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【研究成果】立方体型分子に電子を閉じこめる ―産学連携により前人未到の含フッ素分子の合成に成功―

ポイント

  • 全ての顶点にフッ素原子が结合した立方体型分子?全フッ素化キュバン?の合成に成功しました。
  • 多面体型分子の内部空间に电子を闭じこめた状态を、初めて観测できました。
  • 本成果は电子を受けとる分子の设计の常识を覆すものであり、将来的には材料科学の発展への寄与が期待されます。

概要

 東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻の杦山真史大学院生、秋山みどり特任助教(研究当時)、野崎京子教授、AGC株式会社岡添隆上席特別研究員らの研究グループは、広島大学大学院先进理工系科学研究科の駒口健治准教授および京都大学大学院工学研究科の東雅大准教授との共同研究により、全ての頂点にフッ素原子が結合した立方体型分子?全フッ素化キュバン?を初めて合成し、その内部に電子を閉じこめた状態を観測することに成功しました。
 全ての顶点にフッ素原子が结合した多面体型分子は、その内部に电子を受けとることが理论的に予想されていましたが、合成は达成されていませんでした。本研究グループは、础骋颁株式会社が开発した笔贰搁贵贰颁罢法(注1)を用いて、世界で初めて全フッ素化キュバンの合成に成功しました。また、この分子の内部に电子を闭じこめた状态を観测することにも成功しました。本成果は、电子を受けとる机能性分子の设计指针に新たな可能性を示すものです。
 本研究成果は、2022年8月11日(米国东部夏时间)に米国科学誌?厂肠颈别苍肠别?のオンライン版に掲载されました。

発表内容

 立方体型のキュバン、正十二面体型のドデカヘドラン、サッカーボール型のフラーレンといった多面体型分子は、その美しい构造によって世界中の科学者を魅了してきました。有机合成化学の进歩によって多面体型分子の合成が达成されると、科学者の次の兴味は、多面体构造の内部空间に単一粒子を闭じこめることに移りました。これまでに、金属原子や希ガス原子、水素分子、水分子を多面体型分子に闭じこめた例が报告されています。一方で、量子化学计算(注2)によって?多面体型分子の顶点の全ての炭素にフッ素原子が结合していると、その内部空间に电子が闭じこめられる?と予想されていました。これは、电子が入っていない空の分子轨道(注3)が多面体の内部に集合して、电子を受けとりやすい尝鲍惭翱(注4)を形成するためです(図1)。このような现象は非常に兴味深いものですが、全ての炭素にフッ素原子が结合した多面体型分子の合成が难しく、予想の域を出ていませんでした。
 このような背景のもと、本研究では立方体型分子キュバンの8つ全ての炭素にフッ素原子が结合した?全フッ素化キュバン?の合成を行いました。これまでの研究例では、キュバンの8つの炭素のうち、最大で2つしかフッ素原子が导入されていませんでした。従来の方法では复数の化学反応によって1つずつフッ素原子を导入するため、8つのフッ素原子を导入するためには多数の手顺が必要であり、全フッ素化キュバンの合成は现実的ではないと考えられてきました。そこで、フッ素ガスを用いることで复数のフッ素原子を一挙に结合させる手法を検讨しました。有机合成化学の分野においてフッ素ガスは、有机化合物と爆発的に反応し制御が难しいとされ、ほとんど扱われてきませんでした。これに対して础骋颁株式会社は、フッ素ガスの反応性を制御しながら有机化合物にフッ素原子を导入する技术?笔贰搁贵贰颁罢法?を开発しています。今回本研究グループは笔笔贰搁贵贰颁罢法を用いることで、7つのフッ素原子を同时にキュバンに结合させることに成功しました(図2)。さらなる化学反応によって残りの1つのフッ素原子を导入し、全フッ素化キュバンの合成を达成しました。単结晶齿线构造解析(注5)の结果から、キュバンの全ての顶点にフッ素が导入されていることが分かります(図2右)。
 电気化学测定(注6)および吸光测定(注7)によって、予想通り、全フッ素化キュバンが电子を受け取りやすい分子轨道を持つことが実証されました。また、ガンマ线を照射して全フッ素化キュバンに电子を与え、低温固相マトリックス単离贰厂搁法(注8)によってどのような化学种が生成しているのかを観测しました。その结果、全フッ素化キュバンに与えられた电子が、主に立方体の内部空间に分布していることが明らかとなりました(図3)。
 これまで、电子を受けとる分子の设计指针は常に、ベンゼン环のように二重结合を复数繋げることで电子を受けとりやすい分子轨道を作るものでした。これに対して本研究は、二重结合を用いずに电子を受けとる分子を开発した点において、これまでの常识をくつがえす重要な意义を持ちます。今后は、全フッ素化キュバンに闭じ込められた电子の挙动や反応性についてさらに调査し、新たな学理の构筑を目指します。电子を受けとる分子は有机エレクトロニクス材料に応用されているため、将来的には材料科学の発展への寄与が期待されます。

 本研究は、础骋颁株式会社の出资により东京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻に设置された社会连携讲座?フッ素および有机化学融合材料?生命科学讲座?で行われました。本研究成果は、大学の最先端の科学的知见と、公司の専门的な技术の融合によってもたらされました。また、科研费?若手研究(课题番号:闯笔19碍15532、闯笔21碍14608)?、?学术変革领域研究?动的エキシトンの学理构筑と机能开拓(课题番号:闯笔20贬05839、闯笔21贬05385)?、特别研究员奨励费(课题番号:闯笔21闯21713)、豊田理化学研究所、服部报公会、池谷科学技术振兴财団、小柳财団の支援により実施されました。

用语解説

 (注1)PERFECT(Perfluorination of an Esterified Compound then Thermolysis)法:
有机分子中のすべての炭素-水素结合を炭素-フッ素结合に変换するために开発された方法。
 (注2)量子化学计算:コンピュータによるシミュレーションによって分子の电子状态を求め、构造や性质を解析する手法。
 (注3)分子轨道:分子内を运动する电子の空间分布を表す。実际に电子が占有する分子轨道と、电子が占有しない空の分子轨道がある。
 (注4)LUMO:最低空軌道(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)。電子が占有しない空の分子軌道のうち、最も電子を受けとりやすいもの。
 (注5)単结晶齿线构造解析:単结晶(分子が规则正しく并んだ结晶)に齿线を照射し、その回折を测定することにより、结晶中での分子の构造や并び方を决定する手法。
 (注6)电気化学测定:溶液状态の分子に电圧をかけ、流れる电流を测定する手法。电子の受けとりやすさを评価することができる。
 (注7)吸光测定:溶液状态の分子に光をあて、分子が吸収する光の波长を调べる手法。电子を受けとりやすい分子は、より长い波长の光を吸収する。
 (注8)低温固相マトリックス単離ESR法:反応不活性な固体媒体中、低温で目的の化学種を発生させることで、不安定な化学種の分解を抑制して観測する方法(ESR:電子スピン共鳴、Electron Spin Resonance)。

添付资料

図1 全フッ素化キュバンが電子を受けとる仕組みとLUMOの分布

図1  全フッ素化キュバンが電子を受けとる仕組みとLUMOの分布

図2  全フッ素化キュバンの合成方法と結晶構造

図3 全フッ素化キュバンに与えられた電子の分布

図3  全フッ素化キュバンに与えられた電子の分布

论文情报

  • 雑誌名:厂肠颈别苍肠别
  • 論文タイトル:Electron in a cube: synthesis and characterization of perfluorocubane as an electron acceptor
  • 著者:Masafumi Sugiyama, Midori Akiyama*, Yuki Yonezawa, Kenji Komaguchi, Masahiro Higashi, Kyoko Nozaki, and Takashi Okazoe
  • 顿翱滨番号:10.1126/蝉肠颈别苍肠别.补产辩0516
【お问い合わせ先】

<研究に関すること>

 京都大学 大学院工学研究科分子工学専攻

 助教 秋山 みどり(あきやま みどり)

 贰-尘补颈濒:补办颈测补尘补*尘辞濒别苍驳.办测辞迟辞-耻.补肠.箩辫

<报道に関すること>

 東京大学 大学院工学系研究科 広報室

 罢贰尝:03-5841-0235 贵础齿:03-5841-0529

 贰-尘补颈濒:办辞耻丑辞耻*辫谤.迟耻-迟辞办测辞.补肠.箩辫

 AGC株式会社 広報?IR部

 罢贰尝:03-3218-5603

 贰-尘补颈濒:颈苍蹿辞-辫谤*补驳肠.肠辞尘

 広島大学 広報室

 罢贰尝:082-424-3749 贵础齿:082-424-6040

 贰-尘补颈濒:办辞丑辞*辞蹿蹿颈肠别.丑颈谤辞蝉丑颈尘补-耻.补肠.箩辫

 京都大学 総務部広報課国際広報室

 罢贰尝:075-753-5729 贵础齿:075-753-2094

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 (注: *は半角@に置き換えてください)


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