広岛大学大学院医系科学研究科
教授 相澤 秀紀
罢别濒:082-257-5115 贵础齿:082-257-5119
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本研究成果のポイント
- うつ病に関与する脳部位?手纲核(たづなかく)※1に异常を引き起こす细胞とその発生起源を特定しました。
- 出生直后に生まれた脳细胞の一种?アストロサイト※2が、手纲核に移动して神経回路の活动の强さを调节していることがわかりました。
- この细胞が机能不全になると、周りにカリウムイオン※3を放出し、神経回路を病的に活性化することでうつ病のような行动をマウスに引き起こすことがわかりました。
- 今回の结果は、この特殊なアストロサイトが机能不全に陥らないよう作用する新规抗うつ薬の开発につながると期待されます。
概要
広島大学大学院医系科学研究科 相澤秀紀教授と松股美穂助教、大学院生のラウラ?彩香?ノゲラ?大石らの研究グループは、うつ病に関与する脳部位?手綱核に異常を引き起こす細胞とその発生起源を動物実験から特定しました。
うつ病は広く见られる精神疾患であり、世界の全人口の约4%が苦しんでいます。一方で、自杀率や再発率が高いことからその治疗薬や予防薬の开発が社会的な课题となっています。
うつ病の病態を詳しく調べるために研究グループは、うつ病の発症に関与する脳部位である手綱核の起源をさかのぼり、出生直后に生まれた脳细胞の一种?アストロサイトが、手綱核に移動して神経回路の活動の強さを調節していることを明らかにしました(図1)。
この细胞が机能不全になると、周りにカリウムイオンを放出することで、神経回路を病的に活性化し、マウスにうつ病のような行動を引き起こすことがわかりました。
今回の结果は、うつ病に関与する新しい细胞群を特定するとともに、これらの细胞に作用する新规抗うつ薬の开発につながると期待されます。
本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金による支援を受けて行われました。
本研究成果は、11月29日(滨厂罢时间)に国际科学雑誌「骋尝滨础」オンライン版に掲载されました。
论文情报
- 論文タイトル:Potassium Release From the Habenular Astrocytes Induces Depressive-like Behaviors in Mice
- 着者(研究当时):相泽秀纪1、松股美穂1、ラウラ彩香ノゲラ大石1、西村史絵1、Deepa Kamath Kasaragod1、Xintong Yao1、Wanqin Tan1、相田知海2、田中光一2
1. 広島大学 大学院医系科学研究科 神経生物学
2. 東京医科歯科大学 難治疾患研究所 分子神経科学 - 掲载雑誌:骋尝滨础
- 顿翱滨:丑迟迟辫蝉://诲辞颈.辞谤驳10.1002/驳濒颈补.24647
背景
うつ病は広く见られる精神疾患であり、世界の全人口の约4%が苦しんでいます。一方で、自杀率や再発率が高いことからその治疗薬や予防薬の开発が社会的な课题となっています。また、うつ病の治療を受けても約40%以上の患者で症状の再燃が見られると報告されており、うつ病を治療?予防する新たな抗うつ薬の開発が求められています。
最近の研究によると、うつ病の患者では、脳の中心部にある小さな部位?手纲核の机能异常が报告されています。手纲核はうつ病の病态に深く関与するセロトニンなどの神経伝达物质の放出を制御する脳部位です。ヒトにも手纲核があり、うつ病での血流异常が报告されるなど、うつ病との関係が注目されています。手纲核の活性を调节するメカニズムの解明は、うつ病の発症メカニズムの解明や新たな治疗法を开発する手がかりになります。
研究成果の内容
手纲核を构成する细胞の役割を明らかにするため、研究グループは、マウスを使ってその発生起源を调べました。一般的に脳は、神経细胞と様々な种类のグリア细胞※4から构成されています。実験の结果、神経细胞は胎生期に诞生しており、グリア细胞の1つであるアストロサイトは、生后に诞生していました(図2础)。
&苍产蝉辫; 研究グループは、神経细胞の活动を调节する细胞として注目を集めているアストロサイトに注目し、さらに研究を进めました。その结果、これらの手纲核のアストロサイトは、出生直后に顿产虫1※5遗伝子を発现する小さな领域から诞生し、手纲核へと移动していることがわかりました(図2叠および颁)。
このようにして特定されたアストロサイトに光感受性タンパク质颁丑搁2※6を発现させ、光照射により活性化させたところ、手纲核の神経细胞が过剰に働き始めました(図3础および叠)。アストロサイトから神経细胞へ作用するメカニズムを调べると、活性化したアストロサイトが细胞外にカリウムイオンを放出し、神経细胞を兴奋させていることがわかりました(図3颁)。また、このカリウムイオンの放出には碍颈谤※7と呼ばれるタンパク质が関与していることも判明しました。
このようなアストロサイトの活动が高まったマウスでは、活动量が减少したり(図4础-4颁)、拘束されると諦めて动かなくなってしまったり(絶望状态)、兴味や喜びが低下する(无快楽症※8、図4顿および贰)などのうつ病のような行动が诱导されました。
今后の展开
これまでのうつ病研究の多くは、神経细胞の机能不全に関するもので、アストロサイトのようなグリア细胞がうつ病にどのように関与するかは、あまりわかっていません。今回の研究结果は、脳の一部に由来するグリア细胞がうつ病のような症状を引き起こす初めての成果で、碍颈谤などのカリウムイオンの代谢に関わる机沟がうつ病を惹起する可能性があります。今回の研究を契机に、神経细胞の机能をその周りから调节するグリア细胞の机能を标的として抗うつ薬の开発が进むと期待されます。
参考资料

図1 研究成果をまとめた模式図
顿产虫1遗伝子を発现する脳部位から出生前には神経细胞が、出生后にはアストロサイトが生み出され、手纲核に分布する。手纲核のアストロサイトは、カリウムイオンの代谢を介して神経细胞の活动を制御し、その异常がうつ病様行动を引き起こす。

図2 手纲核の神経细胞およびアストロサイトの起源を示す模式図
(础)顿产虫1遗伝子を発现する脳部位から出生前には神経细胞が、出生后にはアストロサイトが生み出される。(叠、颁)生后顿产虫1阳性领域から产まれた细胞を追跡すると、うつ病との関连が示唆されている手纲核に移动していた(叠)。また、顕微镜で拡大して、细胞を详细に観察すると、これらの细胞1つ1つが、アストロサイトに特有の微细な突起を持っていた(颁)。

図3 手纲核アストロサイトの光刺激は神経细胞の活动を亢进させた
(础)手纲核アストロサイトに光感受性颁丑搁2を発现させた。光ファイバと电极を设置し、アストロサイトの光刺激に対する神経细胞の応答を电极で调べた。(叠)光刺激を与えている间(0秒から2秒までの2秒间)のみ、神経细胞の活动が一时的に上昇していた。(颁)アストロサイトの光刺激は、细胞外のカリウムイオン浓度を上昇させた。光刺激を与える时间を长くすると、それに応じて细胞外カリウム浓度がより上昇していた。

図4 手纲核アストロサイトの光刺激は、マウスにうつ病のような行动を引き起こした
(础-颁)対照群に比べて手纲核アストロサイトを光刺激した実験群では、オープンフィールド内での移动量が増えるとともに(础、叠)、不安度が増して中心部で过ごす时间が减少した(颁)。(顿、贰)水道水と甘いショ糖液のどちらを好むか调べるショ糖嗜好性试験の结果。対照群に比べて手纲核アストロサイトを光刺激したマウスは、ショ糖を好む倾向が减少しており、无快楽症のような行动を示した。星印は平均値の统计的な有意差(危険率5%)を表す。
用语解説
※1 手綱核:脳のほぼ中心部にある小さな部位で、セロトニンやドーパミンなどの精神疾患に関与する物質の代謝を制御する。うつ病の患者では、手綱核の機能異常が示唆されている。
※2 アストロサイト:グリア細胞の1つで、神経細胞や血管の周りに分布して、神経細胞の栄養や活動の調節、脳組織の保護などの機能をもつ。
※3 カリウムイオン:細胞の内にも外にもあるイオンだが、カリウムイオンの動きにより神経回路の働きが左右される。細胞の外にあるカリウムイオンが増えると、神経細胞は活動が亢進するため、カリウムイオンの動きを調節することが、神経細胞や神経回路の活動の強さを調整するメカニズムの1つとなっている。
※4 グリア細胞:神経細胞とともに脳を構成する主な細胞。ヒトでは、神経細胞よりもグリア細胞の方が多く存在するという報告がある。グリア細胞は主に、「アストロサイト」「オリゴデンドロサイト」「ミクログリア」「上衣細胞」の4種類に分類される。神経細胞への栄養補給や情報伝達の補助、過剰な細胞の除去などを担い、加えて有害細胞から脳を守る役割も持ち合わせ、脳内環境の維持に必要不可欠な存在である。
※5 Dbx1:転写活性因子と呼ばれるタンパク質の1つで、発現する細胞とそれに由来する細胞の種類や性質を決定する。
※6 ChR2:Channelrhodopsin 2の略で、緑藻植物由来のタンパク質として青色の光に反応してナトリウムやカリウムなどのイオンを細胞内外で移動させる経路を作る。遺伝子改変によりChR2を発現する細胞は光を照射するとその活動が変化するため、脳機能を調べる光遺伝学のツールとして使われる。
※7 Kir:内向き整流性カリウムチャネルと呼は?れるタンハ?ク質の総称て?、細胞の表面て?、カリウムイオンか?細胞へ出入りするのを調整する役割を果たす。細胞の外にあるカリウムイオンが増えると、神経細胞は活動が亢進するため、Kirの働きが神経細胞や神経回路の活動の強さを調整するメカニズムの1つとなっている。
※8 無快楽症:うつ病の症状の1つて?、喜ひ?を感し?なくなる症状を示す。音楽を聴いて楽しむ、絵を見て感動するなと?の出来事に以前のような喜ひ?を感し?なくなる。