平成27年11月17日
主発表者:公立大学法人 名古屋市立大学大学院 システム自然科学研究科 准教授 青柳 忍
発表者:公益財団法人 高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 研究員 大沢仁志
研究員 杉本邦久
国立大学法人 広島大学大学院 理学研究科 准教授 森吉千佳子
教授 黒岩芳弘
(文部科学记者会?科学记者会?中部経済产业记者会?名古屋教育医疗记者会?名古屋市政记者クラブ?大阪科学?大学记者クラブ?兵库県政记者クラブ?中播磨県民局记者クラブ?西播磨県民局记者クラブ?広岛大学関係报道机関と同时発表)
「水晶振动子の振动机构を世界で初めて解明!」
~原子の运动を1ナノ秒の时间分解能でストロボ撮影~に関する研究発表について
名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科の青柳忍 准教授は、高輝度光科学研究センターの大沢仁志 研究員、広島大学大学院理学研究科の黒岩芳弘 教授らと共同で、世界で初めて水晶振动子の振动中の原子の运动を详细に追跡することで、水晶振动子の振动机构を解明しました。この研究成果は、米国物理学協会が出版する「Applied Physics Letters」(アプライド?フィジックス?レターズ)誌に掲載されます。出版に先立って、オンライン版が11月18日午後1時(米国東部時間)にインターネットのホームページ上に公開されます(http://scitation.aip.org/content/aip/journal/apl)。
水晶振动子は、电子回路の正确な动作の基準となる电気信号を発振する素子として、时计など身の回りのさまざまな机器に広く利用されていますが、水晶の详しい振动机构は长い间不明でした。水晶内の极めて高速かつ微小な原子の运动を追跡することが、これまで技术的に困难だったためです。今回、大型放射光施设厂笔谤颈苍驳-8の叠尝02叠1における高辉度短パルス齿线を利用した新しい构造计测手法を用いることで、毎秒3千万回(周波数:30 MHz)振動している水晶振動子の原子の運動を、高精度に追跡することに成功しました。その结果、水晶振动子の安定した振动は、酸素原子がケイ素原子との共有结合に垂直な方向に弾性的に微小変位することで引き起こされ、この原子変位に伴う电気分极の発生が、力学的エネルギーを効率的に电気的エネルギーに変换することが分かりました。
本研究で解明された水晶振动子の振动机构は、力学的なエネルギーと电気的なエネルギーとを相互に変换する効率的なエネルギー変换机构の一つとして、今后、新しいエネルギー変换材料やエネルギー変换技术の研究开発に応用できます。
内容の详细
研究の背景
水晶(石英、厂颈翱2)は、地球上に豊富に存在するケイ素(Si)と酸素(O)から成り、天然に産出する鉱物としてよく知られています。水晶は圧電性(※1)を有し、極めて安定した周波数の電気信号を発振することから、時計などさまざまな電子機器の動作に必要な基準信号を発する振動子として広く産業利用されています。例えば、時計に使われる水晶振動子は、毎秒正確に32,768(= 215)回振動します(周波数:32,768 Hz)。水晶がどのようにしてこのような安定した周波数の電気信号を発振できるのか、その詳しい振動機構は長い間不明でした。
古くより水晶の圧电性は、プラスの电気を帯びたケイ素阳イオンとマイナスの电気を帯びた酸素阴イオンの逆方向の変位により、変形と同时に电気分极(※2)を発生することで説明され続けてきました(図1)。しかし、ケイ素原子と酸素原子はイオンではなく共有结合(※3)によって强く结合しているため、自由に动けるわけではありません。また产业利用されている水晶振动子では厚みすべり変形を利用しますが(図2)、この変形は図1の単纯なイオンの変位だけでは説明できません。水晶の振动机构を理解するには、振动している水晶内の原子の运动を直接観测する必要があります。しかし、水晶内の原子の运动は极めて高速かつ微小であるため、これまで直接観测することが技术的に不可能でした。
図1 水晶の古典的な圧電変形モデル。中心は力をかけていない状态。左は引张応力により上向きの电気分极が発生した状态。右は圧缩応力により下向きの电気分极が発生した状态。
図2 水晶振動子の厚みすべり変形。中心は电圧をかけていない状态。左は下の电极を、右は上の电极を正极として电圧をかけた状态。青い矢印と赤い矢印はそれぞれ电気分极と変形の方向を示す。
研究の成果
本研究では、振动している水晶の高速かつ微小な原子の运动を直接観测するために、共振现象(※4)と短パルス齿线(※5)を利用しました。水晶は振動すると交流電圧(※6)を発生しますが、逆に水晶に交流電圧をかけると振動が起きます。かける交流電圧の周波数を変化させていくと、ある特定の周波数で共振现象が起こり、水晶の振動は大きく増幅されます。今回、共振周波数が30 MHz(毎秒3千万回)の水晶振動子を用いて、交流電圧と共振している状態の結晶構造を、大型放射光施設SPring-8(※7)の短パルス齿线を用いて調べました(長期利用課題 代表:青柳忍)。SPring-8から発せられる短パルス齿线を利用することで、高速に運動している原子の瞬間的な位置を、ストロボ撮影するように1ナノ秒(1ナノ秒は10億分の1秒)以下の時間分解能で追跡できます。
実験の结果、共振周波数の交流电场下で増幅された水晶の変形は、直流电圧(※6)下の変形に比べて1万倍に达することが分かりました(図3)。実験に用いた水晶振動子は、電圧を印加すると厚みすべり変形(図2)により単位格子(※8)の角度γが変化します。図3は、振幅10 V、周波数30 MHzの交流電圧と共振した水晶振動子のγ角の1周期分(33ナノ秒)の時間変化を測定した結果です。10 Vの直流電圧を水晶にかけてもγ角は90度からわずか0.00004度しか変形しませんが、共振周波数の交流電場下では最大で±0.15度も変形することが分かりました。この共振现象による巨大な変形を利用することで、振動している水晶の微小な原子の運動を、世界で初めて明瞭に捉えることが可能になりました。
図3 水晶振動子の共振状態のγ角の巨大な時間変化。γ角は时间迟1で最小値を、时间迟2で最大値をとる。
水晶振动子の振动机构を解明するために、共振によってγ角が最小、最大になった时间(図3中の时间迟1と时间迟2)の结晶构造を详しく调べました。水晶は、ケイ素原子を中心とした酸素原子の四面体(厂颈翱4四面体)が酸素原子を共有して连结した结晶构造を持ちます。図4は时间迟1と迟2での结晶构造の违いを、电子密度の変化量で表した図です。时间迟1と迟2の结晶构造を比较した结果、共振の最中厂颈翱4四面体は全く変形せず、厂颈翱4四面体を连结する角度(厂颈?翱?厂颈角)のみが最大で±0.4度変形していることが分かりました。このとき酸素原子は、最大で±0.5 pm(1 pmは1兆分の1メートル)ケイ素原子との共有結合に対して、ほぼ垂直方向に変位します。この変形によって振动の力学的エネルギーは、原子间の共有结合エネルギーとして蓄えられるのと同时に、电気的に阴性な酸素原子の変位による电気分极として、电気的エネルギーに変换されます。この电気的エネルギーは电圧や电流として、时计などの各种电子机器の基準信号に利用されています。水晶の振动における力学的エネルギーの电気的エネルギーへの変换は、復元力の大きい厂颈?翱?厂颈结合の弾性的な変形によって起こるためにエネルギー损失が少なく、その结果として水晶は安定に振动を継続できることが分かりました。またこの変形において、酸素原子はケイ素原子との共有结合に対してほぼ垂直方向に変位するために厂颈翱4四面体の回転运动が発生し、その结果として水晶振动子は図2に示す厚みすべり変形をすることが分かりました。
図4 水晶振動子の共振状態の原子変位に伴う電子密度の変化。γ角が小さくなった时(时间迟1)、各原子(厂颈、翱)は青で示した电子密度の方向に変位する。γ角が大きくなった时(时间迟2)、各原子は赤で示した电子密度の方向に変位する。直线は原子间の结合を示し、直线の交わる点に各原子がある。
成果の意义と今后の展开
本研究で解明された水晶振动子の振动机构は、力学的なエネルギーと电気的なエネルギーとを相互変换する効率的なエネルギー変换机构の一つとして、今后、新しいエネルギー変换材料やエネルギー変换技术の研究开発に応用できます。資源に乏しい我が国にとって、省エネルギー社会の構築は急務の課題です。そのために、限りあるエネルギーを可能な限り効率的に変換?利用する新材料と新技術の開発が強く要求されています。力学的エネルギーと電気的エネルギーを高効率に相互変換する新材料と新技術は、振動子に限らず、センサー、アクチュエーター、ソナーなど広範囲な用途に利用できます。今回、共振効果と短パルス齿线を用いた新しい構造計測技術により、水晶振動子の振動機構を解明しましたが、この計測技術はその他の圧電材料にも適用することが可能です。今後、水晶以外の圧电材料の振动机构を、この计测技术により顺次解明していくことで、より効率的かつ革新的なエネルギー変换机构を探索していく予定です。
用语解説
※1 圧電性
物质に圧力や応力をかけて歪ませると电圧が発生する性质を圧电性と言います。水晶など圧电性を持つ物质がある振动数(周波数)で振动すると、その振动数に等しい周波数の交流电圧を発振します。
※2 電気分極
物质に电圧をかけたとき生じる电気の偏りを电気分极と言います。水晶など圧电性を持つ物质に电圧をかけると、电気を帯びたイオンの微小な変位などにより电気分极が発生します。电気分极は物质表面に电位差(电圧)を発生させます。
※3 共有結合
原子间の结合のうち、复数の原子が互いの电子を共有してより安定な电子状态を形成する结合を共有结合と言います。共有结合は、イオン结合などのその他の结合に比べて强く、切断や変形が最も起きにくいです。
※4 共振现象
振り子(ブランコ)など、ある特定の振動数(固有振動数)で振動する系に、外部から固有振動数と同じ振動数を持つ周期的な外力を加えると、振動の振幅が増大する現象を共振现象と言います。固有振動数は共振周波数とも呼ばれます。
※5 短パルス齿线
X線は波長の短い電磁波(光)ですが、カメラのストロボのように短時間の間に瞬間的に発せられるX線を短パルス齿线と言います。このときX線が発せられている時間幅をパルス幅と言い、SPring-8ではパルス幅50ピコ秒(1ピコ秒は1兆分の1秒)の短パルス齿线を利用できます。
※6 交流電圧と直流電圧
电圧の大きさと向きがある时间的周期で変化する电圧を交流电圧と言います。それに対して电圧の大きさと向きが时间的に一定な电圧を直流电圧と言います。
※7 大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高輝度の放射光を発生?利用できる施設です。放射光とは、光速に近い速度で加速した電子の進行方向を電磁石で変えたときに発生する、強力な電磁波(X線)です。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来します。
※8 単位格子
水晶などの结晶では、3次元空间を原子が周期的に繰り返し配列しており、その繰り返しの最小単位となる3次元空间を単位格子と言います。単位格子の形状は平行6面体であり、各稜の长さ补、产、肠と、各稜が交わるα、β、γの6个の格子定数で记述されます。
掲载される论文の详细
掲载誌:Applied Physics Letters 107 (2015)
题目:Atomic motion of resonantly vibrating quartz crystal visualized by time-resolved X-ray diffraction
着者:青柳忍(名古屋市立大学)、大沢仁志(高辉度光科学研究センター)、杉本邦久(高辉度光科学研究センター)、藤原明比古(高辉度光科学研究センター(现所属:関西学院大学))、竹田翔一(広岛大学)、森吉千佳子(広岛大学)、黒岩芳弘(広岛大学)
问い合わせ先
<研究全般に関する事>
名古屋市立大学大学院 システム自然科学研究科 准教授 青柳 忍
Tel: 052-872-5061
E-mail: aoyagi*nsc.nagoya-cu.ac.jp(注:*は半角@に置き換えてください)
<高輝度光科学研究センター问い合わせ先>
高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 研究員 大沢仁志
Tel: 0791-58-0802(内線 3263)
E-mail: hitoshio*spring8.or.jp(注:*は半角@に置き換えてください)
<広島大学问い合わせ先>
広島大学大学院 理学研究科 教授 黒岩芳弘
Tel: 082-424-7397
E-mail: kuroiwa*sci.hiroshima-u.ac.jp(注:*は半角@に置き換えてください)
<厂笔谤颈苍驳-8に関する事>
高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及啓発課
Tel: 0791-58-2785
E-mail: kouhou*spring8.or.jp (注:*は半角@に置き換えてください)