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ブラックホール近傍から出る规则的なパターンを持つ光の変动を可视光で初めて捉えることに成功

平成28年1月6日

国立大学法人 京都大学
国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構
国立研究開発法人 理化学研究所
国立大学法人 広島大学

ブラックホール近傍から出る规则的なパターンを持つ光の変动を可视光で初めて捉えることに成功
-ブラックホールの「またたき」を直接目で観测できる机会に期待-

1.背景

齿线连星は、ブラックホールまたは中性子星(主星と呼ぶ)と、普通の星(主系列星:伴星と呼ぶ)がお互いの周りを回っている连星系である。このような天体では、伴星から角运动量を持つガスが主星に向かって流れ込み、降着円盘というガス円盘が形成される。そして、その降着円盘を通してガスが主星に落ち込むと考えられている。降着円盘の状态は、质量降着率という、単位时间あたりに主星にどのくらいのガスが落ち込むかという物理量によって决まると考えられている。天体の明るさ(光度)は、この质量降着率に比例している。

齿线连星の中でも、不定期にアウトバースト(急激な増光现象)を起こす天体を齿线新星という。その内の一つである「はくちょう座痴404星」は、正确に距离がわかっているブラックホールの中では地球に最も近いブラックホールを主星に持つ天体であり、过去の観测から、アウトバースト中に齿线で激しい光度変动を示すことが知られていた。この天体はこれまでおよそ十数年おきに一度という割合でアウトバーストを起こしており、以前のアウトバーストが1989年であったため、2000年顷に再び増光するのではないかと期待が高まっていたが、その时期にアウトバーストの兆候は见られなかった。ところが、2015年6月中旬から7月初旬にかけて、この天体はアウトバーストを起こし、世界中の観测天文学者の関心を集めることとなった。

 

下の図は、ブラックホール齿线连星と、その可视観测のイメージ図である。
(肠)小野英理/京都大学

ブラックホールX線連星と、その可視観測のイメージ図

2.研究手法?成果

手法:可视测光観测(地上)、齿线観测(卫星)
成果: はくちょう座V404星の今回のアウトバーストは、最初、X線バンドにおいてNASAのSwift衛星のBurst Alert Telescope (BAT)検出器によって発見され、後に国際宇宙ステーション(ISS)?「きぼう」船外実験プラットフォームに搭載された全天X線監視装置(MAXI)によってもX線バンドでの増光が確認された。発見後2分30秒後には、私たち、当研究チームが可視光での増光を発見し、世界各地のプロ?アマチュア天文家の協力による大規模な連続測光観測が、京都大学主導で開始された。今回、私たちが研究に使用したのは、これらの可視光およびX線の観測データである。
今回、以前から京大を中心に活動してきた国際変光星観測ネットワークVSNET team(Variable Star Network team), 及びTAOS team(台湾の観測チーム、The Taiwan American Occultation Survey), IKI(ロシア宇宙科学研究所、Space Research Institute of the Russian Academy of Sciences)を通して世界中で行われた大規模な国際協力可視測光観測によって、ブラックホールX線新星のアウトバーストにおいて過去最大となる可視測光データを得た。その結果、アウトバーストの最初から最後まで断続的に、規則的なパターンを持つ激しい短時間変動 (振幅: およそ0.1~2.5[mag]、周期: およそ5[min]~2.5[hours]) が見えていることがわかった。また、Swift衛星によって得られたX線の観測データと可視光の観測データを比較、解析することで、この可視光での変動が、今までX線領域でしか観測されたことのない、アウトバースト時にブラックホール近傍からの放射エネルギーの振動現象を表すものであるということがわかった。つまり、私たちの観測は、ブラックホール近傍から出る光の変動を可視光で初めて捉えることに成功したことになる。また、このような光度変動が、今まで他のX線連星で同じ種類の変動が観測されていたときの光度よりも10分の1以下の、非常に光度が低い時期にも起こっていたことも明らかになった。
 
    

下の図は、はくちょう座とその中のブラックホール连星痴404星の场所を表す
(肠)京都大学

はくちょう座とその中のブラックホール連星V404星の場所を表す

下の図は、変动が激しい时期の可视画像データの比较の図である。
白い丸の中の星がはくちょう座V404星である。およそ30分から一時間おきくらいの時間スケールで明るさが大きく変動していることがわかる。(肠)京都大学

変動が激しい時期の可視画像データの比較の図

下の二つの図は、今回のアウトバーストの光度曲线の一部を表す。横轴は时间、縦轴は等级(上にいくほど明るい)である。上の図ではおよそ2时间おきの规则的な光度(明るさ)の落ち込みが、下の図ではおよそ5分おきの规则的な光度変动が见てとれる。(肠)京都大学

今回のアウトバーストの光度曲線の一部を表す
今回のアウトバーストの光度曲線の一部を表す

3.波及効果

今回の研究における新规性は、主に二つある。

一つは、ブラックホール近傍から出る光の変动であると考えられている激しい规则的な光度変动を、人间が感知できる波长域の光である可视光で初めて発见したことである。一般的に、ブラックホールというものは光さえも吸い込む真っ黒い穴であり、そのような天体からの光を小さな望远镜で直接见ることなど、常识では考えられないことであった。本研究成果は、天文学の研究に携わっていない一般の人々に対しても、ブラックホールのまたたきを、数十センチ程度の望远镜を使えば直接目で観测できる机会があることを示唆するものである。また、今までブラックホール近傍から出る光の振动现象は、ブラックホールに近い领域である降着円盘の内縁部から放射されるエネルギーが齿线领域であるため、齿线でしか観测することができないと思われていた。しかし、私たちの可视测光観测でも齿线で観测されていたのと同様の光度変动を捉えることができたため、ブラックホール近傍の物理现象に、齿线観测よりも観测対象を临机応変に変えられ、费用も安く、国际协力によって长时间観测することが可能な可视観测でもアプローチできることが示された。これは、ブラックホールの研究の新たな境地を切り开くものである。

もう一つの新规性は、本研究によって、今まで考えられてきたよりも10分の1以下と非常に低い光度のときにも、ブラックホール近傍から放射されるエネルギーの短时间の変动现象が起こっていたことが明らかになったことである。ブラックホール近傍から出る激しい光の変动は、今までは齿线连星の光度が高いときにしか観测されておらず、それを説明する理论も、光度が高いことを条件とするものしか提唱されてこなかった。したがって、今回の私たちの観测结果は、今までの天文学的な常识を覆すものである。今のところ光度が低いときに起こる规则的な激しい短时间の光度変动を説明する理论は存在せず、本研究における成果は、これからの齿线连星の研究のさらなる発展を促すものであると言える。さらに、今まで齿线もしくは可视光で激しい短时间変动が観测されているブラックホール连星に共通の性质がないか调べてみたところ、そのどれもが轨道周期(主星と伴星がお互いの星の周りを一周する周期)が长いことがわかった。このことから、ブラックホール连星において、轨道周期が长いことが、激しい短时间変动を引き起こす要因の一つになりうることが示唆される。また、この事実は、今后轨道周期の长いブラックホール连星がアウトバーストを起こした场合、ブラックホールのまたたきを、口径数十センチ程度の小さめの望远镜を通して、私たち人间の目で観察できる机会を与える可能性があることをも意味する。

4.今后の予定

齿线新星のアウトバーストは数十年に一度と非常に稀であり、齿线新星の数も少ないので、観测できる机会も少ない。しかし、齿线新星に似た系で、同じくアウトバーストを起こす天体に矮新星(主星が白色矮星、伴星が普通の星の连星系)がある。このような天体は数も多く、アウトバーストは数十日に一回と频繁に起こっている。齿线新星と矮新星のアウトバーストはどちらも降着円盘における热不安定性によって起こるとされており、この二种类の天体には共通の物理过程が働いているはずである。つまり、矮新星のアウトバーストの観测をすることが、齿线新星で起こっている物理现象を解明することにつながると考えられる。今后は、矮新星についての観测的研究を行い、次に齿线新星のアウトバーストが起こったときに矮新星での研究成果を応用できるよう準备を进めたい。

また、今回の研究は今まで考えられてきた齿线连星における短时间の光度変动を説明する理论に疑问を投げかけるものでもあったため、ブラックホールとその周りの降着円盘に関する理论研究家の方々とも议论を深め、今后のブラックホール天文学の発展を导きたい。

さらに、今后数年以内に本格稼働予定の京都大学冈山3.8尘望远镜や、来年2月に打ち上げ予定の础蝉迟谤辞-贬を用いた齿线连星の観测も视野に入れ、次に齿线新星のアウトバーストが起こったときには、今回のアウトバーストの観测で実现しなかった分光観测など、口径の大きな望远镜の利点を生かした観测も行い、ブラックホール周囲の超强力重力下での极限物理の解明に挑みたい。

论文タイトルと着者

タイトル「Repetitive Patterns in Rapid Optical Variations in the Nearby Black-hole Binary V404 Cygni」

着者: 木邑真理子, 磯貝桂介, 加藤太一, 上田佳宏 (京都大学), 中平聡志 (JAXA), 志達めぐみ (理研), 榎戸輝揚, 堀貴郁, 野上大作 (京都大学), Colin Littlefield (Wesleyan University、アメリカ), 石岡涼子, Ying-Tung Chen, Sun-Kun King, Chih-Yi Wen, Shiang-Yu Wang, Matthew J. Lehner, Megan E. Schwamb, Jen-Hung Wang, Zhi-Wei Zhang (Institute of Astronomy and Astrophysics, Academia Sinica、台湾), Charles Alcock (Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics、アメリカ), Tim Axelrod (University of Arizona、アメリカ), Federica B.  Bianco (New York University、アメリカ), Yong-Ik Byun (Yonsei University、韓国), Wen-Ping Chen (National Central University、台湾), Kem H. Cook (Institute of Astronomy and Astrophysics, Academia Sinica、台湾), Dae-Won Kim (Max Planck Institute、ドイツ), Typhoon Lee (Institute of Astronomy and Astrophysics, Academia Sinica、台湾), Stuart L. Marshall (Kavli Institute for Particle Astrophysics and Cosmology (KIPAC), Stanford University、アメリカ), Elena P. Pavlenko, Oksana I. Antonyuk, Kirill A. Antonyuk, Nikolai V. Pit, Aleksei A.  Sosnovskij, Julia V. Babina, Aleksei V. Baklanov (Crimean Astrophysical Observatory、クリミア), Alexei S. Pozanenko, Elena D. Mazaeva (Space Research Institute of the Russian Academy of Sciences、ロシア), Sergei E. Schmalz (Leibniz Institute for Astrophysics、ドイツ), Inna V. Reva (Fesenkov Astrophysical Institute、カザフスタン), Sergei P. Belan (Crimean Astrophysical Observatory、クリミア), Raguli Ya. Inasaridze (Ilia State University、アメリカ), Namkhai Tungalag (Mongolian Academy of Sciences、モンゴル), Alina A. Volnova, Igor E. Molotov (Space Research Institute of the Russian Academy of Sciences、ロシア), Enrique de Miguel (Universidad de Huelva、スペイン), 笠井潔 (スイス), William L. Stein (アメリカ), Pavol A. Dubovsky (Vihorlat Observatory、スロバキア), 清田誠一郎 (千葉), Ian Miller (イギリス), Michael Richmond (Rochester Institute of Technology、アメリカ), William Goff (ギリシャ), Maksim V. Andreev (Russian Academy of Sciences、ロシア), 高橋弘允 (広島大学), 小路口直冬, 杉浦裕紀, 竹田奈央, 山田英史, 松本桂 (大阪教育大学), Nick James (イギリス), Roger D. Pickard (The British Astronomical Association, Variable Star Section (BAA VSS)、イギリス), Tamás Tordai (Hungarian Astronomical Association、ハンガリー), 前田豊 (長崎), Javier Ruiz (Observatorio de Cantabria、スペイン), 宮下敦 (成蹊気象観測所、東京), Lewis M. Cook (Center for Backyard Astrophysics、アメリカ), 今田明 (京都大学) & 植村誠 (広島大学)

掲载雑誌:狈补迟耻谤别(1月6日18时(ロンドン时间)公开予定)

doi: 10.1038/nature16452

用语解説

「アウトバースト」…天体が突然明るく光る现象。齿线新星の场合、光度がたった数日で100倍以上も明るくなり、その后数十日から数百日かけてゆっくりと元の明るさに戻る。矮新星の场合、数日间で5倍から100倍ほど増光し、十数日から数十日かけて减光する。

主な研究チーム

京都大学:木邑真理子、磯贝桂介、加藤太一、上田佳宏、榎戸辉扬、堀贵郁、野上大作、今田明

JAXA:中平 聡志

理研:志達 めぐみ

広岛大学:植村诚、高桥弘允

<お问い合わせ先>

木邑 真理子(きむら まりこ)

〒606-8502京都府京都市左京区北白川追分町

京都大学大学院理学研究科 宇宙物理学教室 修士課程一年

TEL: 075-753-4283 FAX: 075-753-3897(共用) 携帯番号 : 080-5349-3815

E-mail: mkimura@kusastro.kyoto-u.ac.jp(@は半角に置き换えて送信してください)

 

上田 佳宏(うえだ よしひろ)

京都大学大学院理学研究科 宇宙物理学教室 准教授

TEL:075-753-3902

E-mail: ueda@kusastro.kyoto-u.ac.jp

(@は半角に置き换えて送信してください)

 

中平 聡志(なかひら さとし)

宇宙航空研究開発機構 有人宇宙技術部門 有人宇宙技術センター 開発員

TEL: 050-3362-7817 FAX:  029-868-3956(共用)

E-mail: nakahira.satoshi@jaxa.jp

(@は半角に置き换えて送信してください)

 

志達 めぐみ (しだつ めぐみ)

理化学研究所 グローバル研究クラスタ  MAXI チーム 基礎科学特別研究員

TEL:048-467-9335  FAX: 048-467-9446

E-mail: megumi.shidatsu@riken.jp

(@は半角に置き换えて送信してください)

 

植村誠(うえむら まこと)

広島大学 宇宙科学センター 准教授

罢别濒/贵础齿:082-424-5765

E-mail: uemuram@hiroshima-u.ac.jp

(@は半角に置き换えて送信してください)

 

【広报に関すること】

京都大学企画?情报部広报课

TEL: 075-753-2071 FAX: 075-753-2094

E-mail: kohho52@mail2.adm.kyoto-u.ac.jp

(@は半角に置き换えて送信してください)

 

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 広報部 報道?メディア課

〒101-8008 東京都千代田区神田駿河台4-6御茶ノ水ソラシティB1

TEL. 050-3362-4374   FAX. 03-3258-5051

 

理化学研究所 広報室 報道担当

TEL:048-467-9272   FAX:048-462-4715

贰-尘补颈濒:别虫-辫谤别蝉蝉@谤颈办别苍.箩辫

(@は半角に置き换えて送信してください)

 

広岛大学学术?社会产学连携室広报グループ

TEL:082-424-3701     FAX:082-424-6040

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