広岛大学大学院医系科学研究科生理机能情报科学の宫﨑充功准教授は、北海道大学大学院獣医学研究院环境獣医科学分野野生动物学教室の下鹤伦人准教授、坪田敏男教授らの研究グループとの共同研究により、冬眠期ツキノワグマ血清の添加がヒト骨格筋培养细胞のタンパク质分解系を抑制し、筋肉细胞に含まれる総タンパク质量の増加に贡献することを明らかにしました。
本研究成果は、アメリカ東部標準時1月25日午後2時(日本標準時1月26日午後2時)に、米国オンライン科学誌?PLOS ONE?に掲載されました。
【背景】
骨格筋は身体重量の约40%程度を占め、力発挥やエネルギー代谢、体热产生など、ヒトの身体机能を制御する重要な组织の1つです。?筋肉量が减少し、筋力や身体机能が低下している状态?をサルコペニアといい、加齢や不活动、内分泌系因子の変化、骨格筋干细胞数の减少や活性化不全など様々な要因が复合的に関与することにより引き起こされます。サルコペニアは高齢者の転倒や寝たきりリスクとなるだけでなく、各种疾患への罹患率上昇や生命予后不良、蚕翱尝低下に直结するため、サルコペニアの発症予防方法や効果的なリハビリテーション手法を开発することは、ヒトの健康寿命を延伸する上で极めて重要な课题といえます。
ヒト骨格筋の場合、ベッドレストなどの不活動状態に陥ると筋タンパク質量?発揮筋力は1日あたり0.5-1.0%程度の割合で減少し、サルコペニアの進行が加速されます。しかし冬眠動物には、筋肉の大きさや発揮される筋力が冬眠前後で全く変化しない(リスの場合、Andres-Mateos et al., EMBO Mol Med 2013)、または一定程度は減少するがヒトに比較して非常に軽微である(クマの場合、Miyazaki et al., PLOS ONE 2019)という、骨格筋の萎縮耐性ともいえる未解明の生理機能が存在します。一方で、たとえ冬眠動物であっても、夏季に筋活動量が制限されると筋肉量は大きく減少することも報告されています (Lin et al., J Exp Biol 2012)。
つまり冬眠动物における筋肉量维持机构は、リスやクマなど特定の生物种のみが有する生命机能ではなく、冬眠に伴って诱导される何らかの生理学的応答の结果もたらされる适応システムだと考えられています。
【研究成果の内容】
宮崎准教授らの研究室ではこれまで、冬眠動物であるツキノワグマを対象とした検討の結果、冬眠中のクマにおける骨格筋の廃用性変化は、ヒトを含むその他の動物種に比較して極めて限定的であることを報告していました(Miyazaki et al., PLOS ONE 2019)。この結果は、クマの冬眠中に誘導される何らかの生理学的適応によって、骨格筋を中心とした?廃用症候群に対する耐性?が獲得されるという研究仮説を示唆するものです。
そこで本研究では、実験的に採取したツキノワグマ血清をヒト骨格筋培养细胞に添加するというin vitro*1の解析系を用いた検讨を行ったところ、冬眠期クマ血清の添加により、骨格筋细胞における総タンパク质量が増加することを确认しました。
また冬眠期クマ血清の添加は、タンパク质合成系の制御系である础办迟/尘罢翱搁系*2の制御に関与する可能性があること、またタンパク质分解系因子の一つである惭耻搁贵1*3の発现量を転写因子贵翱齿翱3补の制御系を介して调节することなどを明らかにしました。
【今后の展开】
冬眠动物は、生命维持のために一定程度のエネルギー代谢を维持しながら长期间の不活动?栄养不良を経験し、それでもなお筋肉がほとんど衰えないという、不思议な形质を备えています。本研究により、冬眠期のクマ血清に存在する?何らかの因子?がヒト骨格筋培养细胞のタンパク质代谢を制御し、筋肉量维持に贡献する可能性が示されました。しかしながら、この?何らかの因子?の特定には现在も至っていません。
この因子の特定を含め、冬眠动物が有する?使わなくても衰えない筋肉?という未解明の仕组みを明らかにすることで、最终的にはヒトの寝たきり防止や効果的なリハビリテーション手法の开発などが期待されます。
左図: 分化したヒト骨格筋由来培养细胞、分化マーカーであるミオシン(筋タンパク质の一种)が赤く蛍光染色されている。
右図: 冬眠期クマ血清を5%浓度で培地に添加すると、活动期血清に比较して筋肉を构成するタンパク质量が増加する。(筋トレの効果と类似した细胞の応答)
(※1) in vitro
in vitro (イン?ビトロ)とは、“试験管内で(の)”という意味。试験管や培养容器の中でヒトや动物の组织?细胞を用いて、体内と类似した环境を人工的に作り、様々な反応を検出する手法のこと。
(※2) mTOR系
細胞の中で、ある種のシグナル(情報)が他の種類のシグナルに変換される過程をシグナル伝達という。mTOR (mechanistic target of rapamycin)は、リボゾームにおけるタンパク質合成(翻訳)関連タンパク質の活性化を制御するシグナル分子の一つ。がんやエネルギー代謝など、その他の細胞内現象にも関与することが知られている。
(※3) MuRF1 (Muscle RING-Finger Protein 1)
筋肉特异的に発现されるユビキチンリガーゼの一つ。分解したいタンパク质にユビキチンという?目印?をつける役割を持つ。ユビキチン-プロテアソーム系というタンパク质分解経路は、特に筋肉の萎缩时に活性化されることが指摘されている。