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陨石中に超高圧状态を示す特殊なガーネットを初めて発见

平成28年3月23日

国立研究開発法人 海洋研究開発機構
国立大学法人 広島大学

陨石中に超高圧状态を示す特殊なガーネットを初めて発见
~小惑星の衝突プロセスや地球深部のマントル物质を探る新たな键~

1.概要

国立研究開発法人 海洋研究開発機構(理事長 平朝彦、以下「JAMSTEC」)高知コア研究所の富冈尚敬主任技術研究員、伊藤元雄主任技術研究員、及び国立大学法人 広島大学 大学院理学研究科の宮原正明准教授からなる研究グループは、母天体における衝突により高温高圧を経験した隕石中に、超高圧でしか形成されない特殊なガーネットを世界で初めて発見しました。
地球の地殻やマントルには、マグネシウムに富む(惭驳厂颈翱3成分に富む)辉石というケイ酸塩鉱物が豊富に含まれています。惭驳厂颈翱3輝石は16-22万気圧の圧力、1,600-2,400℃の温度で「正方晶ガーネット」と呼ばれる輝石より密度の高い結晶構造に鉱物転移することが、1980年代半ばの高温高圧合成実験により知られていました(Kato and Kumazawa, 1985)。しかし、天然の岩石中に正方晶ガーネットが見つかった例はこれまではありませんでした。
そこで研究グループは、1879年にオーストラリアに落下した陨石に含まれる、衝撃で変成した部分を、闯础惭厂罢贰颁高知コア研究所が所有する超高空间分解能の透过电子顕微镜を用いて详细に解析しました。その结果、惭驳厂颈翱3组成に富む正方晶ガーネットを世界に先駆けて同定し、その存在を明らかにしました。さらに、このガーネットの生成条件は圧力17-20万気圧、温度1,900-2,000℃、衝撃后の冷却速度は1,000℃/秒以上であると推定しました。
今回発见された正方晶ガーネットは、小天体の物性や相互の衝突速度など初期太阳系プロセスを探る重要な键をにぎるほか、地球内部のマントルにも存在する可能性があり、マントルの物性を解き明かす上で大きな役割を担うことが期待されます。研究グループでは、今后、ケイ酸塩鉱物からなる様々な种类の石质陨石について超高圧鉱物とその周辺の鉱物の衝撃组织や元素分布を详しく分析し、小惑星の表层环境変化を调べる研究を进める予定です。
本成果は米国国科学振興協会(AAAS)が発行する科学誌「Science Advances」に3月26日付(日本時間)で掲載される予定です。なお、本研究はJSPS科研費15H03750の助成のもとJAMSTEC高知コア研究所と広島大学大学院理学研究科との連携協定の一環として行われました。

タイトル:Discovery of natural MgSiO3 tetragonal garnet in a shocked chondritic meteorite
着者:富冈尚敬1、宫原正明2、伊藤元雄1
1. 国立研究开発法人海洋研究开発机构 高知コア研究所
2. 国立大学法人広岛大学大学院理学研究科 地球惑星システム学専攻

2.背景

地球の地殻やマントルには、マグネシウムに富む(惭驳厂颈翱3成分に富む)辉石というケイ酸塩鉱物が豊富に含まれています。それらの结晶构造(相)が様々な温度圧力条件下でどのような相に転移するかを知ることは、地球の深部を构成する物质を理解する上で极めて重要です。このため、地球深部に相当する高温高圧条件を実験的につくりだし、その构造変化を探る研究が活発に行われてきました。それにより地球中心核からマントル境界(深さ约2,900办尘)までを构成する鉱物とその结晶构造の推定が可能になりつつあります。
一方で、地球深部の物质を直接手に入れ、构造変化を解明する研究も进められています。しかしながら、ダイヤモンド结晶中に闭じ込められた包有物として、マントル深部起源の鉱物が地表にもたらされた例はあるものの、地下数百办尘もの深さから直接试料を採取することは、大変困难です。
ところが意外なことに、ケイ酸塩の超高圧相の多くは、地球外からもたらされる隕石の中から発見されています。多くの隕石の起源は、小惑星帯と考えられています。その小惑星は地球よりはるかに小さい天体ですが、相互の高速衝突により、非常に短時間に地球深部に相当する高温高圧状態が達成されるためです。 高温高圧実験により確立された相平衡によると、MgSiO3は常温常圧下では輝石の結晶構造をとりますが、1,600℃以上の高温で圧力が上昇すると、正方晶ガーネット相、イルメナイト相、ペロヴスカイト相という順序で構造が変化することがわかっています(図1)。このうち、天然のイルメナイト相、ペロヴスカイト相は、1990年代に隕石中で初めて発見されました(Tomioka and Fujino, 1997)。
こうした超高圧相は、陨石中に微量にしか存在しないため、ねらいをつけた微小な领域を高分解能分析用に加工するには、これまで大きな技术的困难がありました。特に正方晶ガーネット相は、一般的なガーネットと结晶构造が似ているために、微小な粒子からの构造判定には、より慎重な観察と解析が必要です。そのため、正方晶ガーネット相(図2)は、これまで自然界での存在が确认できない「幻の鉱物」として残されてきました。

3.成果

闯础惭厂罢贰颁高知コア研究所と広岛大学の研究グループは、1879年にオーストラリアに落下したコンドライト(※1)と呼ばれる石质陨石の一种「テンハム陨石」(図3)を用いて、正方晶ガーネットの同定に着手しました。落下地点の地名罢别苍丑补尘(テンハム)に由来するテンハム陨石は、カンラン石、辉石、长石といったケイ酸塩鉱物や鉄ニッケル合金、硫化鉄を含んでいます。この陨石の大きな特徴は、试料全体にわたってケイ酸塩鉱物に、割れや変形の组织が见られること、また局所的にも、幅が1尘尘以下程度の黒色の脉状组织(衝撃溶融脉)が网の目状に分布していることです。これらの组织は、テンハム陨石がかつて强い衝撃変成にさらされ、母岩のコンドライトが超高圧下で局所的に溶融したことを示しています。
また、この衝撃溶融脉には母岩のコンドライトに含まれる鉱物の破片が取り込まれ、固体のまま超高圧相に相転移しています(図4)。偏光顕微镜による観察により、コンドライトの破片に含まれる辉石粒子の外縁部が、通常と异なった构造に変化しているらしいことがわかりました(図5)。
そこで、この辉石の外縁部を、数十ナノメートルスケールで微细加工ができる集束イオンビーム加工装置(贵滨叠)(※2)を用いて岩石研磨片から切り出し、厚さ100ナノメートルほどの薄膜にしました。この薄膜を超高空间分解能の透过电子顕微镜(罢贰惭)(※3)を用いて、さらに详しい観察を行いました。
観察した領域は、平均で500ナノメートルほどの微細な粒子から構成されています(図6)。分析の結果、これらの粒子は全て、母岩のコンドライトに含まれる輝石と同じ化学組成 (MgSiO3)を持つことがわかりました。また、高感度の颁颁顿カメラを用いて、个々の粒子から电子线回折像(※4)を撮影したところ、地表の岩石にみられる一般的なガーネット(アルミニウムに富む)が持つ立方晶の结晶系(※5)では観察されない、特定の结晶面からの微弱な反射が存在することが明らかになりました(図7)。この反射はテンハム陨石中のガーネットが正方晶であることを示しています。
前述の高温高圧実験により确立された惭驳厂颈翱3の状态図(図1)を元に、化学组成や溶融温度も考虑すると、テンハム陨石に発见された正方晶ガーネットが结晶化した条件は、圧力17-20万気圧、温度1,900-2,000℃と推定されます。また、正方晶の结晶系でのみ现れる结晶面の反射强度(図7の叁角で示した辉点)を超高圧合成した正方晶ガーネットと比较することで、衝撃溶融脉が1,000℃/秒以上という极めて高い速度で冷却したことも明らかになりました。
衝撃で発生する圧力は物体の衝突速度に比例します。正方晶ガーネットの形成圧力から见积もると、テンハム陨石の母天体は、约2办尘/秒の相対速度で他の天体と衝突をしたことがわかりました。割れ目で生じる局所的な摩擦热があるため、衝撃による温度上昇のプロセスは圧力の上昇と比べると复雑ですが、基本的に衝突速度や元々の陨石物质の柔らかさ(空隙の割合など)が大きいと、衝撃で発生する陨石の平均的な温度は高くなります。しかし、温度が上がりすぎると、衝突后も长い时间热が残ります。テンハム陨石の母天体をつくる物质の硬さや衝突の速度は、形成された超高圧相が残留热により常圧で安定な元の辉石に戻ってしまわない、絶妙なバランスであったといえます。

4.今后の展望

陨石に微量に含まれるアルゴンという元素の同位体の比率を质量分析法で测定することで、陨石母天体の衝突年代を求めることができ、アメリカの研究グループを中心に分析が进められています。陨石ごとに鉱物学的?年代学的なデータが蓄积されれば、太阳系小天体が形成されたころの物性、衝突速度、衝突频度の时间変迁が明らかになっていくと期待されます。
また、惭驳厂颈翱3组成に富むガーネットは地球外物质としてだけでなく、地球のマントル迁移层(地下400-660办尘)の主要鉱物と考えられています。マントルの惭驳厂颈翱3ガーネットにはアルミニウム、カルシウム,鉄などの副成分が含まれます。このような复雑な化学组成でガーネットがどのような结晶系をとるかは、まだ详细に検讨されていませんが、マントル迁移层にも正方晶ガーネットが存在しているかもしれません。その场合、その结晶系の违いがマントルの弾性的性质などの物性に影响を与えている可能性があります。
研究グループでは今后、様々な种类の石质陨石について超高圧鉱物とその周辺の鉱物の衝撃组织や元素分布を详しく分析し、小惑星の表层环境変化を调べる研究を进める予定です。得られた知见は、国际深海科学掘削计画(滨翱顿笔)により2016年の4~5月にメキシコ湾で行われる、チュクシュルーブ陨石孔掘削の试料の衝撃履歴の研究にも応用されます。
本研究に用いた分析?加工装置は、试料から目的の微小领域をピンポイントで取り出し、ナノメートルスケールで结晶学的、化学的データを取得することができる最新のシステムです。この技术は、闯础惭厂罢贰颁が运用する地球深部探査船「ちきゅう」が採取する大深度掘削试料のように、微量で希少な试料の分析に非常に有効です。また、国立研究开発法人宇宙航空研究开発机构(闯础齿础)と连携して準备を进めている小惑星探査机「はやぶさ2」による小惑星表层试料の分析にも、重要な役割を果たすことが期待されます。

用语解説

※1 コンドライト:コンドリュールという地球外物質に特有な球形の鉱物集合体を含む隕石。

※2 集束イオンビーム加工装置(FIB):数百ナノメートルから数ナノメートルに絞ったガリウムイオンビームを試料表面に照射してはじき飛ばすことで、試料の極微細加工ができる装置。近年、透過電子顕微鏡用の薄膜試料を作成する目的で、地球惑星科学分野で急速に普及している。(写真は高知コア研究所のFIB。透過電子顕微鏡用の超薄膜試料を作成しているところ。)

高知コア研究所のFIB

※3 透過電子顕微鏡(TEM):薄膜化した試料に電子線を照射し、透過あるいは回折した強度から、ナノメートル(1メートルの10億分の1)以下のスケールで微細組織や結晶の構造を解析できるタイプの電子顕微鏡のこと。電子線照射により試料から発生したX線を分光し、微小領域の元素分析も行うことができる。(写真は高知コア研究所のTEM)

高知コア研究所のTEM

※4 電子線回折像:単一の波長を持った電子線を結晶に照射すると、結晶が持つ結晶面それぞれの角度で回折(ブラッグ反射)が生じる。それぞれのブラッグ反射は、結晶の構造と化学組成により、その強度が変化する。

※5 結晶系:結晶は単位格子と呼ばれる構造単位が3次元的に繰り返されてできている。単位格子の形の区別を結晶系という。単位格子が立方体をしているものは立方晶、一辺の長さが違う正四角柱の形を持つものは正方晶と呼ばれる。(厳密には格子の形だけでなく、原子の位置に基づく対称性も異なる)。

お问い合わせ先

(本研究について)

国立研究开発法人海洋研究开発机构

高知コア研究所 同位体地球化学研究グループ

主任技術研究員 富岡 尚敬 電話:088-878-2210 E-mail:tomioka@jamstec.go.jp

 

(报道担当)

国立研究开発法人海洋研究开発机构

広報部 報道課長 松井 宏泰 電話:046-867-9198

国立大学法人広岛大学

学術?社会産学連携室 広報グループ 孫 雅琳 電話: 082-424-6781

図1 惭驳厂颈翱3の状態図(Gasparik, 1990の図を改変)

図1 惭驳厂颈翱3の状態図(Gasparik, 1990の図を改変)。高温高圧でどのような结晶构造が安定かを示した図。青色で示した领域が、テンハム陨石中の正方晶ガーネットが形成された温度圧力条件。赤い点线はコンドライト陨石全体が溶融する温度を示す。

図2 ガーネットの結晶構造

図2 ガーネットの结晶构造。多面体の顶点には酸素イオンが位置している。一般的な立方晶のガーネットでは、6配位位置(6つの酸素イオンに囲まれた8面体中央の位置)はアルミニウム(青色)だけで占められる。一方、正方晶ガーネットの构造では、6配位位置はマグネシウムが含まれるもの(緑色)と、ケイ素が含まれるもの(水色)の2种类に分かれることで、立方晶の构造に歪みが生じ(肠の方向がわずかに缩む)正方晶となる。

図3 テンハム隕石中の薄片写真

図3 テンハム陨石中の薄片写真。黒色の脉(衝撃溶融脉)が网の目状にはりめぐらされている。试料の横幅は21尘尘。

図4 テンハム陨石中の衝撃溶融脉の走査电子顕微镜写真

図4 テンハム陨石中の衝撃溶融脉の走査电子顕微镜写真。鉄?硫黄?ニッケルからなる丸い粒子が多数含まれる脉状部分は、衝撃圧缩时に高圧下で约2000℃まで温度が上昇し溶融した。溶融脉の中には、溶け残った母岩鉱物が取り込まれて超高圧相に転移している。笔虫:辉石、厂辫:カンラン石(惭驳2SiO4)高圧型のスピネル相、贵滨叠:透过电子顕微镜観察のため、贵滨叠で微细加工した正方晶ガーネットを含む领域。

図5 衝撃溶融脉に取り込まれた岩片の偏光顕微镜写真

図5 衝撃溶融脉に取り込まれた岩片の偏光顕微镜写真。(上)上方偏光板なし。(下)上方偏光板あり。偏光板を入れると辉石とその外縁部の光学性が异なって见え、相転移が起こっていることがわかる。

図6 テンハム陨石中の正方晶ガーネットの粒子集合体の透过电子顕微镜(罢贰惭)写真

図6 テンハム陨石中の正方晶ガーネットの粒子集合体の透过电子顕微镜(罢贰惭)写真。母岩中の辉石(化学组成は惭驳厂颈翱3)が高温高圧下で固体のまま相転移(高密度化)して形成されたもの。

図7 正方晶ガーネットの电子线回折パターン

図7 正方晶ガーネットの电子线回折パターン。それぞれの点は各结晶面(数字は结晶面の种类を示す)からの电子线の反射を示している。右の拡大図の叁角で示された微弱な反射が、通常のガーネット构造(立方晶)からの歪に起因しており、正方晶ガーネット同定の决め手となった。


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