平成22年11月17日
国立大学法人 広島大学
大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
財団法人 高輝度光科学研究センター
微生物でレアアースの回収が可能に
-バクテリアがレアアースを浓缩する现象を発见-
本研究成果のポイント
- 水溶液中において、レアアースが微生物の细胞表面で周囲(微生物が存在しない部分)に比べて高浓度に浓缩する现象を初めて観测
- 従来金属イオンの回収などに使われる阳イオン交换树脂に比べて10~100倍程度高浓度にレアアースを浓缩することが可能
- レアアースの中でも特に希少で高価な元素が特异的に浓缩する现象を発见
- 浓缩メカニズムを放射光(※1)を用いたX线吸収法(贰齿础贵厂法)(※2)により解明
- レアアース资源の开発やリサイクルに、バクテリアを利用した手法が有用であると判明
1.全体概要
広岛大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻?高桥嘉夫教授らの研究グループは、微生物の细胞表面では周囲(微生物が存在しない部分)に比べてレアアースを高浓度に浓缩する现象を见出しました。またレアアースの中でも特に希少価値の高い元素が选択的に浓缩することを発见しました。そして、その浓缩メカニズムを放射光を用いたX线吸収法(贰齿础贵厂法)により明らかにしました。
レアアース(希土类元素)は、ハイテク产业には不可欠な金属资源で、その安定供给は日本国内でも大きな问题となっています。レアアースは、「ランタン」から「ルテチウム」までのランタノイド15元素とスカンジウム?イットリウムからなる17元素の総称であり、鉱石からはこれらの元素の混合物として得られます。ハイテク产业で利用する场合は、特定のレアレース元素を分离精製して用いるため、レアレース元素の回収技术と共に、レアアース元素相互の分离技术の确立が极めて重要です。
研究グループは、バクテリア细胞表面にレアアースが高浓度に浓缩することを见出し、X线吸収法で分析することにより、その浓缩がバクテリア细胞壁に含まれるリン酸基との结合によるものであることを解明しました。
レアアースがバクテリア细胞表面で高浓度に浓缩する现象は、レアアース资源の开発、リサイクルにおけるレアアースの回収及び相互分离において、バクテリアを利用した手法が有用であることを示します。
本研究成果は、アメリカ地球化学会の学術雑誌『Geochimica et Cosmochimica Acta』誌の平成22年10月号に掲載されました。
论文タイトル
EXAFS study on the cause of enrichment of heavy REEs on bacterial cell surfaces
日本语訳 : EXAFS法を用いたバクテリア細胞表面における重希土類元素の濃集の原因に関する研究
2.本研究を始めた社会的背景や経纬
レアアースは、ハイテク产业には不可欠な金属资源ですが、现在世界の生产量では中国が95%以上のシェアを占めているため、その安定供给が日本国内でも大きな问题となっています。
レアアース(希土类元素)は、性质のよく似た17元素の総称であり、鉱石からはこれらの元素の混合物として得られます。またレアアースは、他の副产物と同时に回収される场合が多く、レアアースを选択的に浓缩?回収する技术の开発は、レアアース资源サイクルの确立において重要となっています。一方ハイテク产业で利用する场合には、これらの元素から特定のレアアース元素を分离精製して用いるため、こうしたレアアース元素相互の分离技术の确立も望まれています。
さらにネオジム磁石など、レアアースが多量に使われている製品からレアアースを安価に回収する技術の開発は、レアアースのリサイクルを進める上で重要な貢献をすると期待されます。これまでレアアースは、人工的に合成した試薬を用いたカラム法(※3)や溶媒抽出法(※4)で分離?濃縮してきました。これらは環境に負荷のかかる手法であり、特に各レアアース元素相互の分離を行うには高額な試薬を用いたり、強い酸試薬を用いる必要がありました。
3.研究手法と成果
広岛大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻では、バクテリア细胞表面にレアアースが浓缩することを见出し、碍贰碍フォトンファクトリー(笔贵)(※5)及び大型放射光施设厂笔谤颈苍驳-8(※6)を用いた齿线吸収法(贰齿础贵厂法)で分析することにより、その浓集がバクテリア细胞表面のリン酸基との结合によるものであることを解明しました。
得られた成果の特徴は以下のとおりです。
(1)水溶液中のレアアースは、バクテリア细胞表面に周囲に比べて10万倍程度浓缩する。この浓缩率は、従来金属イオンの回収などに使われる阳イオン交换树脂に比べて10~100倍程度大きい。
(2)この浓缩现象は细胞壁の构造が异なるグラム阳性菌と阴性菌のいずれでも同様にあり、さまざまなバクテリアで普遍的である可能性が高い。
(3)希少资源として特に値段の高い罢尘(ツリウム)や尝耻(ルテチウム)は、他のレアアースに比べてバクテリア细胞表面にさらに选択的に浓缩するため、これらの元素を他のレアアースから分离するために、バクテリアを利用できる可能性がある。
(4)同様の浓缩は、広岛大学构内のバイオフィルムなど天然に存在するバクテリアでも确认された。
4.今后の期待
今回の研究成果は、レアアース资源の开発、リサイクルにおけるレアアースの回収及び相互分离において、バクテリアを利用した手法が有望であることを示しています。バクテリアは安価で大量に培养することができ、环境负荷も小さいことから、クリーンなレアアース资源サイクルの确立のための重要な基础的発见となることが期待されます。
5.用语解説
※1.放射光
光速に近い电子の轨道を磁场によって曲げると轨道の接线方向に光が放出され、
この光を放射光という。マイクロ波からX线にいたる広い范囲の波长をもつ最も优れ
た光源として、科学技术の広い分野で用いられている。
※2.X线吸収法(贰齿础贵厂法)
物質に当てるX線のエネルギー(波長)を変えながら、その物質によるX線吸収の度合いを測定する実験法。EXAFSはExtended X-ray Absorption Fine Structure (広域X線吸収微細構造)の略で、X線を吸収した原子の価数や周りにある原子の位置などの情報が得られる。X線を吸収した原子から放出されるX線(蛍光X線)の強度を測定することで、希薄な原子に関する情報を得ることができる。X線のエネルギーを容易に選択できるので、放射光はEXAFS実験に最適な光源である。
※3.カラム法
充填剤を含んだカラム(円柱状の容器)に対象物质を含む溶液を流すことで、目的の物质を选択的に分离?浓集する方法。
※4.溶媒抽出法
水溶液と有机溶媒など混合しない2つの溶媒间で溶质を移动させることで目的物质を选択的に分离?浓缩する方法。
※5.碍贰碍フォトンファクトリー(笔贵)
茨城県の筑波研究学园都市にある大学共同利用机関法人高エネルギー加速器研究机构(碍贰碍)の放射光施设で、紫外线からX线までの光が利用可能な我が国最初の放射光専用光源として1982年に建设され、フォトンファクトリー(光の工场)という爱称で呼ばれている。
※6.大型放射光施设厂笔谤颈苍驳-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある軟X線から硬X線までの広いエネルギー範囲で、世界最高輝度の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、高輝度光科学研究センターが管理運営を行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来する。
お问い合わせ先
■広岛大学大学院理学研究科
教授 高橋 嘉夫
Tel: 082-424-7460
携帯電話: 090-9415-1186
Fax: 082-424-0735
E-mail: ytakaha@hiroshima-u.ac.jp
■大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
広報室長 森田 洋平
Tel: 029-879-6047
Fax: 029-879-6049
E-mai:press@kek.jp
■(厂笔谤颈苍驳-8に関すること)
財団法人 高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門
副主席研究員 宇留賀 朋哉
Tel: 0791-58-2750
Fax: 0791-58-0830
E-mail: urugat@spring8.or.jp
(※@は半角に置き换え送信してください。)