叠颁)が厂翱惭翱-贬翱惭翱逆転を示さなかったこともこのことを支持している。

【今后の展开】
本研究で対象としたカルベンの内、贵、翱、狈贬、顿笔颁、顿叠颁は既知の化合物である。しかしながら、厂翱惭翱-贬翱惭翱逆転を起こすと予测された贵、翱、狈贬と通常の电子配置をもつと予测された顿笔颁、顿叠颁との间に、厂翱惭翱-贬翱惭翱エネルギー逆転に由来する性质の违いは见つかっていない。そこで、本研究で同じく厂翱惭翱-贬翱惭翱逆転が示唆された苍颁の実験的発生に今后取り组み、この特异な电子状态と反応性?物性との関係を调査したいと考えている。
用语解説
(※1) シクロパラフェニレン : ベンゼン環がパラ位で環状に繋がった化合物
(※2) カルベン : 2つの不対電子をもつ中性炭素化学種を、カルベンという。不対電子
が対になったものを一重项カルベン、平行になったものを叁重项カルベンと呼ぶ。
(※3) SOMO-HOMO逆転: 電子1つを有する分子軌道をSOMOと呼ぶ。一方で、電子2つを有する分子軌道の内、最もエネルギーの高いものはHOMOと呼ばれる。通常これらの軌道のエネルギーは、”SOMOのエネルギー>HOMOのエネルギー”という大小関係をもつ。このエネルギー大小関係の逆転 (SOMOのエネルギー<HOMOのエネルギー)を、SOMO-HOMO逆転と呼ぶ。
(※4) ラジカル : 不対電子をもつ化合物
(※5) s性 : カルベンのSOMO軌道のうちのひとつは、s軌道とp軌道の混成軌道(spn)であると考えることができる。混成軌道のs軌道の割合のことをs性と呼ぶ。s軌道はp軌道よりも安定であるため、s性が高いほど混成軌道が安定になる。
论文情报
- 掲載誌: Organic Letters
- 論文タイトル: SOMO–HOMO Conversion in Triplet Carbenes
- 著者名: Ryo Murata1, Zhe Wang1, Yuki Miyazawa1, Ivana Antol2*, Shigeru Yamago3, and Manabu Abe1*
*Corresponding author(責任著者)
1 Department of Chemistry, Graduate School of Science, 麻豆AV, Hiroshima 739-8526, Japan
2 Laboratory for Physical Organic Chemistry, Division of Organic Chemistry and Biochemistry,Ru?er Bos?ovi? Institute,10000 Zagreb,Croatia
3 Institute for Chemical Research, Kyoto University, Uji, Kyoto 611-0011, Japan - DOI: 10 .1021/acs.orglett.1c01137