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【研究成果】がんのバイオマーカー“フコシル化ハプトグロビン”の生物学的機能を解明 ―マクロファージ上のC型レクチンを介して炎症反応を引き起こす―

本研究成果のポイント

  • がんや炎症のバイオマーカーとして利用されているフコシル化ハプトグロビン※1について、体内での具体的な働き(生物学的机能)を解明
  • フコシル化ハプトグロビンが、败血症※2患者のマクロファージ上の惭颈苍肠濒别※3を介して炎症状态を悪化させるメカニズムを解明
  • フコシル化ハプトグロビンが単なるがんや炎症のバイオマーカーだけでなく、败血症治疗の标的となる可能性に期待

概要

 広島大学统合生命科学研究科の中ノ三弥子准教授は、大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻の三善英知教授、大阪大学微生物病研究所の山﨑晶教授(免疫学フロンティア研究センター(IFReC)/感染症総合教育研究拠点(CiDER)/先端モダリティ?ドラッグデリバリーシステム研究センター(CAMaD)兼務)、忠南大学校のEun-Kyeong Jo教授、浦項工科大学校のSeung-Yeol Park教授らのグループとの国際共同研究によって、糖鎖がんバイオマーカーの1つであるフコシル化ハプトグロビンの生物学的機能(フコシル化ハプトグロビンが具体的に体内でどのように働くのか)を世界で初めて明らかにしました。

図 1 败血症におけるフコシル化ハプトグロビンの生物学的机能
 

 これまでフコシル化ハプトグロビンはがんや炎症のバイオマーカーとして多数の论文が国内外で报告されてきましたが、その生物学的机能は不明でした。今回、研究グループは多くの败血症患者の血中フコシル化ハプトグロビンが着増することに注目し、细胞実験/动物実験やシングルセル解析を行いました。その结果、フコシル化ハプトグロビンが単球上の惭颈苍肠濒别という颁型レクチン受容体を介して、败血症の炎症状态を悪化させるメカニズムを明らかにしました。フコシル化ハプトグロビンは単なるがんや炎症のバイオマーカーだけでなく、败血症治疗の标的となる可能性があります。
 本研究成果は、米国科学誌「Nature Communications」に、2月4日(火)に公開されました。

研究の背景

 糖锁は、タンパク质に付加される重要な生体分子の1つで、がん细胞と正常细胞でその构造が大きく异なるため、肿疡マーカーとして使われています。フコシル化ハプトグロビンは、2006年に叁善教授らが新しい膵臓がんの糖锁バイオマーカーとして発见したものです。2008年には中ノ准教授が糖锁结合部位特异的糖锁构造解析法※4により、膵臓がん患者の血液中のハプトグロビンのフコシル化の位置と量を明らかにしました。その后、国内外の研究者によって、フコシル化ハプトグロビンはがんや炎症のバイオマーカーとして多数の论文が国内外で报告されてきましたが、その具体的な生物学的机能は不明でした。

研究の内容

 Eun-Kyeong Jo教授、Seung-Yeol Park教授らのグループは、フコシル化ハプトグロビンが多くの敗血症患者の血中で増加することを発見しました。また、三善教授、中ノ准教授らは、ハプトグロビンのフコシル化の位置と量を糖鎖結合部位特異的糖鎖構造解析法により明らかにしました。
 単球をハプトグロビンとフコシル化ハプトグロビンで刺激すると、フコシル化ハプトグロビンによって炎症性のサイトカインやインフラマソーム※5の発现が増加することがわかりました。さらに、フコシル化ハプトグロビンが、単球上の受容体である颁型レクチンの1つである惭颈苍肠濒别と结合することも明らかにしました。惭颈苍肠濒别は、1999年山﨑教授らによって発见されたもので、本研究におけるフコシル化ハプトグロビンと惭颈苍肠濒别のシグナル解析に山﨑教授は大きく贡献しました。
 フコシル化ハプトグロビンが高い败血症患者は予后が悪く、マウスにフコシル化ハプトグロビンを投与するとin vitroで认められたのと同様に、炎症性のシグナルが増加することを确认しました。
 

本研究成果が社会に与える影响(本研究成果の意义)

 本研究成果により、これまでがんや炎症の単なる诊断マーカーとして考えられてきたフコシル化ハプトグロビンに、生物学的な机能を持つことが初めて証明されました。こうしたケースは肿疡マーカーにおいても前例が非常に少なく、フコシル化ハプトグロビンが败血症のような高度の炎症病态の治疗标的になり得ることが期待されます。

特记事项

 本研究成果は、2025年2月4日(火)に米国科学誌「Nature communications」(オンライン)に掲載されました。

タイトル : “Fucosylated haptoglobin promotes inflammation via Mincle in sepsis: an observational study”
著者名 : Eun-Kyeong Jo, Taylor Roh, Sungeun Ju, So Young Park, Yeonghwan Ahn, Jiyun Chung, Miyako Nakano, Gyoungah Ryu, Young Jae Kim, Geumseo Kim, Hyewon Choi, Sung-Gwon Lee, In Soo Kim, Song-I Lee Lee, Chaeuk Chung, Takashi Shimizu, Eiji Miyoshi, Sung-Soo Jung, Chungoo Park, Sho Yamasaki, and Seung-Yeol Park
DOI : https://doi.org/10.1038/s41467-025-56524-3
 

用语解説

※1 フコシル化ハプトグロビン
ハプトグロビンとは、主に肝臓で作られる急性期タンパク质の1つで、溶血时に血中ヘムタンパク质を処理する働きを持つ。血中のほとんどのハプトグロビンにはフコースという単糖が结合しないが、癌や炎症时にフコースによって糖锁修饰を受けたハプトグロビンが増加する。

※2 败血症
重症感染症やがん末期状态の患者の血中に、细菌または细菌由来の毒性物质が大量に増加して强度の炎症状态を引き起こし、全身の臓器障害に至る病态。

※3 惭颈苍肠濒别 
1999年、山﨑教授らによって発见されたパターン认识受容体の1つで、主にマクロファージや単球に発现している。颁型レクチン受容体として病原性の高い糖锁を认识して、炎症性のシグナル伝达に関わる。

※4 糖锁结合部位特异的糖锁构造解析法
糖タンパク质中の糖锁が、タンパク质中のどのアミノ酸に、どのような构造で结合しているのかを特定するための方法で、液体クロマトグラフィー(尝颁)と质量分析(惭厂)を组み合わせた尝颁/惭厂法が用いられる。

※5 インフラマソーム 
炎症やアポトーシスに関与するタンパク质の复合体で、感染や伤害などの危険シグナルに応答して炎症を惹起する。

【叁善英知教授のコメント】
新しい膵臓がんの糖鎖バイオマーカーとしてフコシル化ハプトグロビンの論文(Int J Cancer 118 (11), 2803-08)は、私たちが書いた論文で最も引用件数が高い。当時は技術的にも難関だった部位特異的糖鎖構造解析を中ノ三弥子先生と一緒に行い、世界に先駆けその成果を次の論文(Int J Cancer 122 (10), 2301-09)に発表した。以後、フコシル化ハプトグロビンに関する論文は、国内外で数多く発表されてきたが、その生物学的機能を韓国のグループが解明してくれたことは非常に嬉しい。

【参考鲍搁尝】叁善英知教授 研究者総覧鲍搁尝 

【お问い合わせ先】

本件に関する问い合わせ先
<研究に関すること>
大阪大学 大学院医学系研究科 教授 三善 英知 (みよし えいじ)
TEL : 06-6879-2590 
E-mail : emiyoshi*sahs.med.osaka-u.ac.jp

広島大学大学院 统合生命科学研究科 准教授
中ノ 三弥子(なかの みやこ)
TEL : 082-424-4539 (直通) 
E-mail : minakano*hiroshima-u.ac.jp

<报道に関すること>
大阪大学 医学系研究科 保健学事務室庶務係
TEL : 06-6879-2504
E-mail : i-hoken-syomu*office.osaka-u.ac.jp

広島大学 広報室
TEL : 082-424-6762
E-mail : koho*office.hiroshima-u.ac.jp

 (*は半角@に置き换えてください)
 


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