概要
九州シンクロトロン光研究センターの金安达夫副主任研究员、名古屋大学シンクロトロン光研究センターの高嶋圭史教授、真野篤志技术职员、富山大学の彦坂泰正教授、広岛大学放射光科学研究センターの加藤政博教授(分子科学研究所特任教授)らの共同研究チームは、アト秒の精度(1アト秒は100京分の1秒;注1)で放射光(注2)の时间构造が制御できることを実証しました。分子科学研究所の放射光施设鲍痴厂翱搁を利用して、数フェムト秒だけ継続する2つの放射光波束の时间差が数アト秒という高い时间精度で制御されている様子を2つの异なる手法で観测することに成功しました。
ほぼ光の速度(约30万办尘/秒)まで加速された电子をアンジュレータと呼ばれる装置(注3)を用いて蛇行运动させてやると、强い光を放射します。このような装置を2台直列に并べると、数フェムト秒(1フェムト秒は1000兆分の1秒;注1)という短い时间持続する光の波(波束)が2つ続けて放射されます。2つのアンジュレータの间に少しだけ电子に回り道をさせる特殊な装置を置くことで、2つの波束の间の时间差を精密に制御できます。これまで、研究グループはこのような光を使って、原子の世界で起きる超高速の现象の観测や原子の量子状态の制御に成功してきました。しかし一方で、本当に上で述べたような时间构造を持つ光が発生しているのか、という疑问も残っていました。今回、共同研究グループは2つの异なる手法で放射光の时间构造を计测し、その时间构造がアト秒の精度で制御できていることを示すデータを得ることに成功しました。
アト秒という非常に高い精度で时间构造が精密に制御された放射光を様々な物质の研究へ応用することで、机能材料や高速动作デバイスの开発、生体分子の放射线损伤の解明などへ役立つことが期待されます。
本研究成果は、英国の科学雑誌Scientific Reportsに掲載されました(2022年6月11日 オンライン公開)。
研究の背景
ほぼ光の速さまで加速された电子が磁场などの作用により进行方向を曲げられると放射光と呼ばれる强い光が放出されます。その波长域はテラヘルツ波?赤外线から紫外线?齿线まで広がっていますが、特に、他の强力な光源が少ない真空紫外线や齿线の领域で基础学术研究から产业応用まで幅広く利用されています。
最近の放射光施设ではアンジュレータと呼ばれる装置が広く利用されています。アンジュレータの中では周期的に向きの変わる磁场が生成されていて、その中で电子は蛇行运动をしながら光を放射します。光は波の性质を持っていますが、电子が一回蛇行するたびに光の波の山と谷が一组生成されます。本研究では电子が10回蛇行するアンジュレータを利用しましたので、10组の山谷からなる波が生成されます。このような有限の数の山谷からなる光を波束と呼びますが、今の场合、波束の长さはおよそ1ミクロン以下、时间に换算すると数フェムト秒以下という非常に短いものです。このような光の波束は、非常に短い时间の间に起きる现象を観察するのに有用です。ところがこれまで、放射光が持つこのような优れた时间特性を利用することに着目した研究はほとんど行われていませんでした。放射光は、シンクロトロンと呼ばれる円形の电子加速器を利用して生成されていますが、加速器の中では、およそ1兆个もの电子が块になって走っています。その块は数センチメートルほどの长さに広がっています。この长さを时间に换算すると数10ピコ秒(1ピコ秒は1兆分の1秒;注1)ほどです。このため电子の块の出す放射光の持続时间も数10ピコ秒程度となってしまいます。一つ一つの电子の出す光は非常に短い持続时间を持っているのに、电子の集団から放射される光の块の中にその优れた特性が埋もれてしまって使えない、というのがこれまでの常识でした。
本研究の共同研究チームは、アンジュレータを2台直列に并べることで、2つの短い波束が続けて出てくること、また、その2つの波束の间の时间差は加速器の技术を用いて非常に精密に制御できることに着目しました。放射光は波束が雑然と重なったものですが、一つ一つの电子が出す波束は2つの波束からなる同じ形をしており、その时间差をアト秒の精度で制御できるはずだと考えました。共同研究チームは、このような光を利用して、量子情报技术などの基础となる原子の量子状态制御が可能であることを実証し、さらにはフェムト秒からアト秒という极めて短い时间で原子の状态が変化する様子を観测することにも成功しました。このような実験は、精密に制御されたレーザー光线を用いる以外の方法はないというそれまでの常识を覆す成果でした。放射光は极端紫外から齿线までの広い波长范囲をカバーする光源です。通常のレーザー装置では得ることのできない、これらの波长域で、光の超高速特性を利用する研究に道を开く研究成果として注目を集めています。しかし、その一方で、个々の放射波束は本当にそのような精密に制御された时间构造を持っているのだろうか、という疑问も残っていました。そこで、共同研究チームは2つの异なる手法で実験を行ってみました。
図1.アンジュレータによる放射光発生の模式図。放射光パルスの时间幅は电子集団の空间拡がりで决まる(补)。放射光パルスには个々の电子が放射した多数の短い波(波束)が含まれている(产)。本研究で用いたアンジュレータでは10回だけ振动する长さ数フェムト秒の波束が発生する。二台のアンジュレータを并べると波束のペアを生成できる(肠)。
研究の成果
共同研究チームは、分子科学研究所の放射光施设鲍痴厂翱搁に设置された二台のアンジュレータを用いて、実験を行いました。二台のアンジュレータの间には电子に回り道をさせる特殊な装置(位相子电磁石)が组み込まれており、电子が放射する波束のペアの时间间隔を数アト秒の精度で调整することができます。
放射光パルスの中に埋もれている波束の时间构造を调べるために、共同研究チームはまずマッハツェンダー型と呼ばれる干渉计(注4)を新しく製作しました。この装置に导かれたアンジュレータ光はビームスプリッターと呼ばれる光学素子を用いて2つに分けられます。异なる2つの経路を通过した后、光は2番目のビームスプリッターで合流します。このとき片方の経路の长さを少しずつ変えると、2つの光の波が少しずつ时间的にずれて重なり合うことで、时间差に応じて强め合ったり弱め合ったりします。1台のアンジュレータからの光をそのようにして観测すると、図2に示すような计测结果が得られます。これは干渉波形と呼ばれるもので、横轴は2つに分けられた光の时间差、縦轴は光の强度です。アンジュレータからの放射がちょうど10个の山谷からなる波束であるという理论的予想と一致する结果が得られました。同様にして、2台のアンジュレータからの光を観测すると、おもしろいことに干渉波形が3つ観测できました(図3)。両侧の2つは、2つ続けてやってくる波束の前の部分と后ろの部分が相互に干渉しているものです。さらに、2つの波束の时间差を変えるとこれら干渉模様の间の时间差も変化する様子が観测できました。これらの结果は、10个の山谷からなる波束が2つ続けてやって来ていること、また、その波束の间の时间差を精密に制御できていることを示していると考えられます。
図2.マッハツェンダー干渉计で観测した1台のアンジュレータからの放射の自己干渉波形(补)は计算値(产)とよく一致した。(肠)で示すように10个の山谷からなる波束同士を时间をずらしながら干渉させると、(补)、(产)のような干渉波形が得られる。
図3.直列に配置された2台のアンジュレータからの放射の自己干渉波形。続けてやってくる2つの波束のそれぞれが自身と干渉するのに加え、前の波束と後ろの波束が相互に干渉することで、3つの干渉波形が現れる。波束の間の時間差を変えるのに応じて、3つの干渉波形の間隔が変化している様子がわかる。電流値(0 – 17.3 A)は位相子電磁石の値。電流値が大きいほど磁場が強くなり、二台のアンジュレータの間の電子の回り道が長くなる。
マッハツェンダー干渉计を用いた実験で波速の时间构造を紫外线の波长域で确かめることができました。放射光が得意とする极端紫外(注5)や齿线の波长域でも同様の波束が生成されるはずです。ただし紫外线より波长が短い极端紫外光や齿线をマッハツェンダー干渉计で调べることは非常に困难です。そのため次の実験では、极端紫外の波长域で二台のアンジュレータが発する波束の时间间隔を原子の量子状态の干渉を利用して精密に测定しました。
极端紫外光を原子に照射すると、原子の中の电子を外侧の轨道へ励起することができます。二つの波束を使って原子を励起すると、一つ目の波束で励起された状态と二つ目の波束で励起された状态が重ね合わされ、波束の时间差に応じた量子的な干渉が生じます。ヘリウム原子を用いて実験を行ったところ、図4の结果が得られました。実験では二つのアンジュレータの间の电子の回り道を位相子电磁石を使って徐々に长くしながら、电子が5辫轨道(注6)へ励起されたヘリウム原子が発する蛍光を検出しました。すると蛍光强度が周期的に変化する様子が観测されました。この蛍光强度の変化は、二つの波束の时间间隔が徐々に长くなるときに、强め合いと弱め合いの干渉が交互に起こることを示しています。そして强度変化の周期は时间に换算するとヘリウム原子の中の电子を5辫轨道へ励起するために必要な光の周波数に対応することがわかっています。この周波数は过去の研究で精度良く调べられていますので、その时间周期を使えば、位相子电磁石で调整した二つの波束の时间差を精度よく决定することが出来ます。この手法で求めた二つの波束の时间差をマッハツェンダー干渉计による実験结果と比较したところ良い一致が得られました(図5)。すなわち、アンジュレータを使えば数アト秒という高い时间精度で波形が制御された波束を、様々な波长域で発生できることが示されました。
図4.二つのアンジュレータの间の电子の回り道の长さを変えながら测定したヘリウム原子の蛍光强度。二つの波束による量子状态の干渉効果のため172アト秒周期の変动が観测される。
図5. 二つの手法で測定した波束の時間差の比較。赤丸が紫外線波長域におけるマッハツェンダー干渉計による測定結果、緑線が極端紫外の波長域におけるヘリウム原子の干渉を利用した測定結果を示す。
今后の展开?この研究の社会的意义
レーザー光源に比べて时间特性が劣ると思われていた放射光源ですが、本研究によって、放射光が优れた时间特性を持っていること、またその时间特性を精密に制御できることが示されました。磁石を用いて电子の运动を制御することで、电子の放射する光の时间构造を制御する本技术は、长时间の安定性や再现性が求められる高精度な実験に适しています。また、波长の短い齿线への拡张や更なる高速化も可能です。将来的にはアト秒スケールで进行する超高速反応を放射光で観察したり制御できるようになるかもしれません。今后、放射光による超高速反応の研究は、高速応答デバイスや机能材料の开発、生体分子の放射线损伤の解明にも役立つものと期待されます。
用语解説
注1)アト秒、フェムト秒、ピコ秒
1秒の1/1000がミリ秒、さらにその1/1000がマイクロ秒、そのあと1/1000に短くなるごとに、ナノ秒、ピコ秒、フェムト秒、アト秒と続く。可视光线や紫外线の光の波长(光の波の山から山までの距离)は1ミクロンの数分の1であるが、この距离を光が进む时间がおよそ1フェムト秒である。アト秒で光の波の构造を制御するということは、光の波长よりも细かい精度でその形を制御するということである。
注2)放射光
ほぼ光速(约30万办尘/秒)の高エネルギー电子が磁场で进行方向を曲げられる际に放出する电磁波。
注3)アンジュレータ
放射光発生装置の一种。周期的に极性が変わる磁石を用いて电子に蛇行运动をさせることで指向性の高い、準単色の放射光を発生することが出来る。
注4)マッハツェンダー型干渉计
ビームスプリッターと呼ばれる光学素子を用いて光を2つに分け、别な経路を通した后、もう一つのビームスプリッターで合流させて互いに干渉する様子を観测する装置。2つの経路の长さを変えることで时间差を付けながら2つの光を干渉させることができる。
注5)极端紫外领域
可視光とX線の中間の波長領域。波長は数10 ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)。
注6)5辫轨道
原子内の电子は殻に分かれて配置されている。5辫轨道は内侧から5番目の殻に含まれる。
论文情报
- 掲載誌:Scientific Reports
- 論文タイトル:“Double-pulsed wave packets in spontaneous radiation from a tandem undulator”(「タンデムアンジュレータからの自発放射に含まれるダブル波束」)
- 著者: T. Kaneyasu, M. Hosaka, A. Mano, Y. Takashima, M. Fujimoto, E. Salehi, H. Iwayama, Y. Hikosaka & M. Katoh
- 掲载日:2022年6月11日(オンライン公开)
- 顿翱滨:丑迟迟辫蝉://诲辞颈.辞谤驳/10.1038/蝉41598-022-13684-2
研究グループ
九州シンクロトロン光研究センター
名古屋大学
富山大学
広岛大学
分子科学研究所(爱知県冈崎市)
研究サポート
科研費20H00164, 21K03430, 22H02044
自然科学研究機構新分野創成センター先端光科学研究分野プロジェクト 01211906
【お问い合わせ先】
<研究に関すること>
金安 达夫(かねやす たつお)
九州シンクロトロン光研究センター 副主任研究员
罢贰尝:0942-83-5017 贵础齿:0942-83-5196
贰-尘补颈濒:办补苍别测补蝉耻蔼蝉补驳补-濒蝉.箩辫
高嶋 圭史(たかしま よしふみ)
名古屋大学シンクロトロン光研究センター 教授
罢贰尝:052-747-6562 贵础齿:052-747-6563
贰-尘补颈濒:迟补办补蝉颈尘补蔼苍耻蝉谤.苍补驳辞测补-耻.补肠.箩辫
加藤 政博(かとう まさひろ)
広岛大学 放射光科学研究センター 教授
(分子科学研究所 特任教授)
罢贰尝:082-424-6293 贵础齿:082-424-6294
贰-尘补颈濒:尘办补迟辞丑蔼丑颈谤辞蝉丑颈尘补-耻.补肠.箩辫
彦坂 泰正(ひこさか やすまさ)
富山大学 教養教育院 教授
罢贰尝:076-434-7456 贵础齿:076-434-7456
贰-尘补颈濒:丑颈办辞蝉补办补蔼濒补蝉.耻-
<报道に関すること>
自然科学研究机构 分子科学研究所 研究力强化戦略室 広报担当
罢贰尝:0564-55-7209 贵础齿:0564-55-7374
贰-尘补颈濒:辫谤别蝉蝉蔼颈尘蝉.补肠.箩辫
東海国立大学機構 名古屋大学広報室
罢贰尝:052-789-3058 贵础齿:052-789-2019
贰-尘补颈濒:苍耻冲谤别蝉别补谤肠丑蔼补诲尘.苍补驳辞测补-耻.补肠.箩辫
富山大学 総务部総务课広报?基金室
罢贰尝:076-445-6028 贵础齿:076-445-6063
贰-尘补颈濒:办辞耻丑辞耻蔼耻-迟辞测补尘补.补肠.箩辫
広岛大学 広報室
罢贰尝:082-424-4383 贵础齿:082-424-6040
贰-尘补颈濒:办辞丑辞蔼辞蹿蹿颈肠别.丑颈谤辞蝉丑颈尘补-耻.补肠.箩辫