ポイント
农研机构は牛のルーメン発酵由来メタン排出量を、搾乳ロボット等で测定した呼気中のメタン/二酸化炭素浓度比から求める、従来算出式より使いやすい算出式を开発しました。农研机构が代表を务める気候変动缓和コンソーシアムは、この成果も含めてメタン推定マニュアルを公表しました。本マニュアルを用いて牛からのメタン排出量を求めることで、より简便にメタン排出量の个体差や饲料によるメタン排出量の违いを比べることができます。
概要
牛のルーメン1)発酵由来メタンは农业分野における主要な温室効果ガス排出源の一つであり、あい気(ゲップ)とともに大気中に排出されます。牛が排出するメタンを正确に测定するためには、大型の特别な施设(チャンバー)を使う必要がありますが、多くの牛からメタン排出量を测定することができません。メタン排出量を多くの头数で测定するために欧州で开発されたスニファー法2) は、呼気中のメタンと二酸化炭素の浓度を1日数回测定し、これと乳生产量等の情报を利用してメタン排出量を推定できます。1日のメタン排出量を推定するためには算出式が必要ですが、农研机构は自身が持つチャンバーによる测定値を用いて、スニファー法向けの简易な算出式を开発しました。また、スニファー法により、牛の饲料によるメタン排出量の违いを评価できることを明らかにしました。农研机构が代表を务める気候変动缓和コンソーシアム(広岛大学等)は、「ウシルーメン発酵由来メタン排出量推定マニュアル」を公开しました。本マニュアルでは、搾乳牛や肥育牛のメタン排出量をスニファー法により推定する方法を详しく解説しており、これをもとに多くの皆様にメタン排出削减技术开発に取り组んでいただくことにより、削减のための技术开発が加速されることが期待されます。
ウシルーメン発酵由来メタン排出量推定マニュアル
<関连情报>
予算:农林水产省の农林水产研究推进事业(委託プロジェクト研究)「农业分野における気候変动缓和技术の开発-畜产分野における気候変动缓和技术の开発-」闯笔17935124、运営费交付金
开発の社会的背景
牛などの反すう动物のゲップには、ルーメン内発酵により产生する温室効果ガスであるメタンが含まれています。牛1头からは1日あたり、200~800尝のメタンがゲップとして放出されています。反すう家畜の消化管内発酵に由来するメタンは、全世界で年间约20亿トン(颁翱2换算)と推定され、全世界で発生している温室効果ガスの约4~5%(颁翱2换算)を占めるため、地球温暖化の原因のひとつと考えられています。みどりの食料システム戦略3)では2050年までに农林水产业の二酸化炭素ゼロエミッション化の実现を目指しており、温室効果ガス削减に向けた技术革新が求められています。その中で、牛のゲップ由来メタンについても、メタン排出量を削减する饲料の开発、および微生物机能の活用、饲料利用効率の高い家畜の改良によるメタン削减技术の开発が必要とされています。しかし、国内の现状では、牛からのメタン排出量の测定手段がチャンバーを用いる标準法にほぼ限られていることが、削减技术开発や削减効果検証の加速化が进まない一因でもあります。そのため、新たな牛ゲップ由来メタン测定技术の开発が求められています。
研究の経纬
メタン排出削减技术の开発は、ルーメン内のメタン产生に関与する微生物を饲料やサプリメントによって制御することによる削减、家畜育种による低メタン产生牛作出等のアプローチで取り组まれていますが、いずれのアプローチでも生体からのメタン排出量测定は必须です。これまで牛のメタン排出量はチャンバー(写真1)等を用いて测定する方法が标準法とされてきました。この方法は牛をチャンバー内に数日间滞在させ、排出されるメタンを全量定量しますので精度は高いのですが、施设の建设、维持管理にも相応のコストがかかります。このため牛のメタンを测定できるチャンバーは非常に限られており、国内では农研机构が保有する4台のみとなっています。欧州で开発されたスニファー法は、家畜育种による低メタン产生牛の作出に必要な多头数からのメタン排出量を推定するための测定手法であり、呼気中のメタン/二酸化炭素浓度比と乳生产量等から1日のメタン排出量を推定します。この技术を国内のメタン削减研究の加速化に生かすため、农研机构で蓄积してきたチャンバーでの正确なメタン排出量のデータを用いて、従来スニファー法で用いられてきたものより使いやすい算出式の开発に取り组み、得られた算出式で饲料によるメタン排出量の违いをスニファー法で评価できるのかを検証しました。そして、研究?教育机関、普及机関、生产者団体等の畜产业に関わる方々が牛の呼気の测定とメタン排出量の算出をするための、実践的なマニュアルを作成し公开しました。
研究の内容?意义
1. 乳牛では搾乳ロボット4)内で搾乳中に(写真2)、肥育牛ではドアフィーダー5)での饲料の摂取中に(写真3)呼気を短时间採取し、1日数回、数日间连続でメタンと二酸化炭素浓度を测定します。メタンと二酸化炭素浓度を测定するシステムは非常にシンプルで简単に设置できるため(図1)、携帯可能なガス分析计を使用すれば复数の农场での测定が可能です。
2. 標準法を用いて測定された国内の乳牛のメタン排出量と関連するデータを集めて開発したメタン排出量算出式(以下)は、従来算出式(図2脚注)よりも変数が減ったため、データ収集と計算は容易となる一方で推定精度は同程度です(図2)。
メタン排出量(尝/日)=-507+0.536×体重(办驳)+8.76×エネルギー补正乳量6)(办驳/日)+5029×メタン/二酸化炭素浓度比
3. 一般的に、飼料中の繊維含量が高くなるとメタン排出量は高くなりますが、スニファー法で求めたメタン排出量は繊維含量の違いを反映していることを明らかにしました(図3)。このことは、メタン排出の少ない飼料の評価に、開発した算出式を用いたスニファー法が利用できる可能性があることを示します。
4. 今回公開するマニュアルでは、1章でルーメン発酵由来メタン排出状況と多様な測定方法を俯瞰しました。マニュアルで対象とする家畜は搾乳牛(2章)と肥育牛(3章)であり、それぞれ測定の背景、測定の実際、計算方法、データの解釈について解説し、本マニュアルを読むことにより測定から排出量の算出まで一通りできるような内容となっています。また、スニファー法はメタン排出量の少ない牛を育種するための評価手法として開発されましたので、プロジェクト成果を基にした育種改良の可能性についても参考情報としてまとめました。
今后の予定?期待
本マニュアルをベースに牛からのメタン排出量削减に関心を持つ研究机関、饲料メーカー、食品会社、生产者団体等に测定技术の普及を行います。これにより各机関がそれぞれのアイデアによりメタン排出削减技术开発を行うことができます。この手法を用いて、より多くの研究机関や生产现场で测定を行うことにより多数のメタン排出関连データを収集し、そのデータを利用した低メタン产生牛の育种技术开発が加速化されます。
用语解説
1)ルーメン
ウシは4つの胃を持ちますが、一番目と二番目の胃は机能が似ており、胃内容物も第一胃と第二胃を行き来していることから第一胃と第二胃をあわせて反すう胃、あるいはルーメン(谤耻尘别苍)と呼びます。ルーメンには多种多様な微生物が生息しており、摂取された饲料は反すう胃内で微生物に分解され、分解产物である脂肪酸やアンモニア、あるいは増殖した微生物そのものは牛の栄养として利用され、同じく分解产物であるメタンや二酸化炭素等のガスはゲップとともに排出されます。ルーメン内では饲料の分解からメタンの产生に至るまで様々な微生物が関与しています。
2)スニファー法
スニファー(蝉苍颈蹿蹿别谤)の语源となる动词蝉苍颈蹿蹿はにおいを嗅ぐという意味で、スニファー法は一般的にはガス配管のガス漏れ検知手法として知られています。标準法のように排出されるメタンすべてを回収し定量するのではなく、1日の呼気の一部を採取する(嗅ぎとる)ことによってメタン排出量を推定することから(惭补诲蝉别苍ら(2010)、尝补蝉蝉别苍ら(2012))スニファー法と呼ばれています。
3)みどりの食料システム戦略
持続可能な食料システムの构筑に向け、中长期的な観点から、调达、生产、加工?流通、消费の各段阶の取り组みとカーボンニュートラル等の环境负荷軽减のイノベーションを推进するために策定された农林水产省による政策方针です。
(丑迟迟辫蝉://飞飞飞.尘补蹿蹿.驳辞.箩辫/箩/办补苍产辞/办补苍办测辞/蝉别颈蝉补办耻/尘颈诲辞谤颈/ より)
4)搾乳ロボット
フリーストール式牛舎と呼ばれる、牛が自由にすごすことができる牛舎に设置され、牛は自由に访问し、自动で搾乳を行う搾乳施设です。搾乳ロボットは访问を促すための配合饲料を自动で给与し、饲料摂取中に搾乳を行います。1台の搾乳ロボットで50から60头の搾乳が可能です。1回の搾乳时间は5分前后であり、スニファー法ではこの间の呼気を採取しメタン排出量を推定します。
5)ドアフィーダー
个体识别可能なドアのついた饲槽で通常はロックされていますが、首轮に装着した识别タグにより、登録された牛のみがドアを开けることができます。复数头で饲养されている牛で个体毎に饲料の种类や量を変えたい场合や个体毎の饲料摂取量を把握したい场合に利用されます。
6)エネルギー補正乳量(ECM, energy corrected milk)
生乳に含まれるエネルギーで补正した乳量で以下の式で表されます。
贰颁惭(办驳/日)=乳量(办驳/日)×(376×乳脂率(%)+209×乳タンパク质率(%)+948)/3138
発表论文
Suzuki et al.(2021) Animal Science J. 92:e13637

写真1 チャンバーを用いた标準法での呼気ガス测定

写真2 搾乳ロボットにおける搾乳牛でのスニファー法による呼気ガス测定(エサ箱の中のガスをポンプで吸引し、别室のガス分析计で浓度を分析する)

写真3 ドアフィーダーにおける黒毛和种肥育牛でのスニファー法による呼気ガス测定(エサ箱の中のガスをポンプで吸引し、别室のガス分析计で浓度を分析する)

図1 搾乳ロボットでの呼気ガス测定システム

図2 従来算出式あるいは开発算出式を用いるスニファー法と标準法で测定されたメタン(颁贬4)排出量の関係
左図は従来算出式?(Madsenら, 2010)により算出(Y=0.74X+276.25, R2 = 0.69, p < 0.01)。右図は開発算出式から算出(Y=0.80X+222.13, R2 = 0.69, p < 0.01)。ここで、R2は决定係数。
?CH4排出量(尝/日)=颁贬4/CO2浓度比×180×24×(5.6×代谢体重(㎏)+22×贰颁惭(办驳/日)+1.6×10-5×受胎后日数3)×10-3

図3 繊维含量の异なる饲料を摂取した搾乳牛での开発算出式を用いるスニファー法によって求めたメタン排出量
高繊維飼料を摂取する牛では低繊維飼料を摂取する牛に比べメタン排出量が有意に多かった(P < 0.05)。
【お问い合わせ先】
研究推进责任者:农研机构畜产研究部门 所长 叁森 眞琴
研究担当者:同 乳牛精密管理研究領域 グループ長補佐 鈴木 知之
広島大学大学院统合生命科学研究科 教授 小櫃 剛人
家畜改良センター鸟取牧场 课长补佐 西川 悠贵
群马県畜产试験场 酪农係 独立研究员 都丸 友久
兵库県立农林水产技术総合センター畜产技术センター
主任研究员 正木 达规
広报担当者:农研机构畜产研究部门 研究推进室 粕谷 悦子