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藻类のもつ微结晶が光を有効利用する原理解明にせまる

平成27年8月28日

国立大学法人広岛大学
国立大学法人筑波大学
国立研究开発法人科学技术振兴机构

藻类のもつ微结晶が光を有効利用する原理解明にせまる
~磁场で微结晶の向きを揃える新技术で光反射特性を明らかに~

本研究成果のポイント

  • 藻类の细胞外被?外殻结晶(注1)の向きを永久磁石程度の磁场(数百ミリテスラ)で远隔操作する方法を开発しました。
  • この方法を応用して、円石藻(注2)の円石の向きを磁场で制御しつつ分光计测する新手法を开発し、円石が光を効率的に反射する方向を特定することに成功しました。
  • これにより、藻类がバイオミネラリゼーション(生体鉱物形成)(注3)によって円石のような微结晶(注4)を细胞表面に配置することの植物生理学的意义の解明が大きく前进するとともに、マイクロメートル?オーダの微结晶を永久磁石程度の磁场で、非接触かつ任意の方向に向ける技术への応用も期待できます。

概要

国立大学法人広岛大学ナノデバイス?バイオ融合科学研究所の岩坂正和教授、国立大学法人筑波大学生命環境系の白岩善博教授らの研究グループは、藻類の細胞外被?外殻結晶の向きを磁場で遠隔操作する手法を開発し、円石藻のつくる炭酸カルシウムの円盤状の微結晶(円石、ココリス、図1)が光を効率的に反射する方向を特定することに成功しました。
藻类の中には、进化の过程で微结晶を细胞表面に配置するようになったものも多くありますが、その目的は谜につつまれています。特に、植物プランクトンである円石藻がその光合成机能を有効に使うために円石を利用している可能性が推测されてきたにも関わらず、その実験的証明は技术的に难しく、科学的なアプローチはなされていない状况でした。これを解明するために、実験的に実际の円石での光反射の方向依存性を计测する技术开発が望まれていました。

円石藻Emiliania huxleyi(エミリアニア?ハックスレー)の円石は、方解石型炭酸カルシウム微結晶からなる複数の構造体で形成されています。岩坂教授らの研究グループは、その円石が磁場中でもつ反磁性(注5)の磁化率異方性(注6)が駆動力となり、400mT(ミリテスラ)の磁場で円石を回転させて磁力線に対し垂直に並ぶことを発見しました(図2、3)。そして、マイクロメートルサイズの円石を水中で非接触かつ任意の方向に向かせることを、永久磁石程度(数百ミリテスラ)の磁場で実現しました。さらに、これを応用して、円石の配向と光反射の強度分布を調べる手法を開発し(図4)、円石が光を効率的に反射する方向を特定することに成功しました。

この微结晶の光学特性と植物生理学的意义(注7)の関係が解明できれば、藻类バイオエネルギー产生の効率化につながる可能性もあります。さらには、これら微结晶をマイクロ光学材料としてバイオセンサー等へ活用できる可能性もあります。

本研究は、国立研究开発法人科学技术振兴机构の戦略的創造研究推進事業「藻類?水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」研究領域の個人型研究(さきがけ)<広島大学の岩坂正和教授>の一環として行われ、同一研究領域のチーム型研究(CREST)<筑波大学の白岩善博教授>と共同で行ったものです。

本研究成果は、平成27年9月1日午後6時(日本時間)、英国科学誌「Scientific Reports」(オンライン版)に掲載される予定です。

発表论文

著 者
Yuri Mizukawa, Yuito Miyashita, Manami Satoh, Yoshihiro Shiraiwa,
Masakazu Iwasaka*
* Corresponding author(責任著者)
论文题目
Light intensity modulation by coccoliths of Emiliania huxleyi
as a micro-photo-regulator
(マイクロ光学调整素子としてのエミリアニア?ハックスレーの円石による光强度変调)
掲载雑誌
Scientific Reports
doi: 10.1038/srep13577(2015)

背景

藻类の中にはその进化の过程で微结晶を细胞表面に配置するようになったものも多くあり、この微结晶が水中において太阳光を有効利用するために使われているという仮説に兴味がもたれてきました。しかし、この微结晶が太阳光を遮光するのか、レンズのように集光するのかに関しては藻类研究分野での长年の议论にも関わらず、実験によりその谜に迫った研究はなく、いまだ决着がついていません。

一方、岩坂教授らの研究グループは、これまでに、鱼のうろこに含まれるグアニンという核酸塩基の结晶(これにより鱼のうろこがキラキラと光を反射する)が磁场に応答することを见いだし、グアニン结晶板(长さ20μ尘)の光反射特性を磁気で制御することに成功していました。

そこで、この技术を藻类のさらに小さな外被结晶へ応用できるのではないかと着想し、円石藻が身に付けている炭酸カルシウムの微结晶ココリス(図1)が、はたして日伞の役割を持つのか、太阳光の届きにくい海中で光を集めるのか、あるいは両方の机能をもつのか、その光学机能解明に挑みました。

研究成果の内容

今回の手法开発のヒントとなった原理は、万物が磁场にさらされた际にもつ磁性、すなわち反磁性です。一般的に反磁性は非常に弱いため、この特性を利用するには数テスラ以上の强磁场が必要と考えられてきました。しかし、前述の鱼のグアニン结晶の光反射の计测原理をヒントに、マイクロメートルサイズの円石を水中で任意の方向に向かせることができるのではないかと考え、円石藻の円石の光反射特性を明らかにするための新手法开発を进めました。
この結果、円石藻E. huxleyiが形成する円盤状の炭酸カルシウム結晶複合体である円石が、その円盤面の法線方向が磁力線に対し主に垂直となる磁場配向を起こすことを世界で初めて発見しました(図2、図3)。また、微結晶一個が水中で適度なブラウン運動を行う自由度のある条件下では、炭酸カルシウムのカルサイト結晶のc軸(注8)が磁力線に垂直になるような磁気回転運動が400mT以上の磁場下で生じること(図3)を明らかにしました。

これまでの後方光散乱の原理による分光手法では、円石集団の中でランダムな配向状態にある円石の解析しかできませんでした。それに対して、本手法では直径約3 μmの円石一個を磁場で回転させることにより、光反射の強度分布を明らかにすることができます(図4)。その結果、円石の円盤面に平行に入射した光は側方散乱が抑制され、円石の円盤面に垂直に入射した光は強く散乱されることが明らかとなり、円石が光を効率的に反射する方向を特定することに成功しました。

今后の展开

今回の研究成果により、円石藻の表面付近の円石が光を遮蔽する配向角と光を细胞内へ导入しやすくする配向角について、その光波长依存性を検讨することが可能となりました。その结果として、外被?外殻结晶をもつ藻类が、その微结晶をどのように利用しているのかを解明する道を开き、研究が大きく前进しました。さらに、マイクロメートル?オーダの微结晶を永久磁石程度(数百ミリテスラ)の磁场で、非接触かつ任意の方向に向ける技术を、マイクロ光学素子の部品として応用することも期待できます。

参考资料

図1 円石藻Emiliania huxleyi の藻体と円石(ココリス:coccolith)

図1 円石藻Emiliania huxleyi の藻体と円石(ココリス:coccolith)

左図:光学顕微镜写真でみられる藻体表面の円石の様子(写真の右上にモデル図を示す)。
右図:电子顕微镜(厂贰惭)で得られた円石。炭酸カルシウム製の微结晶の复合体である円盘の直径は2~3マイクロメートルであり、その立体的な微细构造を人工的な微细加工技术で作製することは(现时点では)困难である。

図2 円石藻Emiliania huxleyi から遊離した円石の磁場配向

図2 円石藻Emiliania huxleyi から遊離した円石の磁場配向

左図:磁场印加なしでは円盘状の円石が多いが、400尘罢磁场では磁力线(左下写真の左右方向)に対し円盘の半径方向(谤补诲颈补濒方向)が垂直となる円石が増加した。
右図:円石集団の配向角度分布を示し、磁力线に垂直な磁场配向が生じていることを示す。

図3 円石の磁場配向のメカニズム

図3 円石の磁場配向のメカニズム

円石を构成する炭酸カルシウム结晶のパーツのうち、Rユニットとよばれる円盘の半径方向(结晶のc轴方向)に伸びた板の反磁性磁化率异方性に起因する磁気トルクによって、磁场中で回転力が作用する。このc轴に垂直な方向が磁化容易轴と考えられる。

図4 磁場配向した円石集団に対し光を照射し、その反射光の分布を計測する手法。入射光、磁力線、そして観察方向(反射光を測光する向き)の3通りの組み合わせでの測定例を示す。

図4 磁場配向した円石集団に対し光を照射し、その反射光の分布を計測する手法。入射光、磁力線、そして観察方向(反射光を測光する向き)の3通りの組み合わせでの測定例を示す。

用语の解説

注1)细胞外被?外殻结晶
藻类の中でも珪藻や円石藻は藻体(藻类の细胞)の表面にケイ酸成分の殻や炭酸カルシウムの结晶を生成する。この细胞表面の殻や结晶のことをいう。

注2)円石藻
藻类の一种でハプト植物门に属する直径5ミクロン程の植物プランクトン。人类が现在用いている原油?天然ガス?オイルシェールのもととなるバイオマスやドーバー海峡の白い崖に代表される石灰岩をつくった光合成生物と考えられている。また、方解石型炭酸カルシウム结晶製の复雑かつ巧妙な构造の円石(ココリス)を细胞内でのバイオミネラリゼーション机构により形成し、それを细胞表面へと输送してそれを身につけることで知られる。

注3)バイオミネラリゼーション(生体鉱物形成)
生物を构成する细胞のなかで、生物学的な目的に沿って固体成分?结晶がつくられるプロセスのことをいう。

注4)微结晶(生体由来微结晶)
物理化学的に形成するだけでなく、生物が细胞の遗伝情报にもとづいて微细な构造が制御された结晶のことを、ここでは微结晶と呼ぶ。构造ならびに结晶サイズが揃っており、まだ人為的に作成することの困难な构造?サイズの生体由来微结晶も多く存在する。

注5)反磁性
すべての物质は电子をもっており、その电子が外部から侵入する磁场を遮蔽する挙动を示すことにより、反磁性の性质が生まれる。いわゆる磁石の强磁性が磁场に引き寄せられるのとは対照的に、磁场からはじかれる性质をもつ。本研究では微结晶の反磁性が観察されやすい条件を见いだしている。

注6)磁化率异方性
与えられた磁场(外部磁场)に対し、电子のスピンの向きなどが揃い易い方向(磁化が最大となる方向)のことを磁化容易轴いう。反対に、磁化が最小となる方向は磁化困难轴と呼ばれる。この2方向における磁化率の违いのことをいう。反磁性の场合、电子による外部磁场の遮蔽効果が最大になる分子内の方向と、最小になる方向での磁化率の相违のことを指す。

注7)植物生理学的意义
生物のもつ特定のしくみが、光合成活性およびバイオマス产生等の植物细胞内の生化学的プロセスとどのように関连し、それがその生物にとってどのような役割を果たすのかという観点からの説明。

注8)カルサイト结晶の肠轴
方解石の英语名をカルサイトといい、结晶学で结晶轴のひとつを肠轴と呼ぶ。

お问い合わせ先

国立大学法人広岛大学ナノデバイス?バイオ融合科学研究所

教授 岩坂 正和(いわさか まさかず)

罢贰尝&贵础齿:082-424-4372

贰-尘补颈濒:颈飞补蝉补办补*丑颈谤辞蝉丑颈尘补-耻.补肠.箩辫

国立大学法人筑波大学生命環境系 教授 白岩善博(しらいわ よしひろ)

TEL:029-853-4668 FAX:029-853-6614

贰-尘补颈濒:蝉丑颈谤补颈飞补.测辞蝉丑颈丑颈谤.蹿迟*耻.迟蝉耻办耻产补.补肠.箩辫

国立研究开発法人科学技术振兴机构戦略研究推進部

松尾 浩司(まつお こうじ)、川口 哲(かわぐち てつ)、松丸 健一(まつまる けんいち)

TEL 03-3512-3524 FAX: 03-3222-2066

贰-尘补颈濒:辫谤别蝉迟辞*箩蝉迟.驳辞.箩辫

(*は蔼に置き换えてください。)


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