本研究成果のポイント
- 太古の地球で、原始生物につながったとされる分子の集合体がどのように増殖するようになったかという生命起源の长年のなぞを世界ではじめて実験的に解明
- 新たに设计?合成されたアミノ酸诱导体(エサ)からペプチドの集合体(コアセルベート液滴)が自発的に形成
- エサと刺激を繰り返し与えたところ、コアセルベート液滴が増殖を开始
- ペプチド材料の大量生产に応用できると期待
概要
肝生命起源において生物の先祖がどのように増殖能力を获得したのかという长年の谜を、新规アミノ酸诱导体をエサとして増殖するペプチド液滴(コアセルベート液滴)を创製することで実験的に解明しました。
新规に设计?合成したアミノ酸诱导体を水中に添加すると、アミノ酸が缩合しペプチドが生成されました。生成されたペプチドはコアセルベート液滴を自発的に形成し、これにエサと刺激を繰り返し与えると、液滴は増殖し続けました。さらにこの増殖コアセルベート液滴は搁狈础や顿狈础などの核酸を浓缩することができ、核酸を取り込んだ液滴は外环境の刺激に対して生き残りやすくなることがわかりました。
今回の研究で実现された小分子をエサとして増殖するコアセルベート液滴は、生物の先祖がどのように増殖能力を获得したのかという生命起源における100年间の未解决问题を世界で初めて解决した成果です(図1)。
この手法では、エサを水に添加するだけで核酸を浓缩するペプチド液滴が増殖していくため、环境负荷が小さく、高効率な核酸含有ペプチド材料の大量生产に応用されることが期待されます。
本研究成果は、学術誌?Nature Communications?オンライン版に日本時間9月24日午後6時に掲載されます。
発表内容
【背景】
高校の生物の教科书に?化学进化?という生命起源仮説が绍介されています。これは、単纯な小さい分子から复雑で大きな分子ができ、それらが集まって増殖する分子集合体になることで、生命诞生の出発点になったとする仮説で、1920年代にロシアの生化学者オパーリンによってはじめて提唱されました。以降今日まで、この仮説を実証するべく、小分子から高分子をつくる研究や高分子から分子集合体をつくる研究が数多く行われていました。しかし、小さな分子から増殖する分子集合体がどのように创発されたのかは、化学进化説の提唱から今日まで约100年间続いてきた谜であり、これが生命起源における?化学と生物学の沟?となっていました(図1)。
図2 本研究が埋めた生命起源における化学と生物学のミッシングリンク
【研究成果の内容】
我々は、その原因が高分子をつくる环境と分子集合体をつくる环境の违いにあると考えました。今までの研究では、小分子から高分子をつくる环境は高温?高圧、一方で高分子から分子集合体をつくる环境は常温?常圧がほとんどでした。そこで今回、新规小分子を设计?合成することで、同じ温度と圧力条件で、高分子生成と分子集合体形成を同时に実现させることを着想しました。小分子は、还元剤存在下で水中での自発的な重合反応が期待されるチオエステル化シスチンとしました(図3上段)。
还元剤を含んだ水中にこの小分子を添加すると、自発的に液滴が形成されることが微分干渉顕微镜をつかった観测から明らかになりました(図3下段)。この液滴の组成を核磁気共鸣法と质量分析法で调べたところ、液滴は重合产物であるペプチドを含んだコアセルベート液滴だとわかりました。ペプチドの生成は液滴の界面または内部で促进され、自触媒的に行われていました。これらの结果は、小分子からコアセルベート液滴が一度形成されると、液滴が积极的に小分子をエサとして取り込み、自らの构成物质をその内部で生产しながら成长していることを意味しています。
図3 エサとなるチオエステル化シスチンとその重合产物であるペプチド(上)
ペプチドから形成されたコアセルベート液滴の顕微镜写真(下)
そこで、継続的にエサとなる小分子を添加しつつ、フィルトレーション処理を繰り返し行ったところ、液滴は何度も成长と分裂を繰り返し、増殖しました(図4)。さらに、この液滴に搁狈础とリン脂质を同时に添加すると、それらを不均一に浓缩できることが共焦点レーザー走査型蛍光顕微镜観测で判明しました(図5)。液滴にリン脂质のみを添加した际は液滴が溶けてしまうことから、搁狈础を浓缩した液滴は脂质添加时に生き残りやすくなったといえます。
図4 コアセルベート液滴の増殖(左)と増殖时のサイズ変化(右)
図5 コアセルベート液滴による搁狈础(赤蛍光)とリン脂质(緑蛍光)の浓缩
注:搁狈础とリン脂质が混在すると黄色にみえます。
【今后の展开】
本研究で构筑した手法では、エサを水中に添加するだけで、ペプチド液滴が自発的に増殖します。このため触媒がいらず、かつ溶媒は水であるため环境负荷が小さく、またペプチドが自触媒的に生产されるため、ねずみ算式に液滴が増えていき、简便なペプチドからなる分子集合体の大量生产が可能です。本研究が、生命起源研究のみならず、ペプチド复合体材料の生产技术にブレイクスルーをおこすことが期待されます。
论文情报
- 掲載誌: Nature Communications
- 論文タイトル: Proliferating Coacervate Droplets as the Missing Link between Chemistry and Biology in the Origins of Life
- 着者名:(*は责任着者)
松尾 宗征1,2,3、栗原 顕輔3,4,5,6,7*
1. 広島大学大学院统合生命科学研究科数理生命科学プログラム, 2. 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻, 3. 自然科学研究機構生命創成探究センター創成研究領域, 4. 大阪大学レーザー科学研究所, 5. 海洋研究開発機構超先鋭研究部門, 6. 宇都宮大学共同教育学部, 7. 自然科学研究機構分子科学研究所生命?錯体分子科学研究領域
- DOI: 10.1038/s41467-021-25530-6
【お问い合わせ先】
【研究内容の问い合わせ先】
京セラ株式会社 研究開発本部
栗原 顕輔
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広島大学 大学院统合生命科学研究科/理学部化学科
数理生命科学プログラム 自己組織化学研究室
助教 松尾 宗征
罢别濒:082-424-7411
贵补虫:082-424-6070
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【広报の问い合わせ先】
広島大学 財務?総務室 広報部広報グループ
罢别濒:082-424-3749
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京セラ株式会社 東京事業所 事業広報課
増子 侑加
Tel: 03-6364-5503
(注: *は半角@に置き換えてください)