放射光科学研究センター 准教授 沢田正博
罢别濒:082-424-6293 贵础齿:082-424-6294
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(注: *は半角@に置き換えてください)
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広島大学大学院理学研究科のHou Xueyao (博士課程後期3年)と広島大学放射光科学研究センターの沢田正博准教授を中心とするグループは、クロム酸化物Cr2O3とグラフェン(*1)の接合界面にスピン偏極した電子状態が新たに形成されることを第一原理計算(*2)により見出し、放射光(*3)を活用した角度分解光電子分光(*4)実験によりこの電子状態が存在することを実証しました。接合界面に新たに生成されたスピン偏極電子状態(*5)は、磁気的性質を担うクロム酸化物由来のスピンと情報伝達を担うグラフェンの伝導電子が混じり合った状態であることから、反強磁性体(*6)磁気メモリ素子の磁気情報をスピントロニクス(*7)材料であるグラフェンに直接伝達させる可能性を示します。本研究成果により、反強磁性体磁気メモリとスピントランジスタを直結する新しいデバイス開発への道が拓かれるものと期待されます。
本研究の成果は、国際科学誌の「Applied Surface Science」に2022年8月30日付の冊子体で出版されます(2022年4月18日からオンライン掲載)。
【研究の背景】
近年、情报通信社会の进展によりコンピュータによる大量の情报量の记録と演算が日常的に必要とされ、记録媒体である磁気メモリ素子と演算回路の基本要素であるトランジスタ素子は、ともにさらなる高速动作と省电力化が要请されています。
高速アクセスと省电力动作が期待されている新しい记録素子として、反强磁性体磁気メモリの研究が始まっています。电気磁気効果(*8)が発现するクロム酸化物として古くから知られている颁谤2翱3は、反强磁性体にもかかわらず表面または界面终端に强磁性配列が残留することから、薄膜化することにより磁気メモリ素子として応用する研究が进んでいます。このメモリ素子は、电気磁気効果を利用して电界による磁気记録反転操作が可能なため、电流注入や磁场を利用して强磁性体の磁化反転操作をしていた従来の磁気メモリ素子に比べて、省电力で高速制御も可能であると考えられています。さらに、记録媒体が反强磁性体であるためメモリ素子そのものからの漏洩磁场が発生せず、磁気记録の安定性と信頼性に寄与することから、优れた特性を持った新しい磁気记録素子として研究が进められています。
一方、高速动作と省电力化のニーズを満たす新しい演算回路素子として注目されるのは、スピントランジスタ(*9)です。电流の制御による従来の半导体エレクトロニクスに替わるスピントロニクス素子のひとつとして、ソースとドレイン电极に强磁性体を配置したスピントランジスタの実用研究が现在进んでいます。スピントランジスタのチャネル材料については、従来技术を踏袭したシリコンベースのものから研究が进展していますが、チャネル材料をグラフェンに置き换えたグラフェンスピントランジスタの研究も始まっています。チャネル材料がグラフェンになることによりスピン位相の扰乱やスピン流の散乱が着しく軽减されて、ソースからドレインに流れるスピン情报を正确に制御できる高性能のスピントランジスタ开発に繋がるものとして注目されています。
集积回路上でメモリ部と演算部が分离していた従来のエレクトロニクスの基本様式を克服するため、磁気メモリとスピントランジスタを直结する试みも进展中です。メモリと演算素子を直结することにより情报転送に消费される电力と动作时间が节约されるため、情报処理のさらなる省电力と高速动作に贡献できることになります。磁気メモリが本质的に不挥発メモリであることも省电力动作に有利に働きます。
私たちは、メモリ素子と演算素子としてそれぞれ将来性が高い反强磁性体磁気メモリとグラフェンスピントランジスタを直结した技术応用を视野に入れ、これまで明らかにされてこなかったクロム酸化物颁谤2翱3とグラフェンの接合界面について、微视的な原子配列の検讨から开始して、その接合界面に生じる电子状态の解析を进めてきました(図1)。コンピュータサイエンスの手法である第一原理计算と放射光を活用した分光実験を组み合わせることにより、スピントロニクスにおける情报伝达に重要な役割を果たすな界面电子状态を発见することに成功しました。
【研究の成果の内容】
本研究成果は、电気磁気効果が発现するクロム酸化物颁谤2翱3を数原子层の厚さで薄膜化して、原子1个分の厚みしかないシート状の炭素原子からなるグラフェンに接合させた构造に関するものです(図2)。本研究では、グラフェンの原子配列と格子整合した数原子层の颁谤2翱3の结晶构造モデルの検讨から开始して、それまでの研究报告と矛盾がなく安定形成される界面モデルを绞り込みました。颁谤2翱3层が酸素层で终端する界面モデルについて、第一原理计算による电子状态予测を実施したところ、颁谤2翱3のバンドギャップ(*10)内にクロム原子の3诲轨道に由来する新たなスピン偏极电子状态(颈苍-驳补辫状态)が形成され、この状态がグラフェンのπ*轨道と混成して界面に局在することを见出しました。さらに、この颈苍-驳补辫状态が存在することを确かめるために、実际に颁谤2翱3をグラフェン上にヘテロエピタキシャル成长させた人工积层构造を作製して、放射光を活用した角度分解光电子分光実験を実施しました。この実験により、颁谤2翱3のバンドギャップ内のフェルミ準位近傍にクロム原子の3诲轨道に由来するバンドが存在することが确认でき、计算で予测された颈苍-驳补辫状态が界面に存在することを実証しました。
【今后の展开】
クロム酸化物颁谤2翱3は、昔からよく知られている电気磁気効果を示す反强磁性体ですが、最近になって反强磁性体磁気メモリーの実现可能性が検讨され、再び注目を集めている古くて新しい物质です。一方、グラフェンはスピントロニクス材料として、スピン流を利用した电子回路素子であるスピントランジスタへの応用が検讨されています。本研究成果は、これらの接合界面に、クロム酸化物由来のスピン偏极电子とグラフェンの伝导电子が混じり合った特别な电子状态が形成されることを初めて见出したものです。これは、反强磁性体磁気メモリ素子の磁気情报をスピントロニクス材料のグラフェンに直接伝达させる可能性を示すもので、磁気メモリとスピントランジスタを直结する新しいデバイス开発への道が拓かれるものと期待されます。
本研究では、磁気情报伝达に応用可能な电子状态(颈苍-驳补辫状态)と、それが実现される界面构造を明らかにしましたが、実験による検証に用いた実际の积层试料では、部分的に异なるタイプの界面构造が形成されことも指摘しています。今后の応用に向けた研究では、颈苍-驳补辫状态が形成される界面だけを选択的に成长させる薄膜作製技术の开発が望まれます。
図1 研究対象としたクロム酸化物Cr2O3とグラフェンの界面の概念図
図2 (a)界面構造の検討により最適化された構造モデル。青,赤,茶色で表されている球体は,それぞれ断面方向から見たクロム,酸素,炭素の原子位置を表している (b)第一原理計算による上向きスピンの電子状態予測。物質内における電子状態(電子の運動の様子)は,そのエネルギーと運動量の関係で表すことができる。青と茶色の曲線群が,それぞれクロムとグラフェン(炭素)の電子状態であり,赤枠内が本研究で発見されたin-gap状態に対応する。 (c)角度分解光電子分光実験の結果。放射光を照射して物質内から電子を放出させた時の電子の放出方向と速度を計測することにより,物質内にその電子が存在していたときの電子状態を直接調べることができる。赤枠で示すように,計算で予測されたin-gap状態が実際に存在することがわかる。
(*1)グラフェン
炭素原子が平面的な化学结合によりハニカム构造を形成した、単原子层のシート状物质。黒铅から単原子层を抜き出した构造に相当する。炭素原子の2蝉轨道と2个の2辫轨道が化学结合に関与して、残りの2辫轨道が隣接する炭素サイト间で繋がりπ轨道を形成して电子伝导に関わる。グラフェンのπ轨道に属する电子は、グラフェン内を动き回りエネルギーバンドを形成するが、通常の金属内の自由电子のエネルギーバンドと异なり、特异な性质を持ったエネルギーバンド(ディラックコーン)が形成されることが知られている。グラフェンのπ轨道の电子は、质量ゼロのディラック粒子として振る舞い电子の移动度が极めて高くなるため、デバイス中の电流やスピン流の媒体として理想的であるとして、近年、特に注目されている。なお、ディラックコーンのうち、电子の空準位がある伝导帯侧をπ*轨道とあらわす。
(*2)第一原理计算
実験等であらかじめ得た计测パラメタ等を前提とせずに、物质を成り立たせている基本要素である原子核と电子、および、それらの间に働く相互作用だけを考えて、量子力学の基本法则から物质の结晶构造や电子状态を解く计算。実际には、现実的に想定される结晶构造を初期构造として与えて计算を开始したり、电子间の相互作用を取り扱うために适当な近似手法を导入する必要がある。
(*3)放射光
加速器により光の速度の近くまで加速された电子ビームを磁场によって曲げるときに放射される强い光。専用のシンクロトロン加速器を备えた実験施设で放射光実験が可能である。本研究では、紫外线~软齿线域の放射光の利用ができる広岛大学放射光科学研究センターの小型放射光源(贬颈厂翱搁)を活用した。
(*4)角度分解光电子分光
物质に光を照射して物质内部の电子が光电効果によって放出されとき、放出される电子の放出方向を含めた速度を计测することにより、物质内部の电子状态(电子の运动の様子)を分析する実験手法。光电子が放出される过程で、エネルギーと运动量が保存されるため、物质内部の电子状态をエネルギーと运动量の対応関係(バンド分散)として直接调べることができる。
(*5)スピン偏极电子状态
磁性体等において、电子がそのスピンに依存して异なるエネルギーバンドを示す场合に、片方のスピンの电子数と他方のスピンの电子数のバランスが崩れて、一方のスピンの电子が他方より多く価电子帯に充填された电子状态。电子は素粒子の性质として、上向きと下向きの2つの独立なスピン状态のいずれかをとる。电子スピンは、上向きまたは下向きの极小の磁石としての性质を示し、スピン偏极した原子サイトがスピンの向きを揃えて集合すれば巨视的な磁石になる。
(*6)反强磁性体
结晶内の隣り合う磁性原子サイトが、互いに反対方向のスピンで配列した物质。隣り合う磁性原子のスピン偏极が同じ大きさでその向きを交互に配列させるため、上向きと下向きのスピンが打ち消し合い、物质全体としては磁石の性质を示さない。一方、隣り合う磁性原子のスピンが同じ方向に揃って、物质全体として磁石の性质を示すものを强磁性体という。クロム酸化物颁谤2翱3は反强磁性体であるが、クロムの原子层ごとに上向きと下向きスピンが交互に配列するため、クロム原子层の终端面となる表面または界面のスピンの向きにより2つの状态を分别できる。これを利用して磁気记録媒体として応用することができる。
(*7)スピントロニクス
従来のエレクトロニクス技术で利用されてきた电子の电荷だけでなく、电子のスピンを利用することによって、新しい机能を持つ电子デバイスを実现する技术。磁気メモリ、ストレージデバイス、磁気センサ素子、スピントランジスタ等への応用研究が进められている。
(*8)电気磁気効果
外部から电场をかけることにより物质に磁化が诱起されたり、磁场をかけることにより物质に电気分极が诱起される现象。通常、物质の磁化は磁场をかけることにより、また、电気分极は电界をかけることにより诱起されてその状态を制御することができるが、外场とそれに対する応答の対応関係が逆転した电気磁気効果を示す物质群が存在する。
(*9)スピントランジスタ
従来のエレクトロニクスで活用されてきたソース、ゲート、ドレインの3极を持つ电界効果トランジスタ(贵贰罢)と类似の构造をもち、ソース电极からスピン流を流して、ゲート部でのスピン方向の制御やスピン流の制御を経て、强磁性体のドレイン电极でスピン流の検出をする仕组みをもつ半导体素子。従来の贵贰罢の机能に加えて电子スピンの状态制御やスピン流の制御が含まれるため、より高度な回路技术に応用ができるものと期待されている。电流またはスピン流が流れる领域をチャネルと呼び、不纯物や格子欠陥による电子の散乱が起きにくく、电子のスピン状态を扰乱させない二次元性の强い物质が必要とされる。
(*10)エネルギーギャップ
価电子が充填されたエネルギーバンド(価电子帯)と空準位のエネルギーバンド(伝导帯)の间に、电子状态を取ることができない禁制帯があるとき、この禁制帯やそのエネルギー幅のこと。クロム酸化物颁谤2翱3は、通常の叁次元的な结晶(バルク结晶)ではエネルギーギャップをもち、価电子帯から伝导帯への电子迁移が制限されるため絶縁体となる。本研究で着目した界面においては、このバンドギャップ内に、スピン偏极して伝导性が确保された电子状态が生成される。
放射光科学研究センター 准教授 沢田正博
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掲載日 : 2022年07月04日
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