広岛大学大学院医歯薬保健学研究院
薬効解析科学研究室
教授 仲田 義啓(なかた よしひろ)
TEL: 082-257-5310 FAX: 082-257-5314
E-mail: ynakata*hiroshima-u.ac.jp
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平成 25 年 8 月20日
难治性疼痛に対する治疗薬候补の発见!
ポイント
- 神経障害性疼痛モデルラットの脊髄神経で HMGB1 が増加していることを発見
- 慢性疼痛が発症した後でも中和抗体を用いて HMGB1 の機能を抑制することにより疼痛が緩和
研究の概要
広岛大学大学院医歯薬保健学研究院の仲田義啓教授らの研究グループは、共同研究グループである国立大学法人 岡山大学において作成された炎症性物質の一種である HMGB1(※1)に対する中和抗体(※2)を難治性疼痛モデルラットの静脈内に投与することにより、疼痛反応が減弱することを証明しました。
現在、ガンの終末期、糖尿病、帯状疱疹後などに認められる難治性の疼痛は、患者さんの生活の質(Quality of Life: QOL)を低下させる要因となっています。また、これらの疼痛は既存の鎮痛薬であるロキソニンなどの非ステロイド性鎮痛薬やモルヒネなどの麻薬性鎮痛薬に抵抗性を示し治療が困難であり、治療薬?治療方法の確立が望まれています。
同研究グループは、ラットを用いた実験により、難治性疼痛の一種である神経障害性疼痛(※3)時の脊髄神経において炎症性物質の HMGB1が増加し慢性的な痛みの原理に関与していることを見出しました。さらに、疼痛発症後に HMGB1 に対する中和抗体をラット静脈内に投与することにより疼痛が緩和することを発見しました。
これらの結果より、HMGB1 に対する中和抗体が難治性疼痛に治療効果を有することが示され、難治性疼痛に苦しむ多くの患者さんを救う新たな治療薬となる可能性が期待されます。
本研究成果は、平成25年 8月22日午前6時(日本時間)発行の米国科学誌「PLoS ONE」の、オンライン版で公開されます。
论文タイトル:Neuropathic pain in rats with a partial sciatic nerve ligation is alleviated by intravenous injection of monoclonal antibody to high mobility group box-1
着者:Yoki Nakamura, Norimitsu Morioka, Hiromi Abe, Fang Fang Zhang,
Kazue Hisaoka-Nakashima, Keyue Liu, Masahiro Nishibori and Yoshihiro Nakata
研究の内容
HMGB1 はさまざまな炎症性疾患 (敗血症、リウマチ、脳虚血、外傷性脳損傷など) に関与することが知られていましたが、慢性疼痛時における詳細な役割には不明な点が多く残っていました。同研究グループは、神経障害による慢性疼痛モデルラットを用いて、脳への痛覚情報伝達に重要な役割を果たす脊髄組織における HMGB1 の役割を検討しました。
その結果、対象群と比較して慢性疼痛モデルラットの脊髄 HMGB1発現量の有意な増加が観察されました。またこの増加は脊髄の神経細胞においてのみ認められました (図1)。さらに、このラットの静脈内へ HMGB1 の機能を抑制する中和抗体を投与することにより、疼痛が緩和されることを発見しました (図2)。
以上の結果より、神経損傷などの慢性疼痛時の脊髄組織では、神経細胞の HMGB1 が増加し、遊離することによって慢性疼痛の病態を増悪させることが明らかとなりました。

図1. 慢性疼痛時の脊髄(A) 及び 脊髄細胞タイプごと(B) の HMGB1 発現量の変化
処置後 21 日目の脊髄において HMGB1 神経細胞のみで増加しました。
Scale bar = 200 μm。

図2. 慢性疼痛時における HMGB1 中和抗体の効果
処置後 21 日目での痛みは HMGB1 中和抗体の投与によって抑制されました。
(本グラフは縦轴が低値を示す方が疼痛を强く発症している结果となります。)
用语説明
※1 HMGB1: High mobility group box-1 の略。タンパク質であり、細胞外において炎症起因物質として作用する。
※2 中和抗体: 標的タンパク質に結合し、その機能を抑制する抗体。
※3 神経障害性疼痛: 癌や物理的傷害による末梢神経および中枢神経の障害や、機能的障害による慢性疼痛疾患の一種