本研究成果のポイント
- 免疫応答を记述する数理モデルを开発
- 免疫系が适切な応答を起こすための学习过程を机械学习の概念を用いて记述
- 抗原の特徴に応じて异なる强さの応答が诱导されることを示し、アレルギーの発症やその治疗効果を再现
概要
広島大学大学院统合生命科学研究科データ駆動生物学研究室の本田直樹教授(兼任:京都大学生命科学研究科特命教授、自然科学研究機構生命創成探究センター客員教授)、吉戸香奈さん(京都大学生命科学研究科大学院生)らからなる研究グループは、免疫系が体内への様々な侵入者(抗原)に対して有害か無害かを判断し、適切な免疫応答を起こす仕組みを提案する数理モデルを開発しました。
免疫系は自己(体内にある物质)と非自己(ウイルスなどの外からの侵入者)を判别できることは良く知られています。しかし、非自己の抗原には、有害なウイルスや细菌だけでなく、无害な花粉や食べ物なども含まれていますが、どのように免疫系がそれらを识别し、适切な强さの応答を诱导しているのかは免疫学における大きな谜でした。本研究では、?予测符号化?という机械学习の概念に基づき、?免疫系が抗原のリスクを予测し、その予测と実际の観测との误差に基づいて免疫记忆がアップデートされる?という新しい仮説を提唱しました。この仮説に基づく数理モデルにより、抗原の量やそれが入ってくる速度に応じて免疫応答の强さが决まることを示しました。また、花粉症などのアレルギーの発症や、アレルゲン免疫疗法(舌下免疫疗法など)の効果を再现し、本モデルの妥当性を示しました。本研究で提唱されたモデルは、?抗原に応じた免疫応答の诱导メカニズム?という免疫学における根本的な谜の解明に贡献することが期待されます。また、アレルギーや肠炎などの免疫系の误作动によって引き起こされる疾患の、数理モデルを用いた统一的理解に発展することが期待されます。
本研究成果は、颈厂肠颈别苍肠别誌に2022年12月7日に掲载されました。
背景
私たちの体を细菌やウイルスから守る役割を果たしているのが免疫系です。免疫系は、私たちにとって有害な侵入者(有害な抗原)に対しては强い免疫応答を起こすことでそれらを排除します。一方で、食べ物や体内にもともと存在する物质などの无害な抗原に対しては强い免疫応答を起こしません。これらの无害な抗原に强い免疫応答が诱导されると、アレルギーや自己免疫疾患などの様々な疾患が引き起こされてしまいます。このように免疫系は抗原の危険性に応じてその応答の强さを変化させているのですが、そのメカニズムは未だに明らかとなっていませんでした。
さらに、ワクチンの効果などとして知られるように、免疫系は一度経験した抗原の情报を?免疫记忆?として体内に保存します。この免疫记忆によって、同じ抗原に対する免疫応答が経时的に変化するのですが、その详细なメカニズムは明らかとなっていません。本研究では、特に、花粉などのアレルゲンに対して突然强い免疫応答を起こしてしまうアレルギーの発症と、そのアレルゲンの成分を少量、长期间投与することでアレルギー症状を缓和させる舌下免疫疗法などのアレルゲン免疫疗法に着目しました。アレルギーの発症と治疗についても、そのメカニズムはよくわかっていません。
研究成果の内容
本研究では、さまざまな种类の免疫细胞(罢细胞)の相互作用を记述する数理モデルを提案しました。さらに、免疫系は一度経験した抗原について学习できるシステムであると捉えられることから、机械学习で用いられる?予测符号化?という概念をモデルに导入しました(図1)。具体的には、免疫応答を强化する细胞は、抗原を効率的に排除するために?抗原の量?を予测します。一方で、免疫応答を抑える细胞は、过剰な応答を効率的に抑えるために?どのくらい免疫応答が过剰であるか?を予测します。これらの予测による情报は免疫记忆を担う?メモリー罢细胞?の生成に反映されると仮定しました。
この予测符号化による免疫记忆形成を导入した数理モデルの数値シミュレーションにより、免疫系が抗原の量や抗原の入ってくるスピードに応じてその応答の强さを変化させることを示しました。つまり、大量かつ急激に入力される抗原に対しては强い応答を起こす一方で、少量または大量でもゆっくり入力される抗原に対しては强い応答を起こさないという结果が得られました。これは、ウイルスや细菌は体内で自己増殖することで急激にその量が増加するために强い免疫応答が起こる(免疫系によって排除される)一方で、食べ物などは体内でその量が急激に増えることがないために强い応答が起きない(排除されない)と解釈することができます。
図2. 異なる抗原の量や入力速度に対する免疫応答のシミュレーション
また、アレルギーの発症とその治疗のシミュレーションも行いました。大量の抗原にさらされると上述のとおり强い免疫応答が诱导されます。しかし、その后に少量の抗原を投与すると、免疫系を抑制するタイプのメモリー罢细胞が蓄积しました。その结果、再び大量の抗原を投与しても、その応答が弱まることが示されました。つまり、我々の提案した数理モデルによって、花粉などのアレルゲンに大量にさらされることにより引き起こされるアレルギーの発症、さらには、アレルゲンの成分を少量、长期间投与することによって、再びアレルゲンに曝露されてもアレルギーが発症しないというアレルゲン免疫疗法(舌下免疫疗法など)の効果を再现することができました。
図3.アレルギーの発症およびその治疗のシミュレーション
今后の展开
本研究は、免疫応答を记述する数理モデルを开発し、予測符号化という概念を用いて免疫系が抗原の危険性を予測しつつ、適応的に学習している可能性を提唱しました。これまで、実験免疫学では、?この抗原に対してはこのような応答が起こる?というように各抗原に対する応答が詳細に解明されてきました。しかしながら、そもそも?なぜ抗原によって異なる応答を誘導できるのか??という根本的な謎が残ったままでした。本研究のように数理モデルを用いることで、実験のみでは解明が難しい?統一的なメカニズム?を提案することが可能になります。今後、実験的アプローチによって数理モデルから提案されたメカニズムを検証していくことで、複雑な免疫系の統一的理解が発展していくと考えられます。
掲载论文
- 著者: Kana Yoshido & Honda Naoki,
- タイトル: Adaptive discrimination between harmful and harmless antigens in the immune system by predictive coding
- 掲載誌: iScience, 2023
- DOI:
プロジェクトについて
本研究は、JST【ムーンショット型研究開発事業目標2050年までに、超早期に疾患の予測?予防をすることができる社会を実現】【JPMJMS2024-9】、自然科学研究機構生命創成探究センターExCELLS連携研究、学術変革研究領域(B)(No. 21H05170、計画班代表:本田直樹)、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業の基盤研究(B)(No.21H03541、代表:本田直樹)、特別研究員奨励費(No. 21J23680、代表:吉戸香奈)の支援を受けたものです。
【お问い合わせ先】
<研究に関すること>
広島大学大学院统合生命科学研究科 数理生命科学プログラム データ駆動生物学研究室
教授 本田直树
罢别濒:082-424-7336
贰-尘补颈濒:苍丑辞苍诲补*丑颈谤辞蝉丑颈尘补-耻.补肠.箩辫
<広报に関すること>
広島大学 広報室
罢贰尝:082-424-3749
贰-尘补颈濒:办辞丑辞*辞蹿蹿颈肠别.丑颈谤辞蝉丑颈尘补-耻.补肠.箩辫
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(注: *は半角@に置き換えてください)