広島大学大学院人间社会科学研究科 人间総合科学プログラム
上广応用伦理学讲座
担当:兼内伸之介(特任学术研究员)
罢别濒:082-424-6594 贵础齿:082-424-6990
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(*は半角@に置き换えてください)

本研究イメージ図
(クレジット:京都大学/奥笔滨-础厂贬叠颈)
本研究成果のポイント
- 近年の神経技术(ニューロテクノロジー)*1が急速に进展し、脳から记忆や思考を読み取れるのではないかという悬念が出てきています。このようなデータが不正にアクセス※されたり、误って利用されたりしないようにするために、「脳神経関连権」(ニューロライツ)や「神経プライバシー」*2といった新しい考え方が注目されています。
- しかし、これらの新しい考え方の下で、ヒト脳オルガノイド*3研究で得られるデータをどのように保护すべきかは明らかになっていません。
- 脳オルガノイドを用いて细胞提供者の心をコピーするという误解を解くとともに、実験で得た情报を正しく管理し、细胞提供者のプライバシーを守ることが重要です。
(※)本研究における不正アクセスとは、取得可能な「神経データ」に対し、适切なプロセスを経ずにアクセスすることを指します。たとえば特定の个人や団体、组织が、同意取得などを行わずに、身胜手に神経データにアクセス神経データにアクセスするなど、データを取得する段阶でも「不正アクセス」が行われる可能性があります。
概要
広島大学大学院人间社会科学研究科の片岡雅知 寄附講座准教授、石田柊 寄附講座助教、小林知恵 寄附講座助教、および澤井努 特定教授 兼 寄附講座教授(京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点 連携研究者)は、法学者とともに、ヒト脳オルガノイド研究における細胞提供者のプライバシー保護の問題を検討しました。
この问题に取り组むためには、ヒト脳オルガノイド研究によって収集されるデータがどのようなプライバシーのリスクを伴うかを整理する必要があります。そこで本研究では、「神経プライバシー」という概念を、①思考や记忆に関するプライバシー(精神的プライバシー)と、②脳疾患に関する情报のプライバシーに分けて分析しました。
提供された细胞から作られる脳オルガノイドから、细胞提供者の思考や记忆を読み取ることはできません。したがって、ヒト脳オルガノイド研究において精神的プライバシーに関する悬念はありません。一方で、一部のヒト脳オルガノイド研究では、脳疾患に関连する重要な情报を扱うことがあります。したがって、ヒト脳オルガノイドを作ることが细胞提供者の心をコピーするという误解を解くと同时に、适切な情报管理が求められます。
本研究成果は、2024年9月20日に学術誌「Trends in Biotechnology」でオンライン公開されました。
论文情报
- 題目:Evaluating Neuroprivacy Concerns in Human Brain Organoid Research
- 著者:Masanori Kataoka1, Shu Ishida1, Chie Kobayashi1, Tsung-Ling Lee2, Tsutomu Sawai1,3,4,5*
1. 広島大学大学院人间社会科学研究科上广応用伦理学讲座
2. Graduate Institute of Health and Biotechnology Law, Taipei Medical University, Taipei, Taiwan
3. 広島大学大学院人间社会科学研究科
4. 京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)
5. Yong Loo Lin School of Medicine, National University of Singapore, Singapore, Singapore.
*: 責任著者 - 雑誌:Trends in Biotechnology
- 鲍搁尝:
- 顿翱滨:
背景
近年の神経技术の急速な进歩により、こうした技术を用いて脳に関するデータを収集し、人の记忆や思考などを読み取ることができるのではないかという悬念が出てきています。こうした中でデータが不正にアクセスされたり、误って使われたりしないように、「脳神経関连権」や「神経プライバシー」という新しい考え方が提案され、注目を集めています。これらの考え方は脳を対象とした基础研究に影响を与えますが、人の干细胞から作られた脳组织、つまり「脳オルガノイド」を用いた研究にはまだ适用されていません。
一方で、过去の研究では、ヒト脳オルガノイドは细胞提供者の记忆や思考を复製しているのではないかと不安を感じる人もいることが分かっています。このような不安に対応するためには、ヒト脳オルガノイド研究にどのようなプライバシーの问题があるかを整理する必要があります。
研究成果の内容
本論文では、最近注目されている「神経プライバシー」という考え方を、①思考や記憶に関するプライバシー(精神的プライバシー)と、②脳疾患に関する情報のプライバシーの2つに分け、それぞれがヒト脳オルガノイド研究とどのように関わるかを分析しました。
①&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫; 精神的プライバシーへの悬念
実际のところ、ヒト脳オルガノイド研究には精神的プライバシーに関する心配はありません。なぜなら、脳オルガノイドが细胞提供者の记忆や思考を复製することができないからです。まず、现在の脳オルガノイドは记忆や思考を処理するほど复雑な神経回路を再现できていません。また、たとえ将来、より复雑な脳オルガノイドを作れるようになったとしても、それが细胞提供者の脳をそのまま再现するわけではありません。同じ遗伝情报を持つ颈笔厂细胞を使用した场合でも、脳オルガノイドの発达の仕方は细胞提供者の脳とは全く异なるからです。
脳オルガノイドが细胞提供者の心をコピーするという误解に基づいた议论は、将来的に医疗分野での応用が期待されている脳オルガノイド研究の発展を妨げる可能性があります。今后は、このような误解を解消するために、丁寧な科学コミュニケーションが重要です。
②&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;脳疾患に関する情报のプライバシーへの悬念
一方で、ヒト脳オルガノイド研究の一部では、脳疾患に関する重要な情报を扱うことがあります。例えば、脳の疾患を持つ人の细胞から脳オルガノイドを作り、その疾患のモデルを作製する研究が数多く行われています。このような研究では、疾患に関する情报が収集されるため、特に偏见を受けやすい疾患の场合、プライバシーに関する悬念が生じる可能性があります。
しかし、疾病に関する情报のプライバシーの问题は、脳オルガノイド研究だけに特有のものではありません。このような情报が研究机関などでどのように管理され、共有されるべきかについては、すでにさまざまな法律やガイドラインが定められています。情报技术の进歩や研究の拡大に伴い、既存のルールを见直す必要があるかもしれませんが、脳オルガノイド研究だけを特别に悬念する必要はないと考えられます。
本论文では、プライバシー保护の観点から、脳オルガノイド研究と神経プライバシーとの関係性を明らかにし、建设的な议论を进めるための论点を整理しました。
今后の展开
本研究で分析したプライバシーの问题は、试験管内で作製?利用されるヒト脳オルガノイドの研究を想定したものです。しかし、ヒト脳オルガノイドを他の人の组织や机械と组み合わせたり、动物に移植したりすることも可能であり、その场合には异なるプライバシーの问题が生じるかもしれません。また、本研究ではヒト脳オルガノイド研究に特有のプライバシーの问题はないと结论づけましたが、他にも権利の问题(ヒト脳オルガノイドの法的な位置づけや、细胞提供者からの同意取得に関する问题など)が议论されています。责任ある研究と技术开発を进めるためには、こうした问题について包括的でバランスの取れたルールを整えることが求められます。
谢辞
本研究は、以下の支援により実施しました。
- 日本医疗研究开発机构(础惭贰顿)令和3年度「脳とこころの研究推进プログラム(精神?神経疾患メカニズム解明プロジェクト)「ヒト脳オルガノイド研究に伴う伦理的?法的?社会的课题に関する研究」摆闯笔21飞尘0425021闭(代表者:泽井努)
- 科学技术振兴机构(闯厂罢)社会技术研究开発センター(搁滨厂罢贰齿)科学技术の伦理的?法制度的?社会的课题への包括的実践研究开発フ?ロク?ラム(搁滨苍颁础)「ヒト脳改変の未来に向けた実験伦理学的贰尝厂滨研究方法论の开発」摆闯笔惭闯搁厂22闯4闭(代表者:太田紘史、分担者:泽井努)
- 上广伦理财団论文投稿助成摆鲍贰贬滨搁翱2023-0116闭
- 日本学术振兴会(闯厂笔厂)科学研究费助成事业基盘研究(叠)「现代社会におけるヒト発生研究の伦理基盘の构筑」摆24碍00039闭(代表者:泽井努)
- 日本学术振兴会(闯厂笔厂)科学研究费助成事业学术変革领域研究(叠)「ヒト培养技术を用いた「个人复製」の伦理学」摆24贬00813闭(代表者:泽井努)
- Brocher Foundation
なお、本研究の実施に伴い、申告すべき利益相反はありません。
用语解説
*1:神経技术(ニューロテクノロジー)
脳を含む神経系の活动を记録、调整、増强する技术の総称。脳の活动を记録する脳波计、脳の働きを画像で确认する磁気共鸣机能画像法(蹿惭搁滨)、脳とコンピュータをつなげるブレイン?コンピュータ?インターフェース技术も含まれており、近年、技术が急速に进展している。
*2:脳神経関连権(ニューロライツ)と神経プライバシー
脳や神経活动を守るために近年提案された新しい権利のこと。その中の一つである「神経プライバシー」は、自身の脳神経に関するデータ、特に个人の思考や记忆を明らかにする可能性のあるデータに不正にアクセスされたり、误って利用されたりしないようにする権利を指す。
*3:脳オルガノイド
多能性干细胞などを培养して作られる立体的な脳组织のこと。多能性干细胞とは自己増殖能(无限に増殖する能力)と多分化能(体を构成する全ての细胞に分化できる能力)を持つ细胞のことで、贰厂细胞(精子と卵子の受精后5?7日が経过した胚盘胞から内部细胞块を取り出して人工的に作られる)や颈笔厂细胞(皮肤や血液など体细胞に复数の遗伝子を导入して人工的に作られる)がある。贰厂细胞を利用する场合は元となる受精卵の提供が必要であり、颈笔厂细胞を利用する场合は元となる血液や皮肤の细胞の提供が必要である。