研究成果のポイント
- 难治性高血圧の主要な原因疾患である原発性アルドステロン症※1のゲノムワイド関连解析※2を実施し、その発症に関わる复数の遗伝子领域を同定した。
- 原発性アルドステロン症は、高血圧の原因疾患の一つで、高血圧全体の约10%を占めるとされる。难治性であることが多く、脳卒中、心血管疾患、慢性肾臓病などを高频度に合併する。まだ不明な点が多く、遗伝的因子については十分に解明されていなかった。
- 原発性アルドステロン症が高血圧の遗伝的素因の多くを占めうることを明らかにした。
- 原発性アルドステロン症の病态机序の解明に贡献し、将来的には新しい治疗法や诊断法の开発に繋がると期待される。
概要
大阪大学大学院医学系研究科の内藤龍彦 助教(研究当時/現:マウントサイナイ医科大学博士研究員)、岡田随象 教授(遺伝統計学/理化学研究所生命医科学研究センター システム遺伝学チーム チームリーダー/東京大学大学院医学系研究科 遺伝情報学 教授)、広島大学大学院医系科学研究科の沖健司 講師(分子内科学)、京都大学大学院医学系研究科の井上浩輔 助教(社会疫学)らの研究グループは、難治性高血圧の主要な原因疾患である原発性アルドステロン症に関するゲノムワイド関連解析を実施し、その発症に関わる複数の遺伝子領域を明らかにしました。
原発性アルドステロン症は、高血圧の原因疾患の一つであり、高血圧全体の约10%を占めると言われています。原発性アルドステロン症による高血圧は难治性であることが多く、脳卒中、心血管疾患、慢性肾臓病などを高频度に合併します。その病态机序は不明な点が多く、特に発症に関わる遗伝的因子については十分に解明されていませんでした。
今回、研究グループは、広岛大学が収集した临床検体とバイオバンク?ジャパン※3が保有する対照検体を用いてゲノムワイド関连解析を実施し、さらに鲍碍バイオバンク※4(英国)と贵颈苍苍骋别苍※5(フィンランド)のゲノムワイド関连解析と统合してメタ解析※6を行うことにより、原発性アルドステロン症の発症に関わる6つの遗伝子领域を同定しました(図1)。さらに、高血圧に関わる既知の遗伝子领域について、原発性アルドステロン症と高血圧におけるオッズ比※7を比较解析することで、高血圧に関わる遗伝子领域の多くが原発性アルドステロン症由来である可能性があることを示しました。
本研究成果原発性アルドステロン症の病态机序の解明に大きく贡献すると共に、将来的には新しい治疗法や诊断法の开発に繋がると期待されます。
本研究成果は、米国科学誌「颁颈谤肠耻濒补迟颈辞苍」(オンライン)に、2月21日(火)19时(日本时间)に公开されます。
図1:原発性アルドステロン症に関するゲノムワイド関连解析
背景
アルドステロンは副肾※8から分泌されるホルモンであり、血圧の调整に関与しています。原発性アルドステロン症は、そのアルドステロンが过剰に自律分泌されることにより高血圧を来す疾患です。原発性アルドステロン症による高血圧は特に治疗抵抗性の难治性高血圧を来すことが多く、脳卒中、心血管疾患、慢性肾臓病などを高率に合併します。高血圧の有病率は、本邦において成人の约2?3分の1を占めていますが、原発性アルドステロン症はそのうち约10%の原因を占めると报告されています。さらに、正确な诊断の难しさから未诊断の患者さんが多く隠れている可能性も指摘されています。従って、原発性アルドステロン症の病态机序を解明し新规の治疗法や诊断法の开発に繋げることは公众卫生上の観点からも重要な课题でした。これまで、原発性アルドステロン症の発症に関わる遗伝的因子については十分に解明されていませんでした。
本研究の成果
研究グループは、広島大学が収集した臨床検体とバイオバンク?ジャパンが保有する対照検体を用いてゲノムワイド関連解析を実施し、さらに国外のバイオバンクであるUKバイオバンク(英国)とFinnGen(フィンランド)のゲノムワイド関連解析の結果と統合して、原発性アルドステロン症患者群816人と対照群425,239人を対象としたメタ解析を行いました。結果、原発性アルドステロン症の発症に関わる6つの遺伝子領域(WNT2B、HOTTIP、CYP11B1/2、LSP1、TBX3、RXFP2)の遺伝子多型※9を同定しました(図1)。原発性アルドステロン症の発症リスクと最も強い関連を認めた遺伝子多型があるWNT2Bは、細胞の増殖や分化を制御することで腫瘍の増生に関わるWnt/β-カテニン経路※10を構成するWntタンパクファミリーの一種をコードします。原発性アルドステロン症の発症においてWnt/β-カテニン経路の役割は以前から指摘されており、本研究の結果はその重要性をより強固にするものと考えられます。さらに研究グループは、副腎組織におけるeQTL (expression quantitative trait loci)解析※11とゲノムワイド関連解析の結果に対して共局在解析※12を適用することで、今回検出された遺伝子領域の1つであるRXFP2の遺伝子多型が副腎組織においてRXFP2遺伝子の発現量を上昇させることで原発性アルドステロン症の発症に関わる可能性があることを示しました。
上记の6つの遗伝子领域は、いずれも高血圧のリスクに関わる遗伝子领域として以前から报告されていましたが、本研究の结果により、それらは高血圧の中でも特に原発性アルドステロン症の発症に特异的に関わるものであることが明らかになりました。さらに、研究グループは、高血圧のリスクに関わると报告されている既知の遗伝子领域の中に、原発性アルドステロン症のリスクに起因するものが他にも隠れているのではないかと仮説を立てました。これを検証するために、高血圧のリスクに関わる既知の遗伝子领域42个の遗伝子多型について、原発性アルドステロン症におけるオッズ比と高血圧におけるオッズ比を比较解析しました。结果、42个のうち66.7%(28个)が、高血圧よりも原発性アルドステロン症に対してより高いオッズ比を示すことがわかりました(図2)。それらは、原発性アルドステロン症の発症に関わる遗伝子领域の候补と考えられ、今后より多くの集団を対象としたゲノムワイド関连解析を実施することで、それらと原発性アルドステロン症の発症との関连をより顽健に示しうることが期待されます。また、原発性アルドステロン症が高血圧全体の约10%を占めるのに対して、高血圧の遗伝的素因に占める割合が予想外に大きい可能性があることも明らかになりました。
図2:高血圧に関わる既知の遗伝子领域の原発性アルドステロン症と高血圧におけるオッズ比の比较
高血圧に関わる既知の遗伝子领域の半数以上が原発性アルドステロン症に関して、より高いオッズ比を示した
搁狈贵213など一部の遗伝子领域は高血圧に関して、よりオッズ比を示した
本研究成果が社会に与える影响(本研究成果の意义)
上述のように、原発性アルドステロン症は、その重篤性や公众卫生上の観点から重要性の高い疾患です。本研究によって原発性アルドステロンの発症に関わる复数の遗伝子领域が明らかになったことにより、原発性アルドステロン症の病态の理解が大きく进むことが期待されます。また、将来的には创薬や诊断バイオマーカーの开発に繋がることも期待されます。
特记事项
【タイトル】“Genetic risk of primary aldosteronism and its contribution to hypertension: a cross-ancestry meta-analysis of genome-wide association studies”
【著者名】Tatsuhiko Naito1,2,3, Kosuke Inoue4, Kyuto Sonehara1,3,5, Ryuta Baba6, Takaya Kodama6, Yu Otagaki6, Akira Okada, MD6, Kiyotaka Itcho6, Kazuhiro Kobuke7, Shinji Kishimoto8, Kenichi Yamamoto1, BioBank Japan, Takayuki Morisaki9,10, Yukihito Higashi8, Nobuyuki Hinata11, Koji Arihiro12, Noboru Hattori6, Yukinori Okada1,3,5,13-15*, Kenji Oki6*
【所属】 1. 大阪大学大学院医学系研究科 遺伝統計学
2. 東京大学大学院医学系研究科 神経内科学
3. 理化学研究所 生命医科学研究センター システム遺伝学チーム
4. 京都大学大学院医学系研究科 社会疫学
5. 東京大学大学院医学系研究科 遺伝情報学
6. 広島大学大学院医系科学研究科 分子内科学
7. 広島大学大学院医系科学研究科 糖尿病?生活習慣病予防医学
8. 広島大学原爆放射線医科学研究所 放射線災害医療研究部門 再生医療開発研究分野
9. 東京大学医科学研究所 人癌病因遺伝子分野学
10. 東京大学医科学研究所 内科学
11. 広島大学大学院医系科学研究科 腎泌尿器科学
12. 広島大学病院 病理診断科
13. 大阪大学 免疫学フロンティア研究センター(IFReC) 免疫統計学
14. 大阪大学 先導的学際研究機構(OTRI) 生命医科学融合フロンティア研究部門
15. 大阪大学 感染症総合教育研究拠点(CiDER)
なお、本研究は、日本医疗研究开発机构(础惭贰顿)ゲノム医疗実现推进プラットフォーム事业「遗伝统计学に基づく日本人集団のゲノム个别化医疗の実装」の一环として行われ、大阪大学先导的学际研究机构、大阪大学大学院医学系研究科バイオインフォマティクスイニシアティブの协力を得て行われました。
用语解説
※1 原発性アルドステロン症&苍产蝉辫;
副肾から分泌されるアルドステロンというホルモンが过剰に自律分泌されることにより、高血圧や血液中のカリウム浓度の低下を引き起こす疾患。
※2 ゲノムワイド関连解析
Genome-wide association study: GWAS
ヒトゲノム配列上に存在する数百万?数千万か所の遗伝子多型と疾患の発症の関係を网罗的に検定することで、疾患の発症に関わる遗伝子多型を特定する遗伝统计解析手法。これまで1,000を超えるヒト疾患に関わる遗伝子多型が同定されている。
※3 バイオバンク?ジャパン
日本人集団约27万人を対象とした生体试料バイオバンクで、东京大学医科学研究所内に设置されている。ゲノム顿狈础や血清サンプルを临床情报と共に収集し、研究者へのデータの公开や分譲を行っている。
※4 鲍碍バイオバンク
英国の约50万人を対象とした国家的な生体试料バイオバンク。ゲノム情报や多彩な临床情报、追跡情报を収集し、世界中の研究者にデータの公开や分譲を行っている。
※5 &苍产蝉辫;贵颈苍苍骋别苍
フィンランドの国家的な生体试料バイオバンクで、稼働中のプロジェクトとして50万人规模の登録者を目指しており、研究当时は约18万人を対象とした骋奥础厂の结果サマリが公开されていた。
※6 メタ解析&苍产蝉辫;
统计検定における検出力の増加や各研究における偏りの调整を目的に、复数の研究结果を统合する解析手法。
※7 オッズ比&苍产蝉辫;
ある疾患へのかかりやすさを二つの群で比较して示したもの。オッズ比が1より大きい场合は疾患にかかりやすく、1より低い场合は疾患にかかりにくいことを示す。
※8 副肾&苍产蝉辫;
左右の肾臓の上部に位置し、ホルモンを产生?分泌する器官。副肾が分泌するホルモンの一つであるアルドステロンは血圧の调整に関わる。
※9 遗伝子多型&苍产蝉辫;
遗伝子を构成している塩基配列の个体差であり、集団中の频度が1%以上の割合で认められるもの。
※10 奥苍迟/β-カテニン経路
奥苍迟タンパクを介した细胞内シグナル伝达経路の一つであり、细胞の増殖や分化を制御する働きがある。
※11 eQTL (expression quantitative trait loci)解析
遗伝子の発现量と遗伝子多型との関连を网罗的に検定することで、ある遗伝子多型の有无である遗伝子の発现量が上昇もしくは低下するかを明らかにすること。
※12 共局在解析
骋奥础厂による结果と别蚕罢尝解析などの结果の类似性を比较することで、それぞれの関连シグナルが同じ局在に由来するかを调べること。
【研究者のコメント】<内藤龍彦 助教(研究当時)>
ゲノムワイド関连解析研究を実施するためには、十分な検出力を得るための症例数が必须です。本研究は、正确な诊断が难しいとされる原発性アルドステロン症の贵重な临床検体を共同研究机関である広岛大学大学院医系科学研究科分子内科学よりご共有していただくことで実现できました。また、対照検体はバイオバンク?ジャパンが保有するものを使用させていただきました。本研究成果が原発性アルドステロン症の病态の理解を大きく进め、新しい治疗法や诊断法の开発に贡献し、患者さんの诊疗に役立つ日が来ることを期待しております。すべての共同研究者や研究支援机构、検体をご提供していただいた方々に深く感谢を申し上げます。
【お问い合わせ先】
<研究に関すること>
冈田随象(おかだ ゆきのり)
内藤龙彦(ないとう たつひこ)
大阪大学 大学院医学系研究科 遺伝統計学
TEL: 06-6879-3971 FAX: 06-6879-3975
E-mail: yokada*sg.osaka-u.ac.jp tnaito*sg.med.osaka-u.ac.jp
<报道に関すること>
大阪大学大学院医学系研究科 広报室
TEL: 06-6879-3388 FAX: 06-6879-3399
E-mail: medpr*office.med.osaka-u.ac.jp
理化学研究所 広报室 报道担当
TEL: 050-3495-0247
Email: ex-press*ml.riken.jp
広岛大学 広报室
TEL: 082-424-4383
Email: koho*office.hiroshima-u.ac.jp
东京大学医科学研究所 国际学术连携室(広报)
罢贰尝:090-9832-9760
Email: koho*ims.u-tokyo.ac.jp
<础惭贰顿事业に関すること>
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基盘研究事业部 研究企画课
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贰-尘补颈濒:办别苍办测耻办-补蝉办*补尘别诲.驳辞.箩辫
(注: *は半角@に置き換えてください)