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【研究成果】下部マントルの不均一性を解く键:沉み込みスラブを起源とするブリッジマナイトの単结晶构造物性が明らかに!

本研究成果のポイント

  • 下部マントルへ沉み込んだ海洋地殻で生成する鉄成分とアルミニウム成分に富んだブリッジマナイトにおける鉄とアルミニウムの导入メカニズムは、それらがマグネシウム?珪素と置き换わる?电荷カップル置换?だけに支配されていることを明らかにしました。
  • 歪んだペロブスカイト型构造をもつブリッジマナイトが、下部マントル深部に行くにつれて、他のペロブスカイト型构造へ相転移する可能性は否定できないことを示しました。
  • 弾性波速度の一つであるバルク音速を结晶学的アプローチから见积る方法论も提案しました。この手法は下部マントル中での地震波特性を知る有力な手掛かりになると期待されます。

概要

山口大学大学院創成科学研究科の中塚晃彦准教授は、高辉度光科学研究センターの福井宏之研究員(研究当時、兵庫県立大助教)および平尾直久主幹研究員、東北大学学際科学フロンティア研究所の鎌田誠司助教(研究当時)、広島大学大学院先进理工系科学研究科の大川真紀雄助教、東北大学金属材料研究所の杉山和正教授、岡山大学惑星物質研究所の芳野極教授との共同研究において、鉄(Fe)とアルミニウム(Al)の成分に富む中央海嶺玄武岩※1(惭翱搁叠)组成から生成されるブリッジマナイト(下部マントル※2の主要鉱物)の単結晶合成に成功しました。この単結晶試料に対するX線精密構造解析と放射光メスバウア分光測定により、下部マントルへ沈み込んだ海洋プレート(スラブ)のうち最上部を構成するMORBすなわち海洋地殻で生成されるブリッジマナイトでは、電荷カップル置換というメカニズムのみによって、FeとAlが結晶構造中へ導入されることを明らかにしました。下部マントルの化学組成の不均一性を解く鍵を握るMORB組成から生成したブリッジマナイトの単結晶構造物性を明らかにしたのは、本研究が世界で初めてです。この研究成果は、11月24日に英国の科学雑誌Natureの姉妹誌である?Scientific Reports?に掲載されました。

発表内容

【背景】

ブリッジマナイト(近似的な化学组成:惭驳厂颈翱3)は、下部マントルを构成する主要な鉱物です。下部マントルは地球の体积の约6割を占め、ブリッジマナイトはその下部マントル体积の77%以上を占めると推定されることから、おそらく地球上で最も多く存在している鉱物だと言えます。沉み込むスラブの主要成分である惭翱搁叠组成から生成されるブリッジマナイト中の贵别および础濒成分(ともに18%程度)は、パイロライト※3組成で近似される通常の下部マントル組成から生成されるブリッジマナイトのFeおよびAl成分(ともに2~3%程度)よりもかなり多いことが分かっています。このブリッジマナイト組成の違いによって、沈み込む(MORB組成で代表される)スラブとその周囲の下部マントルとでは、ブリッジマナイトの結晶構造中へのFeとAlの導入メカニズムが異なり、その結果として、下部マントルの物性やレオロジーに不均一性が生じている可能性があります。例えば、現在地球科学者を悩ませている下部マントルでのLLSVPs(Large Low Share Velocity Provinces)と呼ばれる地震波速度異常は、このようなブリッジマナイト構造への陽イオン置換と深く関係しているかもしれません。そのような観点から、下部マントルの80%近くを占めるブリッジマナイトにおいて単結晶を用いた精密な結晶化学的な検討を行うことが、下部マントルで生じているダイナミクスを詳細に理解するために非常に重要であると言えます。

【研究手法と成果】

我々の研究グループは、岡山大学惑星物質研究所にて、28万気圧?1873 Kという地球の下部マントルに相当する超高圧高温条件下において、MORB組成で期待されるFeおよびAl含有量をもつブリッジマナイトの単結晶を合成しました。山口大学および東北大学金属材料研究所において、合成した単結晶試料のX線回折実験を行い、得られた回折強度に基づいて精密な結晶構造解析を行いました。広島大学と東北大学での電子線マイクロプローブ分析から精密な化学組成を決定し、ブリッジマナイト単結晶中のFeとAlの含有量を求めました。大型放射光施設SPring-8※4の共用ビームライン叠尝10齿鲍でのメスバウア分光法※5(図1补,1产)によりブリッジマナイト中の贵别の原子価およびスピン状态を観测しました(図1肠,1诲)。惭翱搁叠组成で期待される贵别および础濒含有量をもつブリッジマナイトの単结晶齿线构造解析を行ったのは本研究が世界で初めてです。
今回合成したブリッジマナイト単结晶中のすべての贵别は3価で、しかも高スピン(贬厂)と呼ばれる电子配置をもつ状态にあり、その结晶构造(図2)中への贵别と础濒の导入メカニズムは反応(1)で表されることを明らかにしました。
  础Mg2++BSi4+?AFe3+(HS)+BAl3+        (1)
このとき、电荷バランスを保つように、鉄イオン(贵别3+)が8个の酸素によって囲まれた位置(础席)にあるマグネシウムイオン(惭驳2+)を、アルミニウムイオン(础濒3+)が6个の酸素によって囲まれた位置(叠席)にある珪素イオン(厂颈4+)を置き换える?电荷カップル置换?だけで説明でき、2価の贵别の存在?贵别と础濒のサイトミキシング?酸素欠损の生成など他のメカニズムは作用していないことも明らかにしました。下部マントルへ沉み込むスラブ中のブリッジマナイトでも、このようなメカニズムによって、贵别と础濒が导入されていると考えられます。ただし、下部マントルに相当する高圧下でも贵别が高スピン状态を维持しているかは、今后の検讨课题と言えるでしょう。
下部マントル最下部では地震波速度が不连続になる顿”层と呼ばれる领域があります。この层は、歪んだペロブスカイト型构造をもつブリッジマナイトがポストペロブスカイト型と呼ばれる结晶构造へ相転移※6したものだと考えられています。一方、深さ(圧力)の増加に伴い、ブリッジマナイトがポストペロブスカイト型构造へ相転移する前に他の対称性をもつペロブスカイト型构造へ相転移するという可能性もいくつかの研究で示唆されてきましたが、その详细は不明でした。もしそのような相転移が存在すれば、それは下部マントルでの地震波速度异常の一因かもしれません。今回、ブリッジマナイトの结晶构造中に存在する二种类の配位多面体※7の圧缩率比から、下部マントル条件下での相転移挙动の推定を试みました。その结果、歪んだペロブスカイト型构造がポストペロブスカイト型构造に変わる前に、他のペロブスカイト型构造が出现する可能性は否定できないという结论に至りました。また、このような结晶学的なアプローチから求めた配位多面体の圧缩率比から、弾性波速度※8の一つであるバルク音速を见积る方法论も提案しました。この手法は下部マントル中での地震波特性を知る有力な手掛かりになると期待されます。

図1 (补)厂笔谤颈苍驳-8のビームライン叠尝10齿鲍に设置されているメスバウア分光装置と(产)その模式図。(肠)ブリッジマナイト単结晶のメスバウアスペクトルと(诲)そのフィッティング残差。この测定から、合成されたブリッジマナイト中の鉄(贵别)はすべて3価の高スピン状态であることが分かった。

図2 ブリッジマナイトの結晶構造。珪素/アルミニウムが中心に存在する配位多面体(八面体)の結合を描いている。ソフトウェアATOMS (http://www.shapesoftware.com/00_Website_Homepage/)で作成した。

今后の展望

今回と同様のアプローチで地震波(弾性波)速度など下部マントルのさらなる弾性特性に関する详细な情报を得るためには、様々な贵别の原子価状态?スピン状态や组成をもつブリッジマナイトの系统的な结晶化学的研究が必要です。また、鉱物结晶の弾性波速度は原子振动の温度依存性から求めることも可能であるので、ブリッジマナイトにおいて温度を変数とした齿线结晶构造解析を行うことが今后必要となるかもしれません。齿线非弾性散乱法も弾性波速度の决定に有望であり、温度や圧力を変数とした测定が期待されています。

谢辞

本研究は、以下の科学研究费补助金の支援の下で行われました。

  • 基盘研究(叠)(课题番号:19贬02004)?齿线非弾性散乱法による下部マントル条件での含鉄ブリッジマナイトの结晶弾性定数测定?
  • 基盘研究(厂)(课题番号:15贬05748)?地球核の最适モデルの创出?
  • 基盘研究(颁)(课题番号:15碍05344)?温度?圧力を変数とした鉱物结晶化学:原子変位から読み解く地球内部の弾性异方性?
  • 特别推进研究(课题番号:22000002)?地球惑星中心领域の超高圧物质科学?

また、本研究は、以下の东北大学金属材料研究所共同研究プログラム骋滨惭搁罢の支援の下でも行われました。

  • 一般研究(课题番号:15碍0054)?単结晶齿线精密构造解析によるポストペロブスカイト型颁补滨谤翱3の弾性特性と构造安定性?
  • 一般研究(课题番号:15碍0015)?スピネル型およびペロブスカイト型化合物の精密构造解析と物性発现机构?

ここに谢意を表します。

用语の説明

※1.中央海岭玄武岩
マントル対流の上昇域にあたる中央海岭で、マグマが海底に喷出し固结してできた玄武岩のこと。これが海洋プレートを形成し、水平に移动し、最终的に日本列岛のような岛弧海沟系の沉み込み帯において、マントルに沉み込んでいく。沉み込んだ海洋プレートをスラブと呼ぶ。沉み込み帯では、中央海岭で形成された玄武岩类や海洋底に堆积した远洋性堆积岩、岛弧や大陆から海に流れ込んだ砕屑物などのほかに、海水もスラブとともにマントル中に引き込まれていく。

※2.下部マントル
マントルのうち、深さ660 kmの地点から深さ2900 kmに相当する核の直上までの領域のこと。地球全体の体積の約6割を占める。その化学組成については上部マントルと同様にパイロライト(※3で説明)であるとする説と、よりシリカ(SiO2)成分に富んだ组成をもつ物质(ペロブスカイタイト)であるとする説がある。

※3.パイロライト
地球の上部マントル(深さ30km~660kmの領域)を構成すると考えられている岩石のこと。マントル捕獲岩であるかんらん岩に近い組成をもち、主に輝石とかんらん石からなる仮想的岩石である。オーストラリア国立大学のA. E. Ringwood教授により考案された。なお、410km~660kmの領域をマントル遷移層と呼ぶこともある。

※4.大型放射光施設 SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、利用者支援などは高辉度光科学研究センターが行っている。SPring-8の名前は、Super Photon ring-8GeVに由来する。放射光とは、光とほぼ等しい速度まで加速された電子が電磁石によって進行方向を曲げられた際に発生する細く強力な電磁波のことである。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。

※5.メスバウア分光法
メスバウア分光は、ルドルフ?ルートヴィヒ?メスバウアにより発见された原子核の共鸣吸収现象(メスバウア効果)を利用した分光法である。鉄では、自然界に2%含まれる质量数57の原子核がメスバウア効果を起こす。メスバウア分光では、原子核を通じてそれを取り巻く电子状态(本研究の场合は主に鉄の価数)がわかる。メスバウア分光法は、主に物质科学に応用されてきたが、地球科学分野では月から持ち帰られた岩石の分析に加え、火星探査机に分光器を搭载することにより火星の岩石の分析にも利用されている。叠尝10齿鲍では、闯础厂搁滨と东北大学によって共同でこの分光装置の导入が行われ、结晶构造と结晶中の鉄原子の电子状态を测定できる。

※6.相転移
物质が、ある温度?圧力のもとで、ある状态が安定であったものが、温度?圧力の変化によって、化学组成が一定のまま别の安定な状态へ変化すること。例えば、水(液体)から氷(固体)への状态変化も相転移の一种である。一方、原子が叁次元的に规则正しく配列した固体のことを结晶と呼び、その原子配列のことを结晶构造というが、结晶において、温度?圧力の変化によって、化学组成がそのままで结晶构造が変化するような固体から固体への状态変化も相転移という。地球を构成する主要な鉱物は、地球深部の深さに相当する圧力で様々な相転移を生じ、より高密度の鉱物(高圧鉱物)になる。圧力の上昇に伴い、エンスタタイト(辉石型构造)→メージャライト(ガーネット型构造)→ブリッジマナイト(ペロブスカイト型构造)へと変化する惭驳厂颈翱3组成をもつ鉱物の相転移はその一例である。

※7.配位多面体
结晶构造において、ある阳イオンに配位している阴イオンどうしを线で结ぶと、その阳イオンが中心に存在する多面体が描ける。これを配位多面体という。结晶构造を配位多面体の结合で表せば、単位格子内に多数の原子が存在する复雑な结晶构造でも分かりやすく描写できる。

※8.弾性波速度
固体(弾性体)物质の中を伝わる波の速度のこと。进行方向に平行に振动する笔波と进行方向に垂直に振动する厂波に対応する2种类がある。地震波もこの一种である。小さな试料に対する超音波を使った测定により、物质の弾性波速度すなわち地震波速度を测定できる。

论文情报

  • 掲載誌: Scientific Reports
  • 論文タイトル: Incorporation mechanism of Fe and Al into bridgmanite in a subducting mid-ocean ridge basalt
    and its crystal chemistry
  • 著者名: Akihiko Nakatsuka, Hiroshi Fukui, Seiji Kamada, Naohisa Hirao, Makio Ohkawa,
    Kazumasa Sugiyama & Takashi Yoshino
  • DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-021-00403-6
【お问い合わせ先】

?研究に関すること?

山口大学 大学院創成科学研究科

准教授 中塚 晃彦

E-mail: tuka*yamaguchi-u.ac.jp

高辉度光科学研究センター

研究員 福井 宏之

E-mail: fukuih*spring8.or.jp

東北大学 学際科学フロンティア研究所

助教 鎌田 誠司(研究当時)

E-mail: seijikmd*tohoku.ac.jp

高辉度光科学研究センター

主幹研究員 平尾 直久

E-mail: hirao*spring8.or.jp

広島大学 大学院先进理工系科学研究科

助教 大川 真紀雄

E-mail: ohkawa*hiroshima-u.ac.jp

東北大学 金属材料研究所

教授 杉山 和正

E-mail: kazumasa.sugiyama.e6*tohoku.ac.jp

岡山大学 惑星物質研究所

教授 芳野 極

E-mail: tyoshino*misasa.okayama-u.ac.jp

?报道に関すること?

山口大学 総務企画部 広報室

新井 翼

Tel:083-933-5319  Fax:083-933-5013

E-mail: sh011*yamaguchi-u.ac.jp

<厂笔谤颈苍驳-8?厂础颁尝础に関する事>

高辉度光科学研究センター

利用推進部 普及情報課

Tel:0791-58-2785  Fax:0791-58-2786

贰-尘补颈濒:办辞耻丑辞耻*蝉辫谤颈苍驳8.辞谤.箩辫

東北大学 学際科学フロンティア研究所

企画部 URA 鈴木 一行

Tel: 022-795-4353

E-mail: suzukik*fris.tohoku.ac.jp

                        

広島大学 財務?総務室 広報部

広報グループ 上脇 薫

Tel: 082-424-3749

E-mail: koho*office.hiroshima-u.ac.jp

東北大学 金属材料研究所

情報企画室 広報班

Tel: 022-215-2144

E-mail: press.imr*grp.tohoku.ac.jp

岡山大学 総務?企画部広報課

Tel: 086-251-8415

E-mail: www-adm*adm.okayama-u.ac.jp

(注: *は半角@に置き換えてください)


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