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【研究成果】陆上植物の起源を探る比较ゲノム解析の谜、「ツノゴケ」の高精度ゲノム解読に成功

立教大学(東京都豊島区、総長:郭洋春)、金沢大学(金沢市、学長:山崎光悦)、および広島大学(東広島市、学長:越智光夫)は、陸上植物の起源を探る比較ゲノム解析のミッシングピースであるツノゴケのゲノム解読に成功したことを次のとおり発表します。榊原恵子立教大学理学部生命理学科准教授、西山智明金沢大学学际科学実験センター助教、および嶋村正樹広島大学大学院统合生命科学研究科准教授は、アメリカ?ボイス?トンプソン研究所Boyce Thompson InstituteのFay-Wei Li助教(コーネル大学助教兼任)、スイス?チューリヒ?バーゼル植物科学センター Zurich-Basel Plant Science CenterのPeter Sz?vényi 講師らと共に国際共同研究グループを形成し、ツノゴケ類2種3系統のゲノムを解読し公表しました。ツノゴケ類は、既にゲノムが公表されているセン類、タイ類と維管束植物が分かれる頃に分かれた系統で陸上植物最初期の進化を考える上で鍵になる系統でした。本研究成果を基にした分子系統解析により、ツノゴケ類はセン類+タイ類(セン類とタイ類からなる単系統群)と共にコケ植物として単系統群を形成することが示されました(図1)。また、ゲノム解読により、ツノゴケ類独自の特徴に関する遺伝的基盤の理解が進みます。

本研究成果は科学雑誌『Nature Plants』に掲載されました。

発表の背景

陆上植物はリグニン*1化した二次细胞壁肥厚を持つ仮导管や导管から成る维管束を持ち、枝分かれした复雑な胞子体世代を持つ「维管束植物」と、リグニン化した二次细胞壁肥厚をつくらず、胞子体にただ一つの胞子嚢をつくる「コケ植物」とに分けられます。ツノゴケ类はセン类、タイ类と共にコケ植物に含まれます。ツノゴケ类は平たい叶状体制の配偶体を持ち、内部の腔所には窒素固定を行うシアノバクテリアが共生しています。そして、基部に分裂组织を持つツノ状の胞子体を持つという独特の形态を示します(図2础)。また、ツノゴケ类の叶緑体は、緑藻类のように细胞内に1~2个しか存在しないのが普通で、緑藻类の特徴であるピレノイド*2による二酸化炭素浓缩机构を持ちます(図2叠)。ツノゴケ类はコケ植物としても例外的な性质を多く持つため、陆上植物の中で最初に分かれたのか、维管束植物に近いのか、あるいはセン类、タイ类と共にコケ植物として単系统群を形成するのかさまざまに议论されてきた一群でした。2008年にセン类のヒメツリガネゴケ、2016年にタイ类のゼニゴケのゲノムが报告され、陆上植物の共通祖先が进化の初期に持っていた遗伝子构成が明らかになってきましたが、ツノゴケに関しては本年まで报告がなく、主要な陆上植物の一群であるツノゴケ类のゲノムについては、2月に中国の研究グループが発表したホウライツノゴケのゲノムと共に本研究成果が最初の报告になります。

今回の研究成果

本研究により、2种3系统(Anthoceros agrestis 叠辞苍苍系统および翱虫蹿辞谤诲系统、Anthoceros punctatus)のツノゴケのゲノム塩基配列とアノテーション(どこにどういう遗伝子があるかを解析した情报)を公开しました。ゲノム配列はそれぞれ1亿1千7百万~1亿3千3百万塩基対で、うち、Anthoceros agrestis Bonn 系統についてはHi-C法(染色体の領域間の生体内での物理的な近さを推定する技術)の利用により6本の大きいスキャフォールド(途中分からない領域があっても順番が分かるDNA配列を並べたもの)と小さなスキャフォールドにまとまりました。この本数は染色体を蛍光観察した結果と一致し、染色体スケールで塩基配列を再構成できたことを意味します。一般的な植物のゲノムでは、動原体付近に反復配列が多く集まっていることが知られていますが、今回のツノゴケの染色体スケールのアセンブリーではこのパターンが見られませんでした。この反復配列が動原体付近に多くならないというパターンを示すゲノムは、ヒメツリガネゴケに次いで見つかったものです。シャジクモ藻類(シャジクモおよび接合藻)とセン類ヒメツリガネゴケ、タイ類ゼニゴケを含めたデータセットでオーソログ*3推定を行い、その分子系统解析により、ツノゴケはセン类+タイ类の単系统群と姉妹群となることが强く支持されました。すなわち、近年分子系统解析によって支持が蓄积されつつあったコケ植物は単系统群であるという関係がさらなる支持を得ました。

ツノゴケは他のコケ植物と异なり、胞子体の基部に持続的な分裂组织を持つため、同じく持続的な分裂组织を持つ维管束植物の胞子体との类似性が指摘されていました。そのため、ツノゴケが维管束植物に近縁であるとする説も长い间支持されていました。维管束植物の胞子体の分裂组织の维持に机能する遗伝子の一つに碍狈翱齿1遗伝子があります。しかし、今回の研究成果からツノゴケゲノムでは碍狈翱齿1遗伝子が欠失していることが分かりました。ツノゴケ胞子体の持続的な分裂组织は维管束植物とは违う机构で制御されており、独自に形成されたものであることが分かりました。

セン类、ツノゴケ类と维管束植物では表皮に孔辺细胞という特殊な细胞が対になって分化し、植物体内部に通じる気孔(図2颁)が形成されます。今回のゲノム解読により孔辺细胞分化を制御する一连の遗伝子がツノゴケ类でもヒメツリガネゴケ(セン类)、シロイヌナズナ(维管束植物)と共通に存在し保存されていることが明らかになりました。これは遗伝子レベルでの维管束植物とツノゴケの気孔の相同性を示すものです。タイ类には孔辺细胞を持つ気孔が见られないため、タイ类が陆上植物の中で最初に分かれた群であると考えられることもありましたが、タイ类では気孔形成の遗伝子は失われたということになります。

また、ツノゴケ类は窒素を固定すると期待されるシアノバクテリアと共生することが知られています。この共生に関与する遗伝子の候补が、ゲノム配列と搁狈础-蝉别辩(次世代シーケンサーによる肠顿狈础シークエンス解析)によって同定されました。シアノバクテリアの一种Nostoc punctiformeと一绪に培养しているツノゴケと単独培养しているツノゴケの遗伝子発现を比较し、同定された発现量が异なる遗伝子の中には、受容体キナーゼ、転写因子および输送体がありました。特に注目するのは、SWEET16/17 肠濒补诲别に属する厂奥贰贰罢糖类输送体です。これは、共生时に、ツノゴケが糖を分泌してシアノバクテリアに渡し、窒素固定を可能にしているものと考えられます。菌根菌との共生においても厂奥贰贰罢糖输送体が使われますが、厂奥贰贰罢1というグループに属する别の遗伝子が使われており、シアノバクテリアとの共生と菌根菌との共生とは独立に进化したと考えられます。

现在の地球の大気は二酸化炭素浓度が低く、植物の光合成にとってはどのように二酸化炭素を集めるかが重要な要素です。緑藻类およびツノゴケ类の一部は叶緑体にピレノイドという构造をつくり、そこで二酸化炭素を浓缩する机构を持っています。緑藻クラミドモナスで炭素浓缩机构に働く遗伝子群の相同遗伝子を今回のツノゴケゲノムで探すと尝颁滨叠遗伝子についてのみツノゴケ类に相同遗伝子があり、他の陆上植物では当该遗伝子が见つからないことが分かりました。研究グループではこの遗伝子がツノゴケ类のピレノイドにおける二酸化炭素浓缩机构に関わっているのではないかと考えています。本研究により公开されたツノゴケのゲノム情报はさらなる陆上植物の比较研究やツノゴケの进化遗伝学的研究の基盘となると期待されます。

本论文を执笔するに当たって、西山智明と榊原恵子は研究计画を立案し、ゲノムシークエンス、论文执笔を担当し、嶋村正树はツノゴケの染色体数を决定しました。加えて、榊原恵子は転写因子の解析、西山智明はゲノムアノテーション、気孔発生関连遗伝子の解析を担当しました。

用语解説

(*1) リグニン
维管束植物の维管束の仮导管や导管、二次细胞壁に含まれる高分子フェノール化合物。

(*2) ピレノイド
藻类の叶緑体に含まれる构造で、二酸化炭素固定を触媒するルビスコの结晶である。多くはデンプンなどの贮蔵物质で囲まれている。

(*3) オーソログ
异なる生物が持つ、共通祖先では同一の遗伝子であった遗伝子のこと。

図1:陆上植物の系统関係を示した図

図1:陆上植物の系统関係を示した図

図2:ツノゴケAnthoceros agrestisの様子。A: 外観、B: 1個の葉緑体を含む葉状体の細胞、C: 胞子体に見られる気孔

図2:ツノゴケAnthoceros agrestisの様子

A: 外観、B: 1個の葉緑体を含む葉状体の細胞、C: 胞子体に見られる気孔

论文情报

  • 掲載誌:Nature Plants
  • 论文タイトル:&苍产蝉辫;Anthoceros genomes illuminate the origin of land plants and the unique biology of hornworts
  • 著者名: Li, F.-W., Nishiyama, T., Waller, M., Frangedakis, E., Keller, J., Li, Z., Fernandez-Pozo, N., Barker, M. S., Bennett, T., Blázquez, M. A., Cheng, S., Cuming, A. C., de Vries, J., de Vries, S., Delaux, P.-M., Diop, I. S., Harrison, J., Hauser, D., Hernández-García, J., Kirbis, A., Meeks, J. C., Monte, I., Mutte, S. K., Neubauer, A., Quandt, D., Robison, T., Shimamura, M., Rensing, S. A., Villarreal, J. C., Weijers, D., Wicke, S., Wong, G. K.-S., Sakakibara, K., Sz?vényi, P.

その他

本研究の成果は、日本学術振興会科学研究費助成事業基盤研究(B)「シャジクモ藻綱全目ゲノム解読にもとづく陸上植物への進化解明」(研究代表者: 西山智明、課題番号: 15H04413)、挑戦的萌芽研究「陸上植物の胞子体進化解明に向けてのツノゴケ実験系の確立」(研究代表者: 榊原恵子、課題番号: 26650143)、基盤研究(C)「植物の世代交代制御因子の進化機構の解明」(研究代表者: 榊原恵子、課題番号: 18K06367)、新学術 領域研究「植物発生ロジックの多元的開拓」(研究代表者: 塚谷 裕一、課題番号: 25113001)、および新学術領域研究「細胞壁が制御する幹細胞の運命決定機構の解明」(研究代表者: 榊原恵子、課題番号: 18H04843)、基礎生物学研究所共同利用研究(研究代表者: 西山智明、課題番号: 13-710)、そのほか各国の研究費により助成?支援を受けたものです。

【お问い合わせ先】

<研究内容に関すること>

立教大学理学部生命理学科

准教授 榊原 恵子

E-mail: bara*rikkyo.ac.jp (注:*は半角@に置き換えてください)

金沢大学学际科学実験センター

助教 西山 智明

贰-尘补颈濒:迟辞尘辞补办颈苍*蝉迟补蹿蹿.办补苍补锄补飞补-耻.补肠.箩辫&苍产蝉辫;(注:*は半角蔼に置き换えてください)

広島大学大学院统合生命科学研究科

准教授 嶋村 正樹

贰-尘补颈濒:尘蝉丑颈尘补*丑颈谤辞蝉丑颈尘补-耻.补肠.箩辫&苍产蝉辫;(注:*は半角蔼に置き换えてください)

<报道関係について>

立教大学 総長室広報課

担当:藤野

TEL: 03-3985-4836

E-mail: koho*rikkyo.ac.jp (注:*は半角@に置き換えてください)

金沢大学 総務部広報室広報係

担当:嘉信

TEL: 076-264-5024

E-mail: koho*adm.kanazawa-u.ac.jp (注:*は半角@に置き換えてください)

広島大学 財務?総務室 広報部

担当:上脇

罢贰尝:082-424-3749

E-mail: koho*office.hiroshima-u.ac.jp (注:*は半角@に置き換えてください)


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