大学院医系科学研究科免疫学 保田 朋波流
罢别濒:082-257-5175 贵础齿:082-257-5179
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(注: *は半角@に置き換えてください)
広岛大学大学院医系科学研究科免疫学、同研究科ウイルス学からなる共同研究チームは、新型コロナウイルス初期株に対して先ず免疫を获得した后に、今度は抗原がシフトした変异株に対して段阶的に免疫反応を引き起こすことで、より広范な変异株に対して有効な免疫を获得できることを、マウスとヒトの実験で明らかにしました。
研究チームは、マウスに新型コロナウイルス初期株の抗原投与を繰り返した场合、初期株を中和する抗体は获得できるが、オミクロン株を中和する抗体は得られにくいことを実験的に証明しました。続いて、初期株への免疫获得后にオミクロン株の抗原投与実験を行ったところ、初期株とオミクロン株の両方に対して强い中和活性を示すだけでなく、投与を行っていない别のオミクロン変异株に対しても强い中和活性を获得していることを突き止めました。
初期型ワクチンを2回接种した人でも、その后オミクロン株に自然感染することで同様に幅広い変异株の中和抗体価が大きく上昇したことから、人においても段阶的免疫が広范な防御を担う免疫の获得に有効であることが示されました。
本研究は、ロンドン時間の2022年11月22日に日本免疫学会とオックスフォー ド大学出版局が編集、発行する国際学術誌「International Immunology」誌に掲載されました。
新型コロナウイルス感染症(颁翱痴滨顿-19)に対して、日本を含む多くの国や地域で新型コロナウイルス(厂础搁厂-颁辞痴-2)を标的とするワクチン接种が进められてきた。従来のワクチンは初期の新型コロナウイルス株に由来する抗原を用いており、初期株およびその近縁株に対しては効果的な中和抗体が得られるが、オミクロン株のように初期株と比べて多数の変异を有したウイルスに対してはワクチンによって得られる免疫の効果が大きく低下することが报告されている。実际に2回以上のワクチン接种率は国内で80%以上に达するが、2021年末のオミクロン株の出现以降も新规変异株の出现と流行が継続している。このような背景から、オミクロン株の抗原を用いた新しいワクチンの开発が进められてきた。
一方で、最初に感染したウイルス抗原に対して免疫が获得された后に変异ウイルスに感染した场合、共通のウイルス抗原に対しては抗体产生が起こるが、新たに持ち込まれた変异抗原に対しては抗体产生が抑制される“抗原原罪”と呼ばれる现象が知られている(図1)。これは特にインフルエンザウイルス感染において问题となることが知られているが、新型コロナウイルス変异株に対する免疫応答において抗原原罪が起こるのか十分に调べられていない。とりわけ、ワクチン接种により国民の多くが免疫を获得している初期株と、ワクチン接种や自然感染が进みつつあるオミクロン株との间で抗原原罪による免疫抑制が问题になるのか明确にしておくことは、今后の感染症対策においても重要なポイントとなる。
図1&苍产蝉辫;抗原原罪とは
オミクロン株(BA.1, BA.2)は初期の新型コロナウイルス株と比べて、スパイク蛋白質受容体結合部位(RBD)※4に15~16か所のアミノ酸変異を有している。初期株に自然感染した人の血清を用いて、各種変異株に対する中和活性を調べたところ、オミクロン株に対しては初期株と比べて1%程度まで中和活性が大きく低下していた。また、新型コロナウイルス未感染で従来型ワクチン(ファイザー製, モデルナ製)を2回接種した人について、接種後0.5, 2, 5ヶ月後に血液を採取し解析した結果、オミクロン株に対して同様に初期株と比べてそれぞれ3, 5, 7%程度まで中和活性が大きく低下していた。これらのことから変異したオミクロン株では初期株によって得られる抗体に対して免疫逃避※5が起こり、初期株による免疫では十分な防御効果を得られないことが改めて浮き彫りとなった。
マウス実験で、初期株由来のスパイク搁叠顿蛋白质のみを复数回接种し、血清中の抗体価を调べたところ、初期株に対しては高い中和活性を示したが、オミクロン株に対しては中和活性が十分に上昇しないことがわかった。またオミクロン株由来のスパイク搁叠顿蛋白质のみを复数回接种し、血清中の抗体価を调べたところ、同様にオミクロン株に対しては中和を示すが、初期株に対しては十分な中和活性が得られないことがわかった。以上の结果から、新型コロナウイルスに対する免疫応答において、単一のウイルス株によるワクチン接种を繰り返しても、幅広い変异株に中和活性を示す抗体は得られにくいことが里付けられた。
さらにこのマウス実験では、2回の抗原接种で初期株への免疫を获得した后に、オミクロン叠础.1株の抗原を接种して抗体応答を调べた。その结果、初期株に対する中和抗体が获得されているだけでなく、抗原原罪のような免疫抑制は见られず、叠础.1株に対しても高い中和活性を获得できることがわかった。それだけでなく、叠础.1株とは异なる変异をもつオミクロン叠础.2株に対しても高い中和活性を有していることが判明した。このように初期株に対する免疫获得后にオミクロン株で免疫することで、幅広い系统の新型コロナウイルス株に対して中和活性が得られることが明らかとなった。
そこでマウスによる実験結果が人についても当てはまるか確認するために、従来型ワクチンを2回接種した後にオミクロン株に自然感染した人を対象として中和抗体の解析を行った。マウスの実験結果から示唆されたように、初期型ウイルスに対するワクチンを2回接種した後、オミクロン株に自然感染することで、初期株だけでなく、BA.1, BA.2といった複数のオミクロン系統に対しても幅広く中和抗体価が大きく上昇することが確認された。
以上の结果から、新型コロナウイルスの初期株による先行免疫がその后のオミクロン株への免疫応答を抑制する抗原原罪と呼ばれる现象は确认されなかった。むしろ初期株の免疫获得后に、オミクロン変异株に対して段阶的に免疫を行うことで、より広范な新型コロナウイルス変异株に対して中和抗体を获得できることが明らかになった。
図2 研究成果の概要
本研究结果から、従来型のワクチン接种者がオミクロン株に自然感染した场合に、広范な変异株に対する中和抗体が得られる可能性が高いものと考えられた。また、マウスを用いた実験结果などからも、従来型ワクチン接种を何度も繰り返すよりは、従来型ワクチン接种后にオミクロン型ワクチンへと段阶的に移行接种を行ったほうがより広范なウイルス変异株に対して有効な中和抗体が得られる可能性が高いことが示唆された。しかしながら、本研究结果は人における现行ワクチン接种の安全性や有効性を支持するものではないことに注意が必要である。
新型コロナウイルスは今后も新たな変异株が発生することが予想され、感染者の重症化や死亡者数を长期的な视点から低く抑えるには何が必要かを考えることが重要である。インフルエンザウイルスのような过去に発生したパンデミックや、これまで新型コロナウイルスのワクチン接种によって得られたデータなどからも、集団免疫を获得することの重要性は明白である。持続性の高い集団免疫の获得と合わせて、感染者の重症化を阻止する安全な医薬品の开発、感染に対して脆弱な人を守るための予防的医薬品の开発は今后も必要な课题として位置づけられる。
本研究は科学研究費助成事業 研究活動スタート支援 (17H06937), 基盤研究(B) (18H02669), 挑戦的研究(萌芽) (19K22538), 基盤研究(B) (21H02751), 三井住友信託銀行-新型コロナワクチン?治療薬開発寄付口座、国立研究開発法人日本医療研究開発機構「戦略的創造研究推進事業(CREST)研究領域」、クラウドファンディングの支援によって実施されました。また本研究は、広島大学医学部医学科が行う医学研究実習において一部実施されました。
※1 抗体による中和
抗体が有する作用のうち、病原体や细菌毒素に直接结合し、感染や组织伤害から生体を守るものを指す。病原体に结合する抗体であっても中和抗体であるとは限らず、中和活性を示す抗体はごく一部である。
※2 抗原原罪
特定のウイルス株に対する免疫记忆が、その后の変异株に対する免疫反応、特に抗体応答を妨げる现象のこと。特定のウイルスに初めて感染し、その后変异した同ウイルスに感染すると、最初のウイルスがもつエピトープ(抗原认识部位)に対しては抗体が作られるが、変异ウイルスに特有な新しいエピトープに対しては抗体产生を抑制しようとする。その结果、変异が起こった部位への抗体产生が十分に起こらず、感染を制御できなくなる可能性が生じる。
※3 段階的免疫
初期株に対して先ず免疫を获得した后で、今度は抗原がシフトした変异株に対して段阶的に免疫反応を引き起こすことで、より広范な変异株に対して有効な免疫を获得できる。ワクチン接种后に自然感染して得られる「ハイブリッド免疫」もこれに该当する。
※4 スパイク蛋白質受容体結合部位(RBD)
新型コロナウイルスの表面にはスパイク蛋白質と呼ばれる突起が発現しており、体内の細胞表面上の分子と結合することで、細胞内への感染が開始される。肺、腸管、血管などの細胞表面に発現するACE2蛋白質に結合する部分を受容体結合部位(Receptor Binding Domain;RBD)と呼ぶ。RBDに結合する抗体にはウイルスと細胞の結合を阻害する抗体が含まれ、それらは感染や重症化を防ぐ中和抗体と呼ばれる。
※5 ウイルスの免疫逃避(とうひ)
ウイルスが変异することで、元のウイルスに対して得られた免疫から逃れられるようになり、再び感染できるようになること。
大学院医系科学研究科免疫学 保田 朋波流
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掲載日 : 2022年11月30日
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