本研究成果のポイント
- 涡を巻きながら进行する特殊な光?光涡?。それを构成する光の粒?光子?の一つ一つが、涡の特性を持つことを実証しました。
- 本研究は、らせん运动する高エネルギー电子が発する光涡に対して行われました。このような运动をする电子は自然界に普遍的に存在します。涡の性质を持つ光子も普遍的に存在する可能性が期待されます。
概要
広岛大学大学院先进理工系科学研究科の和田真一准教授と太田寛之さん(理学部物理学科卒業生)、同大学放射光科学研究センターの加藤政博特任教授(自然科学研究機構分子科学研究所特任教授兼任)、名古屋大学全学技術センターの真野篤志技師、同大学シンクロトロン光研究センターの藤本將輝特任助教、高嶋圭史教授による合同研究チームは、分子科学研究所 極端紫外光研究施設の放射光源UVSOR-IIIを用いて、高エネルギー電子が自発的に放出する光渦と呼ばれる渦を巻きながら進行する特殊な光が、それを構成する光の粒(光子)一つ一つでも渦の性質をもっていることを、ヤングの二重スリット干渉実験(注1)で明らかにしました。光の強度(光子数)を極端に下げ光子が一つずつ二重スリットを通過するような条件では、光は検出器上でランダムな光子スポットとして観察されます。この光子スポットを積算していくと、光渦特有の中央部が暗く歪んだ縞模様が現れることが分かりました。この結果から、らせん運動する高エネルギー電子が自発的に放出する光は、単一光子の状態でも、渦巻き状の波面を特徴とする光渦の性質を持つことが分かりました。
本研究成果は、英国の科学雑誌Scientific Reportsに掲載されました(2023年12月27日 オンライン公開)。本研究は、広島大学理学部物理学科の卒業研究として実施された成果です。
论文情报
- タイトル:“Young’s double-slit experiment with undulator vortex radiation in the photon-counting regime”(?光子計数領域におけるアンジュレータ渦放射を用いたヤングの二重スリット実験?)
- 著者:Shin-ichi Wada*, Hiroyuki Ohta, Atsushi Mano, Yoshifumi Takashima, Masaki Fujimoto & Masahiro Katoh*
&苍产蝉辫; *责任着者
- 掲載誌:Scientific Reports, 13, 22962 (2023).
- 掲載日:2023年12月27日 オンライン公開
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背景
穏やかな水面に石を投げるとその着地点から几重もの波が円形に広がります。このような曲线を波纹と呼んでいます。光の波が叁次元の空间で広がる场合は、波纹は波面と呼ばれる面の広がりでとらえることができます。この面は球の表面であることから球面波と呼ばれています。また、波の発生源が非常に远い场合はこの球面は平面で近似でき、平面波と呼びます。光の波长に対応する波の山や谷が形づくる球面波(ランプ光源が近い场合)や平面波(ランプ光源が非常に远い场合やレーザー光の场合)で、光の伝搬を表现することができます(図1(补))。
一方、このような通常の平坦なもしくは球状の波面とは异なり、らせん状の波面を示す特殊な光?光涡?と呼ばれる光が存在することが分かりました(図1(产))。通常の光では中心轴の右侧が波の山になっていれば左侧も山になっています。ところが光涡では右侧が山なのに左侧は谷であったりします。そして、中心轴上は山でも谷でもないという位相特异点と呼ばれる奇妙な状态になっています。通常の光では波の山が平面(あるいは球面)をなすのに対し、光涡では中心轴の周りをぐるぐると涡を巻くらせんになっています(注:光の偏光方向が回転する円偏光とは异なります)。
光涡は1992年に理论的に存在が示され、その后実験的にも様々な方法でこの光涡が発生できるようになりました。その一つの方法として私たちは、ヘリカルアンジュレータ(注2)を通过することで高速でらせん运动する电子が発生する光に着目しました。大きな磁石の中で高速で円运动する电子から、放射光(注3)と呼ばれる指向性の高い光が発生します。この仕组みを応用し、アンジュレータと呼ばれる小さな磁石を顺番に并べた装置を利用することで、电子をらせん运动させることができます。そのような电子から放射される光には电子のらせん运动が光の涡として転写された光成分も含まれることになります。
図1.(补)通常の光(平面波)と(产)涡を巻きながら进行する光涡の概念図。
このように1つの电子の运动から生じた光子(粒子としてとらえた光)一つ一つでも涡巻きの性质を持つことを调べるために、ヤングの二重スリット干渉実験を行いました。穏やかな池の中の少し离れた场所に同じタイミングで2つの石を投げ入れると、2カ所で波纹が発生し、それらの波が重なる场所ではきれいな波の模様が生じます。これは干渉と呼ばれる现象で、波の山や谷がある条件のもとで强め合ったり弱めあったりするために生じます。ヤングの二重スリット干渉実験は、この池の波と同じ现象を、光を使って行う実験になります。ヤングの実験は光の波动性を検証する実験として有名な方法ですが、通常は十分に明るい光源を用いて行うところを、本研究では光子一つ一つが検出できる程度に极端に光の强度を下げて実施しました。このような极めて弱い光を用いた単一光子状态の実験では、光子は波动であると同时に粒子でもあるという光の二重の性质を示します。1个の光子が2つのスリットを同时に通过し、自分が自分と干渉する様子を観测することができます。このような実験は光子计数领域での干渉実験と呼ばれます。私たちは、世界で初めて、このような実験を光涡の光子に対して行いました。
研究成果の内容
実験は、分子科学研究所の放射光源鲍痴厂翱搁-滨滨滨电子蓄积リングの叠尝1鲍アンジュレータビームラインで実施しました(図2)。アンジュレータを通过する电子から発生した放射光のうち、波长フィルターで波长选别することで光涡の性质を持つ成分だけを抽出し、さらに减光フィルターで光子が一つずつ二重スリットを通过する条件を作り出し、その干渉の様子を超高速カメラで撮影しました。
図2.実験の概略図。ヘリカルアンジュレータと呼ばれる磁石の配列で、高速な电子をらせん运动させることで光涡を発生させ、二重スリットを通过して干渉した结果をカメラで撮影。光子一つ一つが持つ涡特性を検証した。
図3にその実験结果を示します。図3(补)は、非常に短い时间の间だけ撮影した场合の干渉结果です。およそ130个の辉点が撮影されており、これら一つ一つがこの短时间の间に検出された光子に対応します。この画像では辉点の分布に规则性はなく、光子は一见ランダムに散乱しているように见えます。しかしながらこのような个々の撮像画像を积算していくと、干渉縞が徐々に形成されていく様子が视覚的に确认できます。画像を5000枚重ねた结果を図3(产)に示します。ここでは、二重スリットの干渉で生じた几本もの横縞に加えて、中央部の暗い领域が観测されました。この领域を、画像のコントラストを変えて拡大したものが図3(肠)になります。横縞の干渉线が、中央の暗部で歪んでいることが分かります。通常の光ではこのような结果は観测されず、波面が涡を巻きながら进行する光の特徴を反映しています。この结果は、本実験条件で干渉した场合の理论縞(図3(产,肠)中の実线)と良い一致を示していることも分かります。単一光子であっても、光涡の性质を持つ强力な証拠です。
図3.涡を巻きながら进行する光涡における、ヤングの二重スリット干渉実験の结果。(补)は短时间の间で撮影した1枚の撮像画像であり、これを5000枚重ねると(产)の结果を得る。中央部の暗部を见やすくした(肠)では、通常の光では観测されない干渉縞の歪みが観测されている。
今后の展开
本研究の结果は、らせん运动をする高エネルギー电子から自発的に放出される光子一つ一つが、涡巻き波面の性质を本质的に持ち得ることを示しています。このような高エネルギー电子のらせん运动は、自然界に普遍的に存在する现象です。したがって、光涡は特别な光ではなく、普遍的な存在の可能性を秘めていると考えられます。
また、アンジュレータを利用することで、光涡が発生する波长领域を大きく拡张することができます。特に放射光が得意とする极端紫外领域や齿线领域では、光涡の涡巻きの间隔が桁违いで短くなります。物质との相互作用がより顕着になるこの波长领域での、新しい物理现象や材料加工技术、计测技术への展开が期待されます。
参考资料
注1)ヤングの二重スリット干渉実験
イギリスの物理学者Thomas Youngが示した光の波動性を示す実験。2つのスリット(狭い隙間)に、波がそろった光を同時に照射することで、その先に、光の干渉による光の明暗縞が生じることを示した実験。
注2)ヘリカルアンジュレータ
放射光(注3)の発生装置の一种。细かな磁石を磁场の向きが交互になるように电子の进行方向の前后?上下に配列し、电子の蛇行运动によって强力な放射光を発生させる装置を、アンジュレータと呼ぶ。电子の蛇行运动を水平方向だけでなく上下方向にも加えて、らせん运动するように磁石列を配置した装置をヘリカルアンジュレータと呼んでいる。主に、光の波の振动方向(偏光方向)が进行しながら回転する円偏光を発生させる场合に使用する。
注3)放射光
光速に近い高エネルギーの电子等が、磁场中で力を受けて曲がるときに放射する电磁波。
【お问い合わせ先】
<研究に関すること>
広岛大学大学院先进理工系科学研究科
准教授 和田 真一 (わだ しんいち)
Tel & FAX:082-424-7401
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広岛大学放射光科学研究センター
特任教授 加藤 政博 (かとう まさひろ)
(分子科学研究所 特任教授)
罢贰尝:082-424-6293 贵础齿:082-424-6294
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<报道に関すること>
広岛大学広报室
罢贰尝:082-424-3749 贵础齿:082-424-6040
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名古屋大学広报课
罢贰尝:052-558-9735
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自然科学研究机构 分子科学研究所 研究力强化戦略室 広报担当
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(注: *は半角@に置き換えてください)