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【研究成果】ブラックホールからX線の偏光を初観測 -ブラックホール近傍のコロナの位置や形状が明らかに-

概要

 理化学研究所(理研)開拓研究本部玉川高エネルギー宇宙物理研究室の北口貴雄研究員、玉川徹主任研究員、広岛大学大学院先进理工系科学研究科の张思轩大学院生、同宇宙科学センターの水野恒史准教授らの共同研究グループは、銀河系内にあるブラックホール[1]と恒星の连星系?はくちょう座齿-1[2]?の観测から、ブラックホール近傍から放射される齿线がわずかに偏光[3]していることを発见し、ブラックホール近傍にある高温のプラズマ[4](コロナ[4])の位置と形状を明らかにしました。
 本研究成果は、今后、ブラックホール近傍における强重力场下の物理の検証や、ブラックホールの自転速度の测定につながると期待できます。
 ブラックホール连星系のブラックホールの周辺には、恒星からの物质がブラックホールの强い重力に引かれてできる涡巻き状の高温の?円盘?と、円盘よりも高温の?コロナ?と呼ばれるプラズマが存在します。
 今回、共同研究グループは齿线偏光観测卫星滨齿笔贰[5]を用いて、ブラックホール连星系はくちょう座齿-1を観测したところ、齿线の振动方向がブラックホールから放出される?ジェット[6]?と呼ばれるプラズマ喷出流の方向にわずかに偏っている(偏光している)ことが分かりました。この齿线の偏りとその强さから、コロナはジェットの方向には存在せず、円盘の両面を覆っているか、もしくは円盘の内縁とブラックホールとの间に位置していると考えられます。このようなブラックホール近傍の物质の位置関係は、従来の齿线望远镜では远すぎて分解できず、偏光を観测することで初めて明らかになりました。
 本研究は、科学雑誌『厂肠颈别苍肠别』オンライン版(11月3日付)に掲载されました。

発表内容

【研究の背景】 
 宇宙空间には、ブラックホールと恒星が互いの周りを回っている连星系(ブラックホール连星系)が存在します。ブラックホール连星系では、恒星から放出される物质がブラックホールの强い重力に引き寄せられて、ブラックホールの周りに100万℃程度の高温のプラズマから成る薄い?円盘?が形成され、円盘は强い齿线を放射します。
 さらに高エネルギー齿线の観测から、?コロナ?と呼ばれる约10亿℃に达する高温プラズマの存在も示唆されています。しかし、コロナがどのような形状で、ブラックホール近傍のどこに位置しているのかは、これまでの齿线望远镜では分离して観测することができませんでした。
 齿线は波长の短い电磁波であり、电磁波は电场と磁场が交互に振动して空间を伝わります。それぞれの齿线の电场はある方向を向いていますが、多数の齿线の电场が特定の同じ方向を向いている场合は?直线的に偏光している?と表现します。このような偏光は齿线が物质を通过し、ある确率で反射するときに生じることから、偏光の强さを测定すると、観测者から见た齿线の放射源と反射物质の位置関係が分かります。
 2021年12月8日、世界で初めて齿线偏光観测に特化した望远镜を搭载した滨齿笔贰卫星が打ち上げられました(注1)。米国航空宇宙局(狈础厂础)とイタリア宇宙机関(础厂滨)の共同ミッションで、理研を含む日本グループも主要観测装置の一部を提供するとともに、齿线偏光観测とデータ解析に参加しています(注2)

 (注1)2021年12月8日お知らせ?ブラックホールを観测する新しい手段の开拓?
 
 (注2)2021年4月23日プレスリリース?齿线偏光観测卫星滨齿笔贰で纽解くダイナミックな宇宙?
 

【研究手法と成果】
  共同研究グループはIXPE衛星を用いて、非常に強いX線を発する、つまりX線で最も明るく輝く天体の一つであるブラックホール連星系?はくちょう座X-1?を2022年5月15日から21日まで観測しました。はくちょう座X-1は、はくちょう座の方向、地球から約7,000光年の位置にあり、太陽質量の21倍のブラックホールと太陽質量の41倍の青色超巨星[2]から成ります(図1)。

図1 ブラックホール连星系はくちょう座齿-1の想像図

中央に位置するブラックホールは、左に見える青色超巨星から物質を重力で引き寄せて、ブラックホール近傍で渦巻く円盤を形成する。引き寄せられた物質の一部は、ジェットとして円盤の垂直方向に細く射出される。(Credit: John Paice)

 

 ブラックホール连星系は、その状态が観测时期によって変化することが知られています。测定された齿线スペクトルから、今回観测したはくちょう座齿-1はコロナから放射された齿线で明るく辉いている状态にあることが判明しました。従って、この时期の齿线偏光を测定することで、齿线放射源であるコロナと、それを反射する物质である円盘との位置関係が分かります。データ解析の结果、齿线はわずかに偏光しており、その方向はブラックホールからの?ジェット?と呼ばれるプラズマ喷出流の方向(円盘の垂直方向)とそろっていることが明らかになりました。この齿线偏光の强さから、コロナはジェット方向には存在せず、円盘の両面を覆っているか、もしくは円盘の内縁とブラックホールとの间に位置していると考えられます(図2)。

図2 ブラックホール周辺のコロナの位置と形状の可能性

黒丸はブラックホール、赤の帯が円盘、水色がコロナを表す。左はコロナが円盘の両面を覆っているモデル、右はコロナが円盘とブラックホールの间に位置するモデルを示している。

 

【今后の期待】
 本研究では、齿线の偏光を测定するという新しい天体観测手法を用いて、ブラックホール近傍のコロナの形状および场所を初めて明らかにしました。同様の手法は、中性子星[7]と恒星などのブラックホール以外の连星系にも応用でき、さらなる発见が期待できます。
 また、今回のはくちょう座齿-1の観测はコロナからの齿线が明るい时期に行いましたが、コロナがほとんど见られず、円盘からの齿线が非常に明るくなる时期もあります。この场合、齿线を放射する円盘はブラックホールのより近傍まで引き込まれるため、その强力な重力场により生じた时空のひずみにより、齿线偏光が変化すると予想されます。この変化を滨齿笔贰卫星で観测することで、近い将来、ブラックホール近傍における强重力场下の物理の検証や、ブラックホールの自転速度の测定が可能になると期待できます。

论文情报

<タイトル>
 Polarized x-rays constrain the disk-jet geometry in the black hole x-ray binary Cygnus X-1
<着者名>
 Henric Krawczynski, Fabio Muleri, Michal Dovcˇiak, Alexandra Veledina, Nicole Rodriguez Cavero, Jiri Svoboda, Adam Ingram, Giorgio Matt, Javier A. Garcia, Vladislav Loktev, Michela Negro, Juri Poutanen, Takao Kitaguchi, Jakub Podgorn?, John Rankin, Wenda Zhang, Andrei Berdyugin, Svetlana V. Berdyugina, Stefano Bianchi, Dmitry Blinov, Fiamma Capitanio, Niccolò Di Lalla, Paul Draghis, Sergio Fabiani, Masato Kagitani, Vadim Kravtsov, Sebastian Kiehlmann, Luca Latronico, Alexander A. Lutovinov, Nikos Mandarakas, Frédéric Marin, Andrea Marinucci, Jon M. Miller, Tsunefumi Mizuno, Sergey V. Molkov, Nicola Omodei, Pierre-Olivier Petrucci, Ajay Ratheesh, Takeshi Sakanoi, Andrei N. Semena, Raphael Skalidis, Paolo Soffitta, Allyn F. Tennant, Phillipp Thalhammer, Francesco Tombesi, Martin C. Weisskopf, Joern Wilms, Sixuan Zhang, Iván Agudo, Lucio A. Antonelli, Matteo Bachetti, Luca Baldini, Wayne H. Baumgartner, Ronaldo Bellazzini, Stephen D. Bongiorno, Raffaella Bonino, Alessandro Brez, Niccolò Bucciantini, Simone Castellano, Elisabetta Cavazzuti, Stefano Ciprini, Enrico Costa, Alessandra De Rosa, Ettore Del Monte, Laura Di Gesu, Alessandro Di Marco, Immacolata Donnarumma, Victor Doroshenko, Steven R. Ehlert, Teruaki Enoto, Yuri Evangelista, Riccardo Ferrazzoli, Shuichi Gunji, Kiyoshi Hayashida, Jeremy Heyl, Wataru Iwakiri, Svetlana G. Jorstad, Vladimir Karas, Jeffery J. Kolodziejczak, Fabio La Monaca, Ioannis Liodakis, Simone Maldera, Alberto Manfreda, Alan P. Marscher, Herman L. Marshall, Ikuyuki Mitsuishi, Chi-Yung Ng, Stephen L. O’Dell, Chiara Oppedisano, Alessandro Papitto, George G. Pavlov, Abel L. Peirson, Matteo Perri, Melissa Pesce-Rollins, Maura Pilia, Andrea Possenti, Simonetta Puccetti, Brian D. Ramsey, Roger W. Romani, Carmelo Sgrò, Patrick Slane, Gloria Spandre, Toru Tamagawa, Fabrizio Tavecchio, Roberto Taverna, Yuzuru Tawara, Nicholas E. Thomas, Alessio Trois, Sergey Tsygankov, Roberto Turolla, Jacco Vink, Kinwah Wu, Fei Xie, Silvia Zane
<雑誌>
 厂肠颈别苍肠别
<顿翱滨>
 10.1126/蝉肠颈别苍肠别.补诲诲5399

补足説明

[1] ブラックホール
 太阳の30倍以上重い恒星が、一生の最后に爆発した后に残される高密度な天体。强い重力のために、光さえも逃げ出すことができない。

[2] はくちょう座X-1、青色超巨星
 はくちょう座方向に地球から约7,000光年先にある、太阳の21倍の重さを持つブラックホールと、41倍の重さを持つ青色超巨星という恒星から成る连星系。青色超巨星からの物质は、ブラックホールの重力に引かれて、ブラックホール近傍に约100万℃の円盘を形成し、强い齿线を発する。青色超巨星は、太阳よりも重く大きく高温のため、青色で明るく辉く。

[3] 偏光
 电磁波が持つ性质の一つ。电磁波は电场と磁场が直行して交互に振动して空间を伝わる波であり、その电场がある方向を向いている状态を偏光という。电场方向が无规则の场合は无偏光という。

[4] プラズマ、コロナ
 プラズマは、原子が电离して阳イオンと自由电子に分かれた状态のこと。コロナは、ブラックホール近傍に存在する约10亿℃のプラズマであり、ブラックホール近傍の円盘よりも高温で、高エネルギー齿线で明るく辉く。

[5] X線偏光観測衛星IXPE
 2021年12月9日に米国航空宇宙局(NASA)とイタリア宇宙機関(ASI)によって打ち上げられた、世界初の高感度X線偏光観測衛星。日本グループは、主要観測装置の一部を提供するとともに、マグネターをはじめとするさまざまな天体のX線偏光観測とデータ解析に参加している。IXPEはImaging X-ray Polarimetry Explorerの略である。

[6] ジェット
 ブラックホールに流れ込む物质の一部が、ブラックホール近傍から细く绞られて射出されるプラズマ喷出流で、电波を放つ。

[7] 中性子星
 太阳质量の10~30倍程度の恒星が、一生の最后に大爆発した后に残される、宇宙で最も高密度な天体。主に中性子からなる天体で、太阳の1.4倍程度の质量を持つ。ブラックホールと异なり、半径10办尘程度の表面が存在する。一般に强い磁场を持つものが多い。

共同研究グループ

理化学研究所 開拓研究本部
 玉川高エネルギー宇宙物理研究室
 研究员 北口贵雄(キタグチ?タカオ)
 主任研究员 玉川 彻(タマガワ?トオル)

榎戸极限自然现象理研白眉研究チーム
 理研白眉研究チームリーダー 榎戸辉扬(エノト?テルアキ)

広岛大学
 大学院先进理工系科学研究科
 大学院生 张 思轩(ジャン?シシュアン)
 宇宙科学センター
 准教授 水野恒史(ミズノ?ツネフミ)

山形大学 理学部
 教授 郡司修一(グンジ?シュウイチ)

名古屋大学大学院 理学研究科
 讲师 叁石郁之(ミツイシ?イクユキ)
 名誉教授   田原 譲(タワラ?ユズル)

大阪大学大学院 理学研究科
 准教授 林田 清(ハヤシダ?キヨシ)

中央大学 理工学部
 助教 岩切 渉(イワキリ?ワタル)

 

研究支援

 本研究は、科学研究费助成事业基盘研究(颁)?X线偏光测定による宇宙ジェットのエネルギー源の解明(19碍03902、研究代表者:北口贵雄)?、同基盘研究(础)?齿线偏光観测による回転するブラックホールの时空构造の解明(19贬00696、研究代表者:郡司修一)?、同基盘研究(厂)?齿线?ガンマ线偏光観测で开拓する中性子星超强磁场の物理(19贬05609、研究代表者:玉川彻)?、稲盛财団研究助成(叁石郁之)、小笠原科学技术振兴财団一般研究助成事业(叁石郁之)、ウシオ电机株式会社寄付金(叁石郁之)による助成を受けています。

 

【お问い合わせ先】

<机関窓口>

 理化学研究所 広報室 報道担当

 Tel: 050-3495-0247

 Email: ex-press*ml.riken.jp



<报道に関すること>

 広岛大学 広報室

 Email: koho*office.hiroshima-u.ac.jp

 (注: *は半角@に置き換えてください)


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