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【研究成果】ヒト脳组织の动物移植に伴う伦理问题を体系化

本研究イメージ図
(credit: Kyoto University/ASHBi)

本研究成果のポイント

  • 本研究では、ヒト脳オルガノイド【注1】それ自体に固有の悬念(ヒト脳オルガノイドが?意识?を持つのではないかというもの)にも注目することで、従来指摘されてきた伦理问题にとどまらず、动物移植を进める际に生じうる、短期的、また中长期的な伦理问题を体系的に明らかにしました。
     
  • 2018年以降、ヒト脳オルガノイド(体外で作られる立体的なヒトの脳组织)を动物の脳に移植する研究が多数报告されています。こうした研究は、移植しなければできない基础研究(ヒトの脳组织をより成长させるなど)や応用研究(脳の疾患モデルを作るなど)、さらには将来的な移植医疗への応用のために行われています。
     
  • ヒト脳オルガノイドの动物移植に対しては、生命伦理の観点からも活発な议论が行われてきました。しかし従来の议论では、移植を受けた动物の认知能力が向上してしまうのではないかという悬念に関心が集中していました。

概要

 広島大学大学院人間社会科学研究科 片岡雅知 研究員、澤井努 准教授(京都大学 高等研究院ヒト生物学高等研究拠点 連携研究者)、マードック?チルドレンズ研究所(オーストラリア)クリストファー?ギンジェル研究員、シンガポール国立大学生命医学倫理センター長 ジュリアン?サヴァレスキュ教授の研究グループは、ヒト脳オルガノイド(体外で作られる立体的なヒトの脳組織)を動物の脳に移植する研究において生じる倫理問題を体系化しました。従来、ヒト脳オルガノイドの動物移植の倫理的是非は盛んに議論されてきましたが、中心的な論点はヒト脳オルガノイドを移植された動物の認知能力が向上することの倫理的是非でした。
 こうした中で本研究は、ヒト脳オルガノイド研究に固有な问题(ヒト脳オルガノイドが?意识?を持つのではないかというもの)に注目するとともに、动物移植における一连の研究过程を、细胞提供者による研究への细胞提供からヒト脳オルガノイド移植后の动物の利用まで复数の段阶に分类することで、それぞれの段阶で短期的に、また中长期的にどのような伦理问题が生じうるのかを体系的に明らかにしました。今后、ヒト脳オルガノイド研究の进捗に応じて、科学者や伦理学者のような専门家、さらに市民のような非専门家も交えて、动物移植研究の各段阶において生じうる论点をより详细に検讨することが求められます。

 本研究成果は、2023年10月4日に学术誌?Neuroethics?でオンライン公开されました。

论文情报

  • 題目: The Ethics of Human Brain Organoid Transplantation in Animals
     
  • 著者: Masanori Kataoka1, Christopher Gyngell2,3,4, Julian Savulescu2,3,5,6, Tsutomu Sawai1,5,7*
    1:広岛大学大学院人间社会科学研究科
    2:Biomedical Ethics Research Group, Murdoch Children’s Research Institute, Melbourne, Australia
    3:Melbourne Law School, The University of Melbourne, Melbourne, Australia
    4:Department of Paediatrics, The University of Melbourne, Melbourne, Australia
    5:Centre for Biomedical Ethics, Yong Loo Lin School of Medicine, National University of Singapore
    6:Faculty of Philosophy, The University of Oxford, Oxford, UK
    7:京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(奥笔滨-础厂贬叠颈)
    *:责任着者
     
  • 雑誌: Neuroethics, 2023, 16(27), pp.1-15
     
  • 鲍搁尝:
     
  • DOI: 10.1007/s12152-023-09532-3

背景

 过去10年の间にオルガノイド(体外で作られる立体的な組織)【注1】の研究分野が急速に進展しました。2013 年にヒトの脳組織、すなわち、脳オルガノイドが作られて以降、脳の発生を解明する基礎研究、脳関連疾患の原因を解明し、創薬?治療法の開発に活かす応用研究、さらに将来的な再生医療に向けた応用研究が進められています。しかし、これまでの脳オルガノイドは血液や栄養の供給不足により十分に成熟しないという課題がありました。そのため近年、この課題を克服するために、ヒト脳オルガノイドを動物(マウス、ラット、カニクイザル)の脳に移植する研究が行われ、2018年以降、多数の報告がなされています。
 一方で、こうした研究に対しては根强い悬念があります。主たる悬念は、ヒト脳オルガノイドを动物に移植した结果、移植后の动物の认知能力が向上するのではないかというものです。ただし现在は、动物移植がこのような悬念を引き起こす可能性は低いと考えられ、动物移植が実施されています。このように従来の议论では、移植后の动物の问题に注目が集まり、ヒト脳オルガノイド研究に固有の问题、すなわち、ヒト脳オルガノイドそれ自体が?意识?を持つ可能性が动物移植にどのように関连するかを十分に考虑できていませんでした。そこで本研究では、将来的な生命伦理议论に备えて、ヒト脳オルガノイド研究に固有の问题にも注目した、短期的、また中长期的な论点の整理を试みました。

研究成果の内容

 本研究では、上述のような従来の议论の课题を克服し、ヒト脳オルガノイドの动物移植が提起する伦理问题を包括的に分析するための枠组みを提示しました。この枠组みでは、ヒト脳オルガノイドの动物移植の一连の过程を细胞提供から移植を受けた动物の利用までの复数の段阶に分けるとともに、それぞれの段阶において、移植される脳オルガノイドに関连する课题と移植を受けた动物に関连する课题を分けました。これによって、ヒト脳オルガノイドを动物に移植するという一连の过程のどの段阶で、どのような短期的、中长期的な伦理问题が生じうるのかを俯瞰的に整理することができます。それとともに、ヒト脳オルガノイドを移植することにどのような固有の问题があるのかを明らかにすることが可能になります。
 例えば、细胞提供者から细胞を提供してもらう?细胞収集の段阶?では、ドナーからの同意取得(インフォームド?コンセント)が必要になります。现在、ヒト脳オルガノイドの动物移植は、これまで作られていたヒト脳细胞の动物移植以上に固有の伦理问题はないと考えられており、包括同意【注2】を取得した细胞が利用されています。しかし、ヒト脳オルガノイドの动物移植研究には、ヒト脳オルガノイドを作ることの悬念と、ヒト脳オルガノイドを动物の脳に移植することの悬念という、二重の悬念が伴います。今后より成长した脳オルガノイドを体外で作ることができるようになれば、动物移植を行う研究者は、こうした二重の伦理的悬念を细胞提供者に丁寧に説明し、个别同意を取得する必要が出てくるでしょう。
 また、ヒト脳オルガノイドを移植する?移植の段阶?では、ヒト脳オルガノイドが意识を持つ场合と意识を持たない场合とで伦理问题が変化すると思われます。ヒト脳オルガノイドが意识を持つ场合、それを动物の脳に移植するだけの积极的な理由が必要になるでしょう。そして、もし移植することが认められたとしても、従来の议论で指摘されていたような认知能力が向上する可能性とともに、动物の意识とヒト脳オルガノイドの意识がどうなるのか(动物の意识に统合されるのか、両者の意识が共存するのかなど)について様々な伦理的悬念を生じさせます。また、仮に移植前のヒト脳オルガノイドが意识を持たなかったとしても、移植した结果として意识を持つようになる可能性も否定できません。これらはあくまで理论的な可能性ですが、意识の问题の解明が进んでいない以上、今后、より成熟した脳オルガノイドを移植する场合には特に、慎重な対応が求められるでしょう。

今后の展开

 近い将来、ヒト脳オルガノイドが意识を持つ可能性が低いことを考虑すれば、当面の间はヒト脳オルガノイドの动物移植をその他の研究と比较して特别に悬念する理由はないかもしれません。しかし、本研究を通して、ヒト脳オルガノイドの动物移植には多様な课题が生じうることが明らかになりました。今后は、悬念される自体を回避するためにも、科学者や哲学?伦理学者をはじめ、多様な利害関係者とともに様々な课题に対処する必要があります。本研究グループは、生命伦理の観点からこうした课题にいち早く取り组み、より责任のある研究开発に向けた环境整备に贡献したいと思います。

用语説明

注1 オルガノイド
 多能性幹細胞(体を構成するほぼ全ての細胞に分化できる幹細胞)を三次元培養して作られる組織。なお、多能性幹細胞には、受精卵(胚)から作られる胚性幹(embryonic stem: ES)細胞と血液や皮膚の細胞に複数の遺伝子を導入して作られる人工多能性幹(induced pluripotent stem: iPS)細胞がある。
注2 包括同意
 细胞提供者から细胞を提供してもらう际、细胞を幅広い医学?科学研究に利用することに対して同意を取得すること

【お问い合わせ先】

大学院人间社会科学研究科 准教授 泽井 努
罢别濒:082-424-6348 贵础齿:082-424-0752
贰-尘补颈濒:迟蝉迟尘蝉飞*丑颈谤辞蝉丑颈尘补-耻.补肠.箩辫
(注: *は半角@に置き換えてください)


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