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【研究成果】超伝导の空间的な乱れを可视化する新たな顕微観察技术の开発 ー超伝导材料の高性能化に役立つ新手法として期待ー

本研究成果のポイント

  • 超伝导の空间的な乱れを可视化する新たな放射光顕微観察技术を世界で初めて开発
  • 高温超伝导材料の品质劣化を招く局所的な超伝导特性の変化の要因を探索可能に
  • 超伝导材料の高性能化や新奇な超伝导现象の解明に期待

概要

広岛大学大学院先进理工系科学研究科博士课程后期3年の宫井雄大、広岛大学放射光科学研究所の岛田贤也教授、量子科学技术研究开発机构の岩泽英明プロジェクトリーダー(広岛大学放射光科学研究所客员研究员)、および高エネルギー加速器研究机构物质构造科学研究所の小泽健一教授らを中心とする研究チームは、放射光を用いた顕微実験技术とデータサイエンスの手法を组み合わせ、铜酸化物が示す高温超伝导(*1)の强さを表す「超伝导ギャップ(*2)」が、10マイクロメートル(100分の1ミリメートル)ほどの微小なスケールで、空间的に不均一であることを世界で初めて可视化することに成功しました。この発见は、超伝导の局所的な変化を引き起こす要因を解明するうえで重要な一歩であり、将来的には不均一性の制御を通じて、铜酸化物をはじめとする高温超伝导材料の高性能化や新たな超伝导现象の解明に贡献することが期待されます。
 高温超伝导体は、安価な冷却材である液体窒素で冷却できる温度で、电気抵抗がゼロになることから、省エネルギー技术の発展や脱炭素社会の実现に大きな期待が寄せられています。この高温超伝导体を用いたエネルギーデバイスの実现には、超伝导ギャップが大きく、かつ空间的に乱れのない材料を开発する必要があります。しかし、これまで超伝导ギャップの空间分布を正确に観察する手段がなく、その実现が望まれていました。そこで本研究では、これを可能にする顕微技术を开発しました。また、本开発技术により空间分解能が向上し、得られる実験データ量が数百倍以上増加するため、データサイエンスの手法で処理を行い、可视化する手法も开発しました。これらにより高温超伝导を特徴付ける超伝导ギャップが、10マイクロメートルほどの微小领域で、空间的に不均一になっていることを世界で初めて可视化することに成功しました。さらに、高温超伝导の特性を最も强く示す电子の空间分布まで调べられるようになり、超伝导の不均一性の要因を探ることも可能となりました。
 本技術は、高温超伝導デバイスの評価や動作原理の解明などにも広く適用できる実験手法であるため、物質?材料科学や応用科学分野での大きな貢献が期待されます。本成果は英国Taylor & Francis グループが発行するScience and Technology of Advanced Materials に10月28日付け(現地時間)で掲載されます。

论文情报

〈雑誌〉Science and Technology of Advanced Materials
〈題名〉Visualization of spatial inhomogeneity in the superconducting gap using micro-ARPES
〈著者〉Yudai Miyai, Shigeyuki Ishida, Kenichi Ozawa, Yoshiyuki Yoshida, Hiroshi Eisaki, Kenya Shimada, and Hideaki Iwasawa* (*責任著者)
〈顿翱滨〉丑迟迟辫蝉://诲辞颈.辞谤驳/10.1080/14686996.2024.2379238

背景

 脱炭素社会の実现に向け、低温で电気抵抗がゼロになる「超伝导」は、省エネルギーを推进する切り札の一つとして期待されています。超伝导は、物质を冷却していくと、ある温度で电気抵抗が突然ゼロになる现象です。电线や电気回路に电気が流れると、电気抵抗によって発热し、电力の数十%が発热によって失われると言われています。动作している电気製品を触ると热く感じるのはこのためです。もし超伝导により、电気抵抗がゼロとなり、これまで失われていた电力を有効活用できるようになれば、大幅な省エネルギーとなり、カーボンニュートラルに大きく贡献できます。一般に超伝导现象は絶対零度(-273℃)に近い非常に低い温度で生じるため、物质を极めて冷却することが必要です。冷却するためにもエネルギーが必要になるため、できるだけ高い温度で超伝导になる物质の探索が行われています。
 超伝导物质の中でも、「铜酸化物高温超伝导体(*3)」は、安価な冷却材である液体窒素温度で冷却できる温度(约-196℃)よりも高い温度で超伝导となるために注目されていますが、なぜ高い温度でも超伝导が起こるのか、その仕组みはまだ完全には解明されていません。铜酸化物高温超伝导体の特徴として、场所によって超伝导の强さを表す「超伝导ギャップ」の大きさが异なっていること(空间的な不均一性)が挙げられます。この空间的な不均一性は、超伝导の応用で重要となる、磁场をかけたときに磁束が特定の领域に固定される「ピニング効果」に影响を与えます。また、超伝导を担う电子が波动として伝わる方向(波数(*4))によって性质を変えること(波动的性质の异方性)も大きな特徴の一つです。この异方性により、高温超伝导体の结晶方位に対して、どの方向から电场や磁场をかけるかによって応答が変化します。このように、「空间的な不均一性」と「波动的性质の异方性」は高温超伝导体の性质に大きく関わっており、これらの特徴が互いにどのように関係するのかを明らかにすることは、高温超伝导の仕组みを解明する上で重要です。
 従来の実験手法として、走査型トンネル顕微镜/分光(厂罢惭/厂罢厂)(*5)があります。この方法では、上述した空间的な不均一性を観测することはできますが、波动的性质の异方性については観测できません。これに対し本研究チームでは、波动的性质の异方性を高水準で観察できる「角度分解光电子分光(础搁笔贰厂)」(*6)を用いた実験手法を开発してきました。しかしながら、高温超伝导体の空间的な不均一性と波动的性质の异方性を同时に観察する技术は、これまで存在していませんでした。

研究成果の内容

 そこで本研究チームは、放射光をマイクロ集光させてARPES 測定を行うことで、「空間的な不均一性」と「波動的性質の異方性」とを同時に観察する実験技術を確立できると考えました。今回、高エネルギー加速器研究機構フォトンファクトリーのマイクロARPES 装置を活用し、銅酸化物高温超伝導体の超伝導ギャップが最大となる波数方向の電子を選択的に観測しました(図1)。空間分解能を高めた実験を行うため、従来の実験に比べてデータ量は数100倍以上増加するため、データサイエンスの手法を用いて超伝導ギャップの大きさを抽出し、可視化する手法も合わせて開発しました。
 その結果、超伝導ギャップの最大値が、マイクロメートルスケールの微小領域において、30-40ミリ電子ボルト(meV)の間で不均一であることを世界で初めて可視化することに成功しました(図2)。一方、STM/STS で報告されていた超伝導ギャップの値が20-70 meV の範囲で不均一に分布していることと比較すると、ARPESで測定した超伝導ギャップの不均一性は相対的に小さいことがわかりました。
 銅酸化物高温超伝導体では、異なる大きさの2つのエネルギーギャップが存在することが広く知られています。一つは、超伝導状態でのみ現れるエネルギーギャップの小さい「超伝導ギャップ」です。もう一つは、超伝導転移温度よりも高温の状態(常伝導状態)でも現れるエネルギーギャップが大きい「擬ギャップ」です。エネルギーギャップの大きさから考えると、本研究では超伝導ギャップの空間的な不均一性を反映しているのに対して、STM/STS では超伝導ギャップだけでなく擬ギャップの空間的な不均一性が混ざって観測されていたと考えられます。つまり、今回の結果は、超伝導ギャップの空間不均一性を世界ではじめて捉えた成果と言えます。
 さらに、本研究で开発した技术により、特定の波数の电子を选択して、空间的な不均一性を可视化することが可能となりました。今后、この技术により铜酸化物高温超伝导体における「空间的な不均一性」と「波动的性质の异方性」の関係の理解が进み、铜酸化物が示す高温超伝导の仕组みを纽解く足掛かりとなることが期待されます。

今后の展开

 本研究成果により、高温超伝导デバイスの评価や动作原理の解明などにも広く适用できる実験手法が确立されました。本技术は、光源を微小化するほど高解像度化が可能になります。现在、我々は、フォトンファクトリー、広岛大学放射光科学研究所贬颈厂翱搁、そして3骋别痴高辉度放射光施设狈补苍辞罢别谤补蝉耻(*7)において、放射光の高辉度化?微小集光化に向けた取り组みを进めています。今后、本技术と高辉度?微小集光放射光との融合により、さらに高度な技术へと発展することで、物质?材料科学や応用科学の分野において本技术が大きな贡献を果たすことが期待されます。特に、新奇な超伝导现象を解明する新たな手法として多くの研究や开発で利用されることが见込まれます。また、省エネルギー技术の进展に寄与し、持続可能な社会の実现に向けた重要なステップとなることが期待されます。

図1:銅酸化物高温超伝導体の波数空間での電子の存在位置を表した図(フェルミ面)。銅酸化物高温超伝導体の超伝導ギャップは、(π, π)方向(ノード方向と呼ぶ)では超伝導ギャップがゼロ、(π,0)もしくは(0, π)方向(アンチノード方向と呼ぶ)で最大となる(d 波対称性)。本研究では、超伝導ギャップが最大となる波数の電子を選択してその空間分布を調べた(図2)。

図2:本研究チームが世界ではじめて成功した、特定の電子を選択して観測することで、銅酸化物高温超伝導体の微小表面で超伝導ギャップの不均一性が存在していることを表した図。(左)マイクロ集光放射光を用いた顕微光電子分光実験の概念図。(中央)異なる位置で測定したエネルギー分布曲線で、超伝導ギャップの大きさの空間依存性が確認できる。超伝導ギャップの空間分布図(右上)?頻度分布図(右下)においても、不均一性が確認できる。図1:銅酸化物高温超伝導体の波数空間での電子の存在位置を表した図(フェルミ面)。銅酸化物高温超伝導体の超伝導ギャップは、(π, π)方向(ノード方向と呼ぶ)では超伝導ギャップがゼロ、(π,0)もしくは(0, π)方向(アンチノード方向と呼ぶ)で最大となる(d 波対称性)。本研究では、超伝導ギャップが最大となる波数の電子を選択してその空間分布を調べた(図2)。

用语説明

(*1)超伝导、高温超伝导:物质を冷却していくと、电気抵抗がゼロになる现象のこと。超伝导の実用例として、惭搁滨(磁気共鸣断层撮影)装置やリニアモーターカーなどが挙げられます。実用化されているニオブチタン合金などの超伝导材料は超伝导になる温度が约-263℃ととても低いため、冷却するためにエネルギーを必要とします。これに対して、高温超伝导は液体窒素温度(-196℃)以上で超伝导が现れるため、产业応用に大きな期待が寄せられています。

(*2)超伝导ギャップ:通常、电子は互いに反発し合いますが、超伝导状态では电子がペア(クーパー対)を组むことで、电気伝导に関わる电子が足并みをそろえて抵抗を受けることなく运动できるようになります。このペアを安定させるために、电子间には実効的な引力が働いており、超伝导状态のエネルギーは常伝导状态(超伝导でない状态)のエネルギーに比べて安定化していて、二つのエネルギーの间には不连続な飞び(ギャップ)があります。これが超伝导ギャップと呼ばれるもので、一般に超伝导ギャップが大きいほど、高温でも超伝导状态を保つことができます。

(*3)銅酸化物高温超伝導体:液体窒素温度(約-196°C)よりも高い温度で超伝導を示す物質群のこと。1986 年に発見されて以来、世界中で研究が進められていますが、高温超伝導のメカニズムはまだ完全には解明されていません。

(*4)波数:波长の逆数に比例する量であり、波长が短いほど波数は大きくなります。また波动が进む向きに対して波数を决めることができるので、3つの座标成分を持ちます。超伝导を担う电子は波动としてふるまい、波数とエネルギーにより状态を识别することができます。铜酸化物高温超伝导体では、铜と酸素がつくる二次元的な平面上で超伝导が生じており、波数の方向に依存して超伝导ギャップや拟ギャップの大きさが异なることが知られています。

(*5)走査型顕微鏡/分光:走査型顕微鏡?分光(STM/STS: Scanning Tunneling Microscopy/Spectroscopy)は、非常に高い空間分解能で物質表面の原子構造や局所的な電子状態を調べるための実験技術。STM では、探針を物質表面に非常に近づけてトンネル電流を測定し、表面の形状を画像化できます。STS では、STM の技術を拡張し、局所的な電子のエネルギー分布を取得できます。

(*6) 角度分解光電子分光: 角度分解光電子分光(ARPES: Angle-resolved photoemission spectroscopy)は、物質の電子構造を詳しく調べるための実験技術。ARPESでは、物質に放射光や紫外線レーザーなどのエネルギーの高い光を入射した
ときに放出される光电子の「エネルギー」と「放出角度」を计测することで、物质内部で波动としてふるまっている电子のエネルギーと波数の分布を调べることができます。

(*7)3GeV 高輝度放射光施設NanoTerasu:正式名称は、3GeV 高輝度放射光施設。NanoTerasuは愛称である(施設等の詳細:2023年7月24日プレスリリース)。

【お问い合わせ先】

 広島大学放射光科学研究所 所長/教授 島田 賢也
 罢别濒:082-424-6294
 贰-尘补颈濒:办蝉丑颈尘补诲补*丑颈谤辞蝉丑颈尘补-耻.补肠.箩辫
 (*は半角@に置き换えてください)
 


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