麻豆AV

第36回山下一郎教授

バイオのつぶやき第36回山下一郎教授

 数学の分野では、100年以上前から証明を待つ難問がいくつか知られているそうです。例えば、「ポアンカレ予想」など素人にはその予想の意味すら全く理解できないものですが、先年、ロシアの数学者グリゴリー?ペレルマンによって証明されたそうです。ポアンカレのような天才といわれる数学者はまず数式を思いつき、こんなに美しい数式が真理でないはずはないと考えるのだそうです。そして、後年、その数式は証明されて定理になるというわけです。生物学の場合、多くは新たに開発された解析装置によって革新的な発見がなされ、新たな生物観が誕生するとともに医療、産業に大いに貢献してきたといえるでしょう。例えば、 1950年代から多くの分野で活用された電子顕微鏡による細胞内小器官(ミトコンドリア、葉緑体、ゴルジ体など)の詳細な観察が、その後、それらの小器官にタンパクが選択的に輸送される経路や細胞外に分泌される経路の発見につながり、選択輸送されるタンパクに付くタグ(シグナル)配列の発見、そしてオートファジー経路につながっていったわけです。Randy Schekmanによる分泌関連遺伝子(sec)と大隅良典によるオートファジー関连遗伝子(apg)の解明は酵母を用いて行われたのですが、言うまでもなく、 Leland H. HartwellやPaul Nurseによる細胞分裂周期の研究とともに近年の細胞生物学における酵母遺伝学の輝かしい業績と言われています。

 これらの革新的研究はひとえに研究者の独创的な才能がなせる业であるわけですが、一方では、ポアンカレ予想の証明は最新の数学理论などではなく古典的な热力学の素养があったペレルマンだからこそ到达できたと言われています。同様に、细胞生物学においても先人达が作り上げた古典的解析法を駆使しながらも、独自の研究分野を展开してきたことが画期的业绩に结び付いたことは上述のごとくです。

 生物学にも世代を超えて受け継がれてきた研究课题がいくつかあります。例えば、动物は生长点が体の内侧にあるため外侧に向かって大きくなりますが、植物は反対に生长点が体の外侧にあり细胞を内侧に供给しながら成长します。真核単细胞生物が诞生したのち、植物は光合成细菌と共生することで动物系列と分岐して进化したと言われていますが、多细胞生物が生まれたとき、なぜ生长点が动物と异なる道を选んだのでしょうか?动物は生长点を体の内侧に持つことで常に“癌”のリスクに曝されていますが、植物は癌化した部位を体から切り离すことで树齢数千年の大木になることも可能なのかもしれません。もう一つ挙げれば、大きさ(厂肠补濒颈苍驳)の问题です。もちろん、クジラはヒトに比べて千倍以上の细胞数で出来ていますから、受精卵から成体になるまでの间に细胞分裂回数が人に比べて10回程度(210=1024)多いわけですが、体の大きさは脳の大きさや寿命に比例することが知られていますし、単细胞生物における细胞分裂の研究领域を超えた问题のようです。また、细胞の大きさも千差万别で种や组织によって100倍程度の差があります。特に、染色体の顿狈础量に比例して细胞が大きくなるのは、细菌から动物?植物に至るまで普遍的な现象であることが知られています。これらの课题は、多くの遗伝子群がお互いに调节し合う大きなシステムとして捉えることが必要なのかもしれません。

 私もそうでしたが、若いうちはすぐそこにある成果を手に入れたくて、むやみに最新の研究分野に飞び込み、大変な努力をしながらも后尘を拝することが多いのかもしれません。黙想して开眼すれば面白い研究対象?课题がいくつも転がっているのかもしれませんが、それに気づかないのが凡人の所以なのでしょう。

 

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