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外界から保护されたスピン流を持つトポロジカル絶縁体の発见

平成25年10月29日

外界から保护されたスピン流を持つトポロジカル絶縁体の発见
~スピントロニクスデバイスへの応用へ弾み~

ポイント

  • 固体内部に隠され、外部の影响から保护されたスピン流を持つ物质の存在を実験的に証明
  • 世界最高水準のスピン?角度分解光电子分光装置と広岛大学放射光科学研究センターの高辉度放射光源を利用した、深さ敏感测定による成果
  • トポロジカル絶縁体を用いたスピントロニクスデバイスの実用化に有力な物质として期待

広島大学 放射光科学研究センター(以下「HiSOR」という)の奥田太一准教授を中心とする研究グループは、結晶の内部に保護され、外界からの影響を受けずに流れるスピン流※1を持つ、新しいタイプのトポロジカル絶縁体※2(スピントロニクス材料)を発見しました。本研究では、HiSORの高輝度シンクロトロン放射光※3を用い、測定する電子の深さを制御した世界最高水準の分解能の角度分解光電子分光実験と、新しい原理に基づいた世界最高性能の電子スピン分析器を用いたスピン分解光電子分光※4実験が研究成功の鍵となりました。
この结果は、电子スピンを利用したスピントランジスタへの応用など、トポロジカル絶縁体を用いた今后のスピントロニクスデバイスの実用化に向けて大きな弾みとなることが期待されます。

本研究の成果は、米国の科学雑誌フィジカル?レビュー?レターズ(Physical Review Letters)のオンライン版に掲載される予定です。

鲍搁尝: http://prl.aps.org/
论文名:"Experimental evidence of hidden topological surface states in PbBi4Te7"
着者: T. Okuda, T. Maegawa, M. Ye, K. Shirai, T. Warashina, K. Miyamaoto, K. Kuroda, M. Arita, Z. S. Aliev, I. R. Amiraslanov, M. B. Babanly, E. V. Chulkov, S. V. Eremeev, A. Kimura, H. Namatame, and M. Taniguchi

背景

トポロジカル絶縁体は、固体内部は絶縁体ですが、表面は高い导电性があるという不思议な特性を持つ、近年発见された特殊な絶縁体です。表面を流れる电流は通常の伝导体とは异なり、スピン流(上向きスピンと下向きスピンの割合が偏った电流)が生じるため、スピン流を利用した次世代のエレクトロニクスであるスピントロニクスへの応用が期待されています(参考资料1)。しかし、通常のトポロジカル絶縁体では、スピン流が物质の表面ごく近傍に存在するため、実际にデバイスへ応用する际には、周囲の大気や汚れによる影响を受けやすいという问题がありました(参考资料2)。
今回我々の観测した、铅を含む新しいトポロジカル絶縁体(笔产叠颈4罢别7)は、スピン流を担う电子が最表面より下の、外界からの影响を受けにくい部分に存在する事が理论的に予想されており、実际のスピントロニクス応用への有力な候补物质の一つでした。

研究手法と成果

研究グループは、贬颈厂翱搁の高辉度放射光源を用い、电子を励起する光のエネルギーを変化させる事により、観测する电子の深さを変化させながらスピン?角度分解光电子分光実験を行いました(参考资料3)。その结果、この物质のスピン流を担う电子が最表面ではなく确かに表面より下に隠されており、この物质が外界からの影响を受けずにスピン流を流す事のできる新しいタイプのトポロジカル絶縁体である事を明らかにしました(参考资料4)。

期待される波及効果

これまで発见されているトポロジカル絶縁体は、スピン流が表面に存在するため応用面で问题がありました。今回発见された物质は、スピン流が固体の内部に保护されているため外部からの影响をうけにくく、また内部に保护されていてもスピンが偏ったスピン流を持った物质で有ることがわかりました。このことは本研究物质が、スピントロニクス材料として理想的な性质を持つことを示しています。本研究成果は、スピンを利用した次世代スピントロニクスデバイスの开発に、さらなる広がりと新たな展开を与えるものと期待されます。

参考资料

1. トポロジカル絶縁体の性質
通常の絶縁体では固体内部に电流を流す事のできないエネルギーギャップが有るため电流は流れません。しかしトポロジカル絶縁体では固体の表面にスピンの偏った电流(スピン流)が流れると言う特殊な性质が有ります(左図)。スピントランジスタなど、このスピン流を使ったスピントロニクスデバイスへの応用が期待されています(右図)。

1. トポロジカル絶縁体の性質

2. 外界からの影響を受けるスピン流
これまで见つかっているトポロジカル絶縁体では、スピン流は、固体の最も外侧の表面を流れるため、大気などによる表面の汚れの影响を受け、その性质が変化してしまうと言う问题が有りました。今回测定を行った笔产叠颈4罢别7という物质では、スピン流を担う电子が表面の下に存在する事が理论的に予想され、外界からの影响を受けないスピン流が存在する事が期待されていました。

2. 外界からの影響を受けるスピン流

3.スピン?角度分解光电子分光と深さ分解测定
固体内部の电子は光で励起する事により真空中に取り出すことができます。(光电効果)真空中に飞び出して来た电子(光电子と呼ぶ)のエネルギーと飞び出す角度を光电子分析器で観测する事により固体内部の电子の束缚エネルギーと运动量が分かります。さらに、スピン検出器を用いるとその电子のスピンが上向きなのか下向きなのかも知ることができます。このような実験手法をスピン?角度分解光电子分光法とよび、固体内部の电子の性质を完全に知る事が出来る実験手法です(左図)。
一方、电子はそのエネルギーにより固体内部を移动できる距离が异なります(右図)。従って励起する光のエネルギーを変化させると、固体の奥深くの电子を観测したり、ごく表面の电子だけを観测したりすることができます。この性质を利用する事により测定する深さを制御した光电子分光测定を行うことができます。

3.スピン?角度分解光电子分光と深さ分解测定

4. 測定結果
光のエネルギーを22别痴にした表面に敏感な条件(左)と光のエネルギーを8.4别痴にした固体内部に敏感な条件(中)で観测した角度分解光电子分光测定の结果です。破线で示した直线の状态がスピン流を担う电子の状态です。表面に敏感な条件では水色の破线で示したスピン流を担う电子の状态が一つだけ観测されますが,固体内部に敏感な条件ではそれに加え白い破线で示したもう一つのスピン流を担う电子の状态が観测されているのが分かります。この结果は、表面に敏感な条件では见えない固体内部を流れるスピン流がこの物质には存在し、固体内部に敏感な条件でのみ初めて観测できる事を示しています。
これらのスピン流を担うと思われる电子の状态が本当にスピンが偏った状态かどうかを确认する為にスピン?角度分解光电子分光を行った结果が右端の図で、右に运动する电子(运动量が正)と左に运动する电子(运动量が负)の状态ではスピンの向きが下向き(青)と上向き(赤)にきれいに分离されていることがわかります。

4. 測定結果

用语説明

※1 スピン流
电子の自転に由来した磁石の性质のことをスピンと呼びます。自転の方向に対応して、电子には上向きスピンと下向きスピンの2种类の状态があります。通常の物质中を流れる电流では上向きスピンと下向きスピンの数は同数であり、全体としてはスピンの性质は表れてきません。しかし特殊な状况では、上向きスピンの数と下向きスピンの数がアンバランスとなり、どちらか一方の影响が大きく表れる场合が有ります。このような上向きと下向きのスピンの数が偏った电子の流れをスピン流と呼びます。

※2 トポロジカル絶縁体
近年理论的に予测され、実験的にただちに検証が行われた新しい絶縁体で、固体内部は絶縁体の性质を示しますが、表面には高速に动く事のできる伝导电子が存在する物质です。トポロジカル絶縁体ではその电気伝导を担う电子のスピンが理论的には完全に偏っており、右向きに动く电子と左向きに动く电子ではスピンの向きが正反対になっています。従ってトポロジカル絶縁体はスピン流を流す為に非常に有効である事が予想され、电荷だけでなくスピンの情报も利用した新しいエレクトロニクスとして注目されるスピントロニクスのデバイスに応用されることが期待されています。

※3 シンクロトロン放射光
电子を光とほぼ等しい速度まで加速し、电磁石によって进行方向(电子轨道)が曲げられた时に电子轨道の接线方向に放射される强い光のことです。贬颈厂翱搁では、真空紫外から软齿线の领域の波长の光を利用して、世界最高水準の精密な角度分解光电子分光実験を行うことができます。

※4 スピン?角度分解光電子分光
结晶の表面に紫外线を照射して、光电効果により结晶外に放出される电子(光电子と呼ばれます)のエネルギーと运动量を同时に测定する実験手法を角度分解光电子分光と呼びます。さらに、电子の持つスピン自由度も観测する実験手法をスピン?角度分解光电子分光と呼びます。この方法により、固体中の电子のエネルギーと运动量の関係(これをバンド分散といいます)を、电子のスピンの状态を分けて観测することができます。精密に観测された微视的なバンド分散から、磁性体の性质をはじめ电子のスピンの性质により表れる様々な物质の性质を明らかにすることができます。

本件に関するお问い合わせ先

【研究内容に関するお问い合わせ先】

国立大学法人 広島大学 放射光科学研究センター

准教授 奥田 太一 (おくだ たいち)

Tel: 082-424-6293 Fax:082-424-6294

E-mail: okudat*hiroshima-u.ac.jp

【記者会見に関するお问い合わせ先】

国立大学法人 広島大学 学術?社会産学連携室 広報グループ

新藤季奈(しんどう きな)

TEL:082-424-4518 FAX:082-424-6040

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(贰-尘补颈濒の*は半角蔼に置き换えてください。)


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