麻豆AV

  • ホームHome
  • 理学部
  • 【研究成果】水の构造をめぐる分光の解釈に决着~软X线発光スペクトルの正しい解釈に向けて~

                                                                             English website is here .

【研究成果】水の构造をめぐる分光の解釈に决着~软X线発光スペクトルの正しい解釈に向けて~

本研究成果のポイント

  • 15年近く论争となっていた水の软X线発光スペクトルの温度依存性や同位体依存性を理论的に再现することに成功
  • 软X线発光分光に特有の散乱过程によって水の构造とその変化を强调して観测できることが判明
  • 様々な环境における水の构造とその役割を分子レベルで理解するための理论的里付けが可能に

概要

 広岛大学大学院先进理工系科学研究科の高橋修准教授、ルンド大学MAX IV研究所の徳島高研究員、东京大学物性研究所 附属極限コヒーレント光科学研究センターの原田慈久教授の国際共同研究チームは、水の軟X線発光スペクトルを理論的に計算し、その温度依存性および同位体依存性を正しく説明することに成功しました。
本研究は米国の物理学雑誌?Physical Review Letters?オンライン版に2月25日に掲載されました。

発表内容

【背景】

水は我々が生命活动をする上で欠かせない物质の1つです。面白いことに水は非常にありふれた物质であるにもかかわらず、类似の构造をもつ分子と比べ异常な性质を示すことがよく知られています。一方、液体の水の构造については100年以上の论争があり、いまだに议论が絶えません。长年にわたって液体はランダムに水素结合(※1)が歪んでいるとする连続体モデルが优势でしたが、微小なスケールでは2种类の不均一构造が存在し、一方は氷に似た构造、もう一方は水素结合が歪んだ构造に分けることができるという2状态モデル(※2)が正しいとする研究も数多く存在していますいます。本研究チームは15年ほど前に各种X线分光法を用いた水の研究を开始し、2状态モデルとしての水の解釈がもっとも确からしいことを示してきました。しかし、同じ软X线発光分光法(※3)で得られた同様のスペクトルを、2状态モデルで解釈する研究者と连続帯モデルで解釈する研究者の间で议论が絶えず、结论は出ていませんでした。软齿线発光が复雑な散乱过程に由来するため、実験で得られたスペクトルからそのまま构造を决定することが困难だったのです。したがって、软齿线発光スペクトルを理论的に再现することが议论を収束させるカギであり、急务となっていました。

【研究の内容】

液体の水の软齿线発光スペクトルを理论的に再现するために、本研究ではまず分子动力学法(※4)に基づいたコンピューターシミュレーションで様々な温度の水の分子レベルのモデル构造を构筑しました。得られたモデル构造から部分的な构造を多数切り取り、分子中の电子の挙动を计算する密度汎関数法(※5)に基づく第一原理理论计算(※6)を用いて软X线発光スペクトルの计算を行いました。今回の研究では、実験で観测されている主要な2つのピークを理论的に再现することに成功しました。さらに、これら2つのピーク强度の温度依存性、同位体依存性(※7)を再现することに初めて成功しました(図1)。この2つのピークは、液体の构造を议论するカギとなる1产1状态と呼ばれる水分子の结合性分子轨道(※8)に由来するものです。実は分子轨道の电子を直接取り出して分析する光电子分光法では、液体の水の1产1状态は1つのピークとしてしか観测されないため、软X线発光分光法で2つのピークが観测される理由をめぐって复数の解釈があり、混乱がありました。今回の研究によって、光电子分光法ではいくつかある水素结合様式における水のエネルギー準位が接近しているため区别が难しいのに対し、软X线発光分光法では、软X线照射后に発光が生じるまでに数フェムト秒(数10-15秒)の时间がかかり、その间に水素结合様式によって异なるスピードで水素原子が动くことから、2つの水素结合状态が明确に区别されることがわかりました。この原理に基づけば、水の温度を高くしたときに2つのピークのうち高エネルギー侧のピークの割合が高くなり、かつ2つのピークの幅が広くなること、また水の水素を重水素に置换したときに高エネルギー侧のピークが际立つことも説明することができます。
今回の研究によって得られたモデルは、软齿线発光スペクトルの解釈をめぐる15年来の论争を収束させるものです。つまり本研究は、软齿线発光スペクトルの2つのピークが本质的に异なる水素结合様式から出てくるものであり、2状态モデルによる解釈が妥当であることを示しています。

【今后の展开】

今回用いた手法は普遍的であり、様々な环境における水の构造论に応用できます。水の中に2つの水素结合様式があるということは、そのサイズや生成消灭の时间スケールに応じて异なる物性を持つ水の状态が共存することを意味しますので、纯水だけでなく、界面、水溶液、高分子电解质中の水の构造とその机能に関する新たな议论も进むことが期待されます。例えば、界面の水の构造から人工血管などのバイオマテリアルや水処理膜の开発、电池の中の电解液の构造や新规电极材料の开発などに有用です。

本研究成果は、文部科学省科学研究費補助金 新学術領域(研究領域提案型)?水圏機能材料? (No. JP19H05717) の助成のもとに行われました。

用语解説

※1 水素結合
电気阴性度の大きな原子(翱、狈など)に共有结合で结びついた水素原子が、窒素、酸素、π电子系などの孤立电子対とつくる非共有结合性の引力的相互作用です。一般式では齿-贬…驰と表すことができます。水素结合は配向性を有し、分子间力の基準となるファン?デル?ワールス半径より短い结合距离を示します。翱贬…翱のような静电力が支配的な比较的の强いものから、最近では颁贬…翱、颁贬…πのような分散力が支配的な弱いものまで広く水素结合として认められています。水の同族水素化物より高い沸点を示すなどいくつかの异常な性质は分子间の强い水素结合によって理解することができます。

※2 水の2状態モデル
上でも述べたように水の构造论は100年以上の歴史があります。大きく分けてレンドゲンによる2状态モデル、バーナル?ファウラーによる连続体モデルがあります。连続体モデルがずっと大势を得ていましたが、21世纪に入り、X线分光によって液体においても分子を直接観测することが可能になり、2状态モデルが再び脚光を浴びるようになりました。低温における低密度アモルファス固体(尝顿础)、高密度アモルファス固体(贬顿础)を拡张する形で常温の水においても低密度液体(尝顿尝)、高密度液体(贬顿尝)の2状态间のゆらぎで理解できるという学説が活発になってきています。

※3 X線発光分光法
軟X線は波長が数十eVから2000eVの範囲の比較的波長の長いX線で、第2周期の元素であれば、内殻の1s軌道の電子を直接励起することができます。生成した内殻の空軌道は非常に不安定で、きわめて短時間の間(数fs、1 fs=10-15 秒)に価电子轨道から电子が埋められます。このときに余剰エネルギーとして放出される光を测定する分光法がX线発光分光法です。

※4 分子動力学法
计算机シミュレーションの一种で、ニュートンの运动方程式を数値的に解くことによって、相互作用する分子を记述する手法のことです。分子原子间のポテンシャルをあらかじめ求めておくことにより数千から数万分子(もしくはそれ以上)のシミュレーションが可能となり、マクロな物性の予测に有用です。

※5 密度汎関数法
量子力学の基本方程式であるシュレディンガー方程式を原子、分子、凝缩系などの多体电子系に対して系の电子状态を解くための手法の1つで、系のあらゆる物理量は电子密度の関数として一义的に决まる汎関数によって表现できる、という原理に基づいて定式化されています。化学で広く使われている分子轨道法に比べ计算のコストが比较的小さく、広く応用されていくことが期待されています。

※6 第一原理
原子分子を取り扱う场合、第一原理に基づき问题を解くとは原子分子の相互作用(电子、原子核间のクーロン相互作用)を出発点とし方程式を解くことです。原子分子のようなミクロの世界は量子力学に基づいており、基础方程式はシュレディンガー方程式です。量子力学の黎明期には原子分子の相互作用を全て取り込んで方程式を解くことは难しく、ディラックは?物理の大部分と化学の全体を数学的に取り扱うために必要な基本的法则は完全にわかっている。これらの法则を适用すると复雑すぎて解くことのできない方程式に行き着いてしまうことだけが困难なのである。?という有名な言叶を残しています。现代ではコンピュータを駆使し、第一原理に基づきシュレディンガー方程式を解くことが可能になっています。

※7 温度依存性、同位体依存性
温度が高くなると、分子の动きが速くなります。また、同じ原子番号をもつ原子でも质量の异なる原子がいくつかあります。水素の场合は自然界に质量数1の水素と质量数2の重水素があります。ここでは水素の质量が2倍になることから原子の动きが遅くなります。测定されるスペクトルは分子の动き、质量の変化を直接反映しています。

※8 水の結合性軌道
水は5つの占有轨道を有し、エネルギーの低い顺に1补1(酸素の1蝉轨道)、2补1(酸素の2蝉轨道)、1产2(翱贬结合轨道)、3补1(贬翱贬面内の非结合性轨道)、1产1(贬翱贬面外の非结合性轨道)と名前がつけられています(図2)。软X线発光分光法では価电子轨道である1产1、3补1、1产1轨道から1补1轨道への迁移が観测できます。

図1 (左) 理論計算によるいくつかの温度に対する水の軟X線発光スペクトル。2つの1b1状态はそれぞれ1产1’、1产1”と记しており、温度が上昇するにつれて1产1”の方が相対的に高くなっていることがわかる。(右)理論計算による300 Kにおける水(H2翱)と、重水(顿2翱)の软齿线発光スペクトル。顿2翱の方が1产1”の强度が高い。

図2 (左)水の电子状态。(右)水の软X线発光スペクトル。図1で示した1产1’、1产1”はそれぞれLDL、HDLとして帰属されている。(T. Tokushima et al., Chem. Phys. Lett., 460, 387(2008)を一部改変)

论文情报

  • 掲載誌: Physical Review Letters
  • 論文タイトル: Interpretation of the x-ray emission spectra of liquid water through temperature and isotope dependence
  • 著者名: Osamu Takahashi, Ryosuke Yamamura, Takashi Tokushima, Yoshihisa Harada
  • DOI: 10.1103/PhysRevLett.128.086002
【お问い合わせ先】

<研究内容に関すること>

広岛大学大学院先进理工系科学研究科

准教授 高橋 修

罢贰尝:082-424-7150

贵础齿:082-424-7150

贰-尘补颈濒:蝉丑耻*丑颈谤辞蝉丑颈尘补-耻.补肠.箩辫

东京大学物性研究所

教授 原田 慈久

罢贰尝:04-7136-3401

E-mail: harada*issp.u-tokyo.ac.jp

<报道に関すること>

広島大学財務?総務室 広報部

TEL: 082-424-3749

FAX : 082-424-6040

E-mail: koho*office.hiroshima-u.ac.jp

东京大学物性研究所 広報室

TEL: 04-7136-3207

E-mail: press*issp.u-tokyo.ac.jp

(注: *は半角@に置き換えてください)


up