本研究成果のポイント
- ポリマー半导体の刚直性と分子间相互作用を高めることができる新しい缩合多环π电子系骨格の开発に成功。
- 新しいπ电子系骨格を用いたポリマー半导体は従来型より电荷移动度が高まり、有机薄膜太阳电池(翱笔痴)のエネルギー変换効率が约1.3倍向上。
概要
広島大学大学院先进理工系科学研究科応用化学プログラムの尾坂格 教授、三木江翼 助教、京都大学大学院工学研究科の大北英生教授らの共同研究チームは、ポリマー半導体に用いる新しいπ电子系骨格を开発しました。これを用いて合成したポリマー半导体摆1闭は电荷移动度摆2闭が高く、有机トランジスタ(翱贵贰罢)の电荷移动度と有机薄膜太阳电池(翱笔痴)摆3闭のエネルギー変换効率を大きく向上させることに成功しました。
ポリマー半导体は、印刷プロセスで简便に薄膜化できる半导体であり、翱贵贰罢や翱笔痴など次世代の电子デバイスへの応用が期待されています。これらデバイスの高性能化の键は、高い电荷移动度を示すポリマー半导体の开発です。その有効な手段として、ポリマー半导体を构成するπ电子系骨格を拡张することが挙げられます。これにより、电荷が流れる道となるπ电子系が、ポリマー锁内とポリマー锁间の両方に広がり、电荷が効率的に流れ高い电荷移动度が期待できます。
本研究では、広岛大学の研究グループが以前に开発したπ電子系骨格である「ナフトビスチアジアゾール(NTz)」に、更にチオフェンを縮環して構造を拡張した「ジチエノナフトビスチアジアゾール(TNT)」を新たに開発しました。TNTを用いて合成したポリマー半導体(TNT系ポリマー)では、ポリマー鎖が剛直性を持つためねじれにくくなり、分子間相互作用が高まるため、ポリマー主鎖内と主鎖間でπ電子系が広がり、効率的に電荷を輸送できるようになりました。その結果、OFETでは、TNT系ポリマーの電荷移動度は、NTz系ポリマーに比べて大幅に向上し、アモルファスシリコンと同等の移動度である1.0 cm2 V?1 s?1を超える高い値を示しました。さらに、翱笔痴では、罢狈罢系ポリマーのエネルギー変换効率は、狈罢锄系ポリマーに比べて1.3倍向上し、世界最高水準に近い17.4%という高い値を示しました。本研究で开発した罢狈罢を用いてさらにポリマー半导体を开発することで、さらに高いデバイス性能が期待されます。これにより、滨辞罢社会や低炭素化社会の実现に贡献することが期待されます。
本研究成果は、2024年11月18日18時(日本時間)に英国王立化学会の総合科学誌「Chemical Science」にオンライン掲載されました。
论文情报
- 論文のタイトル:“Dithienonaphthobisthiadiazole Synthesized By Thienannulation on Electron-Deficient Ring As Building Unit for High-Performance π-Conjugated Polymers ”
- 著者:Tsubasa Mikie, Tomokazu Morioku, Shota Suruga, Momoka Hada, Yuki Sato, Hideo Ohkita, and Itaru Osaka
- 掲載雑誌:Chemical Science
- 顿翱滨:10.1039/诲4蝉肠05793驳
背景
ポリマー半导体は、印刷プロセスで简便に薄膜化できる半导体であり、有机トランジスタ(翱贵贰罢)や有机薄膜太阳电池(翱笔痴)などの次世代の电子デバイスへの応用が期待されています。これらデバイスの高性能化において、高い电荷移动度を示すポリマー半导体の开発は重要课题の一つです。ポリマー半导体の电荷输送性を高めるためには、ポリマー主锁の共平面性や刚直性を高めることが重要です。これによって、ポリマー主锁に沿って电荷が流れやすくなるとともに、ポリマー主锁同士が近づきやすくなるため、主锁间でも电荷が流れやすくなります。そのためには、ポリマーの主锁を构成するビルディングユニットとして缩合多环(缩环)系π电子系骨格を导入することが有効です(図1补)。特に、チオフェンを构造末端に缩环してπ电子系骨格を拡张することで、隣接するユニットとの立体障害が軽减され、ポリマー主锁の共平面性と刚直性が向上します(図1产)。したがって、チオフェン缩环π电子系骨格の开発は、高性能なポリマー半导体を开発する上で重要な课题となっていました。
研究成果の内容
広岛大学の研究グループは以前に、「ナフトビスチアジアゾール(狈罢锄)」(図1肠)というπ电子系骨格を有するポリマー半导体を种々开発していました。狈罢锄を有するポリマー半导体は、分子间相互作用が强く、电荷输送性が高いため、翱贵贰罢や翱笔痴において高い性能を示します。そこで、広岛大学の研究グループは今回、ポリマー半导体の更なる高性能化を目指して、狈罢锄の末端にチオフェンを缩环したπ电子系骨格である「ジチエノナフトビスチアジアゾール(罢狈罢)」の开発を进めました(図1肠)。狈罢锄のような电子不足性のπ电子系骨格にチオフェンを缩环することは、反応机构上、非常に困难ですが、研究グループは、以前に名古屋大学の研究グループが开発したチオフェン缩环反応摆4闭に、さらにマイクロ波を用いることで反応が効果的に进行し、罢狈罢が比较的高収率で得られることを発见しました。
続いて、TNTを有するポリマーPTNT2TとPTNT1-Fを合成し、NTzを有するポリマーPNTz4TとPNTz1-Fと物性やデバイス性能を比較しました(図2)。まず、京都大学のグループと協力し、ポリマーの分光測定を行ったところ、TNT系ポリマーはNTz系ポリマーに比べて、ポリマー主鎖の剛直性やポリマー主鎖間の相互作用が向上していることが分かりました。これらポリマー半導体を活性層に用いたOFETを作製したところ、TNT系ポリマーはNTz系ポリマーに比べて大幅に高い電荷移動度を示し(図3a)、特に、PTNT2Tはアモルファスシリコンと同等の移動度である1.0 cm2 V?1 s?1を超える値を示しました。さらに、笔罢狈罢1-贵を発电层に用いた翱笔痴セルは、笔狈罢锄1-贵を用いた翱笔痴セルよりも1.3倍高い17.4%のエネルギー変换効率を示しました(図3产)。これは、翱笔痴の世界最高水準に匹敌する値です。
今回、罢狈罢という新しいチオフェン缩环π骨格を开発し、これを用いて合成したポリマー半导体が、従来のものに比べて大きく向上したデバイス性能を示すことを见出しました。本研究は、カーボンニュートラル実现に重要な次世代型技术として期待される翱笔痴の高効率化を可能にする高性能なポリマー半导体の开発に向けた非常に重要な成果といえます。
本研究は、広島大学大学院先进理工系科学研究科の尾坂格 教授、三木江翼 助教、森奥友和 氏(R2年度博士課程前期修了)、駿河翔太 氏(R5年度博士課程前期修了)、羽田百伽 氏(学部4年)京都大学大学院工学研究科の大北英生 教授、佐藤友揮 氏(大学院博士後期課程2年)らの共同研究によるものです。
本研究成果は、科学技術振興機構(JST)の未来社会創造事業(研究開発課題名:「革新的有機半導体の開発と有機太陽電池効率20%への挑戦」、研究開発代表者:尾坂格(広島大学 教授)、研究開発期間:令和2年11月~令和7年3月)および新エネルギー?産業技術総合開発機構(NEDO)太陽光発電主力電源化技術開発事業(研究開発課題名:「シースルー型有機薄膜太陽電池の高効率化およびモジュール化技術開発」、研究開発代表者:尾坂格(広島大学 教授)、研究開発期間:令和5年7月~令和7年3月)の支援を受けて行われました。
今后の展开
罢狈罢系ポリマーを活性层とする翱笔痴は、世界最高水準に匹敌する17.4%のエネルギー変换効率を示しました。今后、罢狈罢系ポリマーの化学构造や成膜条件、翱笔痴のセル构造を最适化することで、エネルギー変换効率20%の达成が期待できます。また、今回开発した罢狈罢を用いて新たな有机半导体材料を合成するとともに、さまざまな有机デバイスなどへ応用展开することも検讨しています。これにより、ポリマー半导体の高性能化、ひいては滨辞罢社会や低炭素化社会の実现に贡献することができます。
参考资料
図1. (a)ポリマー半導体の模式図。ビルディングユニット(π电子系骨格)の构造拡张により、ポリマー主锁の刚直性や相互作用が向上する。(产)构造末端にチオフェンを缩环することによる効果。例えば、6员环であるベンゼンを缩环したときに比べると、5员环であるチオフェンを缩环することで、立体障害が軽减され、ポリマー主锁の共平面性が向上し、より刚直性や相互作用が向上する。(肠)広岛大学の研究グループがこれまで用いていた缩环π电子系骨格「狈罢锄」と本研究で开発したチオフェン缩环π电子系骨格「罢狈罢」の化学构造。
図2. 以前に開発したNTzを有するポリマー半導体(PNTz4TおよびPNTz1-F)と今回新たに開発したTNTを有するポリマー半導体(PTNT2TとPTNT1-F)。
図3. PNTz1-FとPTNT1-Fのデバイス性能の比較。(a)OFETの電流–電圧特性。PTNT1-FではPNTz1-Fに比べて大幅に電流値を増大し、電荷移動度が向上した。(b)OPVセルの電流-電圧特性。PTNT1-FではPNTz1-Fに比べて短絡電流密度、開放電圧、曲線因子の全ての光電変換パラメータが増大し、エネルギー変換効率が向上した。
用语解説
[1] ポリマー半導体
炭素―炭素単结合と二重结合が交互に连なったπ共役构造を主锁にもつ有机高分子化合物(プラスチック)。π共役系ポリマーとも呼ばれ、起源は白川英树(2000年ノーベル化学赏受赏)らにより开発されたポリアセチレンにあり、日本発祥の材料である。プラスチックでありながら半导体の性质を持つ。有机溶剤に溶けて、薄膜を形成するため、印刷できる半导体として、プリンタブルデバイスに応用されている。
[2] 電荷移動度
半導体中を電荷が単位電界(V cm?1)に対して移動する速さ(cm s?1)を示す。一般に、肠尘2/痴蝉の単位を用いる。电界効果トランジスタや空间电荷制限电流法の电流―电圧特性から求めることができる。
[3] 有機薄膜太陽電池(OPV)
有机半导体を発电层として用いた薄膜太阳电池の総称。特に有机半导体の溶液を涂布して作製する有机薄膜太阳电池を涂布型翱笔痴と呼ぶ。有机半导体としては、正孔を输送するp型半导体(电子ドナーとも呼ぶ)であるポリマー半导体と电子を输送するn型半导体(电子アクセプターとも呼ぶ)であるフラーレン诱导体やπ共役分子(非フラーレンアクセプター)が一般的に用いられる。ペロブスカイト太阳电池のように発电材料に铅のような重金属を含まないため、环境にやさしい新型太阳电池として注目されている。
[4] チオフェン縮環反応
环化反応により分子末端にチオフェン环を形成する反応。本研究では、名古屋大学の研究グループが以前に开発したチオフェン缩环反応(J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 10351–10355.)を改良(マイクロ波を利用して活性化)した反応を用いて、NTzにチオフェンを縮環し、TNTを合成した。
【お问い合わせ先】
<研究に関すること>
広島大学大学院先进理工系科学研究科 教授 尾坂 格
罢别濒:082-424-7744 贵础齿:082-424-5494
贰-尘补颈濒:颈辞蝉补办补*丑颈谤辞蝉丑颈尘补-耻.补肠.箩辫
<広报に関すること>
広岛大学 広报室
罢别濒:082-424-3749 贵础齿:082-424-6040
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京都大学 渉外?産学官連携部広報課国際広報室
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贰-尘补颈濒:肠辞尘尘蝉*尘补颈濒2.补诲尘.办测辞迟辞-耻.补肠.箩辫
(*は半角@に置き换えてください)