条件不利地域にエネルギーを -研究室の外で見えること-
取材日:2018年12月25日
工学研究科博士课程后期3年の銭谷宙さんにお话を伺いました。銭谷さんは学部の时より広岛大学の学生として在籍されており、研究のみならず「たおやかプログラム※1」や「未来博士3分间コンペティション※2」などでも活跃されました。卒业后はオフィス机器メーカー株式会社リコーに就职される予定です。今回は、そんな銭谷さんに研究や进路选択など様々なお话を伺ってきました。
【博士课程后期での主な活动内容】
2014年 広島大学 大学院先端物質科学研究科博士課程前期 入学
大学院リーディングプログラム「たおやかプログラム」に参加
2016年 広島大学 大学院工学研究科博士課程後期 入学
2017年 「未来博士3分间コンペティション2017」において闯厂奥日本製钢所赏を受赏
2019年 博士课程后期修了予定摆1闭
2019年4月~ 株式会社リコ―に技术职として勤务予定摆1闭
摆1闭経歴や予定はすべて取材当时のものです。
研究について
现在の研究内容について教えてください
僕は、半导体デバイスモデリングについて研究を行っています。名前を闻くとピンとこない方も多いかと思いますが、実は皆さんが日常で使っている电子机器のほぼ全てに半导体デバイスが使われています。また电力系统や自动车等にはパワーエレクトロニクスと呼ばれる比较的大きな电圧で用いられる半导体デバイスもあります。それらのデバイスを用いた回路を设计する际に用いられるのがデバイスモデルであり、シミュレーションによって回路动作の予测?再现を可能にします。シミュレーションには回路试作にかかるコストや时间を大幅に削减するという大きな役割があり、デバイスの特性を正确に再现できるものが求められます。学部までは、シリコンを主材料とする半导体デバイスを中心に研究していました。博士课程前期及び后期では、新材料として注目されている有机半导体を用いたデバイスを题材とし、正确さを実现するために、半导体デバイス物理と有机化学に基づいたモデルの构筑を目指しました。
有机半导体を用いた製品では、今までのシリコン材料ではできなかったような斩新な製品を作ることができます。薄いフィルムやプラスチック基板にデバイスを形成することでフレキシブル性を付与したり、印刷技术を応用することにより安価で高速に生产することが可能になります。そんな有机半导体の特徴を活かした製品の一つに、有机太阳电池があります。これは、现在主流となっている家や建物の屋根に设置するタイプものとは异なります。エネルギー変换効率が比较的低いことや耐久性が十分ではないという课题もありますが、それを埋め合わせしうる利点もあります。薄くて軽量で柔软性のあるシート状の太阳电池が作成できるため、巻き取って持ち运ぶことも可能ですし、何枚も使えば窓ガラスに贴り付けたり、ブラインドに応用したりと様々な用途に使えると言われています。まだまだ発展途上の技术ですので、市场にはあまり出回っていませんが、今后の开発と普及に僕自身も期待しています。
现在行っている研究は、学部のころから継続して行っているものなのでしょうか
博士课程前期の时から続けています。ただ、学部のときにはシリコンについての研究をしていました。学部を卒业した后、博士课程前期の研究内容として有机半导体を选びました。その研究を続け、现在では有机半导体についての理解も深まり、実际にデバイスや回路の试作も行いました。その顷は有机半导体に関する知识が少なかったため、まずは无机半导体(シリコン)と有机半导体の违いについて正确に理解することから始めました。そこが修士论文を书く上での一番のチャレンジでもあり重要な部分だったと思います。
取材时の様子
进路について
銭谷さんの进路についてお聞きします。学部を卒業された後に就職などは考えなかったのでしょうか
もともと修士の学位は取ろうと思っていました。なので、学部4年生では就职活动はしませんでした。
博士课程后期への进学を决めたのはいつ顷でしたか
博士课程前期に进む际に、大学院リーディングプログラム「たおやかプログラム」に参加しました。これは5年一贯のプログラムで、その期间で博士课程前期?后期を修了することが原则でした。そのため、博士课程前期に进んだ时点で博士课程后期に进むことはほとんど决めていました。当时、たおやかプログラムの先生には「博士课程前期を修了した二年目でやめてもいい」と言われていました。しかし、やっていたことを途中で终わらせてしまうような感覚があったこと、博士课程前期在籍中に就职活动をする时间がなかったこと、その后行うチームプロジェクトのメンバーが先に决まっていたことなどの理由があったため最后まで続けることを决めました。
学部から大学院に进学したことで、学生生活において変化した点はありましたか
僕の场合は、博士课程前期へ进学すると同时に、たおやかプログラムに参加したということもあり、それまでの学生生活から大きく変わりました。まず、国际色がすごく强まったということが挙げられます。英语を使って留学生と交流する机会が多くなったことから、「グローバルになったな」という意识の変化はかなりありました。はじめて受讲した、たおやかプログラムの授业が全部英语だった时に、「どうしよう」と悩んだことは今でも覚えています。しかし、一度そういった飞び込んでしまえば自然と驯染んでいきました。最初は本当にやっていけるのかという不安もありましたが、周りの人たちに助けてもらえたことで続けることが出来たのだと思います。そういった点で僕は恵まれていたのだと思います。
就职先として、研究职ではなく、より现场に近い环境を选んだきっかけは、たおやかプログラムへの参加だったのでしょうか
そうだと思います。もちろん研究职にも楽しい部分はありますし、どのような职种についても、大変なことはあると思います。けれども、たおやかプログラムに参加して、実际にフィールドワークなどを行ったことが进路选択に大きな影响を与えたと感じています。特に、実际にフィールドに出て、その製品を使う人たちの意见を直接闻き、製品开発?设计に反映させるということは非常に効率的ですし、现场のニーズに応えられる技术者はこれからの时代に必要だと思います。そういったことが実践できる环境に喜びややりがいを感じながら仕事ができれば良いなと思います。
就职活动について
就职活动において、どのような场面で「博士の强み」を感じましたか
博士の强みを感じたのは、エントリーシートを书く段阶からでした。それは学部や修士の学生よりも豊富な研究内容や、国际学会での研究発表、インターンシップの経験など、エントリーシートを书く际に収まりきらないほどの内容があるからでした。やはり、学部?修士の学生よりも3词5年多く研究活动を行っているので、それら経験の豊富さが博士の强みであることは间违いないです。
それから、僕の场合は、たおやかプログラムに参加していたのも强みになったと感じました。公司の方はそれらのプログラムの名前を闻くだけではわかっていただけない场合が多かったですが、内容を説明すればするほど公司侧に兴味を持っていただけましたし,それ相応のことをやってきたのだと夸りに思えました。
就职活动をとおして、ご自身が一番大切にされていたことは何ですか
一番は职种を选ぶ段阶で、自分の长所と兴味?関心事を自分自身に问いかけ続けることでした。僕の场合、まず始めに悩んだのが、研究职に进むのか、それ以外の道に进むのか、ということでした。当然、博士课程での研究経験は自分の売りでもありましたが、単纯な「人当たりの良さ」も评価していただいたこともありました。たおやかプログラムでの経験から自分の兴味?関心はお客様がいる现场の方に引かれていたので、お客様と近い関係を保つことのできる职种を选ぶことに决めました。しかしこれは、博士课程での専门知识や研究経験を手放すという意味ではありません。研究以外のことに携わるのは、复合领域的な思考力やビジネス的感覚を养うことにも繋がりますし、専门知识と组み合わせた新たな製品やサービスの発案にも繋がりうると信じています。
たおやかプログラムについて
事前质问で「もともと国际协力に兴味があった」と伺いましたが、どのようなきっかけで兴味をもたれたのでしょうか。
きっかけは、小さい顷にアフリカに井戸をつくるというテレビ番组をみて感动したことでした。その番组では、日本人が実际に现地に赴いて井戸づくりを行っていました。日本人がアフリカの条件不利地域で现地の人たちに技术を伝えて、一绪に井戸を作っているのを见て、小さいながら感动して泣いていたみたいです。また、僕の叔母が英语の先生をやっていたこともあり、小さい顷から英语を教えてもらっていました。そのため、小さい顷から将来は海外で活跃できる职种がいいなとぼんやり思っていました。
たおやかプログラムに参加された理由を教えてください
学部4年生の时、当时の指导教员にたおやかプログラムのことを绍介していただき、第一回たおやかセミナーに参加しました。そこでは、东芝インド社の方が讲话をされており、その内容は、インドの无电化地域に住む人の生活に役立つ太阳电池製品设计したり、ソーラーマイクログリッドを使って村の电化を进めるというものでした。この取り组みにとても感铭を受けたこと、国际协力に兴味があったことが参加の主な理由でした。
たおやかプログラムでは具体的にどのようなことをされたのでしょうか
たおやかプログラムのオンサイトチームプロジェクトとして僕が行ったのは、インドの内陆部にある无电化地域での太阳电池製品に関する调査でした。インドでは、国の政策レベルで太阳电池の普及に力を入れています。そのため、现地の人でも太阳电池についてはある程度知っていたということもあり、调査を行うための条件がいくつか整っていました。
现地の行政机関の方々と协力し、无电化村の人たちに太阳电池製品のニーズ调査を行いました。その时点では调査だけしかできず、実际の製品を提供できないことに少し罪悪感もありました。けれども、このプロジェクトを通じて自分たちがやっていることが役に立つのだという现実味が増しましたし、一绪に调査を行った行政机関の方々にも有用な情报を集められたと嬉しい言叶を貰いました。
実际にたおやかプログラムに参加されて、特に苦労されたことはありますか
最初の一年目は语学に苦労しました。入る前には「英语はそれなりにできるだろう」と思っていたのですが、参加してみると授业や意见の発言、レポートなどすべて英语だったため、とても苦労しました。そのような环境の中、顽张れたのは周りからのサポートがあったからだと思っています。そのためには、自分の努力を理解してもらうということが大切です。积极的に话しかけたり、発表をしたり、とにかく「今は英语はうまく喋れないけど、本当に话せるようになりたい」という姿势を评価してもらえたのだと思います。语学以外で苦労したことは、様々なバックグラウンドの方が一绪になって一つのことに取り组むということです。他の分野の人との交流で、自分の研究をそのまま伝えても、简単にはわかってもらえません。それを克服するために、実际に身近に使われているもので自分の研究を説明したり、将来的なアプリケーションを话したりしていました。このプログラムを通して、异分野の人と交流するためにはどうすればよいのかということを学ばせてもらいました。
たおやかオンサイトプロジェクトワークショップの様子
未来博士3分间コンペティションについて
銭谷さんは2017年の3分间コンペティションで、公司赏を受赏されています。実际にスピーチを行う上で、工夫された点はありますか
难しい言叶は使わないように心がけていました。他分野の方は、「有机半导体」と言った时点で、「え、なに?」となってしまことがありますので。けれども、「太阳电池」と言うと、多くの方にわかってもらえます。実际にどんなところで使えるよ、という例を一つでも挙げると、専门の方以外にも认识してもらえるようになります。太阳电池って闻いた时点であれかなって思ってもらって、「皆さんが思うような、屋根の上に置くものもありますが」というような绍介の仕方もしていました。
3分间话すのは结构大変だと思うのですが、実际に话すと长く感じられるものですか
実际のスピーチは短く感じました。当然、自分で3分のスピーチを覚えるとなると、覚えているときは「まだあるんかい」ってなりますけど。実际に原稿を作ると书きたいことがたくさんあって、それを3分间にまとめるのはかなり工夫が必要でした。最初に原稿を作った段阶では、全体で4分半くらいの文量がありました。そこから本当に伝えたい部分をの残すように文量を削ることによって、一番重要なところだけが残ったスピーチになったと思います。
未来博士3分间コンペティション発表时の様子
学生へのメッセージ
学生の方々に向けたメッセージをお愿いします
まず、これは学生のみならず卒业生の方に対してもそうなのですが、「広岛大学ってこんなにすごいですよ」って自信をもってアピールしてほしいですね。その理由は、広岛大学が本当に様々な取り组みをしているのにもかかわらず、大学内外の人にあまり知られてないと感じたからです。広岛大学にはリーディングプログラムを含めた様々な教育プログラムや世界的にも有名な先生とその研究室があります。そのような环境で学んでいる広岛大学の学生のポテンシャルは非常に高いと思います。なので、学生には、もっと広岛大学の学生であるという自信を持ってほしいです。
あとは、修士?博士の学生に対してですが、もっと英语の勉强を顽张ってほしいです。広岛大学には多くの留学生がいます。もし僕がプログラムに入っていなかったら、英语を话すことも少なかっただろうし、就职先としてグローバル色の强い职种を选ぶこともなかったと思います。そのため、日本人の学生は広岛大学の环境を最大限に活かし、积极的に留学生と交流を持ち、いろいろな选択の幅を広げるようにしてもらいたいと思います。
幅を持つというのは何も英语を话すことに限ったことではありません。僕は工学系で先端研にいました。理工融合で作られた先端研ですが、工学系の学生が理学系の学生と交流することはまずなかったです。しかし、実はお互いにとても近しいところがたくさんあります。僕は工学系でデバイス物理という分野ですが、デバイス材料にはたくさんの化学分野の知识が詰まっていました。ずっと自分の分野に闭じこもっていると、なかなか知识が広がらないとも感じました。その殻をやぶっていろいろな分野の人との交流をもっと広げれば互いの研究により良い影响を与えてくれるはずです。
最后に、これから进路选択をしていく学生の方たちへメッセージをお愿いします。
「自分のやりたいことは何か」ということを、自分自身に问いかけてほしいですね。研究职に进まなかった僕自身も、その时やっていたことを今后も一生やり続けられるかということを问いかけ続けていました。流れで进路を选択してしまう人も少なからずいるとは思いますが、自分なりの答えをもって进路选択を行ってほしいです。
※1を参照
※2博士课程后期学生が自身の研究のビジョンと魅力について、スライド1枚を背景にし、3分间で谁もが分かるように语るスピーチ大会
取材者感想
自身の研究のみならず、様々な活动に积极的に参加される銭谷さんから强いバイタリティーを感じました。特に、広岛大学で国境の枠を超え、条件不利地域に住む人々のために贡献しようとする姿は、グローバル化が进む现代において非常に重要なことであると感じました。今后も、様々な场面でのご活跃を応援しております。
取材担当:国际协力研究科博士课程前期2年 永田贵一