平成22年6月14日
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大 阪 大 学
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広 島 大 学
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细胞が自発的にゆらぐ仕组みを解明
-细胞性粘菌の运动をイメージングと数理モデルを用いて解析-
JST 課題解決型基礎研究の一環として、大阪大学 大学院生命機能研究科の上田 昌宏特任教授らは、細胞の自発運動を司るシグナル分子の自己組織化注1)過程を解明しました。
细胞は外部からの刺激がない一様な环境でも、不规则に方向転换しながら运动する「自発性」を持っています。この细胞が自発的にゆらぐ运动は、外部环境からのシグナルに依存せずに、细胞内部で生成される自発シグナルによって制御されると考えられます。これまで、アメーバ様细胞の运动は、イノシトールリン脂质注2)の一种であるホスファチジルイノシトール3、4、5-叁リン酸摆PI(3、4、5)P3闭が细胞膜上で偏って集积し、PI(3、4、5)P3が细胞の运动を司るアクチン骨格系注3)を制御することによって起こることが知られていました。しかしながら、PI(3、4、5)P3が偏って存在する仕组み、特に、PI(3、4、5)P3の合成と分解を担うイノシトールリン脂质代谢系が调节される仕组みは明らかにされていませんでした。
本研究グループは、今回、イノシトールリン脂质代谢系の自己组织化によってPI(3、4、5)P3の偏り(极性)が形成されることを発见し、この自己组织化が细胞の自発运动に重要であることを明らかにしました。この自己组织化はPI(3、4、5)P3の代谢に働くホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)やピーテン(PTEN)などの酵素分子の反応ネットワークによって形成され、缓和振动注4)と呼ばれる特徴的な経时変化を示すことが分かりました。この反応ネットワークを数理モデル化することにより、実験的に観察された缓和振动をシミュレーションで再现することに成功しました。数理モデルの解析から、PI3KやPTENなどの酵素分子の反応が不规则に変动する(ゆらぐ)ことにより、自己组织化パターンが多様になり、それによりランダムな细胞运动が引き起こされることが示唆されました。このように、イノシトールリン脂质代谢系は分子反応が确率的に変动することを织り込みながら细胞极性を自己组织化しているため、分子反応の确率的な変动というノイズの影响を受けにくい、ロバスト(顽强)なシステムとなっていると考えられます。また、イノシトールリン脂质代谢系に内在する分子反応の确率的なゆらぎの影响を消し去るのではなく、多様な时空间パターンの形成に利用することにより、ランダムな运动を自発生成していると考えられます。
本研究の进展により、自己组织化のコンセプトに基づいて分子反応のゆらぎを利用?制御する细胞内メカニズムが明らかとなり、ゆらぐ分子を要素として构成された生体システムに固有の设计原理?演算原理の解明に役立つことが期待されます。
本研究は、広島大学准教授の柴田 達夫氏と共同で行われました。
本研究成果は、「米国科学アカデミー纪要(PNAS)」のオンライン速报版で2010年6月14日(米国东部时间)の週に公开されます。
本成果は、以下の事业?研究领域?研究课题によって得られました。
戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
研究領域:「生命システムの動作原理と基盤技術」 (研究総括:中西 重忠 (財)大阪バイオサイエンス研究所 所長)
研究课题名:「细胞における确率的分子情报処理のゆらぎ解析」
研究代表者:上田 昌宏(大阪大学 大学院生命機能研究科 特任教授)
研究期间:平成19年10月~平成25年3月
JSTはこの领域で、生命システムの动作原理の解明を目指して、新しい视点に立った解析基盘技术を创出し、生体の多様な机能分子の相互作用と作用机序を统合的に解析して、动的な生体情报の発现における基本原理の理解を目标としています。上记研究课题では、分子运动の无秩序さや反応の确率性に起因するノイズの生成?処理?伝搬に着目した1分子レベルの精密计测と数理モデルの构筑を通して、分子情报処理システムの确率的演算原理の解明を目指しています。
研究の背景と経纬
细胞は外部刺激がなくても极性を形成し、方向転换を繰り返しながら自発的に移动运动を行います。つまり、细胞には前侧と后ろ侧があり、移动の际は前侧を先头にして进むということです。このことは、细胞の运动方向、すなわち细胞の前后极性を决定するシグナルが外部环境に依存せずに细胞内で生成されることを意味しています。自発性のメカニズムとして、これまでバクテリアやゾウリムシなどの水中を游泳する细胞を用いた研究から、分子の数や活性の确率的なゆらぎが重要であることが示唆されていました。一方、细胞性粘菌や白血球などのように、基质上に接着し运动に伴って细胞形态が动的に変化するアメーバ様细胞においては、细胞极性を形成するために、自発シグナルが细胞内で特定の分布をもつように组织化される必要があります。
细胞极性を制御するシグナル分子としては、外部刺激に対する走化性注5)応答の研究から、イノシトールリン脂质の一种であるPI(3、4、5)P3が知られていました。细胞中のPI(3、4、5)P3量は、PI(3、4、5)P3を合成、分解する酵素であるPI3KとPTENの活性によって调节されています。走化性を示す细胞では、PI(3、4、5)P3が外部刺激に応じて细胞前端の细胞膜に蓄积しており、こうしたPI(3、4、5)P3の极性によって走化性が维持されています。しかし、外部刺激がないときに、どのようにしてPI(3、4、5)P3が细胞内部の働きによって自発的に极性化されるのかについては、明らかではありませんでした。
研究の内容
细胞膜上でのPI(3、4、5s)P3の経时変化や分布パターン(时空间パターン)を明らかにするために、イノシトールリン脂质代谢系を构成する分子のマルチカラーイメージング解析を行いました。実験には、细胞运动や走化性応答の研究がよく进んでいる细胞性粘菌Dictyostelium discoideum(和名:キイロタマホコリカビ)のアメーバ细胞を用いました。イメージング解析の结果、PI(3、4、5)P3の细胞内局在がイノシトールリン脂质代谢系の自己组织化によって形成されることが明らかになりました。
自発运动をしている细胞では、PI(3、4、5)P3は细胞の前端に局在し、そこで细胞の运动を司るアクチン骨格系を制御することで自発运动が起こると考えられています。この自発的に运动する细胞のアクチン细胞骨格のはたらきを薬剤で阻害して细胞の移动运动を抑制したところ、细胞が动けない状态であるにも関わらずPI(3、4、5)P3が局在していることを発见しました(図1)。このことは、アクチン细胞骨格に非依存的な自己组织化のメカニズムがあることを意味しています。PI(3、4、5)P3が存在するところにはPTENはほとんど存在しておらず、両者は相互に排他的な局在を维持しながら细胞膜上を伝搬する进行波注6)(図1、図2A)を形成していました。また、他の细胞では、周期的にPTENとPI(3、4、5)P3の局在场所が入れ换わる振动(図2B)が観察されました。これらの时空间パターンはPI3KとPTENの活性に依存しており、これらの酵素活性の阻害によりパターン形成が抑制されると、细胞の自発运动能も着しく阻害されました。つまり、イノシトールリン脂质代谢系の自己组织化が细胞の自発运动のシグナルを生成していることが分かりました。また、个々の细胞が示すイノシトールリン脂质代谢系の时空间パターンは、见かけ上は细胞ごとに异なっていますが、细胞间で共通したダイナミクスが存在することが明らかになりました(図3)。このダイナミクスは生物の振动现象でしばしば见つかる缓和振动の特徴を持っていました。さらに、PI3KおよびPTENの分子反応を含めた反応拡散方程式注7)に基づいて、これらの现象を再现可能な数理モデルの构筑に成功しました(図4)。この数理モデルの解析から、细胞で见られる多様な时空间パターンが、分子数などのわずかな変化によって生み出されていることが明らかになりました。今回明らかになった自己组织化のメカニズムは、イノシトールリン脂质代谢系の分子反応ネットワークに内在する分子反応の确率的なゆらぎの中で细胞极性を比较的安定して生成しつつ、一方で、确率的なゆらぎからランダムに时空间パターンを生み出すことを可能にしています。こうした确率的にゆらぐ分子反応ネットワークの自己组织化により、细胞全体として分子反応のゆらぎに対して顽强(ロバスト)な挙动が可能になるとともに、ランダムな运动を自発生成していると考えられます。
今后の展开
本研究により、生体システム特有の分子反応の确率性に起因するゆらぎが自己组织化のメカニズムにより制御?利用できることが明らかとなりました。同様の动作メカニズムは、生体内の细胞においても利用されていることが想像されます。例えば、白血球の示す免疫応答や神経细胞による神経回路形成などにおいても走化性が重要であることが知られています。免疫応答では、白血球は排除するべき异物に向かって进み、神経回路が秩序だって形成される际には、どの神経细胞同士が结合するかが调节されています。このとき细胞は、生体内の复雑な空间构造において微弱な化学物质の浓度勾配の情报をたよりに目的地にまで移动する必要があります。ここでも、自己组织化によって自発的に细胞极性を形成しておき、外部刺激に応じて适宜细胞极性の方向性に対しバイアスをかけることで、细胞の移动方向を制御する仕组みが働いている可能性があります。また、高等生物においては、イノシトールリン脂质代谢系を构成する分子(PI3KやPTENなど)の突然変异により细胞ががん化する场合があることが知られていますが、今回明らかとなったイノシトールリン脂质代谢系の自己组织化能が细胞のがん化やその抑制に関与している可能性があります。このように、本研究において提案した自己组织化に基づく细胞内分子反応ネットワークの制御机构は、より复雑な生体内で起こる细胞の运动や応答、疾患の解明につながることが期待されます。
<参考図>
図1 細胞が自己組織化反応により自発的にPI(3、4、5)P3极性を形成する様子
イノシトールリン脂质代谢系分子の细胞内局在(緑:PI(3、4、5)P3结合たんぱく质であるPHドメインたんぱく质、赤:PTEN)。両たんぱく质に蛍光色素を付加して、アクチン细胞骨格を阻害した细胞の水平断面を可视化した。円周にあたる细胞膜上において、局在领域が时间経过に伴って移动する様子が観察された。(単位、分:秒。スケールバーは5μ尘)
図2 細胞ごとのPI(3、4、5)3局在の时空间パターンの违い
A、Bは异なる细胞でのPI(3、4、5)P3とPTENの局在を観察した结果である。
A、Bそれぞれにおいて、左図は细胞膜上での各たんぱく质の浓度を示している(赤:PTEN、緑:PI(3、4、5)P3に结合するPHドメインたんぱく质)。横轴は细胞膜上での位置、縦轴は时间を示し、こうした画像はキモグラフと呼ばれ、空间的な局在パターンの时间変化を捉えることができる。右図は相互相関関数を示しており、キモグラフにおいて、时间?空间的にどの程度の周期で似た构造が出现しやすいかを示している。相関の度合いは赤から青の色相で表示した(右下参照)。Aは进行波の特徴を示し、Bは振动と呼ばれる特徴を示す。
図3 イノシトールリン脂質代謝系の緩和振動ダイナミクス
A : 細胞膜上のPI(3、4、5)P3とPTEN浓度の时间変化の平均的挙动。PTEN浓度が高くPI(3、4、5)P3浓度は低い、あるいは、PTEN浓度が低くPI(3、4、5)P3浓度が高いという2种类の状态が比较的安定であり、细胞はその状态间を矢印の向きで行き来していることが明らかになった。
B : 進行波の起こる仕組み。細胞膜上の各点での緩和振動ダイナミクスは共通であるが、その振動の位相が各点で少しずつずれているために、全体では進行波として 見える。緩和振動ダイナミクスの形成にはたらくPTENは、細胞膜から離れると細胞質に移行し、また細胞膜の別の場所に結合する。このため、細胞膜上の各 点は、PTENを介して細胞全体と相互作用することになる(グローバルカップリング)。この相互作用を通して、細胞膜上の各点の位相に差が生まれ、進行波 や振動が形成される。細胞によってイノシトールリン脂質代謝系の分子の量が異なるために、細胞膜上の各点での位相のずれ具合が異なり、進行波と振動の違い や周期の違いが生じると考えられる。
図4 イノシトールリン脂質代謝系の反応拡散方程式に基づいた数理モデルによる再構築
A : 数理モデルに含まれるPI(3、4、5)P3代谢反応とPTENの细胞质-细胞膜间移行。PTENはPI(3、4、5)P3を脱リン酸化してPI(4、5)P2を产生する。逆に、PI3KはPI(4、5)P2をリン酸化してPI(3、4、5)P3を产生する。PTENは细胞质と细胞膜の间を行き来しているが、PI(3、4、5)P3が多くあるとPTENを细胞质へ移行させる。このため、PI(3、4、5)P3が多い细胞膜では、PTENの浓度がさがり、PI(3、4、5)P3の脱リン酸化が减るため、ますますPI(3、4、5)P3が増えることになる。逆に、いったんPI(3、4、5)P3が减少し始めると、PTEN浓度が増加し、ますますPI(3、4、5)P3が减少する。こうした正のフィードバックによりPI(3、4、5)P3とPTENが逆位相になる振动が形成される。
(図中 PtdIns(4,5)P2=PI(4、5)P2、PtdIns(3,4,5)P3=PI(3、4、5)P3)
B : 再構築された緩和振動ダイナミクス。(緑:PI(3、4、5)P3)
C : 分子反応ゆらぎを含めないシミュレーションによって再現された時空間パターン。
D : 分子反応ゆらぎを含めたシミュレーションによって再現された時空間パターン。実際の細胞のキモグラフ(図2)と同様に、パターンが途中で消失したり進行波が逆転したりする様子が再現された。
E : 分子反応ゆらぎを含めたシミュレーションによって進行波(左)と振動(右)が再現された。この場合、PI(4、5)P2の供给速度を変えることによって2つのパターンが生じた。
用语解説
注1)自己组织化
複数の分子間の相互作用により、時間空間的に一様な状態から自発的に進行波や緩和振動などの時間?空間的な秩序やパターンが形成されること。
注2)イノシトールリン脂质
細胞膜に存在するリン脂質であり、細胞膜全体に占める構成比は低いが、さまざまなシグナル分子の活性調節を介して細胞骨格制御、分泌、小胞輸送、核への情報伝達などの細胞機能を調節している。また、PTENは腫瘍抑制因子であり、この代謝系の異常ががんの発生に関与していることが知られている。
注3)アクチン骨格系
細胞の運動装置としてはたらく細胞骨格。アクチンを主成分として種々のアクチン結合たんぱく質やミオシン分子を含む。これらの分子の相互作用により、細胞の運動装置である仮足や尾部が形成される。細胞の前端部では仮足が前方へと形成され、後端部では尾部が収縮することにより、細胞が運動する。
注4)緩和振動(relaxation oscillation)
ゆっくりとした濃度変化の後に急激な濃度上昇が起こり、その後、再び別のゆっくりとした濃度変化が起こり、今度は急激な濃度下降が起こって元の状態に戻り、これが周期的に繰り返される現象で、反応拡散方程式によって記述することができる。急激な変化によってある状態が別の状態に「緩和」されるので緩和振動と呼ばれる。
注5)走化性
細胞が示す外部刺激に対する走性応答の1つで、化学物質の濃度勾配方向に応じて、その濃度の高いあるいは低い方向へ移動運動する性質。
注6)进行波
浓度の高い领域が时间の経过ともに波として空间を伝播していく现象で、反応拡散方程式によって记述することができる。
注7)反応拡散方程式
化学反応と分子の拡散によって起こる、分子の浓度の时间?空间的な変化を定量的に记述する方程式。自己组织化现象は反応拡散方程式によって再现することができる。
论文名
“Self-organization of the phosphatidylinositol lipids signaling system for random cell migration”
(细胞の自発运动を司るイノシトールリン脂质シグナル系の自己组织化)
著者 : 新井 由之(大阪大学 大学院生命機能研究科 特任助教、現 北海道大学 助教)
柴田 達夫(広島大学 大学院理学研究科 准教授)
松岡 里実(大阪大学 大学院生命機能研究科 特任研究員)
佐藤 雅之(大阪大学 大学院生命機能研究科 特任研究員)
柳田 敏雄(大阪大学 大学院生命機能研究科 特任教授)
上田 昌宏(大阪大学 大学院生命機能研究科 特任教授)
お问い合わせ先
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