松村 武 准教授

来年度から学部2年生向けの热力学を新しく担当することになり、最近その準备を始めたところである。これまでは3、4年生が相手で、そろそろ低学年を担当してみたいと思っていたところでもあったので、ちょうどいい巡り合わせになったと思っている。半年も前に準备を始めるのかと思われるかもしれないが、全体构想を练り、细かい计算过程などもすべてチェックし、その中から扱う问题を取捨选択し、整理して15回分の构成を作り上げるのには、それくらいの时间はゆうにかかる。2月にはシラバスを书かねばならないので、1月末にはほとんど仕上がっていなければ间に合わない。科研费の申请书も书き、出张実験もあり、データ解析もあり、论文も书き、集中讲义や研究会での讲演もある中での新授业の準备である。しかし、これが実に楽しい。いつの间にかのめり込んでしまう。
热力学をやらないかという打诊があったとき、いい机会が来たと思った。学生のときから热力学はまたちゃんと勉强してみたいと思っていたし、今现在も、研究テーマの中で出会う问题を热力学的に扱うとどんな解釈になるんだろうと思ったりすることがよくある。といいつつ、现象论としての説明はできても、热力学ではミクロなことはわからないし、まあいいかと、ずるずるここまできたのである。今、まじめに一から勉强し直している。
実は、私には大学で热力学の授业を受けた记忆がない。サボっていたのではない。カリキュラムでは热力学のはずだった授业で、担当の先生が全く违うことをやったのである。ほぼ、前期量子论の话だったはずだ。シラバスも、学生による授业评価もない时代であり、今では考えられない话である。でも、その授业内容にはとても引き込まれたのを覚えている。1年生のあまりおもしろくもない力学の后だったこともあり、大学でいよいよ本格的な学问をやり出したという高扬感があった。カリキュラムを无视して前期量子论をやる独自性も魅力的だった。そのこと自体が、学问とはこういうものだという强いメッセージになっていた。私も同じようにしたほうが、真の意味での教育効果はあるような気もするが、今の世相では问题视されそうでできない。で、热力学はどうしたかというと、自分で勉强した。统计力学はちゃんと授业があったし、研究でも热力学は大前提としての存在感があるし、相対论は避けて通れても、热力学を避けることはできないと思っていたのである。それを今、再び勉强し直している。
そんなことでいいんですか、と学生诸君は思うであろう。これが大丈夫なのだ。むしろ、学びたてほやほやの新鲜な热力学を提供できると自分では期待している。结局は独学であることに変わりはないのだが、学生のときの独学と全く违うと感じるのは理解力である。研究の现场で20年以上の実践経験を経て、现実の问题とリンクさせながら学び直す热力学の理解度は、学生のときの理解度をはるかに凌いでいる。この理解度が学生のときにあったら、その后の研究ももっと质が高くなっていたに违いない。
教科书にはいろいろな热力学の関係式が出てくるが、実际の问题に适用してみなければ、理解は深まらない。理想気体に适用してみるのが第一歩であるが、そこで终わっては现実感が乏しく、つまらない。一定値になったり、ゼロになったりする项があり、何のために难しげな式をわざわざ书いたのか意味がわからなくなる。热力学は理想気体だけを扱うものと误解されるのも心外だ。そこで、この夏、ファンデルワールスの状态方程式をとことん调べてみた摆1闭。ふつう、教科书に出ているのはP-V曲线までであるが摆2闭、内部エネルギー、自由エネルギー、エントロピー、エンタルピー、比热、热膨张率など、教科书に式が出てくる物理量は一通り计算してみた。これをうまく授业に组み込めれば、基本的な热力学から、水と水蒸気の相転移と共存状态まで、一つの连続した话として扱える。すべてつながっているということが大事で、项目を断片にはしたくないのだ。そして、学生が自分の手を动かしてこれらの问题に取り组めるような教材にしたい。どうやってそのような教材に仕上げていくか、それを今あれこれ考えながら作业している。それが実に楽しい。
(注)
摆1闭理想気体の状态方程式はPV=nRT。分子には大きさがない、分子间の引力相互作用もないという仮定の下で成り立つ。これに分子の大きさや相互作用の効果を実効的に取り込んだ、(P+n2a/V2)(V-nb)=nRTがファンデルワールスの状态方程式で、现実をモデル化した方程式の中では最も简単なもの。といっても、纸と铅笔だけでこの方程式からでてくる现象を解き明かすのは难しい。
[2] 縦軸に圧力P、横轴に体积Vをとり、温度Tを一定にしたときのPとVの関係を表す曲线。ファンデルワールス方程式からは気体—液体の相転移が出てくる。理想気体では出てこない。

一から勉强し直したノート.まだ乱雑な状态で,全然まとまっていない.

ファンデルワールス方程式に従う気体の物理量をいろいろ计算してみたパソコン画面.これを学习教材レベルにまで落とし込めるかが课题.
(2017年9月28日掲载)