豊かな「里海」を耕していこう。エチゼンクラゲが伝える海からのメッセージ

理事?副学长(教育担当)
大学院生物圏科学研究科 環境循環系制御学専攻 教授 (うえ しんいち)教授 (本頁では、呼称を教授に統一しました)
に聞きました。 (2009.6.12 社会連携?情報政策室 広報グループ)
上真一教授が、2010年度日本海洋学会赏を受赏することが决定しました。
上教授の「沿岸海洋生态系における动物プランクトンの机能的役割に関する研究」が高く评価されての受赏です。
授赏式は、平成22年3月28日(日)に东京海洋大学で开催される日本海洋学会春季大会総会后に行われ、式后には同大学において受赏记念讲演を行う予定です(2010.3.17)。
「ミズクラゲ」の嫌がる物质を、生物圏科学研究科の上真一教授と东京海洋大学の石井晴人助教らの研究チームが特定しました。石垣岛产の海藻?マクリの抽出物质にはクラゲの幼生が付着せず、ポリプを死灭させる効果があることを确认しました。今年度から东京湾などで実証実験を始める予定です(2010.5.14)。
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研究の概要
ここ数年、日本海で异常な大発生を繰り返し深刻な渔业被害をもたらしてきたエチゼンクラゲの研究を进め、世界で初めてエチゼンクラゲの人工繁殖に成功。谜に包まれた生态を少しずつ解き明かしてきました。现在、农林水产省の农林水产技术会议の委託で、広岛大学が中核となり、全国11机関が参加するオールジャパン体制でクラゲ対策プロジェクトを进めています。そのプロジェクトリーダーとして、ミズクラゲやエチゼンクラゲの発生予测や制御に向けた新技术开発に取り组んでいます。
健全な海を守るため、“敌”をよく知る
元々、海をより豊かにするため、渔业资源(鱼)の饵になる动物プランクトンの生活史や生态などの研究をしていました。
1988年に広島大学生物生产学部のキャンパスが福山市から東広島市に移転し、プランクトンの採取ポイントを広島湾や呉湾に変えました。しかし、採取したプランクトンはクラゲの粘液にからまっていてすぐに死んでしまいます。これでは研究になりません。
ちょうどそのころ、渔师さんたちから「海が変わった。クラゲが増えて鱼が捕れない」という话を闻くようになりました。
当时、クラゲをまともに研究している人は少なく、クラゲの生态は谜につつまれていました。海洋学者、水产研究者として、渔业者のためにもその“空白ポイント”を研究し解决していかなくてはならないと考え、クラゲの研究に取り组みはじめました。
足で稼いだ「瀬戸内海の変化の実感」
本当に瀬戸内海は変わったのか。まずは瀬戸内海全域を回り、渔港や渔家を访ねて渔业者からクラゲに関するアンケート调査を実施しました。その结果、渔获量の减少、ミズクラゲによる渔业被害の増加など、海で仕事をする人々ならではの声を1200件あまり集めることができました。
ミズクラゲの増加をもたらした原因として、温暖化、富栄养化、乱获や藻场?干潟が减り続けたことによる鱼类资源の减少、コンクリート护岸などの人工构造物の増加などが推定されるとレポートしました。これらはいずれも人间活动に基づくものです。
2002年、日本海でエチゼンクラゲが大発生し、数10亿円と言われる渔业被害が出ました。エチゼンクラゲはこれまでも约40年に1度の频度で大発生をしてきた记録がありました。このとき上先生は「これから毎年会えるかもしれない」とピンときたそうです。
瀬戸内海は陆に囲まれた内海ですが、エチゼンクラゲが分布する黄海?东シナ海?日本海も东アジアの陆に囲まれた海です。人间活动の盛んな瀬戸内海でミズクラゲの増加が起こったように、中国沿岸での人间活动の高まりを考えれば、黄海?东シナ海?日本海でエチゼンクラゲの増加が起こってもおかしくありません。これからは大発生が続くのではないかとの予感がありました。その予感は的中し、2007年までほぼ毎年大発生を繰り返しました。
「アカクラゲ」。このクラゲがミズクラゲを捕食することを水族馆の人から教えてもらった。「海で仕事をする渔师さんたちの目の正しさには尊敬します。研究者はもっと现场の人の声に学ぶべきです」。

赤クラゲの写真。水クラゲを捕食する。
知れば知るほどかなわない、原始の时代から生き抜く力
エチゼンクラゲは一体どのようなクラゲなのか。「まさに火星人的な、未知の存在だった」エチゼンクラゲの人工繁殖にチャレンジし、世界で初めて成功しました。
エチゼンクラゲは他のクラゲ同様にポリプとメデューサを繰り返し、ポリプはポドシストという约0.5ミリメートルほどの小さなタネとして长期间休眠できるシステムを持つことが分かりました。クラゲにとって都合の悪いときはタネの状态でじっとチャンスをうかがい、“増えたい时期”になると一斉に発芽し、その结果クラゲの大発生につながるのではないかと考えています。
また、体に伤のない健全なクラゲの生殖腺は未成熟ですが、体がぼろぼろに伤つくと急に精子も卵も成熟が进みます。クラゲとしての命が危うくなると、子孙を残すように体内のスイッチが切り替わるかのようです。
エチゼンクラゲは対马海流にのって日本海を北上しながら巨大化し、体重约200キログラム、伞は直径2メートルにもなり、雌は10亿个以上の卵を产みます。そんな生态を知れば知るほど、「すごい、负けた!あんたたちには胜てん」と思ってしまうと先生は言います。
「6亿年前のまだ过酷な环境の海がクラゲの王国でした。その后出现した鱼类の繁栄によってクラゲの王国は灭びましたが、海の中で生き抜いてきました。そして今、そのしたたかさで鱼类に復讐しているのではないかと思えます。でもこれは人间が引き起こした生态系进化の逆行です。地球上での人类の存続を保証するには、なんとか手を打って、鱼があふれる豊かな海を取り戻さないといけません」。

世界初のエチゼンクラゲ人工繁殖に成功した実験室にて
渔业被害を食い止めるために、オールジャパンが立ち上がる
クラゲによる深刻な渔业被害を食い止めるため、农林水产省?农林水产技术会议から広岛大学が受託し、全国から11机関が参加する一大プロジェクトがスタートしています。
プロジェクトネームは“厂罢翱笔闯贰尝尝驰”「やめてよクラゲさん」。クラゲの増加や大発生は、基本的には人间活动の活発化に根ざしていますが、その因果関係を详しく探ることでクラゲの大発生の予测と制御を目指しています。
日本に来る前の若いエチゼンクラゲの出现状况を调べるため、日本と中国を行き来する旅客フェリーの上から、黄海や东シナ海のクラゲを目视観测しています。今年6月に2回の観测を行い、すでに大量のクラゲが确认されています。今年はエチゼンクラゲ大発生の年となるのは间违いないといいます。
エチゼンクラゲの大発生は台风と一绪で、现在の科学ではコントロールできません。まずクラゲ台风の発生があるかどうか、そしていつ、どこにクラゲ台风が押し寄せるかという「クラゲ予报」が出すことが重要です。それによって渔业者は事前に対策を立て、渔业被害の軽减を図ることができるからです。
また、クラゲのポリプを杀す生物由来の化学物质の探索、ポリプの付着を诱引したり忌避したりする细菌の分离、ポリプの天敌生物の探索など、クラゲ大発生の制御技术の开発につながる研究を行っています。
长年の调査の蓄积によって、クラゲの発生プロセスに共通项が见つかるようになってきました。クラゲと鱼の量的変动をコンピューターシミュレーションで予测し、クラゲを减少させるにはどのような条件が必要かを解析しています。クラゲの生态が明らかになるにつれパラメーターの定量化が可能となり、実现した研究です。

エチゼンクラゲが海流に乗って日本に押し寄せる。今年は大発生になるという。
豊かな海を取り戻そう。「里海创生プロジェクト」の目指すもの
瀬戸内海のミズクラゲ大発生问题も、なかなか解决できないでいます。
渔业资源が悪化してしまった海は、すぐには元に戻せません。だからといって放置していては荒れる一方です。「里山」は人が适度に手入れをすることにより、生产性も生物多様性も高く保たれています。同じように瀬戸内海も人が手入れをすることで、豊かな「里海」にしていかなくてはなりません。そのためには、护岸を直立のコンクリートではなく、生物が栖めるものに変えていったり、失われた藻场や干潟を人工的に作ってやったり、渔业ができない保护区を设けたり、鱼贝类の种苗放流を行ったりすることが必要です。このように海を耕していくことで、関心を持ち続け、宝の海であり続けることができると思います。
この里海の思想を瀬戸内海だけでなく、东アジアの海全体に「大里海」として広げたい。それが「里海创生プロジェクト」です。そのためには现在の社会システムの根本から変えていかなくてはならないと痛感しています。海の环境変化やクラゲ大発生の有様を通して、人の生き方や考え方を见直すことの重要性を语っていきたいと思っています。

生物圏科学研究科エントランスにある実物大のエチゼンクラゲと一绪に
あとがき
「海がクラゲにメッセージを託して人间に伝えようとしているんじゃないか。おとなしくひっそりと暮らしていたエチゼンクラゲが大発生し、そのグロテスクな姿で押し寄せ、人间に何か伝えに来ているのではないか、と高校生の息子に説明したのです。息子は「それは『风の谷のナウシカ』の王虫だね」と言いました。その后『风の谷のナウシカ』を见て纳得しました。『崖の上のポニョ』の冒头は海洋の生命の爆発そのものだったし、ポニョがクラゲに乗ってやってくるシーンも人间にメッセージを伝えに来るという意図が感じられて嬉しかったですね。学生の3年间、福山市鞆の仙酔岛にあった水产実験所にいたので、映画の风景も懐かしく感じられました」。
上先生と宫崎骏氏との対谈が実现したら、自然界と人间のあるべき姿についてきっと热く面白く语られることでしょう。(罢)