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トポロジカルな电子构造をもつ新しい超伝导物质の発见

平成27年10月9日

国立大学法人东京大学
国立大学法人东京工业大学
国立大学法人広岛大学

トポロジカルな电子构造をもつ新しい超伝导物质の発见
~トポロジカル新物质の探索に新たな指针~

発表者

坂野 昌人 (東京大学大学院工学系研究科  物理工学専攻  博士後期課程  3年)
大川 顕次郎(東京工業大学 応用セラミックス研究所 博士後期課程 2年)
奥田 太一 (広島大学放射光科学研究センター 准教授)
笹川 崇男 (東京工業大学 応用セラミックス研究所 准教授)
石坂 香子(东京大学大学院工学系研究科附属量子相エレクトロニクス研究センター 物 理工学専攻 准教授)

発表のポイント

  • 新规パラジウムビスマス超伝导体(笔诲叠颈2)の电子构造の直接観测に成功。
  • 通常の物质とは异なるトポロジカルな性质(注1)をもつ表面の电子を検出し、その起源を解明。
  • 新しい量子现象や机能が期待されるトポロジカルな超伝导の研究にむけて前进。

発表概要

東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻の坂野昌人大学院生、同研究科附属量子相エレクトロニクス研究センター 物理工学専攻の石坂香子准教授らの研究グループは、東京工業大学応用セラミックス研究所の笹川崇男准教授、広島大学放射光科学研究センターの奥田太一准教授らと共同で、新しい超伝導物質PdBi2がもつトポロジカルな電子構造を実験的に検出するとともに理論的に証明し、トポロジカル超伝導の研究やさらなるトポロジカル新物質の探索にむけて大きく貢献しました。
私たちの身の回りの物质はこれまで电気的性质により金属、半导体、絶縁体、超伝导体などに分类されてきました。ところが近年トポロジー(注2)という数学的概念を电子状态に対して考虑することにより、真空と异なるトポロジカルな性质をもつ「トポロジカル物质」というそれまでにない分类が出现し、物理学、数学だけでなく化学、工学の広い分野にわたり注目を集めています。トポロジカル物质のもつ本质的な特徴として、固体内部とは异なる特殊な电子が表面に存在し、それらが新しい电気的?磁気的机能の担い手となる可能性があるからです。その中でもトポロジカル超伝导体では表面にマヨラナ粒子(注3)と呼ばれる普通の电子とは全く异なる仮説的な粒子が出现することが予言されており、その特异な统计性を利用した新机能デバイスへの応用も期待されています。
今回研究グループは、パラジウム(笔诲)とビスマス(叠颈)で构成される新规超伝导体笔诲叠颈2がトポロジカルな性质をもつ物质であることを明らかにしました。先端的なスピン分解?角度分解光电子分光法(注4)を用いて特异な表面の电子状态を実験的に直接検出するとともに、その表面状态が笔诲叠颈2のもつトポロジカルな性质により出现するものであることを第一原理电子构造计算(注5)により証明しました。本研究成果をもとに、新たな指针に基づくトポロジカル超伝导体の研究やトポロジカル新物质の探索が大きく进展することが期待されます。

本研究成果は、英国科学雑誌『Nature  Communications(ネイチャーコミュニケーションズ)』(10月13日電子版)に掲載される予定です。

発表内容

(1)背景

近年、表面に特殊な电子构造(トポロジカル表面状态)をもつトポロジカル物质が注目を集めています。トポロジカル物质研究の発展は、2005年のトポロジカル絶縁体の予言と、それに続く発见に端を発します。トポロジカル絶縁体は、内部は电気を通さない絶縁体である一方、表面では电気が流れる金属となっており、通常の絶縁体とは异なる新しい絶縁体に分类されます。このトポロジカル表面状态においては、质量ゼロの电子(ディラック电子)が出现するとともにその电子スピン(电子自身がもつ微小な磁石)の向きが电子の运动に垂直な方向にそろっており、これまでにない电気的磁気的机能の创出が期待されています。その后、理论的、実験的研究が进むにつれ、絶縁体に限らず金属や超伝导体においても物质のもつトポロジカルな性质や表面状态が重要视されるようになっています。特に、トポロジカル超伝导と呼ばれる状态においては、その表面状态にマヨラナ粒子と呼ばれる、いまだその存在が未検証な理论上の粒子が出现することが予言されています。トポロジカル超伝导を実现するための物质科学的指针の1つとして、これまでは主にトポロジカル絶縁体に対して化学的に电子をドープしたり强い圧力をかけたりすることによって超伝导体へと変化させる戦略が取られてきました。しかし、このようなチューニングにより得られる超伝导体の种类や质、坚牢さには厳しい制约があり、新たな物质开拓の指针が望まれていました。

(2)研究内容

本研究グループは、トポロジカル絶縁体に手を加えるのではなく、パラジウムとビスマスで构成される超伝导体笔诲叠颈2(図1)に着目しました。良质な结晶を作製して最先端のスピン分解?角度分解光电子分光法を用いることにより、笔诲叠颈2 の电子构造の直接観测に成功し、トポロジカルな性质を理论的に証明するとともにその起源を解明しました。
具体的には、スピン分解?角度分解光电子分光法(図2)により笔诲叠颈2の固体内部と表面状态における电子构造と电子スピンの向きをそれぞれ详细に调べました。観测された表面状态の电子はディラック电子とよく似た特徴を示しており、さらにその运动方向と电子スピンが直交している様子も検出されました(図3)。この结果から、笔诲叠颈2における表面状态がトポロジカル絶縁体表面に现れるものと酷似していることが明らかになりました。しかし、これだけではこの表面状态が真にトポロジカルな性质に由来するものであると証明されたわけではありません。研究グループはさらに第一原理计算により、笔诲叠颈2の电子构造とそれを构成する电子の波动関数を解析しました。この计算结果は実际に観测された电子状态を非常によく再现するとともに、この表面状态がトポロジカル表面状态であることを証明するものとなりました。

(3)今后の展望

本研究により、笔诲叠颈2がトポロジカルな性质と表面状态をもつ超伝导物质であることが明らかになりました。今回の実験では超伝导転移温度(5.3ケルビン)以下での测定を行うことができませんでしたが、冷却性能の高い実験装置やその他の多様な実験手法を用いることにより超伝导状态の详细な観测が可能となります。これにより、现段阶では理论研究が圧倒的に先行しているトポロジカル超伝导の検出や解明を目指す実験が大きく进展する可能性があります。また、本研究で用いた実験?计算手法は新しいトポロジカル物质の探索とその评価の指针を提示するものであり、これまで通常の金属や超伝导体と思われてきた物质の再考も含め、幅広い新物质群の开拓へとつながることが期待されます。

発表雑誌

雑誌名:「Nature Communications」 (平成27年10月13日電子版)
论文タイトル:Topologically protected surface states in a centrosymmetric superconductor β-PdBi2 symmetry(和訳:空間反転対称な超伝導体β-PdBi2におけるトポロジカルに保護された表面状態)
着者:M. Sakano, K. Okawa, M. Kanou, H. Sanjo, T. Okuda, T. Sasagawa, and K. Ishizaka*

注意事项

Nature Communications 誌の規定により、日本時間10月13日(火)午後6時(ロンドン時間:午前10時)以前の公表は禁じられています。

问い合わせ先

东京大学大学院工学系研究科附属量子相エレクトロニクス研究センター

准教授 石坂 香子(いしざか きょうこ)

TEL/FAX:03-5841-6849

E-mail: ishizaka*ap.t.u-tokyo.ac.jp(*は半角@に置き換えてください)

東京工業大学 応用セラミックス研究所

准教授 笹川 崇男(ささがわ たかお)

TEL /FAX: 045-924-5366

E-mail: sasagawa*msl.titech.ac.jp(*は半角@に置き換えてください)

広島大学 放射光科学研究センター

准教授 奥田 太一(おくだ たいち)

TEL:082-424-6293   

贰-尘补颈濒:辞办耻诲补迟*丑颈谤辞蝉丑颈尘补-耻.补肠.箩辫(*は半角@に置き换えてください)

用语解説

注1)トポロジカルな性质
ここでは、トポロジーで分类した际に真空状态と同じ物质を「通常の物质」、异なる物质を「トポロジカルな性质」をもつ「トポロジカル物质」と呼んでいます。

注2) トポロジー(位相幾何学)
连続的に変形できるか否かにより形を分类する数学の学问です。一例としてよく挙げられるのがドーナツとマグカップです。これらはいずれも穴の数が1つであり、连続的に変形させたときに互いに行き来することができるので同じ分类になります。一方で馒头には穴が无いためマグカップやドーナツへと连続的に変形することはできず、异なる分类になります。

注3)マヨラナ粒子
物理学者マヨラナによって提案された电荷を持たない素粒子で、自分自身の反粒子となる特殊な性质をもっています。素粒子物理学でニュートリノとの関连が议论されていますが、マヨラナ粒子の确たる実験的証拠はいまだ提示されていません。

注4)スピン分解?角度分解光电子分光法
物质に光を照射すると、电子(光电子)が试料から真空中へ放出されます。その光电子の运动エネルギー、および脱出角度を调べることによって、物质中の电子のエネルギーと运动量を直接観测できる実験手法です。さらに、スピン検出器を用いて光电子のスピンを测定することにより、物质中の电子スピンの向きを调べることもできます(図2)。物质中の电子の运动量、エネルギーとスピンが分かると、电子构造を完全に理解することができます。

注5) 第一原理電子構造計算
量子力学の基础的な方程式を用いて、物质を构成する原子の种类と位置の情报から电子构造を计算する手法です。结晶构造さえ决まれば非経験的に电子构造を得ることができるため、性质の不明な新物质に対しても威力を発挥します。

添付资料

図1 パラジウムビスマス超伝導体PdBi2の结晶构造と电気抵抗率

図1 パラジウムビスマス超伝導体PdBi2の结晶构造と电気抵抗率
左図は笔诲叠颈2の结晶构造を示しています。パラジウム原子の周りを8个のビスマス原子が囲み、それらが层状に积层した结晶构造を形成します。右図は电気抵抗率の温度依存性です。絶対温度5.3ケルビンにおいて金属状态から超伝导状态に相転移する様子を表しています。

図2 スピン分解?角度分解光電子分光法の概念図

図2 スピン分解?角度分解光電子分光法の概念図
物质に光を照射すると、物质の表面から电子(光电子)が真空中へ脱出します。スピン分解?角度分解光电子分光法は、その光电子の运动エネルギー、脱出角度およびスピンを调べることによって、物质の电子构造を観测できる実験手法です。本研究では、スピンを调べる际に広岛大学放射光科学研究センターの実験装置(贰厂笔搁贰厂厂翱)を用いました。この装置のスピン検出器(痴尝贰贰顿)では鉄の磁石の性质を利用することにより、従来に比べて100倍の効率で光电子のスピンを调べることができます。

図3 スピン分解?角度分解光電子分光で得られた電子構造と電子スピン

図3 スピン分解?角度分解光電子分光で得られた電子構造と電子スピン
左図?中央図は笔诲叠颈2のトポロジカル表面状态を示す角度分解光电子分光の结果です。质量ゼロのディラック电子が示す円锥状の电子构造が见られます。右図は同じ领域のスピン分解?角度分解光电子分光の结果です。上向きスピン(赤)と下向きスピン(青)が电子の运动方向(运动量の符号)と结びついている様子を示しています。


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