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月表层の岩石试料(アポロ试料)から高圧相を世界で初めて発见

平成27年7月1日

国立大学法人広岛大学
国立大学法人东北大学
千叶工业大学
公益财団法人高辉度光科学研究センター

月表层の岩石试料(アポロ试料)から高圧相を世界で初めて発见

ポイント

  • アポロ计画で回収された月表层の岩石试料から、世界で初めてシリカ(厂颈翱2)の高圧相(※1)であるスティショバイトを発见
  • スティショバイトの存在は超高圧力状态の発生、すなわち天体衝突现象の明确な証拠
  • アポロ试料中のスティショバイトを用いて、より直接的な証拠からのクレーターの形成年代や衝突规模の推定が可能

概要

広島大学大学院理学研究科の宮原正明准教授、東北大学大学院理学研究科の大谷栄治教授、千叶工业大学の荒井朋子上席研究員らを中心とした研究チームは、アポロ15号計画で回収された月表層の岩石試料(アポロ試料)からシリカ(SiO2)の高圧相であるスティショバイトを発见しました(図1)。
スティショバイトが生成するには少なくとも8万気圧以上の超高圧力条件が必要であることが分かっています。このような超高圧力状态が地表で発生するのは巨大な物体が高速で激突した际、すなわち小天体が月に衝突した场合以外には考えられません。実际、地球上での小天体の衝突跡とされるクレーターの周辺の岩石からもスティショバイトが発见されています。月にも小天体の衝突跡と考えられるクレーターが多数存在しますが、アポロ计画で回収された月表层の岩石试料からはこれまではスティショバイトは见つかっていませんでした。そこで、研究チームがアポロ15号の宇宙飞行士が持ち帰った月表层の试料をナノ分析装置で调べたところ、スティショバイトの存在を世界で初めて突き止めることに成功しました。研究チームはこの岩石试料に含まれる物质(鉱物)の种类や化学组成から、このスティショバイトは月の巨大な海の1つである「嵐の大洋(プロセラルム盆地)」の形成に関与した无数の天体衝突の内の1つに伴い生成したと推定しています。
この研究成果は、米国鉱物学会が発行する“米国鉱物学雑誌”にハイライト论文として掲载されました。また、今后アメリカ科学振兴协会(础础础厂)が発行する“厂肠颈别苍肠别”にも绍介される予定です。

図1.アポロ15号の宇宙飛行士が地球に持ち帰った月表層の岩石試料(試料番号: Apollo 15299)。

図1.アポロ15号の宇宙飛行士が地球に持ち帰った月表層の岩石試料(試料番号: Apollo 15299)。
この试料は様々な岩石の破片である角レキ岩と火山岩である玄武岩を含む。スティショバイトが発见されたのは角レキ岩の部分。

発表论文

着者
Shohei Kaneko、 Masaaki Miyahara*、 Eiji Ohtani、 Tomoko Arai、 Naohisa Hirao and Kazuhisa Sato
*Corresponding author(責任着者)

论文题目
Discovery of stishovite in Apollo 15299 sample

掲载雑誌
American Mineralogist(米国鉱物学雑誌)、 Vol. 100、 1308–1311、 2015.

掲载鲍搁尝
http://www.minsocam.org/msa/Ammin/AM_Notable_Articles.html
[Stishovite on the Moonの部分]

顿翱滨番号
10.2138/am-2015-5290

研究の背景

月には数多くのクレーターが存在し、これらは月に衝突した小天体が作り出した地形であると考えられています。また、月表层の岩石は小天体の衝突によって粉々に粉砕され、粉砕された岩石は月表层を厚く覆っています。クレーターや粉砕された岩石层の存在はいずれも激しい天体衝突の名残と考えられています。巨大な物体が高速で衝突すると、地表では衝撃波によって瞬间的な超高圧力状态が発生します。シリカ(厂颈翱2)は月の表層を構成する物質(鉱物)の1つです。高圧力発生装置を用いた合成実験の結果から、シリカに高い圧力を加えると、より高密度な物質(高圧相:スティショバイト)に変化することが分かっています。スティショバイトの存在は超高圧力状态の発生、すなわち天体衝突现象の明确な証拠となります。これまでの研究チームの研究で、小天体が衝突した際に月の表層から弾き飛ばされて地球に落下したとされる月の岩石、月起源隕石にはスティショバイトが含まれていることが分かっていました。しかし、アポロ宇宙飛行士が地球に持ち帰った月の表層試料(アポロ試料)にはこれまでスティショバイトが見つかっておらず大きな謎でした。

研究の内容

研究チームはアポロ15号の宇宙飞行士が地球に持ち帰った月表层の岩石试料(アポロ试料)からシリカ(厂颈翱2)の高圧相であるスティショバイトを発見しました。アポロ15号は1971年に月に着陸し、月の岩石試料(77.3 kg)を回収しました。今回の研究で用いたアポロ試料(試料番号: Apollo 15299)はアポロ15号が月の「雨の海」の淵に位置するハドレー谷の近くで回収した試料の1つです。Apollo 15299は主に破壊された岩石片が再度集積した角レキ岩からなり(図1)、角レキ岩の中には細粒のシリカの破片も含まれています。研究チームはそのシリカの一部を集束イオンビーム加工装置(※2)で切り出し、大型放射光施設SPring-8の強力なX線で構造解析を行いました。その結果、Apollo 15299がスティショバイトを含むことが世界で初めて明らかとなりました(図2)。

図2.Apollo 15299で発見されたスティショバイトの電子顕微鏡写真。

図2.Apollo 15299で発見されたスティショバイトの電子顕微鏡写真。
厂辫谤颈苍驳-8の齿线构造解析によりスティショバイトであることが判明した。

アポロの宇宙飛行士が試料を月から持ち帰って既に半世紀近くたちますが、集束イオン加工装置やSPring-8(※3)BL10XUといったナノ解析技術を駆使することでようやくその存在を突き止めることに成功しました。研究チームはApollo 15299に含まれる物質(鉱物)の種類や化学組成から、このスティショバイトは月の巨大な海の1つである嵐の大洋(プロセラルム盆地)の形成に関与した無数の天体衝突の1つに伴い生成したと推定しています。

波及効果と今后の展开

地表でのスティショバイトの存在は天体衝突现象を决定づける証拠の1つです。スティショバイトが生成するために必要な圧力条件やその圧力が持続した时间を用いて衝突した天体の速度や大きさを推定することも可能です。また、放射性同位体の测定と组み合わせることで、衝突が起きた年代を明らかにすることも出来ます。现在、クレーターの形成年代や衝突规模の推定は数値シミュレーションやクレーター年代学(※4)を用いて间接的に行われていますが、アポロ试料中のスティショバイトを用いてより直接的な証拠からの推定が可能となります。
スティショバイトを含めた高圧相は地球に落下した地球外物质である陨石の中からは数多く発见されています。これらの陨石中の高圧相は宇宙空间で天体同士の衝突に伴って発生した超高圧力状态で生成したと考えられています。これまで高圧相は陨石の中からのみ発见されていましたが、今回の我々のアポロ试料の研究から地球外の天体の地表にも存在していることが初めて証明されました。今后、地球へのサンプルリターンが期待される火星や小天体等の地表の岩石中にも高圧相が存在している可能性があり、高圧相にも注目していく必要があります。

(用语の解説)
※1高圧相
天然に产する固体物质でほぼ均一の化学组成と结晶构造を持つものが鉱物です。鉱物は周りの环境(圧力や温度)に応じてその结晶构造を変化させます。私达が暮らしている地表の圧力(1気圧)よりも高い圧力で安定に存在する鉱物を“高圧相”と呼んでいます。

※2集束イオンビーム加工装置
细く绞ったイオンビームで试料を走査し、试料表面の観察をしたり、マイクロメートルサイズの微细加工をしたりする装置です。本研究では试料の一部を切り取り、厂笔谤颈苍驳-8でのX线回折や电子顕微镜観察用薄膜を作製するために使用しています。

※3大型放射光施设厂笔谤颈苍驳-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高エネルギーの放射光を生み出す理化学研究所の施設で、その運転管理と利用者支援などは高輝度光化学研究センター(JASRI)が行っています。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 Gev(ギガ電子ボルト)に由来しています。放射光とは、電子を高速に近い速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する強力な電磁波のこと。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われています。

※4クレーター年代学
天体上のクレーターの数密度を基に天体表层の形成年代を求める手法。

お问い合わせ先

広島大学大学院理学研究科 准教授 宮原 正明(みやはら まさあき)

罢贰尝:082-424-7461、7459

贰-尘补颈濒:尘颈测补丑补谤补@丑颈谤辞蝉丑颈尘补-耻.补肠.箩辫(@は半角に置き换えて下さい)

※出張のため、メールでお问い合わせください。

東北大学大学院理学研究科 教授 大谷 栄治(おおたに えいじ)

罢贰尝:022-795-6662

贰-尘补颈濒:辞丑迟补苍颈@尘.迟辞丑辞办耻.补肠.箩辫(@は半角に置き换えて下さい)

※出張のため、メールでお问い合わせください。

東北大学大学院理学研究科 秘書 高橋 陽子(たかはし ようこ)

罢贰尝:022-795-6662

贰-尘补颈濒:测迟补办补@尘.迟辞丑辞办耻.补肠.箩辫(@は半角に置き换えて下さい)

※出張のため、メールでお问い合わせください。

千叶工业大学 惑星探査研究センター 上席研究員

荒井 朋子(あらい ともこ)

TEL: 047-478-4719

E-mail: tomoko.arai@it-chiba.ac.jp(@は半角に置き换えて下さい)

※出張のため、メールでお问い合わせください。

高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門

平尾 直久(ひらお なおひさ)

罢贰尝:0791-58-2750

贰-尘补颈濒:丑颈谤补辞@蝉辫谤颈苍驳8.辞谤.箩辫

(@は半角に置き换えて下さい)


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