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【研究成果】史上初、ブラックホールの撮影に成功 ― 地球サイズの電波望遠鏡で、楕円銀河M87に潜む巨大ブラックホールに迫る ―

観測画像

イベント?ホライズン?テレスコープで撮影された、銀河M87中心の巨大ブラックホールシャドウ。リング状の明るい部分の大きさはおよそ42マイクロ秒角であり、月面に置いた野球のボールを地球から見た時の大きさに相当します。(Credit: EHT Collaboration)()

イベント?ホライズン?テレスコープは、地球上の8つの电波望远镜を结合させた国际协力プロジェクトであり、ブラックホールの画像を撮影することを目标としています。2019年4月10日、研究チームは世界6か所で同时に行われた记者会见において、巨大ブラックホールとその影の存在を初めて画像で直接証明することに成功したことを発表しました。

この成果は、アメリカの天文学専门誌『アストロフィジカル?ジャーナル?レターズ』特集号に6本の论文として掲载されました。今回撮影されたのは、おとめ座银河団の楕円银河惭87の中心に位置する巨大ブラックホールです摆1闭。このブラックホールは、地球から5500万光年の距离にあり、その质量は太阳の65亿倍にも及びます摆2闭。

イベント?ホライズン?テレスコープは、世界中の电波望远镜をつなぎ合わせて、圧倒的な感度と解像度を持つ地球サイズの仮想的な望远镜を作り上げるプロジェクトです摆3闭。イベント?ホライズン?テレスコープは長年にわたる国際協力の結果であり、アインシュタインの一般相対性理論で予言された宇宙のもっとも極限的な天体を探る新しい手段を研究者たちに提供します。なお今年は、一般相対性理論が歴史的な実験によって初めて実証されてから100年の節目の年に当たります[4闭。

「私たちは、ついにブラックホールの姿を初めてとらえました。200人以上の研究者がチーム一丸となって成し遂げた伟大な科学的业绩といえるでしょう」と、イベント?ホライズン?テレスコープの代表を务めるシェパード?ドールマン氏(ハーバード?スミソニアン天体物理学センター)は语っています。

ブラックホールは、莫大な质量を持つにもかかわらず非常にコンパクトな、宇宙でも特异な天体です。ブラックホールがあることで、その周辺の时空间がゆがみ、周囲の物质は激しく加热されます。

「もしブラックホールのまわりに辉くガスのような明るいものがあれば、ブラックホールは『影』のように暗く见えるはずです。これはアインシュタインの一般相対性理论から导き出せることですが、私たちはこれまでそれを直接见たことはありませんでした。」と、オランダ?ラドバウド大学のハイノー?ファルケ氏はコメントしています。「ブラックホールの重力によって光が曲げられたり捕まえられたりすることで、ブラックホールシャドウが生まれます。それを调べれば、ブラックホールという魅力的な天体の性质についていろいろなことがわかりますし、ブラックホールの质量を测定することもできます。」

ブラックホールシャドウ説明図

(上)ブラックホールの周囲の光の轨跡の模式図。光がある距离以上にブラックホールに近づくと、光はブラックホールの重力にとらえられ、ブラックホールを周回しながらやがてブラックホールに吸い込まれてしまいます。その距离よりも远い位置を通过する光は、进行方向が曲げられるため、本来は地球に届かない光も地球に届くようになります。

(下)地球に向かってくる光の経路を斜めから見た図。内側のある一定範囲では光がやってこないことがわかります。これが、ブラックホールシャドウです。(Credit: Nicolle R. Fuller/NSF)()

复数のデータ较正や画像化手法を用いることによって、明るいリングの中に暗い部分が写し出されました。これこそが、ブラックホールシャドウです。イベント?ホライズン?テレスコープで繰り返し観测を行っても、このシャドウの存在は揺らぎませんでした。

「ブラックホールシャドウを写し出せたと确信した后、私たちはシミュレーション结果とこの画像を比较しました。シミュレーションには、ブラックホールのまわりのゆがんだ时空や超高温になったガス、磁场などさまざまな効果を取り入れています。観测で得られた画像は、理论的予测と惊くほどよく一致していました。これによって、ブラックホール质量推定や私たちが写し出した画像そのものの意味についても、确信を持つことができました。」と、东アジア天文台长であるポール?ホー氏は语っています摆5闭。

イベント?ホライズン?テレスコープを実現するためには、既存の8つの望遠鏡をアップグレードして結合する必要があり、これ自体が挑戦でした。望遠鏡はハワイやメキシコの火山、アリゾナやスペイン?シエラネバダ山脈の山々、チリのアタカマ砂漠、そして南極に設置されています。それぞれ観測条件は良い場所ですが、人間にとっては厳しい環境です。イベント?ホライズン?テレスコープは、超長基線電波干渉計(Very Long Baseline Interferometry: VLBI)という仕組みを用いています。世界中に散らばる望遠鏡を同期させ、地球の自転を利用することで、地球サイズの望遠鏡を構成します。今回イベント?ホライズン?テレスコープが観測したのは、波長1.3mmの電波でした。VLBIにより、イベント?ホライズン?テレスコープは解像度20マイクロ秒角という極めて高い解像度を実現できました。これは、人間の視力300万に相当し、月面に置いたゴルフボールが見えるほどです。

今回観测に使用された望远镜は、础笔贰齿(チリ)、アルマ望远镜(チリ)、滨搁础惭30尘望远镜(スペイン)、ジェームズ?クラーク?マクスウェル望远镜(米国ハワイ)、アルフォンソ?セラノ大型ミリ波望远镜(メキシコ)、サブミリ波干渉计(米国ハワイ)、サブミリ波望远镜(米国アリゾナ)、南极点望远镜(南极)です摆6][7闭。得られた生データの合計は数ペタバイトにもなり、これらはドイツのマックスプランク電波天文学研究所とアメリカのマサチューセッツ工科大学ヘイスタック観測所に設置された専用のスーパーコンピュータで処理されました。

EHT観測局位置図

2017年4月に行われたイベント?ホライズン?テレスコープの観測に参加した望遠鏡の配置。(Credit: NRAO/AUI/NSF)()

イベント?ホライズン?テレスコープの建设と今日発表された観测成果は、何十年にもわたる観测的?技术的?理论的取り组みの赐物です。さらに、世界中から集まった研究者たちの紧密な连携の结果でもあります。イベント?ホライズン?テレスコープを実现するために13のパートナー机関が力を合わせ、既存の観测装置を活用するとともにさまざまな机関からの支援も受けて活动してきました。主要な资金援助は、アメリカ国立科学财団と欧州连合の欧州研究会议、そして东アジア地域の资金配分机関からのものです。

日本の研究者も、さまざまな面でこの研究に贡献しました。まず、日本と台湾?韩国、北米、欧州が共同で运用するアルマ望远镜は、観测に参加した望远镜の中でもっと感度が高く、イベント?ホライズン?テレスコープ全体の感度の向上に大きな贡献をしました。また、アルマ望远镜をイベント?ホライズン?テレスコープの一员とするために、山顶のアンテナ群から山麓施设にデータを伝送する装置は国立天文台が开発しました。さらに、日本はアジアのパートナーと共に东アジア天文台を设立しており、东アジア天文台がハワイのジェームズ?クラーク?マクスウェル望远镜の运用を担っています。

「日本の研究者は、ソフトウェアや研究においても貢献をしています。私たちは、『スパース?モデリング』と呼ばれる新しい手法をデータ処理に取り入れました。これにより、限られたデータから信頼性の高い画像を得ることができました。最終的には、4つの独立した内部チームが3つの手法でデータの画像化を行い、いずれもブラックホールシャドウが現れることを確認しました。」と、イベント?ホライズン?テレスコープ日本チームの代表である本間希樹 国立天文台教授?水沢VLBI観測所長は語ります。研究チームの一員で、2019年3月まで国立天文台に在籍し現在はマサチューセッツ工科大学ヘイスタック観測所に移った森山小太郎研究員は「さらに私たちは、具体的な方法を変えながらおよそ5万通りもの画像化を行い、得られたブラックホールシャドウの画像の特徴が本当に信頼できるものであるかを入念に確かめました。」と語っています。

同じく研究チームの一員である田崎文得 国立天文台水沢VLBI観測所特任研究員は、「日本独自の手法でデータを解析し、ブラックホールシャドウの画像化に成功した時は、本当に興奮しました。さらに画像化の成功を世界中の仲間と共有できたことは、これまでで最も幸せな瞬間の一つです。」とその喜びを語っています。

また、台湾中央研究院天文及天文物理研究所の小山翔子 博士研究員は「画像化の前段階でも、独立に開発された3つの手法で解析を行い、解析結果が十分に一致することを検証しました。こうした途中経過にスポットライトが当たることはあまりありませんが、研究の一ステップごとにチームメンバーが緻密な努力を積み重ねてきたことが、今回の成果につながったのだと思います。」と語っています。

ドールマン氏は、「私たちは、一世代前ならまったく不可能であったことを成し遂げたのです。技术的なブレイクスルー、世界中の最高の望远镜たちをつなぐこと、革新的なデータ処理アルゴリズムなど、すべてがあわさって初めてブラックホールと事象の地平面に対するまったく新しい窓を开くことができたのです。」と结论しています。

脚注

1)ブラックホールは、光さえも抜け出すことができない完全に真っ暗な天体です。ブラックホールシャドウは、そのブラックホールにもっとも近くまで視覚的に迫れる理論的な限界といえます。ブラックホールの表面は「事象の地平面(Event Horizon)」と呼ばれ、シャドウより2.5倍小さいサイズになります。M87の中心にある巨大ブラックホールの場合、事象の地平面の大きさはおよそ400億kmになります。

2)巨大ブラックホールは、その名に反して非常にコンパクトな天体です。そのため、これまで直接観测することは不可能でした。ブラックホールのサイズはその质量に比例し、ブラックホールの质量が大きいほどシャドウも大きくなります。惭87の中心にある巨大ブラックホールは非常に大质量でありながら宇宙全体から见れば地球に场所にあるため、地球からの见かけの大きさが最も大きなブラックホールになります。このため、イベント?ホライズン?テレスコープの絶好の観测対象でした。

3)イベント?ホライズン?テレスコープを构成する各望远镜は、物理的に直接つながっているわけではありませんが、非常に精密な原子时计によってデータが正确に同期されています。今回の観测は2017年4月に行われ、波长1.3尘尘の电波が観测されました。イベント?ホライズン?テレスコープの各望远镜は1日350テラバイトという膨大なデータを生み出し、ヘリウムガスが充填された高性能なハードディスクに蓄积されました。これらのデータは、マックスプランク电波天文学研究所とマサチューセッツ工科大学ヘイスタック観测所にある専用の高性能スーパーコンピュータ(相関器)に运ばれ、処理されました。処理されたデータをもとに、研究者たちは苦心して自分たちで作ったソフトウェアを使って画像化を行いました。

4)今からちょうど100年前の1919年、アフリカ沿岸のプリンシペ岛とブラジルのソブラルで、皆既日食観测が行われました。この観测は、アインシュタインの一般相対性理论で予言される、太阳の重力による星の光の曲がりをとらえることを目的としていました。この时の観测と呼応するように、イベント?ホライズン?テレスコープの観测では研究者たちが世界各地の电波観测施设に散って観测を行い、重力に対する私たちの理解をふたたび検証しました。

5)東アジア天文台(East Asian Observatory: EAO)は、イベント?ホライズン?テレスコープのパートナー機関であり、中国、日本、韓国、台湾、ベトナム、タイ、マレーシア、インド、インドネシアの協力で運用されています。

6)イベント?ホライズン?テレスコープでは、今後フランスのIRAM NOEMA観測所、グリーンランド望遠鏡、キットピーク望遠鏡の参加により、感度がさらに向上する予定です。

7)アルマ望遠鏡は、欧州南天天文台、アメリカ国立科学財団、日本の自然科学研究機構が、カナダ国立研究機関、台湾科学技術省、中央研究院天文及天文物理学研究所、韓国天文宇宙科学研究院とチリ共和国の協力で運用しています。APEXは欧州南天天文台が運用しています。IRAM 30m望遠鏡は、ドイツ?マックスプランク協会とフランス国立科学研究センター、スペイン国立地理研究所が共同で運用しています。ジェームズ?クラーク?マクスウェル望遠鏡は東アジア天文台が運用しています。アルフォンソ?セラノ大型ミリ波望遠鏡はメキシコINAOEとマサチューセッツ大学が運用しています。サブミリ波干渉計は、スミソニアン天文台と台湾中央研究院天文及天文物理学研究所が共同で運用しています。サブミリ波望遠鏡は、アリゾナ電波天文台が運用しています。南極点望遠鏡はシカゴ大学が運用しており、イベント?ホライズン?テレスコープのための装置はアリゾナ大学から提供されました。
惭87は北天にあるため南极点望远镜から観测することはできませんが、データを较正するための参照天体の観测に参加しました。

この研究成果は、以下の6本の论文として、米国の天文学専门誌『アストロフィジカル?ジャーナル?レターズ』特别号に2019年4月10日付で掲载されました。

  • First M87 Event Horizon Telescope Results I: The Shadow of the Supermassive Black Hole
    (DOI: )
  • First M87 Event Horizon Telescope Results II: Array and Instrumentation
    (DOI: )
  • First M87 Event Horizon Telescope Results III: Data Processing and Calibration
    (DOI: )
  • First M87 Event Horizon Telescope Results IV: Imaging the Central Supermassive Black Hole
    (DOI: )
  • First M87 Event Horizon Telescope Results V: Physical Origin of the Asymmetric Ring
    (DOI: )
  • First M87 Event Horizon Telescope Results VI: The Shadow and Mass of the Central Black Hole
    (DOI: )

この研究は、文部科学省/日本学術振興会科学研究費補助金(No. 18K13594, 18K03656, 18H01245, 18H03721, 18KK0090, 25120007, 25120008)、大学共同利用機関法人自然科学研究機構「ネットワーク型研究加速事業」、文部科学省ポスト「京」重点課題9「宇宙の基本法則と進化の解明」および計算基礎科学連携拠点(JICFuS)、東レ科学振興会東レ科学技術研究助成、住友財団基礎科学研究助成(170201)他、国際的な支援を受けて行われたものです。

【お问い合わせ先】

広岛大学宇宙科学センター

特任助教 笹田 真人

罢贰尝:082-424-6278 

E-mail:sasadam*hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)

国立天文台 アルマプロジェクト

教育広報主任/助教 平松 正顕

罢贰尝:0422-34-3630 

E-mail:hiramatsu.masaaki*nao.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)


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