本研究成果のポイント
- 厚みがあるメダカや线虫(※1)の个体の局部を、神経机能に影响しないように麻酔をかけずに、さまざまな照射サイズで刺激できるマイクロビーム局所照射技术を开発
- メダカ初期胚で、损伤を受けた细胞の割合や数が脳神経系の発生过程の中断を决定していることや、线虫の全身屈曲运动が中枢神経から独立したメカニズムでも制御されていることを明らかに
- マイクロビームが、既存の技术では実现できなかった未知の生命现象の解明に有効なことを実証
概要
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長 平野俊夫、以下「量研」という。)量子ビーム科学部門高崎量子応用研究所プロジェクト「マイクロビーム生物研究」の舟山知夫プロジェクトリーダー、鈴木芳代主幹研究員らは、国立大学法人東京大学(総長 五神真)大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻の保田隆子特任准教授、尾田正二准教授ら、国立大学法人広島大学(学長 越智光夫)大学院先进理工系科学研究科先進理工系科学専攻の辻敏夫教授、曽智助教らと共同で、イオンマイクロビームで細胞にピンポイントで刺激を与える技術により、生物の脳神経系の発生制御や全身の運動制御のメカニズムの一端を解明することに成功しました。
マイクロビームは、高エネルギーに加速したイオンをマイクロメートルサイズまで微小化したもので、生物の细胞の构造を破壊することなく、狙った位置にピンポイントでエネルギーを照射できます。これまで薄くて动かず狙いやすい培养细胞や麻酔した生物を照射して応答を调べる研究に使われてきました。生物の脳や神経系では、さまざまな细胞が复雑に连携して机能を実现しています。しかし、その全容の解明には、细胞同士の接続も含めた包括的な解析が必要です。そこで、量研では、マイクロビームで脳や神経系の细胞をピンポイントで照射できれば、その细胞同士の接続を破壊せず、刺激を与えて复雑に连携した机能を解析できると考えました。従来のマイクロビームイオン照射技術を、厚みがある生体試料に対してもさまざまなサイズで照射できるよう改良し、これまでできなかった、厚みがあるメダカや线虫の個体の局部を、神経機能に影響しないように麻酔をかけずに、狙った照射サイズで刺激する技術を開発しました。
开発したイオンビーム照射技术で、メダカの脳神経系の発生を制御するメカニズムを探るため、メダカ胚の一部をマイクロビームのサイズを変えて照射し、その后の発生への影响を観察しました。その结果、重度の损伤を受けた细胞の割合や数が発生过程の中断を决定していることがわかりました。これは、哺乳动物の発生の制御や奇形を防ぐ机能の理解に役立つ成果です。
また、神経回路と运动制御のモデル生物である线虫で、全身屈曲运动を司る部位を特定するため、开発したマイクロビーム技术を用いて照射を行いました。中枢神経を含む线虫の头部领域をマイクロビームのサイズを変えて照射した结果、全身屈曲运动は中枢神経だけでなく、それから独立したメカニズムでも制御されていることが明らかになりました。本研究を通じて、既存の技术では実现できなかった未知の生命现象の解明に、マイクロビーム局部照射が有効であることが示されました。 今后は、より多様な生物の生命の不思议を、マイクロビームを用いて解明していきます。
これらの成果は、Biology誌の特集号“Brain Damage and Repair: From Molecular Effects to CNS Disorders(脳の損傷と修復: その分子効果から中枢神経系における障害まで)”に掲載されました。
背景
生物个体の生命现象、とりわけ、脳や神経に関わる机能を実现するメカニズムは、机能の异なる多数の细胞が互いに连携して実现されています。このような复雑な生物の机能の解析は、个々の细胞における遗伝子が果たす机能だけではなく、细胞の物理的な接続なども含めた细胞ネットワークの包括的な解析が必要です。マイクロビームは、高エネルギー化したイオンを细胞と同じマイクロメートルサイズまで微小化したビームスポットを用い、生物试料の一部を顕微镜で観察しながら狙い照射することができます。このマイクロビームを用いて个体の一部の细胞にピンポイントで刺激を与えることで、生物の脳神経系の発生の制御や、全身运动の制御メカニズムなどの复雑な応答の解析ができるのではないかと考えました。
マイクロビーム局部照射
マイクロビームはイオンビーム(原子から电子を剥ぎ取った原子核(イオン)を加速器によって光速の数十分の一から数分の一程度にまで高速に加速したもの)をマイクロメートルサイズの微小なビームスポットにして、顕微镜下で生物试料の特定の位置を狙って照射する技术です。量研高崎量子応用研究所のイオン照射研究施设(罢滨础搁础)には、础痴贵サイクロトロンで加速した幅広いイオンビームをマイクロビーム化し、大気中で试料に照射できる生物用マイクロビーム照射装置があります。罢滨础搁础のマイクロビーム装置は、サイクロトロンのイオンビームを段阶的に微小化して大気中に取り出し、顕微镜で、试料台に设置した生物试料を観察しながら、狙った场所を照射することができます。これまでに、主に培养细胞を狙った照射を行い、その効果を调べる研究を行ってきました。今回、このマイクロビーム装置で、厚みのあるメダカや线虫の个体の局部を、さまざまな照射サイズで、神経机能に影响しないために麻酔をかけず、狙って照射する技术を実现しました。
メダカ脳神経系の発生制御メカニズムの解明
哺乳類の胎児の発生は子宮内で進行するため、同じ個体の発生の過程を生かしたまま詳細に観察をすることができません。そのため出生前の発生の制御や奇形を防ぐ機能の理解では、まだわかっていないことが残されています。この様なメカニズムを解明するためには、発生期の状態を継続的に観察することが必要です。そこで、体外で発生し、透明な卵殻を持ち、その発生過程を、逐次、実体顕微鏡を使って詳細に観察できるメダカを用いて、胚の発生制御のメカニズムを調べました。わたしたちはこれまでに、2 GyのX線を照射したメダカ胞胚期(※2)の胚がたどる発生過程を継続的に観察することで、照射が脳神経系の発生に遅延を引き起こす一方で、その遅延が孵化までに正常に戻ることを見いだしていました。そこで、量研高崎量子応用研究所のマイクロビームで70 μm、120 μm、180 μmとビームの径を変え、照射する胞胚の細胞の割合を変えたときに発生がどのように変化するかを継続的に観察しました。その結果、細胞の10%以下を照射した胚では、2 GyのX線を照射した場合と同様に、脳神経系の発生が一時的に遅延し、その遅延が孵化までに正常に戻りましたが、25%の細胞を照射すると残りの75%の細胞が非照射であるにも関わらず孵化できなくなることが明らかになりました(図2)。この結果は、重度の損傷を受けた胞胚の細胞の割合や数によって発生過程の中断が決定されることを示しており、発生の制御や奇形を防ぐ機能の理解に役立つ成果です。
図2 サイズを変えたマイクロビームで照射したメダカ胚の発生のようす
线虫全身屈曲运动メカニズムの解明
線虫(C. elegans)は、体長およそ1 mmの神経回路や運動制御の解析によく使われるモデル生物です。この線虫の全身に照射を行うと、全身の屈曲運動が一時的に低下します。この全身屈曲運動の低下を引き起こす責任部位を明らかにするため、マイクロビームを用い、中枢神経を含む20 μm径の領域を局部照射しました。その結果、全身照射で運動低下が生じたのと同じ線量で中枢神経を照射しても、運動に変化は起きず、線量を増やすことで初めて影響が出ることを見いだしました。この結果は、線虫の全身屈曲運動が、中枢神経による制御と、筋及び運動神経による自律的な制御の両者による相補的な制御を受けていることを示しています。さらに、照射用に独自開発したマイクロチップ(Worm Sheet(※3))に封入した线虫の体壁筋の活动を头部照射の前后で比较した结果、収缩している筋の波(运动リズム)では、照射による停止が起こらないことがわかりました(図3)。このことから、全身屈曲运动では、运动のリズム形成が中枢神経による中央制御から独立したメカニズムで行われていることを明らかにしました。これは、线虫の全身屈曲运动が、単纯なトップダウンの制御机构に支配されているわけではなく分散制御であることを示す、生物模倣机械への応用に繋がる成果です。
図3 頭部マイクロビーム照射前後での線虫の体壁筋の活動の比較
成果の意义
これらの二つのマイクロビーム照射を個体の機能解明に用いた研究成果が、Biology誌の特集号 "Brain Damage and Repair: From Molecular Effects to CNS Disorders"に続けて掲載されました。このことは、今回開発した技術を用いて行う、生物個体へのマイクロビーム局部照射が既存の技術では実現できなかった、複雑な個体の生物機能解明に有効であることを実証したものです。
今后の展开
今后は、マイクロビームを用いた生物个体への照射技术をさらに改良し、多様な生物试料への高度な照射を実现していくことで、既存の手法では解明できなかった、细胞ネットワークが个体の生命机能において果たす役割を解析し、新たな科学的知见の获得を目指します。マイクロビームを用いることで初めて実现できる、このような研究を通じて、生命现象のメカニズムを明らかにし、量子ビームを用いた次世代の先进的な生命科学研究を创出していきます。
谢辞
本研究は文部科学省/日本学术振兴会の科学研究费(闯笔21221003、闯笔22510056、闯笔25220102、闯笔25514002、闯笔15贬03950、闯笔15碍11921、闯笔16碍00541、闯笔18贬04991、闯笔18碍18839)による补助を受けて実施されたものです。
用语解説
(※1) 線虫(C. elegans)
体长约1尘尘、细胞総数959个(雌雄同体)の线形动物门に属する小型生物。神経系や筋、消化器や生殖器などの基本的な组织を备え、ヒトと共通の运动机能や高次神経机能を有する。受精卵から成虫になるまでの全细胞の细胞分裂の系谱が明らかにされている他、细胞同士の解剖学的な接続构造も完全に明らかにされており、発生や神経生物学を研究するためのモデル动物として世界中で使われている。
(※2) メダカ胞胚期
メダカの受精から约7日间でふ化に至る発生过程の中で、受精后8时间の段阶。哺乳类では着床前期胚に相当する。
(※3) Worm Sheet
常に动き回る线虫の特定の场所をマイクロビームで狙って照射するために、生きたまま麻酔をせずにその动きを抑制し、长时间の収容保定を可能にするために独自开発した生物试料用笔顿惭厂マイクロチップ。
本研究成果
「掲載誌: Biology」
- 論文タイトル: Collimated microbeam reveals that the number of non-damaged cells
in irradiated blastoderm determines the success of development
in medaka (Oryzias latipes) embryos
著者名: 保田 隆子a, 舟山 知夫b, 永田 健斗a,b, 李 多琳a, 遠藤 拓哉a, 賈 啓慧a, 鈴木 芳代b, 石川 裕二b,
三谷 啓志a, 尾田 正二a (a东京大学, b量子科学技术研究开発机构)
- 論文タイトル: Targeted central nervous system irradiation of Caenorhabditis elegans induces a
limited effect on motility
著者名: 鈴木 芳代a, 曽 智b, 山下 浩生b, 辻 敏夫b, 舟山 知夫a (a量子科学技术研究开発机构, b広岛大学)
【お问い合わせ先】
&濒迟;研究に関すること&驳迟;
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 量子ビーム科学部門 高崎量子応用研究所
放射線生物応用研究部 舟山 知夫
TEL: 027-346-9107
E-mail: funayama.tomo*qst.go.jp (注: *は半角@に置き換えてください)
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 先端生命科学専攻
特任准教授 保田 隆子
TEL: 04-7136-3663
E-mail: t_yasuda*edu.k.u-tokyo.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)
広島大学 大学院先进理工系科学研究科 先進理工系科学専攻
教授 辻 敏夫
TEL: 082-424-7677
E-mail: tsuji*bsys.hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)
<报道に関すること>
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 経営企画部 広報課
TEL: 043-206-3026
E-mail: info*qst.go.jp (注: *は半角@に置き換えてください)
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 広報室
TEL: 04-7136-5450(内線65450)
E-mail: press*k.u-tokyo.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)
広島大学 財務?総務室広報部 広報グループ
TEL: 082-424-3749
E-mail: koho*office.hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)