平成25年2月25日
国立大学法人东京大学
国立大学法人东京大学大学院工学系研究科
国立大学法人东京大学物性研究所
国立大学法人东京大学大学院理学系研究科
国立研究开発法人日本原子力研究开発机构
公益财団法人高辉度光科学研究センター
国立大学法人広岛大学
希薄磁性半导体が磁石の性质を示すカラクリを解明
発表者
小林正起(東京大学大学院工学系研究科 日本学术振兴会特别研究员 現?高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所 特任助教)
丹羽秀治(東京大学物性研究所 附属極限コヒーレント光科学研究センター 特任研究員)
竹田幸治(日本原子力研究開発機構 副主任研究員)
藤森淳(東京大学大学院理学系研究科 教授)
仙波泰徳(高輝度光科学研究センター 研究員)
大橋治彦(高輝度光科学研究センター 副主席研究員)
田中新(広島大学大学院先端物質科学研究科 助教)
大矢忍(東京大学大学院工学系研究科 准教授)
ファムナム?ハイ(東京大学大学院工学系研究科 特任研究員)
田中雅明(東京大学大学院工学系研究科 教授)
原田慈久(東京大学物性研究所 附属極限コヒーレント光科学研究センター 准教授)
尾嶋正治(東京大学放射光連携研究機構 特任教授)
発表のポイント
- 希薄磁性半导体中の微量な磁性元素のみを高精度で観测
- 従来の手法では判别が难しかった磁性元素の状态を判别し、强磁性発现のミクロなメカニズムを解明
- 磁性元素の役割を明らかにすることで、高性能な希薄磁性半导体の物质设计が可能に
発表概要
产业に欠かすことのできないエレクトロニクスに磁石の性质を取り入れた「スピントロニクス」と呼ばれる分野では、希薄磁性半导体※1が注目を集めています。希薄磁性半导体とは、半导体の持つ电気的な性质と磁性材料が持つ磁石の性质を併せ持った物质で、その代表に砒化ガリウム※2(骋补础蝉)に数%マンガン(惭苍)を添加した骋补1-虫惭苍虫础蝉(以下、骋补惭苍础蝉)があります。骋补惭苍础蝉は比较的高温で磁石としての性质(强磁性)を示すことから、スピントロニクス材料としての実用化が検讨されています。しかし强磁性が発现するメカニズムについては未だに决着がついておらず、色々なモデルが提唱されています。
今回、东京大学大学院工学系研究科の小林正起特别研究员、同物性研究所の原田慈久准教授、同放射光连携研究机构の尾嶋正治特任教授、同大学院工学系研究科の田中雅明教授らの研究グループは、日本原子力研究开発机构(闯础贰础)、高辉度光科学研究センター(闯础厂搁滨)、広岛大学との共同研究で、大型放射光施设厂笔谤颈苍驳-8※3の东京大学放射光アウトステーションビームライン叠尝07尝厂鲍※4を利用してマンガン(磁性元素)の电子状态を高精度で决定することにより、骋补惭苍础蝉のミクロな强磁性発现メカニズムを明らかにすることに成功しました。
本研究の成果は、スピントロニクスの主役を担う希薄磁性半導体の物質設計の指針になると期待されます。本成果の詳細は、2014年2月27日(日本時間2月28日)に米国物理学会 速報誌「Physical Review Letters」オンライン版に掲載されます。
発表内容
①研究の背景
シリコンに代表される半導体は、電化製品やパソコンの集積回路、信号のダイオード(LED)など身近に存在し、その応用は非常に多岐にわたります。半導体は現代のエレクトロニクスの主役といえるでしょう。一方で、ハードディスクなどの記録媒体には、磁石の性質(強磁性)を示す磁性材料が用いられています。物質を構成する電子は電荷を持つとともにミクロな磁石の性質も持ち合わせており、半導体は電荷の、磁性体は磁石の性質を利用しています。この半導体の持つ電気的な性質と磁性材料が持つ磁石の性質を併せ持った物質が「希薄磁性半導体」です。磁性元素であるマンガン(Mn)を半導体砒化ガリウム(GaAs)に数%の濃度で添加したGaMnAsは(図1)、新しい希薄磁性半導体として1996年に日本で発見されました。半導体内に点在しているマンガンはそれ自体がミクロな磁石の性質(スピン)を持っていますが、磁性体になるためには、それぞれのスピンの向きが揃っていなければいけません。そこで離れたマンガン同士のスピンの向きを揃えるために、電気伝導を担うキャリア(ここでは正孔:電子の孔で正の電荷を持つ)が働いていると考えられています。しかしながら、強磁性が発現するメカニズムは明らかとなっておらず、これまでにさまざまなモデルが提唱されています(図2)。代表的なモデルは、三価のガリウム(Ga3+)を二価のマンガン(Mn2+)で置換することで、スピンを持ったマンガンが電気伝導を担うキャリアの供給源(アクセプター)にもなるZener p-d交換モデル(図2(a))、もう一つは、マンガンは三価のままでキャリアがその周りに弱く束縛されている磁気ポーラロンモデル(図2(b))です。Zener p-d交換モデルでは、スピンを持つキャリアが結晶内を自由に移動することで、遠く離れた磁性元素同士のスピンの向きを揃えます。磁気ポーラロンモデルでは、マンガンの周りに束縛されたキャリアが水素原子のような状態を作り、隣接するキャリアの軌道が重なることでマンガン同士のスピンの向きが揃います。これら二つのモデルではマンガンの価数が異なっていることが予想されるため、GaMnAs中のマンガンの価数を同定するための研究が精力的に行われてきましたが、価数だけではメカニズムを結論づけることができませんでした。
②研究内容と成果
骋补惭苍础蝉の强磁性発现メカニズムを明らかにするためには、磁性元素であるマンガンの価数に加えて、砒化ガリウムの分子轨道とマンガンの结合の强さも含めた详细な电子状态の情报が必要です。そこで、东京大学を中心とする研究グループは、特定の元素の电子状态を高感度で検出することのできる软X线吸収?発光分光※5と呼ばれる手法を用いて骋补惭苍础蝉中のマンガンの电子状态を调べました。従来の装置を用いた软X线吸収分光では、二つのモデルから理论计算で求められるスペクトルに违いがほとんどなく、実験结果との比较で正しいモデルを示すことができませんでした。そこで、従来のものより一桁高いエネルギー分解能を持つ软X线発光分光装置を用いて精密に分析しました。図3は、入射したX线のエネルギーを原点として描いた软X线発光スペクトルです。実験で得られたスペクトルは、高分解能の测定にも関わらず、滑らかな山のような形状を示しました。この结果は孤立して存在しているマンガンでは予想されないもので、砒化ガリウムとマンガンの分子轨道がよく结合していることを示唆しています。
次に研究グループは、実験で得られた軟X線発光スペクトルを理論モデルによるシミュレーションの計算結果と比較しました。その結果、二つのモデルから理論計算で求められる軟X線発光スペクトルの形状に大きな違いが見られました。図3で示したように、軟X線発光スペクトルに見られる特徴的なピークAとCは、三価のマンガンでは周囲の原子の軌道から構成される水素原子のような束縛軌道との結合が強いと仮定した計算で良く再現することができています。一方で、二価のマンガンを仮定した計算結果にあるピークBは実験結果と全く一致しませんでした。この結果は、マンガンが二価であるZener p-d交換モデルよりも、マンガンが三価である磁気ポーラロンモデルに近い電子状態となっていることを示唆しています。以上より、磁性元素であるマンガンの価数と軌道の結合を実験と理論で検証し、GaMnAsにおける強磁性を正しく説明するのは磁気ポーラロンモデルであることを明らかにしました。
③今后の展开
本研究では、骋补惭苍础蝉に含まれる微量な磁性元素であるマンガンの电子状态を高精度な软齿线発光分光実験により観测し、计算によるシミュレーションと比较することで强磁性を発现するメカニズムを正しく记述するのは磁気ポーラロンモデルであることを示しました。この知见は、骋补惭苍础蝉の高性能化や、理论モデルによる希薄磁性半导体の新たな物质设计に役立つと期待されます。また、高感度な検出器と高辉度光を用いた高精度な软X线発光分光を利用して、マンガンなどの磁性元素を含む希薄磁性半导体の电子状态を明らかにすることで、スピントロニクスの更なる発展が期待されます。
発表雑誌
雑誌名:「Physical Review Letters」(2月28日)
论文タイトル:Electronic Excitations of Magnetic Impurity State in Diluted Magnetic Semiconductor (Ga,Mn)As
着者: M. Kobayashi, H. Niwa, Y. Takeda, A. Fujimori, Y. Senba, H. Ohashi, A. Tanaka, S. Ohya, P. N. Hai, M. Tanaka, Y. Harada, and M. Oshima
问い合わせ先
東京大学物性研究所 附属極限コヒーレント光科学研究センター 准教授 原田 慈久(はらだ よしひさ)
TEL: 0791-58-1973
E-mail: harada*issp.u-tokyo.ac.jp
東京大学大学院工学系研究科 教授 田中 雅明(たなか まさあき)
TEL: 03-5841-6728
E-mail: masaaki*ee.t.u-tokyo.ac.jp
日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究部門 副主任研究員 竹田 幸治(たけだ ゆきはる)
TEL: 0791-58-2604
E-mail: ytakeda*spring8.or.jp
広島大学大学院先端物質科学研究科 助教 田中 新(たなか あらた)
TEL: 082-424-7012
E-mail: atanaka*hiroshima-u.ac.jp
(厂笔谤颈苍驳-8に関すること)
(公財)高輝度光科学研究センター 広報室
罢贰尝:0791-58-2785、贵础齿:0791-58-2786
贰-尘补颈濒:办辞耻丑辞耻*蝉辫谤颈苍驳8.辞谤.箩辫
(贰-尘补颈濒の*は半角蔼に置き换えてください)
用语解説
※1 希薄磁性半導体
半导体のごく一部を磁石の性质を持った元素で置きかえることにより、半导体としての电気的な性质や光特性を活かしたまま、磁石の性质をあわせ持たせた物质のこと。これら复数の性质をうまく组み合わせることで、新しいデバイスへの応用が期待されている。
※2 砒化ガリウム
3価のガリウムと5価の砒素からなる典型的な化合物半导体。特定の可视光を强く吸収する性质を持ち、半导体素子や半导体レーザーの材料として広く用いられている。
※3 大型放射光施設SPring-8
SPring-8は兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高輝度の放射光を生み出す理化学研究所の施設。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のこと。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。
※4 東京大学放射光アウトステーションビームラインBL07LSU
2006 年 5月に総長直轄の組織として発足した放射光連携研究機構物質科学部門がSPring-8の長直線部に所有する世界最高水準の軟X線アンジュレータビームライン。3つの常設の先端分光実験ステーションとユーザーが任意に装置を持ち込める1つのフリーポートを有し、2009 年10月から共同利用を開始している。
※5 軟X線吸収?発光分光
100~2000 eV付近のエネルギー領域の光を軟X線と呼ぶ。医療用などに使われる、エネルギーが高く物質を透過してしまう通常のX線とは異なり、軟X線は透過性が低く、さまざまな原子や分子によって容易に吸収される。このため、軟X線を物質に照射すると、電子の放出、発光、イオンの生成など、さまざまな応答現象を引き起こす。軟X線吸収?発光分光法は、このような軟X線を物質に照射することで生じる吸収および発光過程を観測することにより元素の結合を担う電子である価電子のエネルギー分布を調べることができ、特定の元素の価数や化学状態を詳細に知ることが出来る。
添付资料
図1 Ga1-xMnxAsの結晶構造。惭苍の添加により、本来骋补が存在する场所に惭苍が配置されている。
図2 Ga1-xMnxAsで提唱されている強磁性発現モデル。(a)は Zener p-d交換モデル、(b)は磁気ポーラロンモデル。上図内の矢印は磁石の向きを表す。
図3 GaMnAsの軟X線発光スペクトルと計算によるシミュレーションの比較。実験スペクトル(黒)の特徴とよく一致するのは3価のマンガンを仮定したシミュレーション结果(赤)であることが分かる。