
石积建造物の保全や防灾?减灾に役立つ土や地盘に関する研究。
中心となるのは、歴史的建造物の保全や修復に、地盘工学の知见を生かす研究。

私の専门分野は、地盘工学および岩盘工学と呼ばれるもので、中心的な研究には、大きく3つの柱があります。
最も中心となるのは、「地盘工学に基づく歴史的建造物の保全」。なかでも、「アンコール遗跡の石积建造物の保全に関する研究」については、学部の4年生の顷から続けており、以来、现地调査にも毎年のように出かけています。
アンコール遗跡というのは、カンボジア北西部にある世界遗产のひとつで、9世纪から15世纪に栄えたアンコール朝の遗跡群です。复雑な石积みの建造物が数千も点在する贵重な遗跡ですが、それらを支える地盘が変形し、倒壊の危険にさらされているため、日本も国际贡献の一环としてその修復にあたっており、私もその一员としてこれに参加。こうした遗跡の保存を考える场合には、その建物の下にある土の特性や强度を考虑しながら补修する必要があり、地盘工学に基づく知见を提供することで、合理的な修復を支援しようとしています。


この研究ではまず、地盘工学の见地から、倒壊している建造物の现况を调べる现地调査を行います。その后は、どうやったらその壊れ方をするのか、その地盘はどれぐらいの荷重まで耐えられるのかといったことを知るために、模型実験やコンピュータによるシミュレーションを行います。そして、その结果を踏まえて、破壊の要因を探り、それらの解析结果に基づいて、修復の际の设计法を开発していくといった流れになります。
2つめは、「城郭石垣の地震时安定性评価手法の开発」というもの。この研究の端绪となったのは、2016年4月に発生した熊本地震です。熊本城の石垣もかなりの被害を受けたため、これまでの私たちの知见や技术などが生かせるのではないかと、発生の翌月には现地入りし、レーザー测量等を行いました。
城郭石垣というのは、いわゆるお城の石垣のことで、日本の代表的な石造文化财です。

こちらもアンコール遗跡と同様に、経年劣化や不安定化が进んでいることから、これらを适切に维持していくための研究が必要とされています。城郭石垣は石の摩擦で土圧に抵抗する一种の拥壁、つまり、后ろにある土を押さえるように作られた壁状の构造物ですから、さまざまな石积みの方法の中でも、どんな积み方が危ないのかを考えていき、耐震诊断や设计法を确立していこうとしています。
そして3つめは、「コアストーンを含む土石流の衝撃力评価技术の开発」です。これは、平成30年7月豪雨をきっかけとして始まりました。広岛には花岗岩が风化してできた真砂土という地质が多いため、大雨による土砂崩れや土石流が発生しやすく、「コアストーン」と呼ばれる风化せずに残った岩块が、土石流に混ざって流れ落ち、被害を拡大したとも言われています。そのため、土砂灾害防止のための砂防ダムを建设するのですが、その际には、砂防ダムのコンクリート壁にどのぐらいの衝撃力が加わるのかを评価して、それに耐えうるものを设计する必要があります。ここにも、これまで研究してきた岩石等が崩れていくシミュレーション技术を生かして、流体とコアストーン、さらに地形の影响なども加味した衝突力の评価手法というものを开発していくことを目指しています。
土や地盘の物理现象への理解を社会が抱える诸问题の解决に生かしたい。
ご绍介した1つめと2つめの研究はいずれも、歴史的建造物を后世に伝えていくことに贡献できる、意义深い研究です。それと同时に、元の材料や元の工法で修復するということが大前提となるため、新しい工法を用いる场合などよりも难しい面があります。

特に、当时の技术者たちがどのように考えていたのかというところを尊重することが大切で、彼らが感覚的に判断して造ってきた伝统的な技术を、地盘工学から见て解釈し、数式でモデル化するといったような、新しい理论を考える必要があるのです。
そこで、例えば石垣の场合には、当时の设计図面が残されていれば参考にしたり、测量结果から积み上げた石同士に生じるズレを见つけて、そこから崩壊の原因を探っていくというような作业を行うのですが、土の性质は场所ごとに异なり、同じ场所の土であってもばらつきがあるため、土の本质的な性质を见出す难しさを伴います。
しかし、そうした难しさを克服していくところもまた、この研究のおもしろさのひとつです。
私は、前述の3つの研究の他にも、建设机械の会社との共同研究や、広岛大学防灾?减灾研究センターの一员としての活动にも热心に取り组んでいるところですが、いずれも、土や地盘に関する物理现象のメカニズムを理解し、建设や防灾等の実务に役立てることを目的としています。
実际の现场にある课题を地盘工学等の科学的なアプローチのもとで解决していくということこそ、私たちの研究の目指すところであり、醍醐味であると言えるでしょう。
一方で、歴史的建造物の修復や保全のプロジェクトはこれまで、考古学あるいは建筑史の分野の研究者がメインになって进められることが多く、地盘工学は必ずしも重要视されてきませんでした。残念なことに、私にとっては大変兴味深い土や地盘、岩盘などの研究も、建造物のそれに比べると、あまり目立たない、地味なものです。
そのため私は研究に际して、2つのことを心掛けるようになりました。ひとつは、「手法は精緻に、结论はシンプルに」というやり方です。これは、问题のメカニズムを明らかにするうえでは、まずは精緻な方法に基づいて検讨していくことが必要だけれども、最后の结论、アウトプットするときには极力、本质的なところだけを取り出したシンプルなところにもっていくことが重要だということです。
なぜこうしたやり方に行きついたかと言いますと、土木の场合は、前述のように、他分野の研究者などとの共同作业であることがほとんどなので、我々が导き出した设计式を使って、実际に设计をする人が、他の分野よりも非常に多くなります。そのため、なるべく谁もが理解して使っていけるような设计式や理论を构筑する必要があると考えました。これは、工学の研究者としてやっていくうえでも、非常に重要な视点であると思っています。
地盘工学の持つ可能性を広めるために、协働と人材育成を続けていく。
もうひとつ心掛けているのは、さまざまな研究活动を通して、地盘工学が重要な役割を担っている学问であることをアピールしていくということです。
私が高校生の顷にはちょうど地球温暖化が取り沙汰されていたため、大学では环境工学を学びたいと思い、建设?环境系の学科に进みました。しかし、入ってみると、土木工学という分野がかなり社会と密接に関わっていることが分かり、そのおもしろさに惹かれて现在の分野に飞び込みました。その后、ここまでにお话したような研究を进める中で论文などの形で成果が世の中に残っていくという点に魅了を感じ研究者という仕事に就くことを决めました。
私は、自身の研究分野に大いなる可能性を感じており、独自性のある研究や、他分野と协働しながらの研究活动を続けていくことで、地盘工学が贡献できる领域を拡げていきたいと考えています。

それに向けて、何より磨くべきは観察力です。研究の独自性というものは、テーマ、手法、结果の解釈というあたりに左右されるものだと思いますが、実験等から得られた结果をどう解釈するかというところが、差别化を図るために最も重要だと言えるでしょう。土の中で何が起きているかを想像することから始めて、それをきちんと説明できる形に解明できたときに感じる喜びや楽しさは、何物にも代えがたく、この研究を続けていく原动力となっています。
同时に、现在3名ほど指导している学生がいますが、彼らが目に见えて成长していくさまを日々感じており、そうした人材育成の部分は、大学の研究者ならではの楽しさだと思います。
最后に、大学进学を目指す皆さんにひとこと。
土木工学、特に土を対象とする地盘工学は一见、工学分野でもっとも原始的な研究领域ですが、社会基盘の整备をはじめ防灾やエネルギー资源の开拓、そして文化财保存に至るまで、现代社会の多様な课题を解决する先端技术も扱う奥深い研究分野です。ぜひ私たちとともに学び、より豊かな社会を筑く技术者としての第一歩を踏み出しましょう。

搁测辞迟补 贬补蝉丑颈尘辞迟辞
地盘工学研究室 助教
2012年3月 京都大学 工学部 地球工学科 卒業
2014年3月 京都大学大学院 工学研究科 都市社会工学専攻 修士課程修了
2014年4月1日~2017年3月31日 日本学術振興会 特別研究員(DC1)
2017年3月 京都大学大学院 工学研究科 都市社会工学専攻 博士課程修了
2017年4月1日~ 広島大学大学院 工学研究科 助教
2020年4月1日~ 広島大学学術院(先進理工系科学研究科) 助教