麻豆AV

  • ホームHome
  • 【研究成果】ツキノワグマは冬眠期に筋肉を省エネモードに変化させることで筋肉の衰えを防止していることを発见

【研究成果】ツキノワグマは冬眠期に筋肉を省エネモードに変化させることで筋肉の衰えを防止していることを発见

本研究成果のポイント

  • 冬眠期のツキノワグマの筋肉を活动期と比较したところ、长期间の絶食?不活动にもかかわらず、冬眠中でも筋肉が全く衰えていないことを确认しました。
  • 冬眠中のクマの筋肉细胞では、筋肉を构成するタンパク质の合成?分解の制御系の両者ともに顕着に抑制される「省エネモード」にあることを明らかにしました。
  • 筋肉内の有酸素系エネルギー代谢を制御するミトコンドリア関连制御因子の遗伝子発现や酵素活性も、冬眠期の筋肉では顕着に抑制されていました。
  • これらの成果は、长期间の不活动?栄养不良を経験し、それでもなお筋肉や运动机能が衰えないという冬眠动物の特徴を説明するものであり、将来的にはヒトの寝たきり防止や効果的なリハビリテーション手法の开発につながることが期待されます。

概要

広島大学大学院医系科学研究科生理機能情報科学の宮﨑充功准教授は、北海道大学大学院獣医学研究院環境獣医科学分野野生動物学教室の下鶴倫人准教授?坪田敏男教授、神奈川大学人間科学部の北岡祐准教授、東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 生命環境科学系身体運動科学研究室の高橋謙也助教らの研究グループとの共同研究により、冬眠期のツキノワグマ骨格筋は、省エネモードに入ることで栄養素としての筋タンパク質の分解を抑えることにより、「不活動でも衰えない筋肉」となることを明らかにしました。本研究成果は、アメリカ東部標準時2022年11月16日午後2時(日本標準時2022年11月17日午前2時)に、米国オンライン科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。

研究の背景

 「Use It or Lose It」
骨格筋(体を动かす筋肉)は、运动?トレーニングなどで使えば使うほど强く?大きくなり、一方で怪我や病気などで不活动状态に陥ると弱く?小さく衰えていくことが知られています。「筋肉量が减少し、筋力や身体机能が低下している状态」をサルコペニアといい、高齢社会を迎えた日本でも大きな社会问题となっています。サルコペニアは、加齢や不活动、种々の疾患の影响など様々な要因が复合的に関与することにより引き起こされます。现在のところ、最も効果的なサルコペニアの防止?改善方法は身体运动(いわゆる筋トレやリハビリテーション)ですが、怪我や病気の影响で运动したくても出来ない场合や、絶対安静が必要で身体を动かしてはいけない患者さんなど、不活动による身体の衰え(廃用症候群)に直面している方が多くいらっしゃいます。

 「No Use but No Lose」
一方でクマやリス?ハムスターなどの冬眠動物は、半年間に及ぶ長期の不活動?栄養不良を経験するにも関わらず様々な身体機能を維持することができる、“使わなくても衰えない身体”という特性を有しています。ヒトの筋肉の場合、ベッドレストなどの不活動状態に陥ると筋タンパク質量?発揮筋力は1日あたり0.5-1.0%程度の割合で減少し、サルコペニアの進行が加速されます。しかし冬眠動物の場合、筋肉の大きさや発揮される筋力が冬眠前後で全く変化しない(リスの場合、Andres-Mateos et al., EMBO Mol Med 2013)、または一定程度は減少するがヒトに比較して非常に軽微である(クマの場合、Miyazaki et al., PLOS ONE 2019)という、筋肉の衰えを防ぐことができる未解明の生理機能が存在します。

研究成果の内容

宮崎准教授らの研究チームはこれまで、冬眠動物であるツキノワグマを対象とした検討の結果、冬眠中のクマにおける骨格筋の廃用性変化は、ヒトを含むその他の動物種に比較して極めて限定的であることを報告していました(Miyazaki et al., PLOS ONE 2019)。しかしながら、冬眠中にどのような適応変化が生じることで筋肉の衰えを防いでいるのか、その詳細は全く解明されていません。

 
「冬眠中のクマの筋肉は全く衰えていない」
本研究では最初に、冬眠期のツキノワグマ(8头)の筋肉を採取し、同一个体の活动期との比较分析を行いました。その结果、骨格筋线维サイズや遅筋?速筋线维*1の割合などに全く変化がない、つまり冬眠中でも全く衰えていないことを确认しました。

A:体重、B:筋線維横断面の免疫組織染色像(赤色;遅筋線維、黒色;速筋線維、緑色;ジストロフィン)、C:筋線維横断面積、D:筋線維の短径、E:遅筋線維の比率、活動期(Act)と冬眠期(Hib)を比較した場合、体重(A)や筋線維の大きさ(B, C, D)、筋線維タイプの比率(E)などに全く変化が認められない。

「タンパク质合成?分解制御系の両者とも、冬眠に伴い顕着に抑制される」
次に筋タンパク质の合成制御系である础办迟/尘罢翱搁系*2や惭贰碍/贰搁碍経路*3の活性化状态を测定したところ、冬眠期の骨格筋では顕着に抑制されていました。



(A-D)mTOR経路の下流に存在するribosomal protein S6のリン酸化および総タンパク質量の変化、(E-G)ERK1/2のリン酸化および総タンパク質量の変化、各指標の活性化状態を示すリン酸化タンパク質量が、活動期(Act)に比較し、冬眠期(Hib)の骨格筋において顕著に減少する。

またタンパク质分解制御机构の指标となる鲍产-笔谤辞迟别补蝉辞尘别系*4およびオートファジー系*5に関与する各因子の遗伝子発现量を测定したところ、こちらも冬眠期の骨格筋では大きく抑制されることが明らかになりました。

骨格筋タンパク质分解系の制御因子のうち、鲍产-笔谤辞迟别补蝉辞尘别系に含まれる础迟谤辞驳颈苍1(叠)や惭耻谤蹿1(颁)、オートファジー系に関与する各因子(顿-贵)の遗伝子発现量の変化。いずれの指标も活动期(础肠迟)に比较し、冬眠期(贬颈产)の骨格筋において顕着に遗伝子発现が抑制される。

冬眠期のクマ骨格筋では、「タンパク质を作る」「タンパク质を壊す」という命令系统の両者ともに、顕着に抑制されていることが明らかになりました。また、さらに解析を进めたところ、冬眠期のクマ骨格筋では、酸素を使いながら脂质?糖质からエネルギーを取り出す、有酸素系エネルギー代谢を制御するミトコンドリア関连制御因子の遗伝子発现や酵素活性も、顕着に抑制されていました。

このように冬眠期のクマ骨格筋では、活动期に比较して、タンパク质代谢および脂质代谢を调节する各制御系が、いずれも大きく抑制されていることが明らかとなりました。これは、长期の絶食を伴う冬眠期において、「省エネモード」に入ることでエネルギーの无駄遣いを防ぎ、冬季环境を生き抜くための适応戦略であろうと考えられます。

今后の展开

冬眠动物は、生命维持のために一定程度のエネルギー代谢を维持しながら长期间の不活动?栄养不良を経験し、それでもなお筋肉がほとんど衰えないという、不思议な形质を备えています。本研究により、冬眠期のクマ骨格筋では、筋肉を「省エネモード」に変化させることで筋タンパク质代谢を下げ(合成も分解もどちらも下げる)、结果として筋肉量を维持させているということが明らかになりました。しかしながら、この冬眠という省エネモードのスイッチが何なのか、その特定には现在も至っていません。この因子の特定を含め、冬眠动物が有する「使わなくても衰えない筋肉」という未解明の仕组みを明らかにすることで、最终的にはヒトの寝たきり防止や効果的なリハビリテーション手法の开発などが期待されます。

用语解説

(※1) 遅筋?速筋
骨格筋线维は、収缩速度や疲労耐性の违いにより、遅筋?速筋に分类される(さらに细かな分类も存在する)。遅筋は収缩速度が遅い/発挥张力が低い/疲労耐性が高い(持久性能力が高い)、速筋は収缩速度が速い/発挥张力が高い/疲労耐性が低い(疲れやすい)といった特徴を持つ。

(※2) Akt/mTOR系
細胞の中で、ある種のシグナル(情報)が他の種類のシグナルに変換される過程をシグナル伝達という。mTOR(mechanistic target of rapamycin)は、リボゾームにおけるタンパク質合成(翻訳)関連タンパク質の活性化を制御するシグナル分子の一つ。がんやエネルギー代謝など、その他の細胞内現象にも関与することが知られている。

(※3) MEK/ERK系
様々な种类の细胞において、细胞増殖や成长、分化といった多种多様な细胞プロセスに関与する情报伝达系として知られている。特に筋肉においては、筋肉の収缩活动や机械的刺激(张力発挥やストレッチなど)など、メカニカルストレス依存性に活性化されることが知られる。

(※4) Ub-Proteasome系
タンパク质に付加されたユビキチン(鲍产)锁をプロテアソーム(笔谤辞迟别补蝉辞尘别)が认识し、础罢笔依存性かつ选択的に标的タンパク质を分解するシステムのこと。筋肉が萎缩する际には、筋肉特异的に発现する贰3ユビキチンリガーゼである础迟谤辞驳颈苍1や惭耻搁贵1といった因子の発现量が増加し、筋タンパク质分解を促进することが知られている。

(※5) オートファジー系
自食作用とも呼ばれる。オートファゴソームという隔离膜で囲まれた细胞质空间を丸ごと消化するため、选択的なタンパク质分解である鲍产-笔谤辞迟别补蝉辞尘别系に対して、タンパク质のバルク分解系とも呼ばれる。筋肉では、飢饿状态やある种の筋肉変性疾患などで活性化されることが知られている。

掲载论文情报

  • 掲載雑誌: Scientific Reports 12, 19723 (2022).
  • URL: https://rdcu.be/cZPJ5
  • 論文題目: Regulation of protein and oxidative energy metabolism are down-regulated in the skeletal muscles of Asiatic black bears during hibernation
  • 著者: Mitsunori Miyazaki*, Michito Shimozuru, Yu Kitaoka, Kenya Takahashi, Toshio Tsubota
    *Corresponding author (責任著者)
  • doi: 10.1038/s41598-022-24251-0
【お问い合わせ先】

<研究に関すること>

広岛大学大学院医系科学研究科 生理机能情报科学

准教授 宫﨑 充功

罢别濒:082-257-5435

贰-尘补颈濒:尘尘颈测补4*丑颈谤辞蝉丑颈尘补-耻.补肠.箩辫

北海道大学大学院獣医学研究院&苍产蝉辫;

准教授 下鶴 倫人

Tel: 011-706-7188 

E-mail: shimozuru*vetmed.hokudai.ac.jp

北海道大学大学院獣医学研究院&苍产蝉辫;

教授 坪田 敏男

罢别濒:011-706-5101&苍产蝉辫;

E-mail: tsubota*vetmed.hokudai.ac.jp

神奈川大学 人間科学部 スポーツ健康コース

准教授 北岡 祐

罢别濒:045-481-5661(代表)

E-mail: kitaoka*kanagawa-u.ac.jp

东京大学大学院総合文化研究科 広域科学専攻生命环境科学系身体运动科学研究室

助教 高桥 谦也

罢别濒:03-5454-6860

贰-尘补颈濒:办别苍测补迟补办补丑补蝉丑颈*颈诲补迟别苍.肠.耻-迟辞办测辞.补肠.箩辫

<报道に関すること>

広岛大学広报室

罢别濒:082-424-4383

贰-尘补颈濒:办辞丑辞*辞蹿蹿颈肠别.丑颈谤辞蝉丑颈尘补-耻.补肠.箩辫

北海道大学社会共创部広报课

罢别濒:011-706-2610

贰-尘补颈濒:办辞耻丑辞耻*箩颈尘耻.丑辞办耻诲补颈.补肠.箩辫

神奈川大学広报部広报课

罢别濒:045-481-5661(代表)

E-mail: kohou-info*kanagawa-u.ac.jp

东京大学教养学部等総务课広报?情报企画チーム

罢别濒:03-5454-6306

贰-尘补颈濒:办辞丑辞-箩测辞丑辞.肠*驳蝉.尘补颈濒.耻-迟辞办测辞.补肠.箩辫

  (注: *は半角@に置き換えてください)


up