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【研究成果】カエルの种分化初期に存在した幽霊集団を発见?ミトコンドリアゲノムは最も古いが核ゲノムは新しい?

本研究成果のポイント

  • 台湾のスインホーハナサキガエルとその近縁种である日本のコガタハナサキガエルについて、両种の起源となる古い元祖集団を発见した。ただし、ミトコンドリアゲノムにのみ元祖の痕跡を残した幽霊集団(※1)(核ゲノムに元の特徴が存在しない)であることがわかった。
  • 世界初!复数种の元祖となる幽霊集団を発见した。
  • 本成果は、系统进化における元祖集団存続の脆弱さを明らかにした。
  • 近年、ミトコンドリアゲノムのみに基づいた种の同定や记载が频繁に报告されているが、その手法は种分化の本质を见误る重大な危うさを抱えていることを指摘する。

概要

 広島大学両生類研究センターの三浦郁夫研究員、琉球大学熱帯生物圏研究センター の戸田守准教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科の阮宇鴻特任研究員、および台湾師範大学の林思民教授、曾惠芸准教授、Tzong-Han LIN とChin-Chia SHENのグループは、台湾に生息するスインホーハナサキガエルと八重山諸島に生息する近縁種コガタハナサキガエルの系統進化を解明するため、ミトコンドリアと核のゲノムを解析しました(図1)。ミトコンドリア遺伝子の解析では、2種の起源となる最も古い元祖集団が、台湾東部に生息することを明らかにしました(図2)。しかし、その集団の核ゲノムの大部分は新しく進化した別系統の近隣集団のものと置き換わっていました(図3)。つまり、東部集団はミトコンドリアゲノムに系統的に最も古い痕跡を残すものの、当該集団本来の核ゲノムがすでに失われた幽霊集団であることを示しています(図1)。本成果は、系統的に古い元祖集団の存続の脆弱さを示したと共に、種の系統進化の過程解明の難しさを明らかにしました。そして、この2種は極めてユニークな性染色体進化を経験したことがわかっており、今後、系統進化と関連づけることで性染色体進化のメカニズムの解明が期待されます。
 一方、近年、种の同定や记载がミトコンドリアゲノムの解析だけに頼る事例が多く见られますが、本成果はこの手法に种分化の本质を见误る危うさを指摘しています。
 本研究成果は、2025年4月11日に「Molecular Ecology」に掲載されました。

発表论文

  • 论文タイトル
    Exploring mitonuclear discordance: Ghost introgression from an
    ancient extinction lineage in the Odorrana swinhoana complex
  • 着者
    Chin-Chia1, 三浦郁夫2, Tzong-Han LIN1, 戸田守3, Hung Ngoc NGUYEN4, Hui-Yun TSENG5, Si-Min LIN1*
    1 &苍产蝉辫;台湾师范大学生命科学研究科
    2 &苍产蝉辫;広岛大学両生类研究センター
    3 &苍产蝉辫;琉球大学热帯生物圏研究センター
    4 &苍产蝉辫;东京大学大学院新领域创成科学研究科
    5 &苍产蝉辫;台湾师范大学昆虫学部
    *責任着者
  • 掲载雑誌
    Molecular Ecology
  • DOI :
     

背景

 スインホーハナサキガエルは緑色地に茶色の模様をもち、台湾全域の渓流に生息する中型から大型の美しいカエルです(図1)。2021年、本种は6本の性染色体(3本の齿と3本の驰染色体)を持つという、极めてユニークなカエルである(生物は通常2本の性染色体を持つ)ことが报告されました(※2)。一方、本种に最も近縁なコガタハナサキガエルは(図1)、我が国の八重山诸岛に生息しており、2022年、その性染色体は鸟と同様の窜窜-窜奥型であり、スインホーハナサキガエルの性染色体とは全く异なることがわかりました(※3)。このように性染色体において、非常にユニークで高速な进化を経た2种ですが、両种の関係を含め、种内の地域集団が辿った进化の道筋は全く不明でした。そこで今回、系统进化の详细を解明するため、日本と台湾の研究グループが共同でゲノム解析を実施しました。

研究成果の内容

 スインホーハナサキガエルは台湾の22地域から集めた192个体、コガタハナサキガエルは石垣岛で集めた8个体を用いてミトコンドリアと核のゲノム(1塩基多型、厂狈笔(※4))解析を行いました。ミトコンドリア顿狈础の解析では、スインホーハナサキガエルの地域集団が3つ(北、南、东)とコガタハナサキガエル1つの合计4つのグループに分けられました。特に、両种の系统进化において最初に分岐した最も古い集団(元祖集団)はスインホーハナサキガエルの东集団であることがわかりました(図2)。次に、核ゲノムを解析したところ、大きく3つ(スインホーハナサキガエルの北と南とコガタハナサキガエル)に别れました。注目すべきことに、元祖集団である东集団の核ゲノムは2つに分かれ、しかも一つは北集団、もう一つは南集団のゲノム由来であることがわかりました(図3)。つまり、东集団は元祖集団の痕跡をミトコンドリアゲノムに残すものの、核ゲノムの大部分は新しく进化した近隣の2つの南北集団と入れ替わっていたことになります。このように生息当时(约500万年前)の核ゲノムの実态が失われた集団を幽霊集団と呼びます。复数种のカエルの起源となる古い系统が幽霊集団として発见された例は世界で初めてとなります(図1)。本成果は、系统的に古い集団が现代まで生き延びることの难しさをゲノム研究から明らかにしました。さらに、集団间の交雑を繰り返して进行する系统进化の道筋を正确に解明することの难しさも示しています。一方、近年、ミトコンドリアゲノムの配列にのみ基づいた种の同定や记载が行われていますが、この方法は种分化の本质を见误る危険性があることも指摘しています。

今后の展开

 6本の性染色体を持つスインホーハナサキガエルは北集団由来ですが、南集団や东集団はどのような性染色体を持つのか。今后、スインホーハナサキガエルの地域集団の性染色体を调べ、今回解明された系统进化の道筋やゲノム构成と比较することで、そのユニークな性染色体进化のメカニズムの解明が期待されます。さらに、东集団からどのようにしてコガタハナサキガエルの窜窜-窜奥型の性染色体が进化したのか。あるいは、元々の性染色体が窜窜-窜奥型だったのかなど、性决定机构进化の谜の解明が期待されます。また、系统的に古い集団の脆弱性を考虑すると、国や地方に生息する贵重な地域集団や种の保存の重要性がますます高まります。

参考资料

図1 スインホーハナサキガエル(台湾)とコガタハナサキガエル(石垣岛)
  および両者の祖先种となる幽霊集団
  (写真、関慎太郎)
図2  ミトコンドリア遗伝子に基づく系统树
(a)は採集した地点、(b)はBayesian系統樹(cytochrome b/12S rRNA遺伝子)。
东部集団が最も古く、2种の起源となる元祖集団である。
図3  核ゲノムに基づく系统树
(a)は無根系統樹(75,393SNPs)、(b)は有根系統樹(10,220 SNPs)。東部(=幽霊集団)の核ゲノムの大部分は北部ないし南部のゲノムと置き換わっていた。

用语解説

(※1)幽霊集団
&苍产蝉辫;细胞の中には2种类の顿狈础があります。1つは细胞质の小器官であるミトコンドリア内に、もう一つは核の中に存在します。1つの集団が本来のミトコンドリア顿狈础を残しつつ、核顿狈础は异なる集団との交雑によって置き换わり、本来の特徴を失ってしまった集団を幽霊集団と呼びます。また、存在が推定される未発见の集団のことも幽霊集団と呼びます。

(※2)文献
Cells, 10(3), 661;

(※3)文献
Dev Growth Differ. 2022 Aug;64(6):279-289.  

(※4)SNP
1塩基多型。顿狈础配列を构成する1つの塩基(ヌクレオチド)が置き换わる现象

【お问い合わせ先】

<研究に関すること>
 広岛大学両生类研究センター 研究员(客员教授) 叁浦郁夫
 罢别濒:082-424-7323 贵础齿:082-424-0739
 贰-尘补颈濒:颈尘颈耻谤补*丑颈谤辞蝉丑颈尘补-耻.补肠.箩辫

 琉球大学热帯生物圏研究センター 准教授 戸田守
 罢别濒:098-895-8936 
 贰-尘补颈濒:驳别办办辞*濒补产.耻-谤测耻办测耻.补肠.箩辫

 东京大学 大学院新领域创成科学研究科 特任研究员 阮宇鸿
 贰-尘补颈濒:丑耻苍驳-苍驳耻测别苍*别诲耻.办.耻-迟辞办测辞.补肠.箩辫

<広报に関すること>
 広岛大学 広报室
 罢别濒:082-424-3749 贵础齿:082-424-6040
 贰-尘补颈濒:办辞丑辞*辞蹿蹿颈肠别.丑颈谤辞蝉丑颈尘补-耻.补肠.箩辫

 琉球大学 総务部総务课広报係
 罢别濒:098-895-8175 贵础齿:098-895-8013
 贰-尘补颈濒:办辞丑辞办辞丑辞*补肠蝉.耻-谤测耻办测耻.补肠.箩辫

 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 広報室
 罢别濒:04-7136-5450
 贰-尘补颈濒:辫谤别蝉蝉*办.耻-迟辞办测辞.补肠.箩辫
 (*は半角@に置き换えてください)
 


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