「日本文学の魅力を伝えたい」
名前: 余 ハンハン
出身: 中国
所属: 大学院文学研究科博士課程後期3年
趣味: 読書と音楽鑑賞(特に詩とクラシック音楽)
(取材日: 2018年6月21日)
ハンハンさん。同じ音の繰り返しの名前は、いかにも「中国女子」という感じで、とても可爱いですね。
そうですか! ありがとうございます。確かに、「A(姓)BB(名)」といった構成の名前が中国には多いですね。実は、私が生まれた1990年は北京でアジア競技大会が開催された年で、私の名は、その大会のマスコットのパンダに因んで付けられたんですよ。おかげで、子ども時代のニックネームは「パンダ」でした(笑)。
中国の、どの地方からいらしたのですか。
浙江(せっこう)省の西にある、江山(こうざん)という小さな町です。江山市は西に安徽(あんき)省、南に福建(ふっけん)省と隣接し、古来より贸易の町として栄えてきました。山水の景色も素晴らしく、有名な観光地「江郎山」(こうろうさん)は世界遗产にも登録されています。
浙江省の郷土料理として代表的なのは粽子(ヅォンズ)、日本で言う「ちまき」です。ヅォンズには甘いものもありますが、母がよく作ってくれるのは、醤油で味つけしたお肉が入ったものです。お肉と一绪に渍物を刻んで入れることで、あまり油っぽくなく、さっぱりといただけるんです。浙江省は上海に近いこともあり、全域的には味が薄い料理が多いのですが、私の町では、むしろ味が浓いもの、辛いものが好まれます。もちろん、私も浓厚な味付けの方が好きです。
日本に兴味を持ったきっかけは何だったのですか。
子どもの頃から、SLAM DUNK(スラムダンク)という日本のアニメが好きだったんです。バスケに青春をかける男の子たちと、そんな彼らを一生懸命励ます女の子たち、そんな「青春!」って感じの物語が好きで(笑)。そんなアニメを見て、日本语ってきれいだな、と思ったんです。私も日本语ができれば、アニメのテーマソングを日本语で歌えるのにな、という願いもあって。それが日本语を学ぼうと思ったきっかけでした。本格的に学び始めたのは、大学に入学してからです。
现在は、大学院文学研究科の博士课程で学ばれているのですね。
はい。広島大学へは、これが二度目の留学です。一度目は中国で大学院生だった時、 HUSA(広島大学短期交換留学)プログラムで渡日しました。広大への留学経験のある先輩から、留学生を大勢受け入れていて、安心して留学できる大学だと聞いて決意しました。それで、2013年9月から一年間、交換留学生として広大で過ごしました。
その后はいったん帰国し、一年间をかけて修士论文を提出し、修士学位を取得した后、再び文学研究科で学ぶために広大へ戻ってきたというわけです。2015年9月のことでした。
広大の第一印象はどうでしたか。
一言でいうと「グローバル」ですね。実は、贬鲍厂础プログラムで渡日后、最初に参加したオリエンテーションがとても印象深かったのです。そこには国际交流グループの职员の方や先生が大势いらっしゃって、中でも、司会をされた先生が凄くパワフルというか「贰苍别谤驳别迟颈肠」(精力的)で、広大って国际的だなあ、と新鲜な惊きをおぼえました。
私たち东アジア人は内気というか、おとなしくて、欧米人のようなオープンな性格の人が少ないイメージですよね。だから、渡日したばかりのオリエンテーションで、日本人も外国人に混じって気軽に冗谈を言ったり、自分の意见を率直に述べたりしている、そんな思いがけない光景を目の当たりにして、これまでの私の日本人に対するイメージが良い意味で里切られたんです。
なるほど。日本人学生と一绪に学んだ感想は?
彼らはまじめで、いつも规律正しいという印象ですね。细かいことにも神経を注いで、それはもちろんいい意味で、ですけど。「精緻」というか、何事にも丁寧で慎ましやかな心づかいをもって、常に自分の最善を尽くしているという感じを受けました。その点、「私も见习わなくては」と思います。
良いことばかりですね!
正直、「そこまでこだわらなくても」と思うこともあります(笑)。でも、中国で日本语を専攻した時、日本の社会?文化についても学びましたから、それほど驚いたり戸惑ったりはしませんでした。「ああ、日本人にはそういう(細かい)一面もあるよね」と、冷静に受け止めている自分がいました(笑)。母国で学んだことを再認識したというか。その点、オープンでグローバルな日本の先生方と初めて接した、あのオリエンテーションでの驚きとはまた違う体験ですね。
现在の専攻は何ですか。
日本の近现代文学、特に今は现代文学を研究しています。私が注目している作家は、远藤周作です。没后20年以上になりますが、まさに现代を生きた作家の一人です。
远藤は、戦后间もなくの1947年に初めて评论を発表し、以来1996年に没するまで、约半世纪もの长きにわたり作家活动に打ち込みました。私が最初に読んだ彼の着作は『沉黙』と『深い河』。特に个人的に兴味深いのは『深い河』という小説です。『深い河』とは、世代も背景もそれぞれ异なる5人の主人公が、とある远い异国の地を旅しながら、自分の辿ってきた人生をいろいろと回想していく物语です。2016年9月の远藤周作学会では、この作品について発表したんですよ。
どのような研究だったのですか。
私は主に女性人物について研究していますから、「美津子」と、それから「启子」という二人の女性に注目しました。実はこの研究を発表した时、私が启子に注目したことを、日本の研究者の先生方が评価してくださったんです。なぜなら、5人の主人公のいずれかに注目する研究者が圧倒的に多い中で、启子といえば、これまでほとんど注目されたことがない、一见目立たない人物だからです。
そのような人物の、どこに兴味をおぼえたのですか。
彼女の「存在感」です。読むたびに、控えめで平凡な女性であるはずの彼女の存在が、私の中でどんどん大きくなっていくのをおぼえました。彼女は、いわゆる「良妻贤母」(子どもはいませんが)タイプの女性で、仕事から疲れて帰宅する夫をいつも温かい微笑みで迎える、一种の「なぐさめ」として见られています。当时の日本の社会的状况に鑑みても、その时代の理想的な女性像と言えます。そんな、一见平凡な女性のどこに私が存在感をおぼえるのか、もっともっと、お话ししたい気持ちでいっぱいなのですが、ここから先は、ちょっと専门的な内容になってしまいますので???。
登场人物を、とても深く掘り下げて研究されているのですね。
小説を読む际、物语のドラマティックな展开を楽しむことに目が行きがちですね。それはそれで、一つの物语を楽しんだという、良い読书体験の形だと思います。しかし、研究者であるからには、一般の読书家の目が届かないところまでも注目しなくてはなりません。作家の実体験を调べたり、同じ作家の别の作品と比较することで何かを得たりなど、やり方はいろいろとあるのですけどね。
详しく、ありがとうございました。学内で笔础(フェニックス?アシスタント)として勤务した経験もあるのですね。
はい。国際交流グループのオフィスで、留学生を対象にした窓口業務に約一年半従事しました。中国語や英語、日本语の語学力をフルに使って、留学生の悩みを聞いて問題解決を助けるなど、達成感が得られる仕事です。市役所からこんな通知が届いたんだけど、どうしたらいい? とか、ビザの更新手続きについて質問する学生もいます。そういった細かい生活面の事にも、同じ留学生としての経験、すなわち自身の「強み」を活かして対応できますから、やりがいがあります。
インターンシップの経験も?
はい。贬鲍厂础留学生时代、「グローバル化支援インターンシップ」の授业を受讲した际に、他のインターンと协力して、东広岛市役所と连携する「市民レポーター」のプロジェクトを企画?実行したことがあります。また、「呉市立仓桥中学校」、「长门の造船歴史馆」、江田岛市冲美町の「田舎暮らしを楽しもう会」などの组织の协力のもとで、贬鲍厂础留学生を対象とした「仓桥?江田岛国际交流歴史ツアー」を行ったこともあります。これらのインターンシップは私にとって、社会人としてのマナーや日本社会の仕组みを学ぶだけでなく、すべての段阶において自分の头で判断?行动することを体験できた、贵重な学びの机会となりました。
ここに、インターンシップの时の写真があります。スーツ姿が决まっていますね!
「梦来来」(江田岛)にて、贬鲍厂础インターンの仲间と。夕阳がきれいです!
これは、ちょうどプロジェクトの仕事を终えてひと息ついている时の写真ですね。実は、インターンシップを始めるにあたり、生まれて初めてスーツを买いました。大学生协で名刺も作ったんですよ。名刺交换の练习もしました。でもあれ、渡しながら同时に受け取るタイミングが难しいんですよね。今でも、时々迷います(笑)。
确かに、难しいですね(笑)。
あと、日本の社会には、お酒の席で互いに「お酌」をし合う习惯がありますよね。渡日して间もなくの顷、私はそれを全然知りませんでした。それで、目上の方と一绪に饮んだ时も何も気づかなくて、その方はずっと手酌(自分で注ぎながらお酒を饮むこと)で饮まれていて。そうしているところを、日本人学生に注意されて。それ以来、私も今はお酌をするようになりましたが、时々紧张してこぼしてしまったりして、未だに苦手です。
教室や研究室の外でも、日々いろんなことを吸収されているのですね。ところで、留学経験の豊富なハンハンさんから见て、国际交流で一番大事なことは何だと思われますか。
日本语には「以心伝心」という言葉がありますね。言葉ではなく、互いに心で通じ合う、といった意味ですね。あくまでもこれは私の解釈ですが、そもそも「以心伝心」とは、相手の心を大切にすることだと思います。外国人同士のコミュニケーションでは、どうしても言葉が一種の壁になるのですが、そういった言葉の壁を越えて、相手が何を一生懸命自分に伝えようとしているのかを、こちらも一生懸命に理解しようとする。そんな努力が、国際交流においては最も大切なことではないかと思います。
すばらしい解釈ですね! ありがとうございます。留学を考えている後輩に、何かアドバイスはありますか。
留学は、今までと違う自分を発見できる貴重な機会でもありますから、何でも挑戦する意欲と勇気が必要です。「こんな事、私にできるのかな?」と怖気づいてしまって、せっかくの挑戦を諦めるなんて、もったいない! 留学生活で遭遇するいろんな機会を、ぜひ、怖がらずに活かしてください。そうすればきっと、今はまだ気づかない、思いもかけない自分の素晴らしさに気づく日が、必ず来ると思いますよ。
最后の质问です。将来の梦は何ですか。
私の梦は、いつか教师になることです。そして、日本文学の魅力を伝えることです。例えば、川端康成や叁岛由纪夫の作品に代表される日本文学は、「美しいもの」への憧憬、即ち「もののあはれ」というか、刹那に咲いて散る桜を讃える文学。一方、私の研究している作家?远藤周作が表现したのは、「永远なるもの」、即ち宗教の根源を问う文学。そのように様々な颜を持つ日本文学の価値を、いつか母国の人たちに伝えられたらいいな、と思っています。そして、この留学の机会に知り合えた日本人研究者の皆さんとも协力して、中国と日本の人々が文学を通じて交流できるイベントの开催などにも携わりたいです。
梦が叶うよう祈っています。本日はありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございました。
Photo Gallery
长门の造船歴史馆(呉)にて、贬鲍厂础留学生の仲间と。
私たちインターンが企画した仓桥?江田岛国际交流歴史ツアーをいかにも楽しんでいる様子!

北海道の剧场にて、学部时代の母校(浙江工业大学)の音楽の先生と。
二人とも大好きな「オペラ座の怪人」を鑑赏。

日本文学语学研究室の院生の仲间と一绪に。
京都の金阁寺にて。
冬季日本语?日本文化特別研修プログラムに、ボランティアとして参加。