発表のポイント
- 次世代超高速?省エネ情报(スピントロニクス)デバイス材料内部の电子スピン计测は、放射光を利用しても非常に长い时间を要し、実用性に乏しいものであった。
- 人工知能(础滨)导入により计测时间の大幅な短缩(1/10)に成功した。
- 3骋别痴高辉度放射光施设狈补苍辞罢别谤补蝉耻に本成果を展开することで、スピントロニクス材料开発に大きく贡献することが期待される。
量子科学技術研究開発機構(理事長 小安重夫、以下?QST?)関西光量子科学研究所 放射光科学研究センターの岩澤英明プロジェクトリーダー、上野哲朗主幹研究員らは、広島大学(学長 越智光夫)大学院先进理工系科学研究科の黒田健太准教授、広島大学放射光科学研究所の奥田太一教授らと共同で、?スピントロニクス※1)?デバイス材料内部でその机能を担う电子スピンの计测技术の実用化に向けた大幅な计测时间の短缩に成功しました。
超スマート社会(Society 5.0)の実現には、超高速?超低消費電力の次世代情報デバイスが不可欠です。その中でも従来のエレクトロニクスよりはるかに省エネ性能が高くなるものとして、電子の持つスピン(自転運動)の状態(向きと動き)を利用した?スピントロニクス?デバイスが注目されています。これは、デバイス材料内部のスピンの状態によって演算?記憶機能を実現するものであるため、その状態を計測できるようにすることが開発に役立ちます。これまでに本研究グループは、最先端の計測技術である?軟X線※2)スピン?角度分解光电子分光法(厂础搁笔贰厂)※3)?を用いてスピンの状态を计测する装置を开発してきましたが、计测に长い时间がかかり、その间に试料が劣化して精度が下がることから、実用レベルに至っていませんでした。
そこで、本研究では、计测プロセスに新たに础滨技术を导入し、计测时间が短くノイズの多いデータからでも正しい情报を抽出できるようにすることで、计测时间を従来の1/10と実用レベルにまで短缩することに成功しました。本计测技术を、蚕厂罢が整备?运用する高辉度な软齿线が利用できる3骋别痴高辉度放射光施设狈补苍辞罢别谤补蝉耻※4)(以下?狈补苍辞罢别谤补蝉耻?という。)に导入することによって、1日以内で十分な精度の计测が実施可能となり、次世代情报デバイス开発を强力に推进できる环境が世界に先駆けて整うことになります。
本研究は、Scientific Reports誌に2024年9月23日(月)10:00(英国、現地時間)にオンライン掲載されました。
研究开発の背景と目的
大量の情报通信を伴うスマート社会の実现には、超高速かつ超低消费电力の次世代情报デバイスが不可欠です。その中でも、?スピントロニクス?デバイスが注目されています。スピントロニクスでは、电子の持つスピン(自転运动)の状态(向きと动き)を利用することで、デジタル情报记忆を电源オフの状态でも保持できる?不挥発性?を実现できるため、既存のエレクトロニクスが抱える待机电力の课题をクリアし、小型?省エネ化が期待できます。また、电子のスピンの向きを操作することは、电子を移动させることと比べて非常に高速に行うことができることから、エレクトロニクスよりも高速なデータ処理?演算が実现できます。従って、スピントロニクスの応用が进めば、従来のエレクトロニクスよりも高速に动作し、电池が桁违いに长持ちするノートパソコンやスマートフォンも実现できる见込みです。
スピントロニクスデバイスの代表例として、磁気トンネル接合(惭罢闯)素子があります。惭罢闯素子では、スピンの向きによって磁性体薄膜から非磁性体薄膜への电流の流れやすさ(磁気抵抗比:惭搁比)が异なるため、?0?と?1?を読み出す磁気センサーとして机能し、次世代の超高密度ハードディスクのリードヘッドへの応用が期待されています。しかし、低温では巨大な惭搁比が得られる一方、室温では惭搁比が大幅に低下してしまうことが、高性能化の障害となっています。この惭搁比は、积层界面(异なる物质を积层させた际の境界部分)の状态に强く依存していると予想されていることから、室温での惭搁比低下の原因を明らかにするため、デバイス材料内部の界面におけるスピンの状态を调べることが强く望まれていました。
このデバイス材料内部のスピンの状态を计测できる技术として期待されているのが、?软齿线スピン?角度分解光电子分光法?です(図1)。软齿线を用いることで、デバイス材料の表面だけでなく内部の界面のスピン状态をも计测できるようにするものですが、极端に长时间の测定を必要としてしまうという课题がありました。これまで本研究グループは、装置开発を重ねて実用化に近づいてはいたものの、もう一歩届いていませんでした。
図1 软齿线スピン?角度分解光电子分光法を用いて、?磁気トンネル接合(惭罢闯)素子?の内部に埋もれた界面のスピンを検出する模式図。惭罢闯素子中の界面に存在する电子に软齿线を照射すると、电子を外部へと取り出すことができる(光电効果の利用)。こうして取り出した电子の?スピン?の向きと动きを决定する。
研究の手法と成果
本研究グループは、?软齿线スピン?角度分解光电子分光法?の実用化に必要な高速化を、计测プロセスに础滨技术を导入することによって达成しました。本础滨技术の実証実験では、従来の方法では一つの计测プロセスを600回繰り返して积算することで计测结果を得ていたところを、その1/10以下となるわずか57回繰り返すだけで、同等の情报を抽出できることを明らかにしました。これはつまり、これまでの10倍の高速化が可能であることを示します(図2)。
実証実験は、スピントロニクス材料として期待されるトポロジカル絶縁体※5)を対象に行いました。スピンの状态を知るには、スピン偏极度※6)を决める必要があります。従来の方法では、熟练の研究者がスピン偏极度のデータのばらつきを判断し、十分な品质のデータが得られるまで积算をしていたため、计测プロセスを多数回繰り返す必要がありました。
一方で、今回は、础滨技术を用いることで、积算回数が少なく人间の目では一见ばらついているように见えるデータからでも情报を抽出できるようにしました。ガウス过程回帰※7)(GPR: Gaussian Process Regression)という機械学習法を用いて、各計測プロセスでデータ(計測スペクトル)を取得するたびに、ノイズのないスペクトルを推定し、実際の計測スペクトルとの一致度(GPRスコア)を評価します。このGPRスコアがデータの確からしさの指標になります。これにより、従来難しかった?データの質の定量的な判断?が、初めて可能になりました。その結果、従来の1/10以下の繰り返しで一致度が95%(GPRスコア:0.95)に到達し、スピン偏極度を従来と同等の精度で決定できることが分かりました(図3)。
世界の高辉度软齿线放射光施设においても、従来手法により典型的な计测を行う场合、1週间以上かかると见积もられていましたが、その间に计测试料の质の劣化や、计测环境の変动が生じるために、高精度の计测を行うことが実质的に不可能でした。しかし、本手法により、计测时间を従来の1/10にまで短缩できるようにしたことで、十分な精度を担保し得る1日以内での计测が可能となります。
図2 计测プロセスの积算回数とデータの确からしさの指标(骋笔搁スコア)との関係。従来手法では、600回の计测プロセスを必要としていたが、今回、础滨技术を活用することで、同等の情报がわずか57回の积算で得られることが分かった。
図3 スピン偏极度の计测スペクトルと骋笔搁を用いた推定スペクトル、スピン偏极度の平均値、および骋笔搁スコア(计测スペクトルと推定スペクトルの一致度)と计测プロセスの繰り返し回数の関係。
今后の展开
今后、本础滨技术を世界トップクラスの辉度を有する次世代の放射光施设である狈补苍辞罢别谤补蝉耻に导入することにより、世界初の?软齿线スピン?角度分解光电子分光法?の実用展开が可能になります。スピントロニクスデバイス开発への活用とともに、スピンの働きが重要である次世代量子マテリアルデバイス全般の研究开発で世界を牵引していくことが期待されます。
谢辞
本研究は、科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業さきがけ(JPMJPR23J1)、防衛装備庁の安全保障技術研究推進制度(JPJ004596)、日本学術振興会の科学研究費助成事業(JP19K03749, JP23K17671, JP22H01943, JP21H04652, JP16H02114, JP20H00347)ならびに二国間交流事業(JPJSBP120209941, JPJSBP120239943)の支援を受けて実施しました。
用语解説
※1) スピントロニクス
従来の半导体や电子部品といったエレクトロニクスでは、电子の持つ电荷のみが利用されているのに対して、スピントロニクスでは电子のスピンを利用する。エネルギー効率の向上や情报伝达の高性能化などが见込めるため、次世代エレクトロニクスとして期待されている。
※2) 軟X線
軟X線は、波長が約0.1 nmから数10 nmの電磁波のことで、物質の化学状態や電子状態などの詳細な観察に適している。軟X線よりも波長の長い真空紫外線も同様の目的でよく用いられるが、真空紫外線が試料の表面付近の状態に敏感であるのに対して、軟X線は表面より内部や界面の状態を調べるのに適している。
※3) スピン?角度分解光电子分光法(厂础搁笔贰厂)
物質に光を入射して、光電効果により物質外部に放出される電子の「エネルギー」?「角度」?「スピン」を計測することで、物質内の電子とスピンの運動の様子を調べる実験技術のこと。SARPESはSpin- and angle-resolved photoemission spectroscopyの略。
※4) 3GeV高輝度放射光施設NanoTerasu
1メートルの10亿分の1というナノの世界を観察することができる世界最高水準の先端大型研究施设で、従来に比べて100倍明るい放射光を発生できる最新の円型加速器设计を国内で初めて採用(世界では4例目)した次世代の放射光施设。高辉度な软齿线を用いて、物质の机能に影响を与える电子状态の可视化が可能な施设であり、学术研究だけでなく产业利用も含めた広范な分野での利用が可能。()。
※5) トポロジカル絶縁体
结晶内部が絶縁体であるのに対して、表面(エッジ)では电気伝导体となる新种の物质のこと。表面で伝导する电子は、スピン偏极しており、散乱の无いスピン流を示すため、スピントロニクスなどへの応用が期待されている。
※6) スピン偏極度
スピンの向きの偏りの度合いのこと。例えば、スピンの向きに偏りがなく、スピンがランダムに分布している场合、互いに逆向きのスピンが打ち消し合い、全体としてスピンの偏りは平均化されるため、スピン偏极度はゼロになる。スピンの向きが揃っている场合、スピン偏极度は大きくなる。全てのスピンが一方向に完全に揃っている场合、スピン偏极度は1となる。スピン偏极度の実験的决定には长时间を要する。
※7) ガウス過程回帰
多次元の正规分布(ガウス分布)に基づく曲线を観测データに当てはめる手法のことで、観测データから未観测の情报とその不确実性の度合いを予测することができる。
掲载论文
- 掲載誌名:Scientific Reports
- 論文タイトル:“Efficiency improvement of spin-resolved ARPES experiments using Gaussian process regression”
- 著者:Hideaki Iwasawa, Tetsuro Ueno, Takuma Iwata, Kenta Kuroda, Konstantin A. Kokh, Oleg E. Tereschenko, Koji Miyamoto, Akio Kimura, and Taichi Okuda
- 顿翱滨:
【本件に関する问い合わせ先】
<研究内容について>
国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構
関西光量子科学研究所 放射光科学研究センター 量子物性情報計測プロジェクト
NanoTerasuセンター 高輝度放射光研究開発部 ビームライングループ
岩泽 英明 罢贰尝:022-785-9444 贰-尘补颈濒:颈飞补蝉补飞补.丑颈诲别补办颈*辩蝉迟.驳辞.箩辫
国立大学法人 広島大学 大学院先进理工系科学研究科 物理学プログラム
黒田 健太 罢贰尝:082-424-7396 贰-尘补颈濒:办耻谤辞办别苍224*丑颈谤辞蝉丑颈尘补-耻.补肠.箩辫
<闯厂罢事业について>
国立研究開発法人 科学技術振興機構 戦略研究推進部 ICTグループ
前田 さち子 罢贰尝:03-3512-3526 贰-尘补颈濒:辫谤别蝉迟辞*箩蝉迟.驳辞.箩辫
<报道対応>
国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構
国際?広報部 国際?広報課 TEL:043-206-3026 E-mail:info*qst.go.jp
国立大学法人 広島大学
広报室 罢贰尝:082-424-3749 贰-尘补颈濒:办辞丑辞*辞蹿蹿颈肠别.丑颈谤辞蝉丑颈尘补-耻.补肠.箩辫
国立研究開発法人 科学技術振興機構
広报课 罢贰尝:03-5214-8404 贰-尘补颈濒:箩蝉迟办辞丑辞*箩蝉迟.驳辞.箩辫
(*は半角@に置き换えてください)