広岛大学大学院医系科学研究科 薬効解析科学研究室
教授 森冈 徳光(もりおか のりみつ)
罢贰尝:082-257-5310 贵础齿:082-257-5314
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(注: *は半角@に置き換えてください)
広岛大学大学院医系科学研究科の森冈徳光教授、中岛一恵助教、中村庸辉助教、吉本夏辉(大学院生)らの研究グループは、うつ病や不安障害を呈するモデルマウスを用いて、脳の海马において细胞の働きに必要なエネルギーを产生するミトコンドリアに障害が生じていることを确认しました。さらにミトコンドリア障害により炎症性物质であるインターフェロンが増加しており、この反応がうつ病や不安障害の発症に重要であることを証明しました。
現在、うつ病や不安障害といった気分障害と総称されるこころの病気は、コロナ禍に伴うストレスの多い日常生活により患者数が増加しています。これらの治療は長期間にわたることから、患者さんの生活の質(Quality of Life: QOL)を低下させる要因となっています。うつ病や不安障害の治療には、抗うつ薬や抗不安薬が処方されますが、効かない患者さんも多くおられます。そのような患者さんは治療が困難であることから、新たな治療薬?治療法の確立が望まれています。
ミトコンドリアはほぼ全ての细胞に存在し、エネルギー产生等に関わる重要な细胞小器官です。ミトコンドリアの机能异常が、がんや认知症などの発症に関わることが知られていますが、うつ病や不安障害の発症に対する関わりはよくわかっていませんでした。同研究グループは、うつ病や不安障害を呈するモデルマウスを用いて、脳?海马においてミトコンドリアの障害が认められ、この现象を防ぐことによりうつ?不安様行动が改善されることを証明しました。さらに同モデルマウスの海马では、ミトコンドリア障害に伴って炎症性物质であるⅠ型インターフェロンが増加していることも初めて発见しました。加えて、Ⅰ型インターフェロン受容体に対する中和抗体を鼻腔から投与(経鼻投与)することで、うつ?不安様行动が改善されることを见出しました。
细胞の活动に必要なエネルギーの90%以上がミトコンドリアで产生され、周囲の细胞に供给されます。よってミトコンドリアの正常な働きは、细胞が生き生きと元気に活动し、生命机能を维持する上でとても重要です。うつ病や不安障害は、ミトコンドリアの働きが障害されることで脳の细胞が元気を失うことにより、発症している可能性が考えられます。
ミトコンドリアやⅠ型インターフェロンをターゲットにした薬剤は、うつ病や不安障害に苦しむ多くの患者さんを救う新たな治疗薬となることが期待されます。
本研究成果は、令和5年6月14日(日本時間)、米国科学誌「Experimental Neurology」(オンライン版)に公開されました。
様々なストレスはうつ病や不安障害の発症原因となります。长期に渡って続く痛み(慢性痛)も非常に大きなストレスとなり、実际に何かしらの慢性痛をもつ患者は、うつ病や不安障害を発症しやすくなることが知られています。うつ病や不安障害の治疗には、抗うつ薬や抗不安薬が処方されますが、约30%の患者では薬が効果を示しません。よって、新たな治疗薬?治疗法の确立が望まれています。
以前より同研究グループは、慢性痛モデルマウスがうつ?不安様の行动を示すことを见出していたことから、これらをうつ病や不安障害のモデルマウスとして用いて、治疗标的を探索する研究を続けてきました。また同研究グループは、これらのモデルマウスの脳内で炎症が生じていることを确认していました。
ミトコンドリアは细胞内小器官として、エネルギー产生の他、カルシウムイオン浓度の调节、酸化ストレスの軽减などに関与しています。最近、ミトコンドリアの机能异常が、慢性炎症を引き起こし、がんや认知症、様々な生活习惯病の発症に関係していることが知られています。
そこで本研究では、慢性痛によってうつ?不安様行动を示すマウスを用いて、ミトコンドリアの机能异常による炎症と症状の関わりについて调べました。
広島大学大学院医系科学研究科 森岡徳光教授らの研究グループは、慢性痛によってうつ?不安様行動を示すマウスを用いて、脳?海馬においてミトコンドリアの障害が生じていることを明らかにしました(図1)。またこのモデルマウスに対して、ミトコンドリア機能を改善するクルクミン(ウコンなどに含まれるポリフェノール)を投与すると、うつ?不安様行動が改善しました(図2)。さらに、このモデルマウスの海馬では、炎症性物質であるⅠ型インターフェロンが増加し、脳の免疫担当細胞であるミクログリアが活性化していましたが、これらの反応もクルクミンによって対照群と同じ程度にまで抑制されました。またⅠ型インターフェロン受容体に対する中和抗体をモデルマウスに経鼻投与すると、ミクログリアの活性化が抑えられるとともに、うつ?不安様行動が改善しました(図3)。
本研究结果から、ミトコンドリアやⅠ型インターフェロンがうつ病や不安障害に対する治疗薬の新たなターゲットとなることが期待されます(図4)。
今后は、ストレスがミトコンドリア障害を引き起こすメカニズムやⅠ型インターフェロンによるうつ?不安障害の発症メカニズムについても研究を进めていく予定です。
図1 ストレスモデルマウス海马におけるミトコンドリア障害
図2 ストレスモデルマウスのうつ?不安様行动に対するクルクミンの効果
図3 ストレスモデルマウスのうつ?不安様行动に対する滨贵狈受容体中和抗体の効果
図4 本研究の概要図
着 者
Natsuki Yoshimoto, Yoki Nakamura, Kazue Hisaoka-Nakashima and Norimitsu Morioka*
* Corresponding author(責任著者)
论文题目
Mitochondrial dysfunction and type Ⅰinterferon signaling induce anxiodepressive-like behaviors in mice with neuropathic pain.
掲载雑誌
Experimental Neurology, 2023, Impact factor=5.62
顿翱滨番号
doi: 10.1016/j.expneurol.2023.114470.
(※1)ミトコンドリア
ほとんど全ての真核生物の细胞の中に存在し、细胞の働きに必要なエネルギーを产生する细胞内小器官です。
(※2)Ⅰ型インターフェロン(滨贵狈)
IFN-α, IFN-βなどが該当する。免疫系及び炎症の調節などの働きを示し、サイトカインの一種に含まれます。
(※3)Ⅰ型インターフェロン受容体に対する中和抗体
Ⅰ型インターフェロンの受容体である滨贵狈础搁という细胞表面の特异的な受容体に结合し、その作用を阻害する。
広岛大学大学院医系科学研究科 薬効解析科学研究室
教授 森冈 徳光(もりおか のりみつ)
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掲載日 : 2023年06月28日
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