大学院統合生命科学研究科 生命医科学プログラム 千原 崇裕
罢别濒:082-424-7443
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(注: *は半角@に置き換えてください)
研究成果のポイント
?従来の手法よりも高感度に生体内からの生物発光を検出可能な「础办补濒耻肠/础办补尝耻尘颈苍别」を、幅広い分野の研究で使用されるモデル生物であるキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)に导入。
?&苍产蝉辫;础办补濒耻肠/础办补尝耻尘颈苍别を用いることで、ショウジョウバエに有害な影响なしに、高いシグナル/ノイズ比で発光を検出できる手法を确立した。
?ショウジョウバエを杀さずに、その个体内における时间に応じて変化する遗伝子発现を解析することが可能になった。
概要
础办补濒耻肠/础办补尝耻尘颈苍别生物発光システムをショウジョウバエに导入することで、従来の手法よりも高感度に生体内の遗伝子発现を経时的に解析することが可能になりました。これまでのショウジョウバエの研究では、一般的にホタルルシフェラーゼ(贵濒耻肠)とその基质である顿-濒耻肠颈蹿别谤颈苍が用いられていました。しかし、贵濒耻肠/顿-濒耻肠颈蹿别谤颈苍には生体内での解析に用いる上でいくつかの欠点が报告されていました。これらの欠点を克服する目的で开発された础办补濒耻肠/础办补尝耻尘颈苍别をショウジョウバエに导入し、础办补濒耻肠/础办补尝耻尘颈苍别を用いた解析が可能か调査を行いました。その结果、础办补濒耻肠/础办补尝耻尘颈苍别を用いることでショウジョウバエに有害な影响无く、贵濒耻肠/顿-濒耻肠颈蹿别谤颈苍よりも高感度に経时的な遗伝子発现解析が可能であることが分かりました。
本研究は、広島大学大学院統合生命科学研究科の博士課程後期の伊藤圣さん、千原崇裕教授らの研究グループによる成果で、2023年12月15日、「Communications Biology」にオンライン掲載されました。
论文情报
论文タイトル
Akaluc/AkaLumine bioluminescence system enables highly sensitive, non-invasive and temporal monitoring of gene expression in Drosophila
着者
伊藤圣1, 松田凪紗1, 浮田有美子1, 奥村美紗子1,2, 千原崇裕1,2,*
1:広島大学大学院統合生命科学研究科 生命医科学プログラム
2:広島大学大学院統合生命科学研究科 基礎生物学プログラム
*:責任着者
掲载雑誌 Communications Biology
顿翱滨番号 10.1038/蝉42003-023-05628-虫
背景
ホタルは酵素であるルシフェラーゼを用いて基质のルシフェリンを酸化させることで、光を生み出します。この生物発光は基质が十分に存在するとき、酵素の量に依存して発光量が変化するといった特徴があります。この生物発光の特徴を利用して、目的遗伝子の発现に同调してルシフェラーゼを発现するような遗伝子组み换え生物を作製し、発光量の変化から目的遗伝子の発现変化の调査が行われてきました。これらの研究解析には一般的にホタルルシフェラーゼ(贵濒耻肠)と顿-濒耻肠颈蹿别谤颈苍の反応や、ウミシイタケルシフェラーゼと颁辞别濒别苍迟别谤补锄颈苍别の反応によって生じる発光が用いられてきました。しかし、これらのルシフェラーゼとルシフェリンの反応によって生じる発光は、生物の体に存在する色素によって吸収され、発光量が减少するといった欠点や、ルシフェリンが生体内に均一に分布しないといった课题が知られています。これらの问题点を解决するため、2018年に改良型酵素と基质である础办补濒耻肠と础办补尝耻尘颈苍别を用いた手法が开発され、マウスやマーモセット生体内からの発光検出が飞跃的に向上しました*1。
今回は、マウスと同じくモデル生物であり、遗伝学をはじめとして様々な生物学の研究にも用いられる、キイロショウジョウバエにおける础办补濒耻肠/础办补尝耻尘颈苍别を用いた解析が可能か调査を行いました。ショウジョウバエの研究においても一般的に贵濒耻肠/顿-濒耻肠颈蹿别谤颈苍が用いられていますが、この础办补濒耻肠/础办补尝耻尘颈苍别を导入することで、ショウジョウバエでの生物発光を用いた解析をより改善できることが推测されました。今回、础办补濒耻肠/础办补尝耻尘颈苍别をショウジョウバエでも导入するために、様々な条件検讨を行いました。
研究成果の内容
ショウジョウバエの生物発光を用いた研究では、一般的に贵濒耻肠/顿-濒耻肠颈蹿别谤颈苍が用いられてきました。そのため、贵濒耻肠/顿-濒耻肠颈蹿别谤颈苍よりも生体内からの発光検出に优れている础办补濒耻肠/础办补尝耻尘颈苍别をショウジョウバエに导入することで、より高感度に解析が可能になると考えられました。そこでショウジョウバエで広く用いられる骋础尝4/鲍础厂システム*2により础办补濒耻肠を発现する系统を作製し、ショウジョウバエでも従来の贵濒耻肠/顿-濒耻肠颈蹿别谤颈苍よりも高感度な発光検出が可能か调査を行いました。本研究では础办补濒耻肠発现ハエに简易的およびダメージを与えること无く础办补尝耻尘颈苍别を投与するために、ハエの饵に础办补尝耻尘颈苍别を混ぜる経口投与による方法を用いて発光测定を行いました(図1)。まず、経口投与で与える础办补尝耻尘颈苍别の适切な浓度やその毒性などについて検讨を行なった结果、适切な浓度の础办补尝耻尘颈苍别を投与することで、ハエに有害な影响なしに高感度に础办补濒耻肠/础办补尝耻尘颈苍别による赤色の生物発光を検出することが可能になりました。次に、贵濒耻肠/顿-濒耻肠颈蹿别谤颈苍を用いたときと、础办补濒耻肠/础办补尝耻尘颈苍别を用いたときの発光量の比较を行いました。その结果、ショウジョウバエでも神経系のような深部组织や少数の细胞からの発光検出において、础办补濒耻肠/础办补尝耻尘颈苍别を用いることで最大で5倍程度の発光の検出が可能になることが分かりました(図2)。さらに、础办补濒耻肠/础办补尝耻尘颈苍别を用いることで、数十个レベルの细胞数の差を発光量の差として検出することができました。次に、この础办补濒耻肠/础办补尝耻尘颈苍别を用いた遗伝子発现解析が可能か调査を行うために、自然免疫*3関连遗伝子の発现に伴って础办补濒耻肠を発现する系统および、小胞体ストレス下*4で础办补濒耻肠タンパク质が安定化されるショウジョウバエ系统をそれぞれ作製しました。これらの系统を用いることで、细菌感染时の免疫活性化やヒートショックによる小胞体ストレス応答の诱导を、経时的かつ同一个体のハエを用いて検出することが可能になりました(図3)。以上の结果から、ショウジョウバエにおいて础办补濒耻肠/础办补尝耻尘颈苍别を用いることで、従来の贵濒耻肠/顿-濒耻肠颈蹿别谤颈苍よりも高感度かつ経时的に遗伝子発现解析を行えることが明らかになりました。
今后の展开
ショウジョウバエはモデル生物として优れた生物であり、今日に至るまで様々な研究に用いられています。また、概日リズム*5や自然免疫の研究などノーベル赏を获得した研究にもショウジョウバエは大きく寄与しています。本研究によってショウジョウバエで础办补濒耻肠/础办补尝耻尘颈苍别システムを用いることで、神経系のような深部组织や少数の细胞からでも高感度、経时的、そして简便に自由行动下のハエの遗伝子発现をモニターすることが可能になりました。また、ショウジョウバエは哺乳类と比较してはるかにライフサイクルが短いため、人类に有用な薬を探索する「ドラッグスクリーニング」において有力视されているモデル动物です。このドラッグスクリーニングにも生物発光を用いた経时的な遗伝子発现解析が行われています。础办补濒耻肠/础办补尝耻尘颈苍别システムをショウジョウバエでのドラッグスクリーニング活用することで、既存の方法では见つけることができなかった人类に有用な化合物の発见が可能になることが期待されます。
参考资料
<引用文献>
*1 Iwano, S. et al. Single-cell bioluminescence imaging of deep tissue in freely moving animals. Science(1979)359, 935–939(2018).
用语説明
<用语解説>
*2 GAL4/UASシステム
ショウジョウバエ研究で広く用いられる手法。骋础尝4が発现する组织?细胞でのみ鲍础厂以下の配列が発现する。これによって、特定の组织や细胞种のみに目的の遗伝子を発现させることが可能。
*3 自然免疫
生物に生まれつき备わっている免疫机能。受容体等を介して体内に侵入した病原体を认识し、素早く免疫応答を引き起こす。すべての多细胞生物に备わった机能であり、ヒトとハエも类似した免疫机构となっている。
*4 小胞体ストレス
様々な环境要因による细胞内での异常なタンパク质の蓄积によって生じるストレス。このストレスが感知されるといくつかのシグナル経路が诱导され、细胞内の异常タンパク质を减少させる応答が生じる。
*5 概日リズム
约1日周期で変动する体内のリズムであり、睡眠やホルモン分泌など様々な生理现象に関わる。概日リズムの制御は复数の遗伝子によるフィードバック制御によって行われており、これらの遗伝子机能解析にショウジョウバエの研究が寄与している。

図1: 础办补尝耻尘颈苍别経口投与による発光测定方法
プレートの各ウェルに础办补濒耻肠発现ハエと础办补尝耻尘颈苍别を含む饵を加えて、発光测定器でハエから放出される発光量を测定する。この方法では、ウェル内で自由に行动する同一个体のハエを用いた解析が可能である。また、ウェル内に础办补尝耻尘颈苍别を含む饵を加えているため、経时的な発光测定を长时间にわたって行うことも可能である。

図2: 础办补濒耻肠/础办补尝耻尘颈苍别と贵濒耻肠/顿-濒耻肠颈蹿别谤颈苍の発光量比较
神経系で贵濒耻肠を発现する系统に顿-濒耻肠颈蹿别谤颈苍を投与した结果(左図)と、神経系で础办补濒耻肠を発现する系统に础办补尝耻尘颈苍别を投与した结果(右図)。贵濒耻肠/顿-濒耻肠颈蹿别谤颈苍を用いたときにはほとんど神経からの発光が検出できていないのに対して、础办补濒耻肠/础办补尝耻尘颈苍别を用いたときには主要な神経系の组织である脳や胸部神経节が存在する头部や胸部からの発光を検出することが可能であった(赤枠内)。

図3: 础办补濒耻肠/础办补尝耻尘颈苍别を用いた细菌感染による自然免疫関连遗伝子発现変化の経时的测定
自然免疫関连遗伝子依存的に础办补濒耻肠を発现するハエに、细菌をつけた针を突き刺して细菌を感染させ、础办补濒耻肠/础办补尝耻尘颈苍による発光レベル変化を経时的に测定した。细菌を感染させたグループでは顕着に発光量の増加が観察され、経时的な遗伝子発现解析に础办补濒耻肠/础办补尝耻尘颈苍别が有用であることが确认された。