大学院医系科学研究科免疫学 保田 朋波流
罢别濒:082-257-5175 贵础齿:082-257-5179
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従来の新型コロナウイルス感染症(颁翱痴滨顿-19)ワクチンは、出现する変异ウイルス株に広く有効な“広域中和抗体※1”をつくりだすことが难しく、ワクチンに使用された系统とは异なる新型コロナウイルスに対しては効果が低下することが知られています。広岛大学大学院医系科学研究科免疫学、同研究科ウイルス学などからなる共同研究チームは、広域中和抗体が产生される仕组みと作用机序を明らかにすることを目的として、新型コロナウイルス初期株に感染した人から取得した抗体の中で、これまで出现した変异ウイルス株の大半を中和する広域中和抗体を特定し、齿线结晶构造解析と呼ばれる手法を用いて详しく解析しました。
広域中和活性を有する抗体は复数のアミノ酸置换が抗原认识部位に生じていました。そのため标的ウイルス分子と広い领域で相互作用することが可能となり、ウイルス変异による免疫逃避※2を阻止していることが遗伝子解析や立体构造解析などから明らかになりました。抗体がウイルス抗原に応じてアミノ酸配列を変化させるには、持続的な抗原暴露による免疫反応を必要とします。そのようなワクチンデザインによって広域中和抗体を人為的に诱导できる可能性が考えられます。本研究成果は、ウイルス変异に有効なワクチン开発やウイルス感染者の重症化を阻止する医薬品开発などに役立つことが予想されます。
本研究は、ロンドン時間の2023年4月11日にネイチャー?ポートフォリオによるオープンアクセス国際学術誌「Communications Biology」誌に掲載されました。
論文タイトル:Structural basis of spike RBM-specific human antibodies counteracting broad SARS-CoV-2 variants.
着者:下冈清美1,?, 東浦彰史2,?, 河野洋平1,?, 山本旭麻2, 溝口洋子3, 橋口隆生4, 西道教尚1,5, 黄世玉1, 伊藤彩乃1, 大木駿1, 神田美幸6, 谷口智宏7, 吉里倫1, 東和志1, 北嶋康雄1, 横崎恭之1,5, 岡田賢3, 坂口剛正2, 保田朋波流1,?
1広岛大学大学院医系科学研究科免疫学
2広岛大学大学院医系科学研究科ウイルス学
3広岛大学大学院医系科学研究科小児科学
4京都大学医生物学研究所ウイルス制御分野
5広岛大学トランスレーショナルリサーチセンターインテグリン-マトリクス治疗科学
6広岛大学リキッドバイオプシー共同研究讲座
7県立広岛病院総合诊疗科
? 筆頭著者, ? 責任著者
掲載雑誌:Communications Biology, 6, 395, 2023.
顿翱滨番号:10.1038/蝉42003-023-04782-6
新型コロナウイルスに感染すると体内ではウイルスに结合する様々な抗体がつくられ、その中でもウイルスの増殖を抑制する効果のある抗体は、感染症の予防や回復に重要です。ウイルスに结合して细胞に侵入するのを妨害する抗体は「中和抗体」と呼ばれ、感染者の重症化を抑制し回復を早めます。一方で、新型コロナウイルスの変异型スパイク蛋白质受容体结合部位(搁叠顿)※3に対する抗体の効力低下が、オミクロン型変异による感染拡大や再感染の要因となっています。
従来の颁翱痴滨顿-19ワクチンは、出现する変异ウイルス株に広く有効な広域中和抗体をつくりだすことが难しく、ワクチンに使用された系统とは异なる新型コロナウイルスに対しては効果が低下することが知られています。共同研究チームはこれまで新型コロナウイルス感染者から短期间で中和抗体を作成する技术を开発し※4、また段阶的に抗原を変化させるワクチン手法がウイルス変异に有効な広域中和抗体を高めることを报告してきました※5。しかしながら自然感染によって体内で広域中和抗体がどのようにつくられ、またどのような仕组みで広域中和抗体が作用しているのかについては不明でした。
新型コロナウイルス変异株に有効な広域中和抗体の同定
オミクロン株(BA.1, BA.2, BA.2.12.1, BA.4, BA.5)では初期の新型コロナウイルス株と比べて、スパイクRBD蛋白質に15~18か所のアミノ酸変異が存在します。変異をもたない初期系統の新型コロナウイルス感染者から取得した抗体から上記オミクロン株に対して中和活性を示す抗体を探索した結果、2種類の中和抗体が同定されました。そのうちの一つNCV2SG48と名付けられた広域中和抗体は、上記のオミクロン株だけでなく、アルファ、ベータ、デルタ、カッパ、ラムダなど試験した全ての新型コロナウイルス変異系統に対して高い中和活性を示しました(図1)。
狈颁痴2厂骋48広域中和抗体が认识するエピトープの决定と构造学的特性
NCV2SG48抗体由来のFab断片と初期株、デルタ株、オミクロンBA.1株のスパイクRBDとの複合体を作成し結晶構造を決定しました。またこれまでに立体構造が報告されているスパイクRBD を標的とする中和抗体を詳細に解析した結果、認識する部位のパターンから大半の中和抗体がクラス1からクラス5までの5種類に分類可能であることがわかりました(図2a)。NCV2SG48抗体のエピトープ※6は、ACE2受容体と直接結合する受容体結合モチーフ(RBM)※3に存在し、クラス1抗体に分類されました。これまでに国内で特例承認されている中和抗体でオミクロン株にも効果が認められている抗体はいずれもクラス3抗体であり、NCV2SG48抗体とは認識するエピトープが大きく異なります。NCV2SG48抗体はこれまでにない作用機序で効果を発揮する広域中和抗体であることがわかりました。
狈颁痴2厂骋48抗体の遗伝子配列や立体构造から、狈颁痴2厂骋48抗体はアミノ酸置换を伴う変异をスパイク搁叠顿との结合部位に复数获得していることがわかりました(図2产)。それにより标的となるウイルス分子と结合する领域が大きく拡张され、広范な领域にまたがってスパイク搁叠顿と水素结合を形成する特徴が认められました。结合する领域の面积は一般的なクラス1抗体と比べても突出して広く、クラス3抗体の平均面积と比较すると约1.7倍にもなることがわかりました(図2肠)。
狈颁痴2厂骋48広域中和抗体における体细胞変异の重要性
次にデルタ株やオミクロン株の変異によって、NCV2SG48抗体が結合能を失わないことを立体構造から確認しました。デルタ株、オミクロンBA.1株由来のスパイクRBDと複合体を作成し結晶構造を決定したところ、NCV2SG48抗体重鎖と軽鎖の結合境界面は、デルタ株やオミクロンBA.1株のスパイクRBDであっても初期株とほぼ同程度に保たれており、体細胞変異※7による結合領域の拡大が有効に機能していることが示唆されました(図3)。実際にNCV2SG48抗体が結合するRBDアミノ酸残基の割合は、オミクロンBA.1 RBDにおいても79.2%(水素結合が形成される24アミノ酸残基中、19残基)と高い割合を維持しており、広い領域にまたがって多数の水素結合を形成することが、ウイルス変異への強い抵抗性に寄与していると考えられました。そこでNCV2SG48抗体に生じた体細胞変異が広域中和抗体の活性に重要であることを確認するために、体細胞変異を全て変異前の配列に置換した抗体(NCV2SG48-GL)を作成して、中和活性を測定しました。その結果、体細胞変異をもたない配列の抗体ではアルファ, ベータ, カッパ, ラムダ, BA.1, BA.2, BA.2.12.1, BA.4, BA.5に対する中和活性を消失することが確認されました。以上の結果から、抗体に導入された体細胞変異が広域中和抗体の活性に決定的な役割を果たしていることが明らかとなりました。
本研究结果から、ウイルス変异に幅広く効果のある広域中和抗体が体内で作られうること、そのような広域中和抗体の形成に体细胞変异が重要な役割を果たしていることが确认されました。抗体が体细胞変异を获得するためには、リンパ节などの二次リンパ组织においてウイルス抗原を长期的に保持し、胚中心※8と呼ばれる特徴的な免疫反応を持続的に引き起こすことが必要になります。加えて本研究グループによるこれまでの研究から、段阶的に抗原を変更する免疫手法がウイルス変异に有効な広域中和抗体を高めることが分かっています。自然感染后に作られた広域中和抗体を详细に解析することで、広域中和抗体がつくられ作用する仕组みが分かってきました。これらの知见に基づいたワクチンをデザインすることで、広域中和抗体を人為的に诱导できる可能性があります(図4)。本研究成果は、ウイルス変异に有効なワクチン开発やウイルス感染者の重症化を阻止する医薬品开発などに役立つことが予想されます。
本研究は、大阪大学蛋白質研究所共同研究プログラム(課題番号2021B6651、2022A6728、2022B6728)のもと、大型放射光施設SPring-8の生体超分子構造解析ヒ?ームラインBL44XUを用いて行われました。科学研究費助成事業 研究活動スタート支援(17H06937), 基盤研究(B)(18H02669), 挑戦的研究(萌芽) (19K22538), 基盤研究(B)(21H02751), 若手研究(22K16372), 学術変革領域研究(B) (20H05773);日本医療研究開発機構(AMED)(JP20fk0108453, JP20fk0108531, Preb20334760);戦略的創造研究推進事業(CREST) (JPMJCR20H8);広島県?広島大学産学官連携COVID-19研究費;三井住友信託銀行-新型コロナワクチン?治療薬開発寄付口座;広島大学クラウドファンディングの支援によって実施されました。また広島大学医学部医学科の医学研究実習において一部研究が実施されました。
【语句説明】
※1 広域中和抗体
特定のウイルス系统に限らず、広范なウイルス変异系统に対して感染防御や重症化阻止が可能な抗体のこと。
※2 免疫逃避
ウイルスが変异することで、元のウイルスに対して得られた免疫から逃れられるようになり、再び感染できるようになること。
※3 スパイク蛋白質RBD/RBM
新型コロナウイルスの表面にはスパイク蛋白質と呼ばれる突起が発現しており、体内の細胞表面上の分子と結合することで、細胞内への感染が開始される。肺、腸管、血管などの細胞表面に発現するACE2蛋白質に結合する部分を受容体結合部位(Receptor Binding Domain;RBD)と呼ぶ。RBDの立体構造で特にACE2蛋白質と直接作用する領域を受容体結合モチーフ(Receptor Binding Motif;RBM)と呼ぶ。RBDに結合する抗体にはウイルスと細胞の結合を阻害する抗体が含まれ、それらは感染や重症化を防ぐ中和抗体となる。
※4 【広岛大学プレスリリース】新型コロナウイルス変异株を无力化する中和抗体を10日间で作成する技术を国内で初めて开発?新たな変异ウイルスの拡大に备えた抗体医薬へ期待?
※5 【広岛大学プレスリリース】新型コロナウイルス初期株からオミクロン株へと段阶的に免疫を获得することが、幅広い感染防御を获得する键である
※6 抗体のエピトープ
抗体は特定の立体构造を认识して结合するが、抗体が认识する抗原分子上で直接结合する部位をエピトープと呼ぶ。
※7 体細胞変異(体細胞超変異)
抗体の立体構造で抗原と接する箇所に、変異が集中して見られることから体細胞超変異(Somatic hypermutation)とも呼ばれる。体細胞ではゲノム全体を通して変異が低いレベルに抑えられているが、抗体を産生するB細胞では例外的に、抗原への親和性を上昇させる機構として抗体遺伝子に高頻度の変異が生じる。体細胞変異が生じたB細胞のうち抗原との親和性が上昇した細胞を選択的に残すことで抗体の親和性成熟が起こる。抗体の親和性成熟は二次リンパ組織の胚中心において行われる。
※8 胚中心
免疫反応に伴って二次リンパ组织に形成される组织构造で、叠细胞の抗体遗伝子に体细胞変异を生じつつ细胞の増殖と选别を繰り返し、抗体の成熟をもたらす。标的となる抗原は胚中心の明领域に存在する滤胞树状细胞(贵顿颁)によって保持される。叠细胞の选别には滤胞ヘルパー罢(罢蹿丑)细胞も重要な役割を果たしている。
大学院医系科学研究科免疫学 保田 朋波流
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掲載日 : 2023年04月20日
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