大学院先进理工系科学研究科 ハンス ジョンティ
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(注: *は半角@に置き換えてください)
量子文脈依存性とは測定に応じて量子系が変化する性質のことで、量子力学での実在性否定の鍵となるものです。その結果、測定によってはお互い矛盾するような奇妙な性質が実際に観測される場合があります。量子チェシャ猫逆説は、中性子や光子(*6)などの量子的粒子とそれらの属性であるスピンや偏光などが分離して、それぞれが異なる経路を独立に移動した結果が観測されるという逆説で、これがあたかも実際の物理的状況であるとの誤解を与えかねない状況にありました。そこで広島大学大学院先进理工系科学研究科量子物质科学プログラムのハンス ジョンティ研究員、ホフマン ホルガ教授らの研究グループは見過ごされていた文脈依存性に着目し、その実証に必要な実験的条件を調べました。その結果、量子チェシャ猫が文脈依存によって成立する逆説であることを理論的に示し、さらに実証に必要な実験方法も示しました。文脈依存が成り立つ場合、違う方法で測定される観測結果の関係は古典論とは異なる量子相関(*7)を示します。その結果、異なる測定を組み合わせて行うと、観測結果は実際の物理的状況を示すとは限りません。したがって本研究から、逆説の原因は異なる測定の非古典的な関係にあることが分かりました。今後は量子逆説を文脈依存性から統一的に調べることによって、今の計算機を凌駕する量子計算のような古典的現象を超越する量子技術の可能性を最大限引き出すための知見が得られるだろうと期待されます。
本研究成果はロンドン時間の2023年11月17日に学術誌?New Journal of Physics?に掲載されました。
ミクロの世界の现象は量子力学を用いた计算で确率を予言することはできても、多くの场合、物理的な理解には至っていません。昨年のノーベル物理学赏の受赏対象となった?ベルの不等式の破れ(*8)?は、局所性(*9)成立の下での物理的実在の否定を実験的に示しました。このことは我々の観测结果は测定に依存しており、観测していないときの物理的実体そのものではないことを意味します。この性质が测定の文脉依存性であり、他の物理系でも実験的に确认されています。しかし古典物理学の成功や実体験から、文脉依存性に疑问を投げかける研究者も多く、実际に観测された结果を文脉依存性から调べる研究はほとんど行われていません。その一方、ミクロ世界の物理的理解を进めるために、古典的现象との大きな矛盾に着目した量子逆説が多く提案されてきました。その中でも量子チェシャ猫逆説は、量子的粒子とその属性であるスピンや偏光などが分离してそれぞれ移动した结果が実际に観测されるという大変奇妙な逆説で、最初に2014年に中性子で、その后、光子を使った実験で観测されました。この逆説の起こる确率は量子力学を用いて理论的に计算することはできますが、物理的な原因を调べる研究はあまり进展していません。そのため観测した结果が実际の物理的状况であるとの误解を与えかねない状况にありました。
光子の场合、物理的な自由度は光干渉计(図)の光路と偏光の二种类で、光子の初期状态を光路と偏光の量子もつれ状态(*10)にします。この状态に対して、干渉计の一方の出力の测定と直线偏光の测定を上手に组み合わせた测定を行うと量子チェシャ猫逆説が成立する状况になります。
光路と偏光の场合、文脉依存性の実証のために必要な条件は3つあります。ベルの不等式と同様に古典的な実在论(*11)が成り立っていれば、それらが起こる确率の和が量子チェシャ猫の起こる确率よりも大きい、という不等式の関係が成立します。3つの条件のうちの1つは光路2の确率、もう一つは干渉计出力の偏光の确率ですが、问题はもう一つの条件が不明な点でした。さらにこれらを実験で検証する场合、それぞれの确率を量子チェシャ猫の成立の下で测定する方法も问题でした。なぜなら测定は量子系を変えてしまう可能性があるからです。研究の结果、3つめの条件は光路と偏光の相関(*12)の确率であることが分かりました。さらに偏光光学素子を上手く使えば、これらの确率を実际に测定できることも分かりました。3つの确率は理论的にはすべてゼロになる一方、量子チェシャ猫の起こる确率は明らかにゼロではないので、不等式は破れます。したがって量子チェシャ猫は文脉依存で成立する逆説であることが分かりました。
この结果は、対象物が仮に测定方法に依存しない物理的実体と考えると、异なる测定を组み合わせた観测结果を説明できないことを意味します。量子チェシャ猫の観测结果が実际の物理的実体を示すとは限らないことになります。
今回の结果から、観测された现象であっても、文脉依存性によって実际の物理的状况とは异なる场合がありうることが分かりました。今后は同様な量子逆説を文脉依存性から统一的に调べることによって、现代の计算机を凌驾する量子计算のような古典的现象を超越する量子技术の可能性を最大限に引き出すための知见が得られることが期待できます。
図:光干渉计での特定の测定を组み合わせた场合に、量子チェシャ猫は観测される
*1 測定の文脈依存性:測定に応じて対象となる量子系が変わる性質のこと。測定に応じて物理量の値が変わることを言う場合もある。
*2 量子チェシャ猫逆説:2013年にアハロノフらが提唱した量子逆説のこと。量子的粒子とスピンなどのその属性が分離してそのまま移動する現象が観測される。2014年に中性子を用いた実験で実際に観測され、その後、光子でも観測された。
*3 スピン:ミクロの世界では、棒磁石の最小単位を持つ粒子が存在し、それは粒子の回転で発生すると考えられている。その回転の自由度のことをスピンと呼び、回転軸の向きがスピンの向きとされる。中性子でも棒磁石が発生し、その向きがスピンの向きと等しくなる。
*4 偏光:古典電磁気学では、光は進行方向に対し垂直方向に振動する横波として理解されており、振動方向が一様ではなくある特定の方向に偏っている状態を偏光状態と呼ぶ。ここでは振動方向が一直線に限定される直線偏光のみを扱う。偏光は直交する二成分で表すことができ、それらは独立である。理想的な偏光板で一方が通過する場合、もう一方は完全に遮断される。
*5 量子逆説:正しそうな仮定と妥当な推論から導かれる結論とは異なる奇妙な結論を与える量子的性質のこと。量子力学の物理的理解を深めるために、多くの量子逆説が提案されている。量子チェシャ猫もその一つである。
*6 光子:電子や中性子と同様に典型的な量子的粒子の一つである。光は波としての性質だけでなく粒子的な性質を持つ。その最小単位を光子と呼ぶ。
*7 量子相関:二つの量子系、あるいは二つの量子物理量の間の決まった関係のこと。古典論では測定次第で相関がゼロになる場合もあるが、量子相関では重ね合わせも含めて測定しても、その関係性はそのまま維持される。
*8 ベルの不等式の破れ:量子力学での局所性と実在性を同時にテストするために1964年にベルによって導入された不等式のこと。ベルの不等式の破れが実験で実証されたことにより、量子力学での局所かつ実在論が成り立たないことが示された。
*9 局所性:ここでは離れた二つの物理系は、相互作用をしない限り一方の測定が他方の測定に影響しない性質のことを言う。
*10 量子もつれ状態:二つの独立な量子系を考える場合が多いが、ここでは一つの量子系の光路と偏光の二つの物理量についての量子もつれ状態を表す。それぞれの物理量がどんな測定でも、例えば重ね合わせで測定しても、得られた測定結果の間に相関を与える状態のことを言う。
*11 実在論:通常は、物理量の値が測定と関係なく定まることを意味するが、ここでは測定と関係なく、測定対象物の物理的な状況が定まっていることを指す。
*12 光路と偏光の相関:二つの光路と二成分の偏光との定まった関係のこと。例えば光路1では水平方向の偏光、光路2では垂直方向の偏光のように、決まった関係のことを指す。
大学院先进理工系科学研究科 ハンス ジョンティ
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掲載日 : 2024年01月05日
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